じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない   作:ちゅーに菌

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神のカード

 

 

「で?君は一体何なんだ?」

 

 さあ、始まりました第1回家族会議。

 

 議長コブラ。毒蛇神ヴェノミナーガ。実況は死亡フラグをヴェノミナーガさんにへし折って貰ったリックがお送りします。

 

『カードの精霊ですよ』

 

 おっと、ナーガ選手自分を精霊表明だぁ!車をワンパンで空に飛ばす精霊などそうそういるわけがない、というか間違いなく邪神…いや蛇神なのにぃ!

 

「カードの精霊だと……」

 

 実況に熱が入ります!

 

『そうですよ。私はデュエルモンスターズの精霊。あなたも見える人ですからね』

 

 ナーガ選手爆弾発言で父さんを攻撃ぃ!これはクリティカルヒットだぁ!

 

「見える人?」

 

 そんなことより、ヴェノミナーガさんがその巨体で器用に椅子にどうやって座ってるのかの方が気になるぅ!

 

『そう、あなたには精霊が見える』

 

 ナーガ選手爆弾発言Vツゥー!!!

 

「うるさいぞリック」

『うるさいですマスター』

 

 ごめんなさい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけで普通のテンションでヴェノミナーガさんの話を聞こう。

 

『見える人とは大きく2つに別れます。1つはマスターのように生まれつき精霊を扱える能力に長けているために見える者。そしてお父様のように……』

 

 そこまで言うとヴェノミナーガさんは言葉を止めた。

 

「どうした?」

 

『間近で大切な人が死ぬのを見た人です』

 

「…………そうか」

 

 父さんはそれを聞いて少し影が差したような表情になった。

 

 父さんにとっては見事なまでの地雷だろうな……。

 

『尤も例え見えたとしても普通は精霊を見ることなんて滅多に無いでしょう。私みたいな精霊を見るのはその様子だと初めてみたいですからね。あ、これって初体験って奴ですね! キャー☆ そう言うとなんかエロい! でもいい響きですね! じゅるり…』

 

「………………」

 

「………………」

 

 しかし、地雷を踏んでも何のその、そんなことを言いながらくねり出すヴェノミナーガさん……なんなんだコイツは……。

 

『こほん。話を戻しますと精霊が見れる人は結構な数がいるんですよ。具体的に言えば100人に1人はその辺を精霊が飛んでいれば普通に見ることが出来るでしょう』

 

「そう言う割にはデュエルモンスターズの精霊は眉唾物の話程度のハズだったのだが…」

 

 まあ、父さんの言いたい事はわかる。だが、これは現実だ。

 

『まあ、見えるからといって普通、精霊は見えないでしょうね。その辺をぴゅーっと精霊が飛んでいるわけでも無いですし。ですが精霊は全てのカードにいるんですよ? 例えば…』

 

 ヴェノミナーガさんが腕を伸ばし、1枚のカードをリビングの隅のカードプールから取ってきた。

 

 

 

 

シーホース

星5/地属性/獣族/攻1350/守1600

ウマとサカナの体を持つモンスター。海中を風のように駆け巡る。

 

 

 

 

 ……………………なぜソイツをチョイスしたし。

 

『これをこうします』

 

 ヴェノミナーガさんの手に集まる黒紫色のドス黒いオーラのような何かがシーホースのカードを覆った。

 

 するとカードは全長3mぐらいの上半身が馬で、下半身が魚の生物になっていた。

 

 シーホースだ……圧倒的シーホースだ……。

 

『このようにカード全てには精霊が宿っているため…『ヒヒーン!』あ』

 

「あ」

 

 シーホースは一鳴きするとそのまま開いている窓から外へ飛び出し、車道を跳ぶように駆けると直ぐに見えなくなってしまった。

 

『…………』

 

「…………」

 

「……大丈夫なのか?」

 

『大丈夫です。かなり温厚な精霊ですから……きっと自分が所有者だと認めた者のところにでも旅立ったのでしょう』

 

 "きっと太平洋を横断して日本へ向かうのですね"とか言いながらヴェノミナーガさんはどこか晴れがましい表情で話を続けた。

 

『人は決闘できたんですよ……マスター』

 

 ……なんの話だよ。

 

『話を戻しますと今のように精霊を扱う力があればカードに宿る精霊を自由に具現化し、デュエルディスク無しで召喚することが可能です。私を見ての通り、物質化しているので……』

 

 ヴェノミナーガさんはまた手を伸ばし、窓から出してから戻すと、手に今の俺が一抱えぐらいの大きな石が握られていた。

 

『えいっ』

 

 ヴェノミナーガさんが手を閉じると石は粉々に砕けた。

 

『このように精霊に物理的に攻撃させることも可能です。やったー♪』

 

 おい、デュエルしろよ。

 

 ……少なくともヴェノミナーガさんの手だか口だからわからない腕はサメやワニより遥かに噛む力があるということはわかった。

 

「……つまり、リックには君のような精霊を扱う力があると?」

 

『珍しいことじゃないですよ。5000年……いや、8000年? まあ、それぐらい前はその能力があることがデュエリストの最低条件でしたからね』

 

「ようするにどういうこと……?」

 

 そう言うとヴェノミナーガさんは首を傾げた。

 

『ひょっとしてマスターはデュエルディスクを使ってデュエルしたことが無いんですか?』

 

 ん? なんでそうなる? でもそう言えば一度も使ったことが無いような……。

 

「納得の行くデッキが出来ないから……」

 

 だってさ……攻撃力1800のバニラですら5万ぐらいするんだぜ? 作れねぇよ。

 

 それに折角、奇跡的に当たったレアカードも現状使い道無いし……。

 

『なるほど…どうりで…なら実戦あるのみですね』

 

 何が?

