東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第16話~三人だけの秘密にしよう~

 

 

『課題4,「ねがはくは 花のもとにて 春死なむ そのきさらぎの 望月の頃」』

 

 無機質な声が頭の中に響いた。

 これが、今回の課題……なのか? 今までの物と比べて随分変わっているが。

 

 この短歌の意味くらいはだいたいわかる。二月の満月の日、桜の木の下で死にたい。そんな意味なはずで、この短歌を詠んだのは西行法師……だったかな。

 それで、俺は何をすれば良いのだ? 西行法師のように、桜の木の下で死ねってことか?

 しかし、それでは東方Projectと何の関係もない。

 

 まずいな、何をすれば良いのかわからない。これも課題2の時のように、時間制限があったとするとかなり厳しい。西行法師のいた時代だって俺は知らないのだから。とりあえず、片端から桜の木の下で死んでみるのも一つの手ではあるが、それは違う気がする。

 

 西行、西行……ああ、そう言えば東方キャラの中に、西行寺幽々子と言う人物がいた気がする。

 確か、亡霊で大食らい、あと妖怪桜……とか書かれていたかな。ふむ、この人物が次の課題に関係しているのだろうか。……妖怪桜、か。聞いたことはないけれど、何処にあるのかねぇ。今度、かぐや姫にでも聞いてみるか。

 

 

 残念ながら、かぐや姫の屋敷は出禁となっているため、昼間は行くことができない。そして何より、あの門番が怖い。そのため、昼間は今まで通り焼き魚と焼肉を売ることに。

 

 女性の方や、子どもなんかにはカーネーションの花をおまけで配る。こういうサービスの積み重ねが大切なのだ。野郎には渡さないが。

 商品を売りながら、客に妖怪桜のことを聞いてみたが、知っている人は誰もいなかった。都にはないということか、そもそも、この時代にはまだないということだろう。

 

 妖怪桜のことは聞けなかったが、代わりに金色の髪をした少女の妖怪に、また人が襲われたという話を聞けた。被害者がそこまで出ているわけでもないが、気をつけた方が良いらしい。仙人の肉は妖怪にとって、かなりのご馳走だそうだ。

 

 その妖怪というはルーミアのことだろうし、そもそも俺は仙人ではない。まぁ、気にすることではないだろう。俺の場合、殺されても復活するし。

 そう言えば、ここ数十年あの緑の彼女と会っていないな。良いことではあるが、少しだけ寂しい。

 

 

 商品は無事売り切れてくれたが、望んでいた情報は手に入らなかった。まぁ、そんな上手くいくわけがないか。気楽に行かせてもらおう。

 

 ルーミアへのお土産を買って帰宅。

 買ってきた団子をルーミアに渡すと、水は入れておいたから、風呂を沸かせておいてくれと頼まれた。これからは、毎回俺が沸かすことになりそうだ。まぁ、能力の練習にもなるしちょうど良い。

 

 本当なら風呂を沸かした対価として、ルーミアと一緒に風呂へ入りたいところではあるが、そんなことをしたらまた出て行くと言われてしまう。ここはぐっと我慢しよう。

 

 

 一時間近くの時間をかけ風呂を沸かす。せめて、半分くらいの時間で沸かせるようになれば良いのだが……まぁ、練習あるのみと言ったところか。

 

 風呂を沸かし終え、立ち上がると猛烈な立ち眩みがした。一瞬で視界が真っ黒になり、平衡感覚が失われる。数分でその症状は収まったが、身体には気怠さが残っていた。前回、能力を使った時はこんなことにならなかったのに。霊力不足が原因だろうか。

 

 

「ルーミア。風呂、沸かしておいたよ」

「ん、ありがと」

 

 風呂を沸かすのに時間がかかってしまったため、もう太陽は沈み始めている。かぐや姫のところへ行く準備をしないと。まぁ、持って行く物など何もないから、準備も何も無いが。

 

「ルーミアもかぐや姫のところへ行く?」

「私はいい。面倒くさい」

 

 そんなものか。一人で行くのは少々寂しいが、行きたくないのなら仕方が無い。

 お茶でも飲んで少ししたら出かけるとしよう。

 

 

 

 

 結局、かぐや姫のところへ向かう頃には夜となってしまった。

 

 せっかく、女性にお呼ばれしたのだから、体は清潔な方が良いだろうと思い。ルーミアが風呂へ入ったあと、俺も入ることにした。決してルーミアの入った後の残り湯を堪能していたとか、そう言うことではなく、ただただ純粋にゆっくりと時間をかけ身を清めていただけだ。

 

 昨晩と同じように屋敷に塀を飛び越え、中へ侵入。そして、昨晩と同じ縁側にかぐや姫は今日も腰掛けていた。

 

「今晩は」

「今晩は。侵入者さん」

 

 侵入者とは失礼な。貴女に呼ばれたから俺は来たのだ。まぁ、昨晩は確かに侵入者ではあったが。

 

「とりあえず、此方に来て座りなさいな」

 

 そう言って、かぐや姫は自分の隣を叩いた。なんだか懐かしい気分になる。諏訪で生活していた日のことを思い出した。そして俺はいつになったら、諏訪に帰ることができるのだろうか。この調子だと当分先になってしまいそうだ。

 

