じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない   作:ちゅーに菌

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 作者が土日に書いた初投稿の新しい遊戯王の二次創作"古波さんちのメイドラゴン"も良かったらお読みください。

 リックくんがダークサイド過ぎるとのご意見がたまにありましたので、要望通り、よかれと思ってぴかぴかのライトサイドな主人公にしてみましたので、暇潰しにでもしていただければ幸いです。


 後、ボスデュエルは今回で本当に終わりで、次回はセブンスターズのノーフェイスのお話となります。





ボスデュエル その4

 

 

 

 

「行くぞ! "モンタージュ・ドラゴン"でワイルドジャギーマンを攻撃! 受け止めて見せろ! パワー・コラージュ!」

 

 モンタージュ・ドラゴンを召喚したナイトメアは一切臆する様子はなくモンタージュ・ドラゴンへ指示を出し、モンタージュ・ドラゴンはその拳でワイルドジャギーマンを襲った。

 

 そして、モンタージュ・ドラゴンがワイルドジャギーマンを倒そうとした次の瞬間――2体のモンスターの位置が入れ替わり、モンタージュ・ドラゴンが十代の場に、ワイルドジャギーマンがナイトメアの場にいた。

 

「……なにィ?」

 

「罠カード発動! "異次元(いじげん)トンネル-ミラーゲート-"! 自分フィールド上に表側表示で存在する"E・HERO"と名のついたモンスターを攻撃対象にした相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる! 相手の攻撃モンスターと攻撃対象となった自分モンスターの コントロールを入れ替えてダメージ計算を行う! このターンのエンドフェイズ時までコントロールを入れ替えたモンスターのコントロールを得る!」

 

 攻撃力7200のモンタージュ・ドラゴンと、攻撃力2600のワイルドジャギーマンの間で発生する戦闘ダメージは4600。ナイトメアのライフポイントをほとんど削り切れてしまうだろう。

 

 無論、それを許すナイトメアではなく、伏せていたカードを発動した。

 

「クハハハ! ならば罠カード、"愚者(ぐしゃ)裁定(さいてい)"を発動! 自分への戦闘ダメージを0にする!」

 

 モンタージュ・ドラゴンとワイルドジャギーマンの頭上に天秤が現れ、この戦闘でのダメージを無効化し、ワイルドジャギーマンは破壊された。

 

「ターン終了。さあ、何を見せてくれる?」

 

 ナイトメアのエンドフェイズ宣言により、十代の場のモンタージュ・ドラゴンはナイトメアのフィールドに戻る。

 

ナイトメア

LP4700

手札1

モンスター2

魔法・罠2

 

 

「俺のターンドロー!」

 

手札

0→1

 

 そして、十代はカードをドローし――。

 

「うっ……!?」

 

 ナイトメアと、明日香に伝わるほど大きな声で思わず声を上げていた。

 

 その十代にしてはあまりに珍しい様子から、2人は瞬時にカードをドローし損ねたということに気づき、明日香は驚き戸惑う様子で、ナイトメアは素の表情で目を丸くしている。

 

「あははは……わりぃ明日香。ターンエンドだ」

 

 そのまま十代はターンエンドの宣言をした。

 

 十代の場には魔法・罠カードだけだが、片方の罠カードはワイルドジャギーマンを融合時に、処理の関係で場に残ったリビングデッドの呼び声のため、実質1枚のみである。そして、その発言から残ったカードでモンタージュ・ドラゴンを止められないことも明白であろう。

 

十代

LP3600

手札1

モンスター0

魔法・罠2

 

 

「………………」

 

 明日香は自身のターンになるとドローせずに少し目を伏せ、すぐに見開くと十代へ向けて声を荒げた。

 

「十代……次のターンがあればなんとかなる?」

 

「………………ああ、明日香の力さえあればなんとかしてみせるぜ!」

 

「私の力……ね」

 

 そう強く言い放った十代の言葉にそう返事を返し、小さく笑みを浮かべた明日香は、決意に満ち溢れた瞳で真っ直ぐにナイトメアを見つめて口を開く。

 

「リック! 私を攻撃しなさい!」

 

「ほう……」

 

 その言葉にナイトメアは眉を上げて嬉しげに興味を示し、そうしているうちに明日香は動いた。

 

「私のターンドロー! そして、伏せていた罠カード、"強欲な瓶"を発動! カードを1枚ドロー! 更に手札から魔法カード、"強欲な壺"を発動するわ!」

 

手札

0→1→2→3

 

 明日香の手札が爆発的に増えていき、3枚に到達した直後、手札から"融合"の魔法カードが発動される。

 

