東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第13話~魚が消えるその日まで~

 

 

 ヒマワリの花が咲くのは早くとも数ヵ月後。それまでは他の何かを売らなければならない。まぁ、ヒマワリが本当に売れるのかはわからないが。

 

 ルーミアと話ながら色々と考えてみたが、やはり川魚を捕まえて売るのが良いのではないかとなった。農作業をするにしても道具は無いし、他に売れる物も考えられない。

 そんなわけで川魚を売ることに。

 

 昨日訪れた渓流へ行き、魚を捕まえる。例のごとく、俺は全然捕まえられなかったが、代わりにルーミアが沢山捕まえてくれた。すげーな、おい。

 十数匹ほどになった魚は、腹に切り込みを入れ、内蔵を取ってから家へ持ち帰った。持ち帰った後は竹串に刺して焼く。

 魚を捌いたのも、竹串を用意したのも、火を起こしたのも全部ルーミアがやった。あれ? もしかして、俺っていらない?

 

 そして、良い感じに魚が焼けてきたところで気づいた。

 

「あっ、塩とかないわ」

 

 焼き魚につける調味料が一切なかった。ホント行き当たりばったりだ。もう少し考えてから行動すれば良かったと思う。

 塩を買うお金もないため、自分たちで作る必要がある。まさにサバイバル生活。

 捕まえた魚は全て焼き、ルーミアが美味しくいただきました。さて、振り出しに戻りましょうか。

 

 

 次の日の朝、ヒマワリに水をあげてから海を目指して旅に出る。まぁ、二日ほどあれば帰って来られるだろう。その間に枯れないと嬉しいが……

 

 水瓶と鍋、そして妖怪さんの傘を持って家を出発。ああ、ついでだし妖怪さんにも会っていこう。確か、東に真っ直ぐ進んで一山越えた所だったと思う。そのためには、都の中心を通る必要があるわけだが……それはルーミアが嫌がった。こんな真昼間から都に妖怪がいれば、陰陽師たちに退治されてしまうらしい。

 それは俺も困るため、都は迂回することに。俺の家に来る時はどうしていたのか聞くと、滅茶苦茶高い場所を飛んで来たらしい。残念ながら俺にはできないが。一応、2,3mほどなら飛べるようにはなったけれど、そんな高さを飛んだところで仕様も無い。

 

 都を迂回すると進む場所は山になる。山を進むと熊が出る。熊が出ると俺が殺される。しかし、今回は違う。俺の隣には心強い味方がいるのだ。

 

 そんな甘いことを考えていた。

 

 

 

 

 

「だから、何故殺されるのじゃ?」

 

 綺麗な山躑躅が咲いていたから見ていたら、後ろからやられた。ルーミアと別れた一瞬の隙をつかれた。なるほど、これが職人の技か。

 

 そう言えば、彼女と会うのも久しぶりな気がする。数ヵ月は会っていなかったな。

 久しぶりに会った彼女を見ると、何故か不機嫌そうだった。それもかなり。眉間にシワとかよってるし。彼女の周りには酒瓶らしき物も転がっている。何処から持ってきたよ、それ。少しだけ頬が膨らんでいるのは可愛いが。

 

「何かあったの?」

 

 とりあえず聞いてみる。もしかして最近、俺と会っていなかったからだろうか? ああ、顔を見飽きたとか言われたし違うか。自分で考えておいてアレだが、泣きそうだ。

 

「なんじゃ、あのガキは? アレか? 小さければ誰でも良いのか? これだからロリコンは……」

 

 意味がわからなかった。何に対して怒っているのだ。

 

 その後も、彼女の愚痴を聞くだけになってしまった。たぶん、あのガキというのはルーミアのことで、ロリコンは郵便屋を指しているのだろう。どう見ても八つ当たりにしか見えないが。

 

 

 意識が戻ると、ルーミアが俺の顔を覗き込んでいた。

 しまった、このまま寝たふりを続けていれば、キスをしてくれたかもしれない。もったいないことをした。

 