 

『それはそうと、精霊は人とは違う異世界に住んでいるんですよ』

 

 そう言いながら机の上に置いてあるA4のコピー用紙にペンでスラスラと図形を描いて行くヴェノミナーガさん。

 

 なんか話を反らされたような………それにしても、その手……手でいいのか? すげぇな。

 

『とまあ、こんな感じですね』

 

 紙には人間界と真ん中に書かれた大きな丸と、その横に精霊の世界と真ん中に書かれた大きな丸が書かれていた。

 

『人は人、精霊は精霊の世界で暮らしているわけです。ちなみに……』

 

 ヴェノミナーガさんはまたペンを動かす。

 

 精霊の世界と書かれた大きな丸の方に幾つかの小さい丸が書かれた。

 

 数えてみれば12個書かれている。

 

『精霊の世界は12個に別れており、それぞれその世界の環境に適した精霊が暮らしています。例えば三邪神を崇め、悪魔族が統治する世界とか。時戒神を崇め、天使族と機械族の統治する世界だとかがあります。まあ、個性豊かですね』

 

「ほう……」

 

 やはり、デュエリストである父さんは興味津々と言った様子だ。

 

 三邪神は兎も角、時戒神ってなんだろう?

 

「時戒神ってなに?」

 

『時戒神と言うのは機械の身体を持つ天使の神々の事です。デュエルモンスターズの神と人間界で言われている三幻神と大体、同格の神のカードです。と言っても救われない者に総出で手を差し伸べ、その者が救われるまで共にいる事もたまにあるぐらい素直な方々ですから恐怖することはありません。寧ろコピーカードを使うだけで天罰を落とす三幻神の方がよっぽど凶悪ですよ』

 

「待て……」

 

 父さんがヴェノミナーガさんの話を止めた。

 

「神のカードは三幻神だけではないのか……?」

 

 ……尤もな疑問だ。

 

『はい、勿論。正直、三幻神は神というカテゴリーの属性を持ってはいますがその実力自体は大したことはありません。現に闇属性、悪魔族に分類される三邪神の方が力が強いですから……アバターにゃ、私だって逆立ちしたって勝てませんからねー。あのソルディオス砲め…』

 

 ソルディオス砲が何かはよくわからないがディスっているのだけは伝わった。

 

『絵で表すとこんな感じですね』

 

 そこにはホルアクティと書かれた大きな丸から1本の線が延びており、神&精霊と真ん中に書かれた大きな丸に繋がっていた。

 

『そもそもデュエルモンスターズの精霊の祖は三幻神ではなく、創造神 ホルアクティという名のそれはそれはど偉い神です。ホルアクティが様々な神々を創造し、さらに精霊全てを創造したんです。つまり生まれながらに神は神。精霊は精霊ということです』

 

「毒蛇神……まさか君もか?」

 

 父さんはヴェノミナーガさんのカードを持ち、凝視しながらそう言った。

 

『にょろーん! 私は十二界の内の1つにて崇められている神のカードなんです!』

 

 目を光らせ、誇らしげにさらっと爆弾を投下した。

 

「神のカード……」

 

『ちなみに私の神としての実力は上の中ってところですね。うん、私ったらとっても謙虚』

 

 自分で言うのか……。

 

『とまあ、簡単な説明はこれぐらいですね』

 

「そうか…」

 

 それを聞くと父さんは椅子から立ち上がり、カバンを持った。

 

「すまないがデッキを渡しに戻っただけで仕事があるんだ」

 

 なんだそうだったのか。

 

「お疲れ様、行ってらっしゃい」

 

 そう言うと父さんは笑った。

 

 父さんは基本的に家にあまりいない。まあ、父子家庭だから仕方ないわな。

 

「ああ……」

 

 父さんはヴェノミナーガさんに向くと頭を下げた。

 

「本当にありがとう……」

 

『ふぇ? あ……こちらこそ?』

 

 それだけ言うと父さんはリビングから立ち去り、暫くすると玄関ドアの閉まる音と、車が走り去る音が聞こえた。

 

「………………」

 

『………………』

 

 二人しかいない空間でヴェノミナーガさんと向き合う俺。

 

 蛇に睨まれたなんとやらとはこのことだろう。向こうは睨んで無いけど。

 

『さてと……』

 

 そう言うとヴェノミナーガさんの姿が薄れ、半透明になると俺の背後に憑いた。

 

 背後というか俺の頭上に覆い被さっている。

 

 頭の上の感触はたぶん、胸だろう。重さは感じないが感触は感じるとはこれいかに。

 

「はい?」

 

『いやー、最高の眺めですねー。絶景かな絶景かな』

 

「何してんですか?」

 

『イヤだなー。敬語だなんて止めて下さいよ! マ・ス・ター♪ くー、いい響きですねー! 我が世の春って奴ですね!』

 

 …………本当になんなんだろうこの人は。

 

『……これからよろしくお願いいたしますね?』

 

 ヴェノミナーガさんの顔は見えないが小声で言われたその言葉は俺に届いた。

 

 その言葉は少しだけ震えているように感じる。

 

 命の恩人である彼女を受け入れない選択肢は俺には無かった………………それに強いものな。

 

「こちらこそよろしく。"ヴェノミナーガ"さん」

 

『…………えへへ……』

 

 表情は見えないがヴェノミナーガさんから漏れた言葉から大体は予想が出来た。

 

 正直なところ、これからヴェノミナーガさんと迎える人生が楽しみで仕方ない。

 

 

 

 

 

『うっしゃー! 言質とったらー! これでいられるぜー! ひゃっはー!』

 

 ………………たぶん、大丈夫だろう。

 

 

 

 






 ちなみにヴェノミナーガさんの神格はラー以上アバター未満ぐらいです。

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