東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第19話~悲劇的ビフォーアフター~

 

 

 朝目が覚めると、今まで感じたことのない頭痛と身体の怠さがあった。口の中や喉はガラガラで上手く言葉を出すこともできない。

 たぶん、二日酔いって奴なのだろう。

 お酒を飲んだことだって初めてのことだったから、二日酔いになったのもこれが初めて。話には聞いていたが、こんなに辛いことだとは思わなかった。

 たった一口飲んだだけなのだが……

 

「おはよう」

 

 萃香が声をかけてきた。

 朝の挨拶。

 返事をしてあげたいところではあるが、上手く言葉は出すことができない。喉の奥がひっつくような感じ。

 

 声の代わりに右手を挙げ、萃香の挨拶へ答える。

 

 おはよう。

 

 今はとにかく水を飲みたい。

 

 

 フラフラと覚束無い足で水飲み場までなんとか移動し、水を飲む。喉を流れていく冷えた水が美味しい。

 水ってこんなにも美味しいものだったんだな。

 少しだけ楽になった気がする。

 当分、お酒を飲むことはやめておこう。

 

 

「……あーあー」

 

 うん、声もちゃんと出る。少しだけ嗄れたような声になっている気もするが、まぁそんなに問題ない。

 

 そう言えば、朝になっても当たり前のように萃香が俺の家にいたけれど、これからはどうするのだろうか。別にこのまま残っていてもらっても、何の問題も無いが。

 

「萃香ってこれからどうするの?」

 

 できれば一緒に居てもらいたい。しかし、萃香には萃香の事情はあるだろうし、高望みもしない。

 

「青が良いって言うなら当分は、此処に住まわせてもらおうかな。私も暇だし」

 

 そりゃあ、喜んでお願いしたい。一人でいるのは寂しかったのだ。

 

「喜んでお願いします」

 

 萃香がルーミアの代わりになるとか、そんなことは思わないが、一緒に居てくれる人がいると言うのは良いことなのだと思う。ましてや、それが可愛いい女の子ならさらに良い。

 

「えと……追い出したりしないの?」

「うん? 追い出す? いや、そんなことはしないが」

 

 いきなり何を言いだしたのだろうか。追い出す理由など一つも思い浮かばない。

 

「いや、だって私は……ん~、まぁいっか。これからよろしく青」

 

 そう言って萃香は笑った。

 

 うん、よろしく。

 

 

 もし此処で、俺が萃香との生活を断っていたら、あの時歴史が変わってしまうことはなかったのだと思う。

 ルーミアのことがありながら、なかなか成長してくれない残念な自分ではある。けれども、これが間違った選択ではなかったと思うんだ。

 例え、歴史を変えてしまうようなことがあったとしても。

 歴史なんてとっくにぶっ壊れている。そのことに気づいたのはずっとずっと後になってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この家を建て直そう」

 

 二日酔いのまま都へ行く気にもなれず、のんびりお茶を飲んでいると萃香が言った。まぁ、貯金もかなりあるしお金を稼がなくてもほとんど問題ないが。

 

「この家を? 別に不便だとか感じたことないが」

 

 二人で住んでも充分な広さがある。

 まぁ、でももう少しくらい広くても良いかもしれない。特に風呂場は風通しが抜群なのだし。

 

「まぁ、良いけど。萃香って建築とかやったことあるのか?」

 

 問題はそこだ。俺は建築などやったことがないし、知識もほとんどない。

 

「ないよ」

 

 ないのかよ。

 よくそれで建て直そうとか思えたものだ。

 

「まぁ、なんとかなるよ。山へ行けば木材だって簡単に集まるし」

 

 その自信は何処から湧いてくるのだろうか。疑問にしか思わない。

 経験も知識も無い者が家を簡単に作れるとは思えない。

 

「それじゃ、さっそくやっていこうか。そうだね、まずは壁を無くそう」

 

 けれども、動き出したら止まらない。物語なんてそんなものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………おい」

 

「…………ご、ごめん」

 

