東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第29話~赤と緑と青と~

 

 

 映姫と別れてから一ヶ月と言ったところ。

 未だ諏訪までの旅はまだ続いている。流石に半分は来ていると思うが、人里に着く度のんびりしていたせいで、なかなかの時間がかかってしまっている状況。

 萃香の奴がもう帰ってきていたらどうしようか。

 

 そんな不安を覚えつつ、ぽてぽてと諏訪へ向けて歩いている時だった。

 

 出会い――と、言うよりは再会か。

 ソイツは突然訪れた。

 

「おっ」

「あら?」

「うわっ……」

 

 いつかの郵便屋とルーミアだった。

 

 聞きたいことが沢山あった。言いたいことも沢山あった。

 

 けれどもルーミアの姿を見て体は勝手に動き、そいつを止めるなんてことは俺にはできなかった。

 

「ひっさしぶりじゃねーか! このやろぉぉぉおおお!」

 

 ルーミアの元まで駆け寄り、全力で抱きしめた。

 ヤバい! ルーミアだ。ルーミアの匂いだ! めっちゃ良い匂いがする。

 

「ちょっ! やめっ……バカ変態! 離せ!!」

 

 ルーミアが何かを叫んでいたが、とりあえずは無視。

 もう絶対にコイツを離さない。そう堅く心に誓うのだ。

 

 

「っつ! はーなーせー!!」

 

 ぶん殴られた。

 一瞬で離された。

 

 まぁ、アレだ。硬い誓いほど脆いものなのだ。

 

 ルーミアのツンデレ具合は変わっていないらしい。デレてくれた記憶もないが。

 

 

 

 

 

 

 

「んで、ルーミアはあの後、どうなったのさ?」

 

 殴られて腫れた頬を抑えながら聞く。

 なんだか久しぶりの感覚だ。少し前までは、こんなふうに殴られるのが当たり前だったのにな。

 

 ……自分で言っておいてアレだが、文字面だけだと随分と殺伐とした生活だな。まぁ、愛の証と考えればそんな生活も天国へ変わる。愛が無くとも、それはそれで興奮する。

 

「コイツに助けてもらった」

 

 ちょこんと郵便屋を指で差しながらルーミアが言った。

 そう言えば、この郵便屋ってかなり強いとか言っていたな。どの程度強いのかは知らないが、見た目はただの少年。強いと言うことが全く想像できない。

 まぁ、ルーミアが生きていたのだ。これ以上に嬉しいことはないだろう。

 

「それにしても、ちゃんと合流できたんだな。随分と時間はかかったが」

 

 あと、生きていたのなら手紙くらい残しておいて欲しかった。ルーミアがいなくなったことで、此方の凹み方は凄まじかったと言うのに……もし、萃香と出会わなければ、今頃どうなっていたのかわからない。

 

「いや~ちょっと月へ行っていまして……」

 

 なんて言って郵便屋は笑った。

 この郵便屋に笑顔はよく似合う。

 どうしてかはわからないけれど、少しだけ違和感を覚えるが……なんだろうか、少しずれていると言うか……ん、良い言葉が浮かんでこないな。

 

「いや、月って……ちょっと程度で行ける場所じゃないでしょ」

 

 迷子どころの話じゃない。近所のコンビニへ行こうとしたら、エベレストの山頂にいたとか言われた方がまだ信じられる。

 

「ルーミアちゃんの居る場所へ急いで向かっていたら、こう……バビュンと飛ばされまして、気づいたら月でした」

「なんだよ、バビュンって……」

 

 そして、ルーミアの居る方向は貴方の進んだ方向と真逆だったんだけどな。ほらルーミアの奴、凄い目で郵便屋を睨みつけてるじゃん。ルーミアさんおこだよ、おこ。きっとかなり苦労しているのだろう。

 

 まぁ、こうして無事に出会うこともできたのだし、それは別に良いのか。

 

 って……うん? 月? もしかして行けるのか?

