東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第26話~忘れないよう形に残すのだ~

 

 

 幽々子に膝枕を続けてもらったまま、これから幽々子はどうなるのかとかそういうことを聞いた。幽々子が言うには、いつまでも此処へるわけにもいかないため、何処か別の場所へ移るらしい。

 死んだ人間がいつまでもいるわけにはいかない。つまりはそういうことなのだろう。

 

 俺が、また会えるのか? なんて聞くと幽々子は

 

「貴方が会いに来てくれるのならね」

 

 なんて笑って答えてくれた。

 今の幽々子と俺の間にはほとんど何の関係もない。それでも、こうやって笑ってくれると嬉しいものがある。

 ホント、明るくなったな。少し昔じゃ考えられない。

 そして、漸く生前の俺が残してくれたあの手紙に、幽々子のことが亡霊と書いてあった理由が理解できた。もう少しわかりやすく書いてもらいたいものである。

 

 亡霊として幽々子が生き返ったこのことが、本当に正しいことなのかは俺にはわからない。それでも、笑ってくれている幽々子を見るとこれで良かったとも思う。

 それに、俺自身も幽々子とまた会えるようになったのは嬉しい。

 

「なあ、幽々子」

「ふふっ、キスならしてあげないわよ?」

 

 違います。

 少しだけ言ってみようかとも思ったけれど、そうではない。

 

 本当は、記憶がなくなるのはどんな気分なのか聞こうとしただけ。けれども、クスクスと笑う幽々子を見てそんなことを聞く気も失せた。

 幽々子だって記憶がないことで、色々と思うところはあるだろう。けれども、立ち止まっていることはできないのだ。時代は進み、時間は流れる。過去にしがみつくことのできない俺たちは、前に進むしかない。聡明な幽々子のことだ、そのことはわかっているだろう。

 

 さて、そろそろ暗くなり始める頃だ。名残惜しい別れではあるけれど、この膝枕ともお別れだ。是非またやってもらいたいものだが、次はいつ会えるのかねぇ?

 

 身体を起こして幽々子の方を向く。

 

「そんじゃ、そろそろ行くわ」

「ええ。またね青」

「またな。幽々子」

 

 今度はさよならなんていう言葉ではなく、再会を約束する挨拶だった。

 

 貴女と出会えて俺も幸せでした。

 また会える日が楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽々子と別れを告げ、周りに人はいず、一人ぽっちで薄暗い京を歩く。

 帰り際にあのお堅い門番に、あんたはこれからどうするのか聞いてみると、これからも幽々子についていくそうだ。

 あの様子では、来るなと言われても幽々子について来るだろうな。最後までアイツのことを好きになはなれなかったが、主のために自分の人生をかける。何ともカッコイイ奴だ。そこだけは尊敬している。

 そして、ついでに一つの文を門番に渡しておいた。内容は、生前の幽々子のことを少しだけ書いたもの。未練がましいことではあるけれど、あの時の幽々子のことを形として残しておきたかった。

 目につかない場所に隠して置いてくれとは頼んだが、もし幽々子がその文を見つけたとしても、あの桜の下に生前の幽々子が眠っているとはわからない文にした。桜の下を掘り出されでもしたらたまらないし。

 

 

「ご機嫌よう。変態さん」

 

 紫が現れた。

 どうも周りに人がいないなとは思っていたが、そういうことか。あと、人のことを変態言うのはやめてください。

 

 若干諦めかけているが。

 

「こんにちは紫。んで、どうしたの?」

 

 人通りの少ない、夕方の帰り道……もしかして、こ、告白ですか?

 それなら二つ返事で承諾しよう。これからは八雲青と名乗りますのでよろしくお願いします。八雲青……ふむ、なかなかの響きじゃないか。

 

「……何を考えているのか知らないけれど、貴方が思っているようなことではないわよ」

 

 あら? そうなの?

 なるほど、つまり紫が嫁入りすると言うことか。それは、しまったな。生憎、俺は苗字など持ってはいない。

 ……いっそ今考えてしまおうか。ふむ、何が良いだろうか?

 生まれてくる子どものためにも、やはり難しい漢字ではない方が良いだろう。書くの面倒くさいし。そして、あまりキラキラさせてしまうと子どもが可愛そうだ。ごくごくありふれた苗字が一番。

 

 簡単な漢字でかつ、無難な苗字……

 

 決まった。『田中』にしよう。

 

「えと、話をしても良いかしら?」

「ああ、大丈夫だよ。きっと幸せにしてみせると此処に誓おう」

 

 ぶん殴られた。

 

 

 

 

 

 

 

「……話をしても良いかしら?」

「はい、どうぞ」

 

 随分と手洗な誓いのキスがあったものだ。右頬が痛い。

 確かに、少々先走り過ぎた俺も悪かったとは思うが、あんなシチュエーションで声をかけられたら誰だってそう思うだろう。俺は至って普通の考えに到ったまでだ。

 

「あのお方に感謝の旨を伝えておいてもらえるかしら? 貴女のおかげでまた幽々子と会うことができたと」

 

 なんだ、別に俺に用事があったわけではなく、そういうことだったのか。少しばかり残念ではあるが、人生そんなに上手くいくとも思ってはいない。

 

「それなら大丈夫。もう彼女には伝わっているはずだよ」

「そうなの?」

 

 そうらしいね。

 詳しい原理とかは知らないが、俺を通して今の状況だって見ているはず。きっと彼女に紫の感謝の意は伝わったことだろう。

 しっかし、本当に俺の周りの女の子はなかなかデレてはくれないな。一番、良い感じであった幽々子も記憶はリセット。本当に誰かが呪いをかけているのではないだろうか。

 数百年も生きているのに、今だ恋人すらもいないとは……なんだろうか今にも泣きそうだ。30年を超え守り続ければ、魔法使いになると言う。それなら何百年も守り続けた俺は何と言う存在だろうか?