 不安しか感じなかったが、萃香と一緒に壁を取り払った。

 

 屋根が落ちた。

 なんということをしてくれたのでしょう。

 

 目の前には瓦礫の山。元我が住居です。風通しは良好。開放感は抜群。

 辛うじて残っている4本の柱が、物悲しさを強調させていた。

 

 どうしようか、後数ヶ月もすれば雪が降り始めると言うのに、これでは何も防げない。

 こんなやりきれない思いをしたのは久しぶりだ。

 

「ま、まぁ、なんとかなるって! 私は山へ行って木材を取ってくるよ」

 

 元気よく萃香が言った。空元気って奴だろう。

 

「……じゃあ、俺は都へ行って大工道具を買ってくるわ」

 

 新しい空家を探した方が早い気もするが、萃香のためにも少しばかり頑張ってみよう。

 

 

 

 都へ行って鉋や鋸、槌なんかの大工道具と木材に塗る防腐剤を買って帰宅。まぁ、帰宅と言っても家はないが。

 家のあった場所まで戻ると、原木の山ができていた。

 これだけの原木を集めてきたことは確かにすごいとは思うが、根や枝なんかもついたままだった。根っこがいらないことくらい気付いて欲しかった。

 

 これだけの原木を集めてきたことを、誇らしげにしている萃香を見て、そんことを言う気は失せたが。偉い偉い。

 

「よし、じゃあパパッと建てちゃおうか!」

 

 いったい萃香は、ここからどうやって家を建築していくつもりなのだろうか。この原木を使ったとしても、ただの植林にしかならないと思う。

 

「まぁ、待てって。とりあえず根と枝、それと木の皮を取ってくれ。その後は乾燥させないと」

「乾燥?」

 

 うん。俺も詳しくは知らないが、生木という物はかなりの水分を含んでいる。だから先に乾燥させないと、家を建てた後に乾燥が進み、木材が歪んだり割れたりしてしまうはず。

 

「その乾燥ってどうやるの?」

「普通は風通しの良い場所で、数ヶ月から数年ほど置いておく必要があったはず。まぁ、今回は俺が頑張ってみるよ」

 

 たぶん、俺の能力を使えば乾燥はできると思う。課題を一気に2つクリアしてしまったせいで、なかなか気づかなったが、どうやら物質を乾燥させる能力もあるらしい。漸く、風呂を沸かす以外に使い道ができた。

 

「うんじゃあ、そういう難しいことは青に任せるよ」

 

 了解。

 

 萃香が加工してくれた木材に手を当て、少しだけ集中する。木材の中にある水分を飛ばすようにイメージ。

 すると、パキパキと音がし始め、少しずつだが水分が抜けていっているのがわかった。あとは俺の霊力が尽きるまで頑張るだけだ。

 萃香の様子を確認すると、素手で根を引きちぎり枝を毟り、皮をベリベリと剥いでいた。何度見てもすごいな、おい。

 握力とかどれくらいあるのだろうか。

 

 

 木材を一本乾燥させるのにかかる時間は数十分程度だが、如何せん俺の霊力が持たない。一本乾燥させる度に休憩を挟まなければいけなかった。

 それでも日が沈む前には、10数本の木材を乾燥。結構頑張りました。

 

 俺が木材を乾燥させている間、萃香は暇になってしまうため、山へ行って食料を取って来てもらった。身体を動かすのだからしっかり食べないと。

 

 そして夜は萃香の獲って来た猪を食べる。流石にお酒を飲むのは遠慮した。

 

 

 次の日の朝になって作業再開。

 乾燥させた木材を、板状に加工する必要がある。しかし、鋸を上手く使うことができず、なかなか真っ直ぐに切ることができない。建築は難しい。

 

 木材を板状に切り、鉋をかけ防腐剤を塗る。たったそれだけの作業のはずが、全てが終わる頃には雪の舞う季節となってしまっていた。未だ家の完成するビジョンが見えてこない。

 

 