 しかし、この郵便屋も行きたくて行ったわけではないよな。まぁ、聞いてみないことには始まらないが。

 

「俺も月へ行きたいんだけど、どうやったら月へ行けるのかわかる?」

「いえ、僕は気がついたら月にいただけですので、行き方はわかりません」

 

 ああ、やっぱりそうか。そんなに上手くいくわけがないか。人生なんてそんなものだ。

 ルーミアたちとの再会は嬉しいが、課題は手詰まりのまま。どうしたものやら……俺もバビュンと行くことはできないだろうか。

 

「ただ……そろそろだとは思いますよ」

「うん? 何がさ?」

 

 ぽそりと郵便屋が言った。

 そろそろ? 何のことだ? 俺とルーミアの挙式の予定とかだろうか? それはまだ全く考えていないのだが。西洋式と和式のどちらが良いだろうか。ルーミアの見た目的にはやはり西洋式か。金髪に純白のウエディングドレスはよく映える。

 

「月との戦争が始まるのが、です。まぁ、戦争と言っても此方から勝手に攻め込み、一方的にやられるだけですが」

 

 月との戦争……? なんだよ、それ。そんな歴史は聞いたことがない。そもそも、俺の知識では月に人などいないのだから、戦争のしようもない。

 どういうことだ? 此方から攻め込む……誰が? 何の為に?

 

「あら? むぅ、その様子ですと、どうやら紫さんから何も聞いていないみたいですね。ん~……青さんは参加しないのかな」

 

 いや、俺は知らないぞ。そんなことは紫から何も聞いていない。そして、何故この郵便屋はそのことを知っているのだ? 普通に考えれば、紫と出会ったことがあると言うことだろうが、何かがおかしい。

 

 これでは――まるで、未来の出来事を知っているかのようだ。

 

 何者だ? この郵便屋。俺が転生者であることも知っていて、月へ行ったのにも関わらず、こうして普通に帰ってきている。そんなことが普通の人間にできるとは思えない。見た目が変わっていないことから人間ではないと思うが……

 

「なぁ、貴方は何者なんだ? どう考えても普通の人とは思えない。貴方の目的は?」

「僕はただの郵便屋ですよ。途切れた絆を繋ぎ直すために、フラフラと旅を続けるただの郵便屋です」

 

 俺の問いに、郵便屋そう言って笑うだけだった。

 また郵便屋は笑った。曇りなんて一つも無い、純粋で綺麗な笑顔。けれども、やはり何処か違和感がある。

 なんだ? この感覚は……

 

「それで……青さんは今、何をされているのですか? どうやら何処かへ旅をしているように見えますが」

「ん? ああ、ちょっと諏訪に一度戻ろうと思ってさ。今は萃香もいないし暇で。まぁ、あとは月へ行くためのヒントでももらえないかと思っていたんだ」

 

 けれども、どうやら月へ行くのも難しそうだ。紫が何かを企てているらしいが、紫のいる場所など俺にはわからない。

 こんなことになるのなら、輝夜と一緒にいれば良かったな。まぁ、今更どう仕様も無いが。

 

「あんたなら、月へ行けるんじゃないの? ほら『テレポート』とかで」

 

 そう言ってルーミアが郵便屋に話しかけた。

 テレポート? 郵便屋の能力だろうか? そう言えば、ルーミアだけが取り残された時もこの郵便屋はいきなり消えていた気がする。

 

「ん~……流石に月の記憶は残ってないよ。もう数十年も前のことだし。ふむ、月ですか……紫さんと出会えれば行くこともできるとは思いますが、あの人神出鬼没ですし、それも難しそうですね」

「そっか。飛んで行くのは……流石に厳しいものね」

 

 月の記憶とはなんだ? たぶん、能力に関係していることだとは思うが……

 あの緑の彼女と言い、わからないことが多すぎる。

 

「そうですね……もし良ければ、僕達も青さんの旅に連れて行ってもらえませんか?」

「別に良いが、貴方も諏訪に用事があるのか?」

 

