東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第25話~温もりってのは心で感じるものだ~

 

 

 どういうことだよ。どうして? 何故幽々子が……?

 

『おめでとうございます。これで課題4はクリアとなります。霊力が上昇しました。能力が強化されました』

 

 無機質なあの声が頭の中で響いた。

 ちょっと待て。巫山戯んなよ。これで課題クリア? そんなの……そんなこと、おかしいだろッ!

 

 

 本当に意味がわからなかった。頭の中がぐちゃぐちゃになって、上手く思考することもできない。何故? どうして? そんなことばかりが頭の中に浮かんだ。

 寝ている幽々子の側には一本の小刀。

 

 これでやったのか……

 

 

「萃香。お願い」

「了解。紫」

 

 呆然と桜の木の下で眠っている幽々子を見ていると、紫と萃香の声がした。

 どうしてお前らが?

 先程からわからないことだらけ。

 

 萃香が桜の木の下へ穴を掘り、その中へ優しく幽々子を入れた。

 なんだ? この二人は何をしようとしているのだ。

 

 萃香が幽々子を穴の中へ入れ終わるのを見届けると、紫が持っていた扇を振った。

 その瞬間、妖怪桜から光が放たれ、何かの式のような模様が浮かび上がってきた。

 

「っーー! 紫これキツい! まさかこんなに力があるとは思わなかった……ちょっとこの春度を集めきるのは難しいかも」

 

 舌打ち混じりで萃香が言った。

 春度を集める? 先程から完全に蚊帳の外。せめて何をやっているのかくらい教えて欲しい。

 

「厳しいのはわかってる。それでも急いで! 早くしないと幽々子の魂が導かれてしまう」

 

 紫が叫んだ。

 この二人が何をしようとしているのか、詳しいことはわからない。けれども、たぶん幽々子を復活させようとかそういうことなのだろう。原理とかそう言う話はさっぱりわからないが。

 しかし、萃香と紫の様子を見るに、かなり辛いらしい。

 できれば手伝いたいところではあるが……俺には何もできなかった。

 

 

「どこまで力を溜め込んでいたのよ。この桜は! ……抑えきれない。このままじゃ幽々子が……」

 

 今にも泣きそうな声で紫が言った。

 どうやら状況はかなり厳しいらしい。

 そんな状況なのに、俺は見ていることしかできはしなかった。此処でも、自分の実力のなさを思い知らされる。

 

「紫! そろそろ限界!! 集めきれない!」

 

 萃香の声がした。

 

 

「……青。お願い。あの方を連れてきてはもらえないかしら?」

 

 紫の声が聞こえた。

 たぶん、あの方と言うのは緑の彼女のことなのだろう。

 

「……できるかはわからないけれど、やるだけやってみるよ」

 

 幽々子が使っていたと思われる小刀を手に取る。染み付いた赤い液体。

 ソイツを自分の喉へ突き立てた。

 

 あの緑の彼女は、まだ外に出られないと言っていた。

 ダメかもしれない。それでも、何もしないことは嫌だった。それくらいしか俺にはできないと言うのなら、それを全力で行うだけ。

 自分の力だけでは何もできないことは悔しかったが、それでも幽々子のためにできることはやりたかった。

 

 残された時間は少ないらしい。

 

 そして視界が暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、無茶をしおって……」

 

 灰色の世界で彼女が言った。

 無茶でも無謀でも、やれることは全てやりたい。

 

 彼女も事情はわかってくれているはず。お願いします。

 

「お前さんの力を借りれば一応、出られると言えば出られるが、その後お前さんがどうなるかは知らんぞ。最悪、お前さんの存在そのものが消えるかもしれん。それでも良いのかえ?」

 

 幽々子の顔が浮かぶ。

 もしかしたら、これで俺は消えるかもしれない。そんな覚悟なんてモノは全く無い。

 

 それでも可愛い女の子のためだ。答えなんて決まりきっている。

 

「……それで、幽々子が助かるのなら」

「相変わらずじゃのう……あい、わかった。まぁ、任せておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会話をして再び元の世界へ。

 

「……ふむ。何年振りの娑婆じゃろうか」

 

 そこには、あの灰色の世界でしか会えなかった彼女の姿があった。

 あの世界の彼女と比べて、少しだけ縮んでいる気もするが。

 

「あの桜を、幽々子のことをお願いします……」

 

 紫の声がした。

 

 そして、急に今まで襲われたこともない頭痛がし始めた。足に力が入らず、その場に倒れ込む。目眩が酷く、景色が上手く見えない。荒くなる呼吸。空気もうまく吸えない。

 なるほど。これが彼女を呼び出す代償ってことか。

 これはちょっとキツいぞ。

 

「わかっておるよ。おい、お前さん。かなり辛いじゃろうが、少しばかり頑張れ。もしお前さんが力尽きたらわしは消えるじゃろう。意地張って見せろよ人間」

 

 随分なことを言ってくれる。此方は今にも意識が飛びそうだというのに。

 

「……馬鹿にするなよ。今にも意識は飛びそうだし、頭痛は酷い。足腰に力は入らず動ける気もしない。目眩も酷く君の顔だってまともに見えやしない。つまり――絶好調だ」

 

 これくらいでくたばりはしない。あの熊や俺に対する世間の風当たりなんかと比べれば、優しすぎるくらいだ。

 自分にできる精一杯の意地を張る。

 

 でも、できれば早く終わらせてもらいたい。いくら絶好調とは言えキツいものはキツいのだ。

 頼んだよ。

 

「懐かしいセリフじゃの……まぁ安心しておれ。この桜の力を移すことくらい直ぐに終わらせる。移すことだけは得意分野じゃしな」

 