 

 何とも残念な呼ばわれ方をされそうではあるが、まぁ仕方無い。俺はそれなりに頑張っているとは思うんだがなぁ。

 

「一応、貴方にも言っておくわ」

 

 何をだろうか? 同情とかしてくれるのか? それは心が折れそうだ……

 

 結局、幽々子を助ける時も、俺は何もできなかった。少しずつ強くなっているのはわかるが、俺も力だけではまだ誰も救えやしない。せめて、好きな女の子くらい救えるだけの力があればなぁ。

 

「貴方がいなければ幽々子は消えてしまっていた」

「そうなのか? 俺は何もしていないぞ」

 

 幽々子を助けようとするあの時だって、俺は格好悪く地面に倒れてただ強がっていただけ。どうせならポーズとか決めておけば良かった。まぁ、そもそも紫や萃香が、何をしようとしていたかも俺は知らなかったが。

 

「……貴方が幽々子の元へ毎日通い、幽々子に生きる希望を与えてくれた。結局、幽々子は死んでしまったけれど、貴方と出会っていなければ幽々子はもっと早く死んでいたでしょう。幽々子を亡霊にするのにはあの桜が満開でないとダメだったのよ」

 

 ……んと、そうなのか?

 本当に俺はただ幽々子の所へ遊びに行っていただけなのだが……少しでも元気になってもらいたくて。

 

「ありがとう青。貴方が居てくれて良かった。それに……あの時の貴方もなかなか格好好かったわよ」

 

 そう言って、笑いながら紫は例の黒い空間の中へ消えていった。

 嬉しいことを言ってくれたものだ。きっと、お世辞って奴なのだろうが、まぁ悪い気分ではない。

 しっかし、カッコイイねぇ……俺にはなんて似合わない言葉だろうか。もう少しくらいその言葉が似合う男になりたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫と別れた後、京でお酒を買ってから帰宅。今は無性にお酒を飲みたい気分。

 

「ただいま」

「おかえりー」

 

 家に帰ると萃香がいた。

 そう言えばあの時、当たり前のように紫と一緒に萃香はいたが、知り合いだったのだろうか? まぁ、萃香の行動範囲とかかなり広そうなのだし、何処かで知り合っていても不思議ではないが。

 

「お酒?」

「なんだか今日は飲みたい気分でさ」

「そんなこと言いながら毎日飲んでるじゃん」

 

 萃香には言われたくない言葉だった。流石の俺も、萃香みたく昼間から飲んだりは……たまにしかしない。

 お酒、美味しいです。

 今度、自分でも作ってみようか。いや……それはやめておこう。興味はあるが、別に俺がやらなくても良い気がする。何と言うか、二番煎じ感がする。東方酒迷録もよろしくね。

 

 

「私さ。ちょっと出かけてくることにしたよ」

 

 買ってきたお酒と焼いた干し肉を二人で食べていると萃香が言った。

 

「出かけるって何処へ?」

「鬼たちが集まっている場所があるらしいから、其処へ。会いたい奴らもいるし。青も来る?」

 

 鬼たちが集まっている場所ねぇ。地獄のような場所だな……ん? いや、待てよ。もしかしたら鬼たちは皆、萃香みたいな美少女かもしれないじゃないか。それなら地獄から天国へと変わる。

 

「ちょいと聞きたいんだが、鬼ってのは皆、萃香みたいに可愛い見た目をしているのか?」

「ううん。ごっついのばっかだよ」

 

 そんなことだと思ったよ。このやろー。

 誰が行くかそんな場所。ゴツイ奴らは嫌いだ。

 

「じゃあ、いいや。俺は行かない。それに萃香だって、また此処へ戻って来るんだろ?」

 

 最初は萃香もちょろっと立ち寄っただけのはずが、いつの間にか萃香と俺の家になっていた。まぁ、この家を建てたのは萃香でもあるわけだし、間違っていないが。

 

「相変わらずだなぁ……そうだね。いつ戻って来るかわからないけれど、また戻って来るよ」

 

 了解。それなら俺は此処で待っているよ。萃香が帰ってきた時、其処に誰もいないってのは寂しいしな。

 しかし、これで萃香とも当分はお別れか。また一人、俺の周りから人がいなくなってしまう。まぁ、萃香の場合は会いに行こうと思えば行ける気もするが。

 

 

 

 そして、次の日の朝。

 行ってくると手をぶんぶん振りながら、萃香は旅立って行った。

 

 行ってらっしゃい。

 俺は課題でもやりながら、のんびりと待っていることにしよう。

 

 んじゃ、次の課題お願いします。

 

 

『課題5,「月へ行け」』

 

 

 ……いや、どうやってだよ。

 

 






萃香さんには暫くログアウトしていただきました
次のヒロイン役は誰がやってくれるのやら……

と、言うことで第26話でした
別に入れなくても良い文を無理矢理ねじ込んだ場所があります
きっと、何かの伏線……ではないでしょう

次話からはちょいとばかり主人公にも動いてもらいましょう
あの郵便屋にもそろそろ出てきてもらわないとですし

では、次話でお会いしましょう


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