「私は"融合"によって、手札の"エトワール・サイバー"、"ブレード・スケーター"を融合! そして、サイバー・ブレイダーを融合デッキから融合召喚するわ!」

 

サイバー・ブレイダー

星7/地属性/戦士族/攻2100/守 800

「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」 このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。(1):相手フィールドのモンスターの数によって、このカードは以下の効果を得る。

●1体:このカードは戦闘では破壊されない。

●2体:このカードの攻撃力は倍になる。

●3体:相手が発動したカードの効果は無効化される。

 

 それはデュエルアカデミア女子の女王――天上院明日香のエースカードであり、デュエルアカデミア本校の関係者ならば誰もが知る女性モンスターであった。

 

サイバー・ブレイダー

ATK2100

 

「"サイバー・ブレイダー"は相手がコントロールしているモンスターの数によって効果を変える! あなたのフィールド上のモンスターは"メタル・リフレクト・スライム"と、"モンタージュ・ドラゴン"の2体! よって"サイバー・ブレイダー"の攻撃力は倍になるわ! パ・ド・トロワ!」

 

サイバー・ブレイダー

ATK2100→4200

 

 サイバー・ブレイダーの攻撃力は本来ならば一撃でデュエルに決着をつけるのに十分な攻撃力となる。しかし、現在のモンタージュ・ドラゴンを超えるには、遥か遠かった。

 

「ねぇリック?」

 

「ああ?」

 

「バトルしましょう? これだけお膳立てをした私の誘い……もちろん受けてくれるわよね?」

 

 それでも明日香は挑戦的な笑みを浮かべ、ナイトメアに対して啖呵を切った。

 

 今だかつて、普段はあらゆるプロデュエリストを等しく撃滅する存在であるナイトメアが、プロデュエルにおいて、ここまで直球に他者から挑発を掛けられている姿は、テレビでは見たことがないため、観客は凍り付き、ざわざわと小さく声を立てるばかりである。

 

 そんな中、ナイトメアだけが目をギラギラと輝かせ、愉しげに口の端をつり上げていた。

 

「ターンエンドよ。さあ、来て……」

 

明日香

LP4000

手札0

モンスター2

魔法・罠1

 

 

「………………」

 

 そして、ターンはナイトメアへと移り、彼は相変わらず笑みを浮かべたまま、カードをドローする。

 

手札

1→2

 

 ナイトメアがモンタージュ・ドラゴンで選択できる攻撃対象は3つある。ひとつは十代へのダイレクトアタック、ふたつは何故か攻撃表示のままで残されている荒野の女戦士への攻撃、そしてみっつは2体の効果を持ち攻撃力が4200まで高まっているサイバー・ブレイダー。

 

「クククッ……明らかに何かが伏せてあり、それでもそんなに意思を持った目でわざわざ誘ってくるか……あり得ないなぁ……全く――」

 

 普通に考えれば、手堅いのは削り切れる可能性が最も高い十代へのダイレクトアタック。次点で攻撃さえ通れば一撃でライフポイントを削り切れる荒野の女戦士。選択の余地もないことが、攻撃が通っても3000のダメージにしかならず、意味のないサイバー・ブレイダーへの攻撃であろう。

 

 そして、ナイトメアは考えるまでもないといった様子でモンタージュ・ドラゴンへ指示を下した。

 

「デュエリストとして、その誘いには乗らざるを得ない! やれ! "モンタージュ・ドラゴン"! "サイバー・ブレイダー"を攻撃しろ! パワー・コラージュ!」

 

 ナイトメアの指示通り、モンタージュ・ドラゴンはサイバー・ブレイダーへとその巨大な拳を向ける。明日香にデュエリストのプライドを持ち出された時点で、ナイトメアに答えは1つしかなかったのである。

 

 しかし、サイバー・ブレイダーの華奢な体に命中すれば一溜まりもないであろう。

 

 それに対して明日香はほくそ笑んだ。

 

「ありがとう……罠カードオープン! "ドゥーブルパッセ"! 相手モンスターが自分フィールドの表側攻撃表示モンスターに攻撃宣言した時に発動できる! 攻撃対象モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、その相手モンスターの攻撃を自分への直接攻撃にするわ!」

 

「ああ……」

 

 わかっていたような軽い反応をナイトメアが返すと、モンタージュ・ドラゴンの拳をサイバー・ブレイダーは紙一重で(かわ)し、即座にナイトメアの目の前まで接近した。

 

「グリッサード!」

 

「――――!?」

 

 サイバー・ブレイダーのブレード状のスケート靴を履いた健脚から繰り出された一撃は、ナイトメアの体を一閃した。

 

ナイトメア

LP4700→500

 