 やはり彼女の言葉の意味はわからなかったけれど、きっと彼女に任せておれば大丈夫。そう思うことだけは、はっきりとできた。

 

 霞んだ視界の先で、なんとか彼女の様子を見ていると、いきなりパキンと何かが割れるような甲高い音が響いた。

 そして、妖怪桜に咲いていた花びらが一斉に、散った。

 霞んだ視界でもわかるほど、綺麗で……しかし無性に悲しくなるような花吹雪だった。

 

「完了じゃ。よう頑張ったな人間。お前さんにしては上出来じゃ」

 

 そう言って彼女は笑った。舐めるな、これくらいは余裕だ。

 

 お疲れ様。ありがとう。

 

「さて、それでは帰るとするよ。まぁ、どうせまた直ぐに会えるじゃろう。では、また」

 

 そんな言葉を残して彼女は消えていった。

 ああ、かっこいいな。俺もあんな感じになりたいものだ。俺にもいつかそんな日が来るのだろうか。

 

 彼女が消えた途端、頭痛や目眩などはまるで嘘だったかのようになくなった。それでも身体には倦怠感が残り、相変わらず上手く立つことができない。

 

 倒れ込んだまま散っていく桜を見ていると、その花びらが一箇所に集まっているのに気づいた。

 やがてそれは人のような形となり、見覚えのある姿に。

 

 髪の色は黒から桜色へと変わってしまったが、西行寺幽々子の姿がそこにあった。

 つまり、これは成功したってことなのだろうか。

 

「お疲れ、青。頑張ったみたいだね。いや~流石に私も今回は疲れたよ。まさか、あそこまであの桜が力を持っているとは思わなかった。それにしても、さっきの奴は青の知り合い? 巫山戯ている量の妖力だったけど」

 

 ボーっと幽々子を眺めていると、萃香が声をかけてきた。いまだに紫や萃香のしようとしていたことは、はっきりと理解することができない。それに、知っていたのなら萃香にも教えてほしかった。

 

「まぁ、知り合いと言えば知り合いかな。俺も彼女のことはよくわからんが」

 

 力のある妖怪なのだろうとは思っていたが、どうやら俺の想像している以上に彼女はすごい妖怪らしい。そんな彼女が何故、俺の中にいるのだろうか。そして何より。

 

 ――いつか彼女のこともどうにかしてあげたいのだが。

 

 

「こんにちは幽々子。私たちのことと、今がどんな状況なのかわかるかしら?」

 

 そう言って紫は幽々子に声をかけた。

 ふむ、あの綺麗な黒髪も好きだったが、桜色の髪も悪くはないな。よく似合っていると思う。

 それにしても、かなり疲れたな。意識が既に落ちそうだ。

 

「……いえ、貴方たちのことはわからないし、今がどんな状況かもわからない。それでも、私がどういう存在なのかはわかるし、気分も悪くないわ」

 

 最初は目を閉じていた幽々子が、紫の声を聞き、ゆっくりと目を開けてから静かに答えて笑った。

 いつもの悲しそうな笑顔なんかではなく、普通に笑ってくれた。

 

 ……そっか。俺たちのことはわからないのか。

 まぁ、それでも幽々子がまた戻ってきてくれたことだけで十分なのだろう。

 

「そう……私は八雲紫よ」

「私は伊吹萃香。種族は鬼だよ」

「あ~、俺は青。種族は「変態」だ」

 

 おい、待て。誰だ今俺のセリフに言葉を被せた奴。

 巫山戯んな。第一印象からまた変態だと思われる。

 

 ああ、ダメだ。ちょいとばかし眠い。

 なんとか、さっきの言葉を訂正したいけれど、また後で訂正することにしよう。大丈夫時間はきっとあるはず。

 

「悪い萃香。ちょっと寝るわ」

 

 幽々子とまた会えるようになったことで安心してしまったのだろう。俺の意識はそこで落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、見覚えのある景色が見えた。

 そいつは、いつも俺と幽々子でお話をしていた景色と同じものだった。つまり、いつもの縁側。

 そして、頭には何やら柔らかし感触。

 

「あら、変態さん。漸く起きたのね」

 

 幽々子の声がした。

 膝枕をさせてもらっていた。

 少しばかり混乱。嬉しいことではあるけれど、何故膝枕?

 

「あ~……えっと、おはようございます?」

「ふふっ。おはよう」

 

 膝枕は嬉しいのだけど、その人を変態と呼ぶのはいかがなものでしょうか? なんとか訂正しなければ。

 

「どうして膝枕?」

「ん~……なんとなく、かしら。誰かに頼まれたような気がするのよ。嫌だった?」

 

 そんなわけ無いでしょうが。最高です。

 それにしても、誰かにねぇ。

 もしかしたら、今の幽々子の中にも昔の幽々子がいて……なんて思ったけれど、そんなことはないだろう。きっと、たまたましてくれただけだと思う。

 

「温かいな」

「死んでいるはずなのにね」

 

 変態呼ばわれされることの訂正とか、これから幽々子はどうなるのかとか、色々と言わなければいけないことや、聞かなければいけないこともあるが、まぁ、もう暫くはこの素敵な時間を楽しませてもらうことにしよう。

 

 それくらいは許してほしい。

 

 

 






主人公に幽々子さんの死をうだうだと引きずってもらうのも困るため、さくっと亡霊になっていただきました

と、言うことで第25話でした
おろ、幽々子さんって体温あったかな? とか思いましたが、まぁ、もしなかったとしたらサブタイ的な感じだったと解釈してください

ちょいとばかし、あの緑の彼女がチートっぽいらしいので今後は出番を少な目にしようかなとも思っております
まぁ、主人公が死ぬ度に現れてくれますが

次話は……次の課題次第かと思います

では、次話でお会いしましょう

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