東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第12話~やるなと言われたらやりたくなるわけで~

 

 

「……置いていかれた」

 

 涙目になったルーミアがぽそりと言った。

 どうしようか、何と声をかけてあげれば良いのかわからない。

 

「え、えと……あの郵便屋は何処に行ったの?」

 

「私にはわからないし、たぶんアイツ自身も、自分が何処にいるのかわからないと思う……」

 

 んと、どういうことだ? ルーミアがわからないのはわかるが、郵便屋自身もわかっていないというのがよくわからない。

 

「よくわからないが、これから君はどうするの?」

 

 郵便屋を探しに行くのも有りだろうが、まぁ、ここで待っているのが無難だと思う。

 それにしても、あの郵便屋は何処か抜けているな。会話をしている時も変な感じがした。人間味が足りないというか、足りすぎているというか……なんだろうか。

 

「此処で待ってる。アイツが迎えに来るまで」

 

 まぁ、それが一番良いだろう。下手に動くと面倒臭くなるものだ。はぐれてしまった時は、その場に留まることが一番なのだから。

 

 うん? 此処で待つということは、もしかして俺と一緒に暮らすということだろうか? ほほー、それはなかなか……うん、そういうの良いと思います。

 

「…………」

 

 ルーミアに凄い目をされた。諏訪子が俺に向けた目と同じような気がしたが、それはきっと気のせいだろう。

 

「ま、まぁ、のんびりしていきなよ」

 

「変なことしたら食べるから」

 

 はい、喜んでー。

 

 そんな感じで、俺とルーミアの共同生活が始まった。あの郵便屋には感謝しています。ルーミアにとっては良い迷惑だが。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、あの郵便屋はどれくらいで戻って来られそうかわかる?」

 

 この二人の関係はわからないが、そもそも迎えに来てくれるのだろうか? そんなことルーミアには聞けないが。

 

「早くて数年。もしかしたら数十年……」

 

 いや、かかりすぎだろ。何処まで行ったんだよ。

 それにしても、あの郵便屋はどうやって消えたんだ? 目の前からいきなり消えたように見えた。これも能力なのだろうか。

 

「そんなにかかるのか? 例え、この国の端にいたとしても、数ヶ月もあれば十分だろうに」

 

 俺みたいに、山の中しか歩かないとかなら別だろうが、普通なら道を歩く。此処は都なのだし、道を歩いていれば自然と流れ着くだろう。

 

「場所自体はそんなに離れていないと思う。でもアイツ、方向音痴だもの……ちょっと頭がおかしいくらい」

「なんで、方向音痴が郵便屋をやってるんだよ……」

 

 思わずツッコミをいれた。明らかに職業選択を間違えている。そして本当に郵便屋なのか? あの郵便屋から、手紙などは受け取ったことがない。なんとも不思議な少年だ。

 

「私は知らない。私の記憶がある時から、ずっとアイツと一緒にいたもの」

 

 あら、随分と長い付き合いなんだね。

 記憶がある時、ねぇ。なんとも引っかかる言い方だ。

 

 まぁ、詳しい話はまた聞けば良いだろう。時間は沢山あるようだし。

 それじゃあ、もらったヒマワリの種でも植えようか。

 

「これから、この種を植えるんだけど、手伝ってもらっても良いかな?」

 

 きっと数ヵ月後には、大きな花を咲かせてくれることだろう。その時が楽しみだ。

 

「まぁ、良いけど何をすれば良いの?」

「とりあえず、水を用意しないとかな」

 

 本当は井戸でもあれば助かるけれど、此処にそんな物は無い。近くに農業用と思われる水路があったからそこから持ってこよう。

 ルーミアと俺とで水瓶を一つずつ持ち、水を汲んで帰ってくる。ルーミアは水の入った水瓶を簡単に持っていたが、俺にはなかなか辛かった。流石は妖怪さん。可愛らしい見た目をしていても、力はあるらしい。

 くたくたになりながら水を運び、ヒマワリの植える場所を決めてから草抜き。その場所へ運んできた水を撒いて、種を植える。全て手作業で。一人でやるのには大変な作業。ルーミアがいて助かった。

 作業が終わる頃には既に夕方。今日も疲れました。

 

 これで今日の作業は終わったわけだが、ルーミアって飯どうするんだろうな? 残念ながら俺は食料なんて持っていない。一応、ヒマワリの種が残っているけれど、食べてもらいたくはない。そもそも、妖怪って何を食べるのだ? やはり人間を食べるのだろうか? それに、布団だってないから寝るのも大変だろう。俺はどうせ寝ないからいらないが。

 

「お疲れ様。ルーミアってご飯はどうするの?」

「疲れた……何か食べる物ってあるの?」

「いや、全く無い」

「えっ……」

 

 俺が答えると、まるでこの世の終りかのような顔をされた。そこまで絶望するようなことだったのか。確かに、食べ物は大切だがちょいと大げさじゃないか?