 しかし、当然、ドゥーブルパッセの効果によってモンタージュ・ドラゴンの拳は明日香へと迫る中、明日香は十代へと視線を向けると口を開いた。

 

「さあ、後はあなたの仕事よ十代――」

 

「明日香ァァァ!?」

 

 それだけ言い残し、明日香は7000を超える攻撃力のモンタージュ・ドラゴンの剛拳をマトモに受け、万丈目と同様に観客席の壁際まで飛ばされて気絶した。

 

明日香

LP4000→0

 

 

「クフフフ……やるじゃないか明日香……それでこそデュエリストだな」

 

『アスリンの男気がスゴい』

 

「ヴェノミナーガさん……もうちょっとだけ黙っていて……下さい……」

 

 それだけ隣に浮かぶヴェノミナーガへと返すと、ナイトメアはサイバー・ブレイダーに一閃された体の傷を服越しに手でなぞり、掌に向けて咳をひとつ落としてから体を(ほぐ)すように肩を少し反ってからデュエルに戻った。

 

「……俺は手札から魔法カード、"ドールハンマー"を発動。自分フィールド上のモンスター1体と相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動。選択した自分フィールド上のモンスターを破壊し、デッキからカードを2枚ドロー。その後、選択した相手フィールド上のモンスターの表示形式を変更する。俺は自分フィールド上の"メタル・リフレクト・スライム"と、明日香のフィールドに残った"サイバー・ブレイダー"を選択」

 

 ライフを共有していない多人数でのデュエルでは、ライフポイントが削り切られたプレイヤーのフィールドのカードを他のプレイヤーが引き継ぐことは出来ないが、そのままフィールドや墓地に残されるため、多人数のデュエルらしい使い方と言えるであろう。

 

 メタル・リフレクト・スライムがフィールドから消えると共に、サイバー・ブレイダーは守備表示へと変わり、コントロールしているモンスターが1体になったことで戦闘によって破壊されない効果となる。

 

サイバー・ブレイダー

DEF800

 

手札

1→3

 

「さて十代……後はお前のドローに全てが掛かっている。ターンエンドだ。俺を愉しませてくれ……!」

 

ナイトメア

LP500

手札3

モンスター1

魔法・罠1

 

 

「………………」

 

 そして、ターンは3人側で最後に残った十代へと移り、ナイトメアとの一騎討ちになった。

 

 普通ならばボスデュエルは圧倒的にボス側が不利なため、この状態になること自体が珍しいが、ボスがナイトメアとなれば話は違う。

 

 彼がボスデュエルにおいて、ここまで3人側に消耗させられていること自体が異例だからだ。

 

 仮に普通のプロデュエリストが今のナイトメアと対峙したのなら、フィールド魔法"ヴェノム・スワンプ"を前に苦戦し、2度のスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを退けることで精一杯であろう。それを後、ライフポイント500まで追い込めている時点で、3人の実力の高さが伺えた。

 

 しかし、だからと言って妥協することも諦めることも3人はしなかった。する筈もなかった。故に彼らは強くここまで来たのだ。

 

「行くぞ! ドローだ!」

 

 そして、十代はこれまでで一番力と願いを込め、スリルと楽しさにこれ以上ないほど満ちた表情をして、カードをドローした。

 

手札

1→2

 

 そして、ここにいる誰もが息を呑む中、ドローしたカードを見た十代は――ただ笑った。

 

「俺は手札から通常魔法 、"ミラクル・フュージョン"を発動! 自分のフィールド・墓地から、 "E・HERO"融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、 その融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚する! 俺は墓地のフェザーマンとバーストレディを墓地から除外し、"E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン"を融合召喚!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン

ATK2100

 

 そして、スパークマンの隣に並んだのは十代のフェイバリットヒーローとも言えるフレイム・ウィングマンだった。

 

 フレイム・ウィングマンの融合素材のフェザーマンは、万丈目がツインツイスターで墓地に送って居なければミラクル・フュージョンで融合できなかったが、摩天楼(まてんろう) -スカイスクレイパー-が、仮にあろうともモンタージュ・ドラゴンは倍以上の攻撃力を持つ。

 

 ヒーローの中では高いステータスと言っても、余りに高い攻撃力のモンタージュ・ドラゴンの前には足元にも及ばず、観客は大いに落胆した声を上げる。

 

 しかし、ナイトメアだけは違い、十代の方を見ながら、新たなるカードが場に出されることをただ待ち、それは訪れた。

 

「へへっ……! 行くぜリック! 俺は手札から更にもう1枚、"ミラクル・フュージョン"を発動! フィールド上のフレア・ウィングマンと、墓地のスパークマンを除外し――"E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン"を融合召喚するぜ!」