 だいたい、この郵便屋は普段何をやっているのだろうか。

 

「いえ、そうではありませんが……まぁ、青さんには頑張ってもらいたいですし。ルーミアちゃんもそれでいい?」

「うん、我慢する」

 

 我慢ってなんだよ。我慢って。

 あれだけ一緒に生活していたのにな……

 

「それでは、これからよろしくお願いします」

 

 そう言って、郵便屋はまた笑った。

 なんとも不思議な旅になりそうだ。

 

 此方こそよろしく頼むよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで、郵便屋とルーミアが加わり三人での旅が始まった。

 

 明るい昼間の内に進めるだけ進み、夜は休憩。どうやらこの郵便屋も睡眠は必要としないらしく、夜の休憩はルーミアの為に行った。

 

 しかし、夜の休憩ってアレだな……良い響きだな。

 そんなことをぽそりと呟いたらルーミアにぶん殴られた。それを見て郵便屋は笑っていたが。

 

 

 夜の間はすることもないため、適当に朝まで郵便屋とお酒を飲みながら喋って過ごした。一度、ツマミを探してくるとか言って迷子になった郵便屋を探しに行く羽目になったりもしたが……

 

 もうこれ病気じゃないだろうか?

 この調子ではルーミアだってかなり苦労していそうだ……

 

 もう迷子になどならないよう、郵便屋に首輪でも付けようかなんて冗談を言うと

 

「もう首輪なら付いているので大丈夫ですよ」

 

 なんて言って笑い、何かの蔓でできたような首輪を見せてくれた。郵便屋曰く、大切な人からの贈り物だそうだ。

 首輪の機能が全く活かされていないことには突っ込まなかった。

 

 

 

 

 そして、とある夜のことだった。

 立ち寄った人里で大量のお酒を買い込み、郵便屋と二人でお酒を飲んでいた時、郵便屋の本音らしき言葉がこぼれ落ちた。

 

「なぁ、どうして貴方は旅を続けているんだ? それも、俺なんかと」

 

 もう何回したのかもわからない質問をする。

 いつもの郵便屋なら、いつもの言葉で誤魔化されて終わる。けれどもその日は違った。

 

「会わなきゃいけない奴がいるんです。会って言わなきゃいけない言葉があるのです……」

 

 無理矢理お酒を飲ませたせいか顔は赤くなり、何処かボーっとした様子の郵便屋が言った。

 この郵便屋もお酒に弱くは無いが、少々飲ませすぎたらしい。

 

「会わなきゃ、いけない奴?」

「……はい、そうです。碌な言葉も残さず自分勝手に消えた奴に」

 

 そんな郵便屋の言葉を聞いて、初めてこの郵便屋と会ったあの時のよう自分の鼓動が一気に速くなった。

 

 その理由はなんとなくわかってきた。

 

 ――たぶん、原因はあの緑の彼女なのだろう。

 

「今回が、たぶん最期のチャンスなんです。だから、できるだけ頑張ってみ……よう……と……」

 

 そこまで言って、郵便屋はこてりと倒れてしまった。

 微かに聞こえる郵便屋の寝息。やはり飲ませすぎたらしい。申し訳ない気分になる。

 

 

 俺にあの緑の彼女とこの郵便屋の関係はわからない。

 

 けれども、俺がこの二人の為にしなければいけないことは、なんとなくわかってきた。

 

 課題、頑張らないとだな。

 

 






このお話は、どっかで中途半端に終わった物語を終わらせるためのお話です

まぁ、それだけがこのお話の内容ではありませんが
其方はおまけです

と、言うことで第29話でした
オリキャラだらけになるのは好きではありませんので、ルーミアさんが居てくれて助かりました
もう少しだけ我慢してもらいましょう

次話は……どうでしょうか? 諏訪にいる……のかな? もしかしたら違うかもしれません
バビュンと月へ行っていたりとか……

では、次話でお会いしましょう

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