「本当に不死なのね」

 

 まぁね。どうにも実感が湧かないが、有り難いことである。

 

「熊は?」

「おいしかった」

 

 そりゃあ、良かった。

 

 そんなことがありながらも数時間後、漸く妖怪さんの居る場所らしき所へ着いた。

 流石に、時期が違うためヒマワリは咲いていなかったが、代わりに色取り取りのガザニアが咲いていた。別名勳章菊。花言葉は『あなたを誇りに思う』だったかな。日本に来るのは明治時代だと思ったが……まぁ、気にしても仕様が無い。ぱっと見たところ、ガザニアも元気に育っているし、良い土壌なのだろう。

 さて、あの妖怪さんはいるのかな? ガザニアを引っこ抜けば出てきてくれるとは思うけれど、絶対怒られる。怒られるのは嫌いではないけれど、やらない方が良いだろう。

 

 花畑をルーミアと歩いていると、洋風の建物を見つけた。たぶん、妖怪さんの家だろう。それにしても、一緒にいるルーミアは何処かそわそわしていて、妙に落ち着きがない。どうしたのだろうか。

 玄関と思われる扉を三回ほどノックする。これで、知らない人が出てきたら何て言おうか。言い訳を考えなければ。

 そんなことを考えていると、扉が勢いよく開き、俺の顔面にぶつかった。

 とても痛い。

 

「あら、誰かと思ったら貴方だったのね。どうしたのよ?」

 

 いつか見た時と変わらぬ姿の妖怪さんだった。

 

「ここに住んでいるって聞いたから、ちょっと立ち寄ってみた。ああ、花の種ありがとう。今、育てているところだよ」

 

 痛む鼻を押さえながら、俺は言った。ガザニアの種とかもらえないかな。

 

「別に気にしなくても良いわよ。とりあえず上がりなさいな。お茶くらい用意してあげるから」

 

 それは、助かります。ルーミアも喜ぶだろう。

 そして、妖怪さんの家へ入ろうとしたが、何故かルーミアがついて来ない。

 

「どうしたのさルーミア。中へ入らないの?」

 

 せっかくお茶を淹れてくれるのに、遠慮しているのかな。

 

「私は大丈夫。ここで待ってる」

 

 本当にどうしたのだろうか? 確かにあの妖怪さんは怖いけれど、此方が悪さをしない限り、危ないことにはならないと思うが。

 何故だかわからないが、どうにも嫌がるため、ルーミアを置いて家の中へ。あまりゆっくりはできなそうだ。待たせすぎても可愛そうだし。

 

「あら? あの娘は来ないの? 確か、郵便屋とか言うのと一緒にいた娘よね」

「外で待っているってさ。どうしてかはわからないけど」

 

 そう言えば、妖怪さんはルーミアや郵便屋と会っているのか。まぁ、依頼を受けたときに会ったのだろう。

 

 妖怪さんの入れてくれたお茶は、仄かに甘い香りがし、少し酸味のあるハーブティーだった。ローズヒップとかいうやつだろうか。詳しくは知らないが。

 

「そう言えば、昨日あの郵便屋に会ったけれど、どうして外にいる娘とは一緒じゃなかったのかしら?」

 

 昨日? なんだ、滅茶苦茶近くじゃないか。それなら家で待っていれば直ぐに会えそうだ。

 

「慌てたように、東に向かっていったけれど何かあったの?」

 

 方向が真逆じゃねーか。何やってんだよ、あの郵便屋……

 

「ちょっと問題が起きてはぐれちゃったんだ。それで、郵便屋と再会できるまでは俺と一緒にいることになった」

「そうだったのね……」

 

 この調子では、ルーミアも苦労しているのだろう。多分、ルーミアを探しに出たと思うが、明らかに空回りしている。なんとも残念な人だ。

 ルーミアには優しくしてあげよう。

 