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン

星8/光属性/戦士族/攻2500/守2100

「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードの攻撃力は、自分の墓地の「E・HERO」カードの数×300アップする。

(2):このカードが戦闘でモンスターを破壊した場合に発動する。そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

 白銀の姿で光を放ち、翼を持った輝かしいヒーローがこの場に見参した。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK2500

 

「そして、セットしていた魔法カード、"()()がれる(ちから)"を発動! 自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送り、他の自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力を、発動ターン終了時まで墓地に送ったモンスターカードの攻撃力分アップするぜ! 俺が墓地に送るのは明日香のフィールドの"サイバー・ブレイダー"だ!」

 

 明日香のフィールドに残されたサイバー・ブレイダーが光となり、シャイニング・フレア・ウィングマンはそれを纏う。光となったサイバー・ブレイダーはシャイニング・フレア・ウィングマンを背中から抱き締めているように見えた。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK2500→4600

 

「そして、シャイニング・フレア・ウィングマンの

攻撃力は、自分の墓地の"E・HERO"カードの数×300アップするぜ!」

 

 そして、シャイニング・フレア・ウィングマンの背後に、このデュエルで使用された数々のヒーローの幻影が浮かび上がる。

 

「俺の墓地の"E・HERO(エレメンタルヒーロー)"は除外されているフェザーマン、バーストレディ、フレイム・ウィングマン、スパークマンを除き――"パワーバランス"で墓地に送ったキャプテンゴールド! ネクロダークマン! エッジマン! バブルマン! バブルマン・ネオ! クレイマン! ランパートガンナー! ワイルドマン! ワイルドジャギーマンの9体だ! よってシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は2700ポイントアップ! これが正真正銘、最後だリック!」

 

 そして、最終的なシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は――。

 

 

シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK7300

 

モンタージュ・ドラゴン

ATK7200

 

 

 たった100ポイント。シャイニング・フレア・ウィングマンが、モンタージュ・ドラゴンの攻撃力を僅かに上回った。

 

「究極の輝きを放て! シャイニング・フレア・ウィングマン! シャイニング・シュート!」

 

「ククク……クハハハ……ハッーハハハハハハッ! 迎え撃て"モンタージュ・ドラゴン"! パワー・コラージュ!」

 

 モンタージュ・ドラゴンで突撃するシャイニング・フレア・ウィングマンを、モンタージュ・ドラゴンは3本の首から同時に放つブレスで迎え撃つ。

 

 それはしばらく拮抗し、少しシャイニング・フレア・ウィングマンが押されたところで、更なる輝きを帯びたシャイニング・フレア・ウィングマンがブレスを突き破り、モンタージュ・ドラゴンの胸を貫き、遂に撃ち破った。

 

ナイトメア

LP500→400

 

「負けたか……」

 

 そう呟くナイトメアの目の前にシャイニング・フレア・ウィングマンが立ち、彼を見下ろした。

 

 ナイトメアはシャイニング・フレア・ウィングマンの顔を一瞥した後、クツクツと笑うと肩を竦めて見せる。

 

「そして、シャイニング・フレア・ウィングマンは、戦闘でモンスターを破壊した場合、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! ガッチャ! 本当に楽しいデュエルだったぜリック!!」

 

「…………全く……お前らは大したものだ」

 

 晴れ晴れとした表情でそう呟いたナイトメアは、シャイニング・フレア・ウィングマンの光に呑み込まれ、7200の効果ダメージをその身に受けて、ライフポイントを削り切られた。

 

ナイトメア

LP400→0

 

 

 

 

 

「………………リック……?」

 

 効果ダメージを与え、十代のフィールドに戻ったシャイニング・フレア・ウィングマン。しかし、対戦相手のナイトメアは満身創痍以上の状態だった。

 

「クククッ……良いデュエルだった……な――」

 

 ナイトメアは全身から煙を上げ、辛うじて立っている様子でふらふらと体を揺らしつつもしっかりと十代を見据え、最後まで呟くと正面から地面へと倒れ伏す。

 

 そして、それきり全身が項垂れ、ピクリとも動かなくなった。

 

「リック……? おい、リック!?」

 

 自身だけは加減なしで闇のデュエルを行っていたため、ナイトメアは7200ものダメージを1度に受けた。それによる肉体の被害は計り知れないだろう。

 

 即死していても何も不思議ではない。明らかに異様な様子のナイトメアにデュエルを終えた十代は、自身のシャイニング・フレア・ウィングマンの横を通り抜け、焦燥を浮かべながら駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――じゃない!」

 