 材料は揃った。後は家を作るだけなのだが、問題が発生。どうやって家を建てて良いのかがわからない。

 とりあえず4本の柱を中心に壁をつけ、その上に屋根っぽい物をつけてみた。

 

 そして季節が冬から春へと移る頃、見事な豆腐小屋が完成した。

 隙間風や雨漏りがすごい。雨風凌げていなかった。

 

 それでも一応、自分たちの力だけで家を完成させたことは嬉しく、その日は萃香と二人で喜び合った。お酒も少しは飲めるようになってきたと思う。まぁ、その後また倒れたが。

 

 

 我が家が完成して二日。強風で家が倒壊した。何が春一番だ。春を告げるのならもっと優しくても良いじゃないか。

 

 現実はいつだって厳しい。

 

 

 また一から建て直すことにはなったが、いつまでもあのボロい豆腐小屋でいるつもりもなかったしちょうど良い。そう思うことにした。

 どうして家が倒壊してしまったのか萃香と考え、結論として梁がないからと言う事になった。柱と壁と屋根だけでは強度が低すぎるのだ。

 

 そんなことを踏まえて建て直し。

 

 

 そして季節がまた夏から秋へと移り、冬の香りがし始めた頃に、2軒目の我が家が完成。

 相変わらず隙間風や雨漏りはするし、陸屋根の豆腐小屋だが、前回と同じよう萃香と喜びを分かち合う。漸くお酒の美味しさもわかってきた。

 

 その年の冬。雪の重さで屋根が落ちた。

 やはり陸屋根はマズイらしい。

 

 

 

 その次に建てた家の屋根は片流れ型屋根にした。隙間風や雨漏りもかなり少なくなってきた。

 それでも強風で家は倒壊した。

 

 どうやら、今度は基礎が弱かったらしい。また建て直しだ。

 

 

 

 そんな家の倒壊と建て直しを何度も何度も繰り返した。

 強風や大雪の度に家は倒壊した。その度に新しい家を建てた。何度も何度も。

 

 家が壊れる度に二人で悲しみ合い、新しい家を建てる度に喜び合った。

 

 結局、萃香が何の考えも無しに言った『この家を建て直そう』と言う言葉から、強風にも大雪にも負けない家が完成するまで、100年近くもかかったんじゃないかな。

 

 俺の建築技術もかなり上達したと思うが、萃香の上達は凄まじい。元々萃香には建築が合っていたのかもしれないな。都にいる大工にも、負けないくらいの腕はあると思う。そして、それだけの経験もある。

 

 随分と時間はかかってしまったが、二人で住むのには少々広すぎる平屋が漸く完成した。もう隙間風に震えることも、雨漏りと戦うこともなくなるだろう。

 

 

「「乾杯」」

 

 もう何度目になるのかわからない新築祝いをした。これからは当分新築祝いをすることはないだろう。それは喜ばしいことではあるが、何故か寂しさも感じた。

 

 100年の間。ひたすら家を建てていたわけでもなく、一応都へも行き妖怪桜の情報も集めてはいた。まぁ、何の情報も得られなかったが。

 流石に焦りも感じてきているけれど、俺から動くことはできない。どうしたものか。

 

 

 しっかし、萃香とは随分と長い間一緒にいたものだ。初めて萃香と出会ったとき、まさかこんなことになるとは思っていなかった。ホント、不思議なものである。

 

 恥ずかしいから、口には出せないが萃香には本当に感謝している。ルーミアがいなくなったことは俺にとって相当なダメージだった。そんなボロボロな時、一緒にいてくれた萃香の存在は助かった。

 

 そんな萃香ともいつの日か別れなければいけない日が来るのだろうか。

 そのことを覚悟しておく必要があるのかな。なんてその時は思った。思うだけでは駄目だと気づいたのは、ずっと後になってからのこと。

 

 

 

 






ひたすら建築回です
家も完成したようで一安心

と、言うことで第19話でした
どうやら萃香さんはルーミアさんほどヒロインをやってはくれなそうです

次話は幽々子さん登場……までいけたらいいなぁ

では、次話でお会いしましょう

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