「なあ、妖怪さん」

「幽香。風見幽香よ。貴方は?」

 

 ハーブティーを飲みながら妖怪さんが静かに言った。なかなか絵になる光景。名前は知っていました。

 

「青。それで、幽香。塩とか余ってない? もし余っていればもらいたいのだけど」

「塩ならいっぱいあるわよ。昔、処分した人間が沢山持っていたからかなり。欲しいなら好きなだけ持って行きなさい」

 

 処分とか言うな処分とか。同じ人間として悲しくなるでしょうが。

 それにしても助かった。塩作りなどやったことがないから、これは有り難い。

 

 ルーミアをあまり待たせるわけにもいかないため、幽香との会話はそれくらいで終わりに。袋に入った3kgほどの塩と、さらに花々の種までくれた。ただ、花の名前はやはりわからないらしい。どうやって手に入れたのやら。しかし、本当に有り難い。

 

 幽香に感謝の意を伝え、家を出る。思わぬ収穫に心が踊る。

 

「や、待たせたねルーミア。家へ帰ろっか」

「家に? 塩は?」

「幽香から沢山いただいたから大丈夫」

「そーなのかー」

 

 そうなのだ。

 

 

 家へ帰る途中、どうして幽香の家の中へ入らなかったのかルーミアに聞くと、どうやら幽香はかなりの大妖怪らしい。そのため、ルーミアのような力の弱い妖怪だと、側にいるだけで相当な重圧になる。だから家の中には入らなかったそうだ。むしろ、どうして俺は大丈夫なのかと聞かれた。どうしてと言われても、重圧なんて何も感じない。俺にとっては、ただの可愛らしい女性だ。薄々、幽香ってすごい妖怪なのでは? なんて思っていたが。

 

 家に帰る頃には日も沈んでしまい。その日はそのまま寝ることになった。いつものように、俺は寝ないため夜の間は飛ぶ練習と霊力を使う練習。小さなことでも、積み重ねていくことが大切なのだ。

 

 

 次の日は一昨日と同じように、川魚を捕まえ内蔵を取り、塩をかけて都へ持っていった。今日は俺も一匹だけだが捕まえることができました。ルーミアは20匹近く捕まえたが。

 最初は、焼いた魚を持っていこうとも考えたが、焼きたての方が美味しいに決まっている。それに焼いている姿や魚の匂いは良い宣伝にもなるだろう。

 

 そして、川魚を売ってみた結果だが……目の前で実際に焼き、販売するのは珍しいのか、予想以上に売れてくれた。少し高めの料金にしたのにも関わらず、20匹ほど持ってきた魚は焼いた端から売れて満足。材料費はロハ。良い商売だ。

 

 お客に最近の都の様子を聞くと、蘇我と物部の氏族同士での対立が起きているらしい。確か、丁未の乱だっただろうか。まぁ、ただの一般庶民である俺にはほとんど関係ない。西暦で言うと600年より少し前くらいなはず。

 竹取物語が始まるまで、まだ100年近くある。長いねぇ。

 

 儲けたお金は刃物類や鍋などの生活用品に全て使った。

 ホクホク顔で家へ戻りルーミアに報告すると、食べ物がないと怒られた。これは今度から何か食べ物を買ってこないといけないな。魚を捕まえてくれたのはほとんどがルーミアなわけだし。

 

 

 時間はかかってしまったが、収入は得られた。自分が今、どの時代にいるのかもわかってきた。

 

 漸く先が見えてきた。

 

 






前話で進めるとか書きましたが、どうやらこれでも進行速度は早いみたいですので、もう進行とか気にせずゆっくりやると決めました

ゆっくりしていってね

と、言うことで第13話でした
これから先、当分はルーミアさんがヒロインをやってくれることでしょう
彼女は嫌がりそうですが

次話は……未定です
まぁ、のんびり進めていきます

では、次話でお会いしましょう

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