 

「じ、じゃあ、あんたは今までどうやって生きていたのよ?」

「何も食べなかったよ。食べなくても生きていける体質だし」

 

 ホント、便利な体質だよ。しかし、困ったな。ルーミアの食料をなんとかしないとだ。

 

「ん~……ルーミアはこれまで、食料はどうしていたの?」

 

 今までもずっと旅を続けていただろうし、何かを食べていたとは思うが……

 

「アイツに頼めば何かくれた。それでも、お腹がいっぱいになるわけじゃないから、どうしてもお腹が減ったら人を食べてた」

 

 すごいなあの郵便屋。そう言えばいきなりバナナをくれたりしていたな。何者なのだろうか。そして、やっぱり人間を食べるのか。まぁ、俺は別に気にしないが。流石に知り合いを食べられたりすると困るが、妖怪だって生きているのだ。人間を食べることは、生きるために必要なのだろう。

 

「そっか。それで、今は人を食べないと厳しそう?」

 

 最悪、俺を食べれば良い。どうせ復活するし。痛いのは嫌いだが、即死させてもらえればそれほど気にしない。

 

「まだ人は食べなくて大丈夫だけど、お腹すいた」

 

 とても悲しそうな顔をしながらルーミアが言った。どうすっかね。時刻はすでに夕方。もうすぐ夜になる……いや、妖怪なのだし夜の方が調子は良いのか? むぅ、その辺りのことはよくわからない。

 

「なぁ、ルーミア」

 

 ま、とりあえず、動くとしよう。

 

「なに?」

「お前、熊食べる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 両手を合わせてからルーミアが言葉を落した。この瞬間、この山の生態的順位は入れ替わっただろう。熊達にとっては晴天の霹靂だ。

 暗くなり始めた山を歩くこと数分。いつものように熊が現れた。その時、ルーミアを中心に黒い霧のようなものが現れ、熊を覆った。その中へルーミアが入っていき、なんとも表現のし辛い音が夕方の山に響いた。

 数分後、何事もなかったかのようにルーミアが現れ、食材に対する感謝を述べた。

 

 熊に対して同情などは全くないが、なんだろうか、見ていて無性に悲しくなった。まさに弱肉強食の世界だ。

 しかし、今回ばかりは熊にも感謝しよう。もしかしたら現れないかとも思ったが、いつものようにホイホイと現れてくれた。もう、俺の能力『野生の熊を引きつける程度の能力』で良いんじゃないか? そんな能力は嫌だが。

 

 まぁ、とりあえず今日は帰って休むことにしよう。明日だってやることは沢山あるのだ。

 

 

 家に戻る頃には完全に夜となってしまっていた。一応、お腹も満たされ満足したのか、家へ戻るとルーミアは直ぐ眠りについた。布団はなくても問題ないらしい。慣れていると言っていた。

 

 寝る時、俺に

 

「変なことしないでよ。絶対だよ!」

 

 とか言っていたが、これはアレか? やれってことか?

 

 なんて、考えてもみたが、多分違うだろう。この時代にあのお笑いトリオはいないのだし。

 

 寝ているルーミアを見ていると、いけない衝動に駆られそうになるため家の外に出る。いつものように空を見上げてボーっと考え事を。空では諏訪で見た時と同じ星空が広がっていた。いつの日かこの空も黒く汚れてしまう日が来るだろう。なんとも悲しいことだ。そんな科学で満たされてしまった世界で、妖怪や神々は存在できるのだろうか。きっと彼らには生き辛い世界になる。その時彼らは――

 

 まぁ、今考えてもわかりはしないか。

 そんな遠い未来のことよりも、大切なのは今なのだ。特にルーミアの食料が問題。今日は熊を食べたが、もしこのまま熊を食べ続けたら、あの山から熊が死滅する。生態系の崩壊待ったなしだ。

 はぁ、自分のことすら満足にできていないのに、他人のことを考えなくてはいけないとは……課題は山積みだ。ホント、もう少しくらい俺に力があれば良かったのに。

 

 やらなければいけないことが多いと、何をして良いのかわからなくなる。得体も知れない不安が襲いかかる。

 

 それでも前へ進まなければならない……なんとも大変だ。

 

 

 






と、言うことで第12話でした

今度こそ進めようと思っていましたが、ぐだぐだ書いて気づけば3000文字
猛反省です

次話は、今度こそ進めます
輝夜さん登場辺りまでなんとか……

では、次話でお会いしましょう

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