 あの二柱もきっと寂しがっていることだろう。たぶん……

 

 

 かぐや姫の隣に座った後、ポツポツと会話を始めた。

 

 かぐや姫は、毎日のように聞かされる貴族の自慢話について愚痴を溢し、俺は将来のお嫁さん候補である神や妖怪たちのことを話した。

 俺のお嫁さん候補が皆、人外であることにかぐや姫は引いていたが、貴女だって不老不死なのだし、そんなに変わらない気がする。口には出さなかったが、そんなことを思った。

 

 

「ああ、そうだ。妖怪桜の噂とか聞いたことある?」

 

 もしかしたら、貴族の人で妖怪桜のことを話している人がいたかもしれない。そんな希望があった。かなり薄い希望ではあるが。

 

「妖怪桜? いえ……私は聞いたことないわね」

 

 むぅ、やはりダメか。もしかしたらとは思っていたが……なかなか上手くはいかないものである。

 

 そもそも、何だって今回の課題はあんな形で出されたのだ。何をすれば良いのかがよくわからないじゃないか。ヒントとかないものかねぇ。せめていつの時代かくらいは教えて欲しい。時間制限がなければ良いが。

 時間制限と言えば、かぐや姫っていつ月に帰るのだ? 確か竹取物語では、帝と手紙のやり取りをしてから3年……だった気がする。

 

 少しばかり気になり、そんなことをかぐや姫に聞いてみた。

 

「なぁ、輝夜っていつ月へ帰るんだ?」

 

 もしかしたら、俺も一緒に月へ行くことになるかもしれない。その時のためにも事前に聞いておきたい。いきなり月へ行くとかなったら大変だ。

 

 そんなことを考えていると、かぐや姫が此方をじっと見つめているのに気づいた。

 うん、どうしたんだ? ま、まさかアレか? こ、告白ですか? やばいな緊張してきた。

 

 

「……どうしてそのことを?」

 

 

 なんだ、告白じゃないのか。無駄に緊張してしまった。

 

 どうしてって、そりゃあ……あ、これもしかしてミスったか?

 

「そのことは、まだ誰にも話していないはずなんだけど?」

 

 嫌な汗が全身から吹き出る。これはまずい。可愛い女の子と二人きりだったせいで、完全に浮かれていた。諏訪子にだけは、俺の事情を話したことがあるけれど、諏訪子の場合は直接アイツに関係する未来を俺は何も知らなかった。

 しかし、今回は違う。俺は竹取物語と言う、かぐや姫の未来を知っている。知ってしまっている。

 

 それは、つまり――

 

 歴史を変えてしまう可能性へ繋がってしまう。

 

 

 まっずいな、これは。逃げるにしても、かぐや姫ががっちりと俺の腕を掴んでいるせいで、逃げられない。普段なら、そのことに興奮しているだろうが、今回ばかりはそんなことをしている余裕がない。女の子に乱暴をするわけにもいかない。

 

 こりゃあ、つんだか。

 

「話してもらえるかしら?」

 

 ……了解しました。

 

 

 

 逃げることもできなかった俺は、洗い浚い話すことになった。未来から来たこと、記憶がないこと、課題のこと、そして竹取物語のことも。流石に内容までは喋らなかったが、これが未来にどの程度影響するのやら……日本の首都が京都とかになっていたらどうしようか。誰に謝って良いのかもわからない。

 

 はぁ、これで俺と諏訪子で共有していた、二人だけの秘密がなくなってしまった。スマンな諏訪子。でもこれは、浮気とかではないから心配しないでほしい。

 

「へ~、未来でも私って有名だったのね」

 

 話を聞き終えたかぐや姫が言った感想は、それだけだった。

 

 なんだろうか、もしかしたら俺が気にしすぎているだけなのか? この世界に『たられば』は存在しないけれど、俺はそれを起こす可能性を持っている。そう考えてしまうと、少しだけ寒気がした。

 

 その後、かぐや姫から月へ帰る日を聞いたが、彼女自身もわからないらしい。ただ、月へ帰らなければいけないことだけは、確かだそうだ。

 そのことを伝えてくれたかぐや姫の顔は何処か悲しそうに見えた。

 

 

 その日の会話はそれくらいで終わり、続きはまた今度となった。此処へ来るのはもうやめようかとも思ったが、もし俺が来なかったら俺の家に押しかけると脅された。嬉しい提案ではあるけれど、流石にそれは遠慮してもらいたい。明日もまた来ないとだ。

 

 

 

 家へ帰り、空を飛ぶ練習をしながら考え事をしてみる。

 

 歴史を変えるというのは、なんともカッコイイ響きではある。しかしだ。

 もし、歴史を変えてしまう場面に出会ってしまった時、俺に歴史を変えるだけの勇気はあるだろうか。

 

 

 ぽっかりと浮かんだ満月を見上げながら、そんなことを思った。

 

 

 






残念ながら『たられば』なんてありはしませんが、妄想するのには良い素材であったりしますよね

と、言うことで第16話でした
どことなくミステリーっぽさが出てきましたが、実際は主人公が勘違いしているだけなように思えます
本当のところは私にもわかりません


次話は未定ですが、どことなく重たい空気が近づいている気がします
気がするだけかもしれませんが

では、次話でお会いしましょう

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