 突如、ナイトメアは手を支点に跳ねるように飛び起きると、バキバキと体を鳴らしつつ、高らかにそう宣言した。

 

 彼の体はどう見てもダメージを負っているが、その表情はこれ以上ないほどに喜色を示しており、まだピンピンしている様子である。

 

 更に気がつけば彼のフィールドには新たなモンスターがそこにいた。

 

 それは半透明のクリスタルの中に入り、全体的に灰色掛かった体躯に、巨大な両腕の鉤爪、灰の指骨に赤い飛膜をして、色が抜け欠けたようなくすんだ色調をした無機質なドラゴンである。

 

クリアー・バイス・ドラゴン

星8/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合,このカードの属性は「闇」として扱わない。

このカードが相手モンスターを攻撃する場合、このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の倍になる。このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。

また、このカードの戦闘ダメージ計算時、手札を1枚捨てる事でこのカードは戦闘では破壊されない。手札を1枚捨てることで、このカードを破壊する効果を持つカードの効果を無効にする。

 

 また、ドラゴンは守備表示のためか、鉤爪状の腕を胸の前でクロスさせ、翼で体を覆っていた。

 

クリアー・バイス・ドラゴン

DEF0

 

ナイトメア

LP0

 

 更にナイトメアのライフポイントがゼロにも関わらず、ソリッド・ビジョンは健在で、デュエルが続いている。

 

「残念ながら今回はそうはいかない」

 

 立てた人差し指を横に振るい手振りでも強くアピールをするナイトメア。

 

 それだけではなく、ナイトメアは既にライフポイントがゼロにも関わらず、シャイニング・フレア・ウィングマンもクリアー・バイス・ドラゴンも消えておらず、彼のフィールドには1枚のトラップカードが発動していた。

 

「罠カード、"(たましい)のリレー"。ライフが0になった時に発動する。俺は手札からモンスター1体を特殊召喚し、相手の勝利条件をこの効果で特殊召喚したモンスターの破壊にする」

 

「な……なんだって!? そんなのありかよ!?」

 

「クククッ……全力で相手をしているからな。この効果により、俺は"クリアー・バイス・ドラゴン"を手札から守備表示で特殊召喚し、そして十代の勝利条件はたった今より、"クリアー・バイス・ドラゴン"の破壊に変更された。クハハハ! コレが俺のデュエルだ十代!」

 

 そして、ナイトメアは両手を広げ、ぐるりと観客席を見回すように、その場で1度大きく回ってから叫ぶように口を開く。

 

「闇のデュエル……? だからなんだ! いつ如何なる場でも常に観客を沸かせ、想像の上を歩き続けることこそがプロデュエリストの本懐! 闇のデュエルもまたエンターテイメントにしてしまえば良い! さあ、愉しいだろう十代? ワクワクするだろう?」

 

「ああ、楽しいぜ! すげぇ! すっげぇよ!? こんな闇のデュエル知らねぇ!?」

 

 十代は熱狂と興奮の渦にいるようなほど表情に興奮と喜色を強めており、心の底からデュエルを楽しめたようにナイトメアには見えた。

 

 それを見て、ナイトメアは少しだけ柔らかい笑みを浮かべ、すぐにいつも通りの獰猛な笑みに戻る。

 

「ちなみに切り札は2枚看板。なら最終兵器も2枚看板でおかしくはないだろう? そして、"クリアー・バイス・ドラゴン"の元々の攻撃力は0。そして、効果も永続効果のため"ヴェノム・スワンプ"に向いている」

 

「くっそー! それは全然考えてなかったぜ! それで、ソイツは一体どんな効果なんだ!?」

 

「ああ、コイツもプロデュエルにはまだ出していないカードだからな! じゃあ、俺のターンだ!」

 

 

手札

3→4

 

 ナイトメアはカードをドローし、カードは既に見ることはなく、直ぐにクリアー・バイス・ドラゴンに指示を出した。

 

「まず、"クリアー・バイス・ドラゴン"を攻撃表示に変更! ちなみに、このカードはフィールド上に表側表示で存在する場合、このカードの属性は"闇"として扱わない! つまり、無! 無属性のモンスターだ!」

 

「おおー!! なんかスゲーかっこいいな!! でも攻撃力ゼロなのか!」

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0

 

 クリアー・バイス・ドラゴンは攻撃表示になったことで、身を守っていた翼を背に戻し、クロスさせていた腕を横につける。

 

「さあ、バトルだ十代……"クリアー・バイス・ドラゴン"で、シャイニング・フレア・ウィングマンを攻撃!」

 

「ええっ!? 攻撃力ゼロでか!?」

 

シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK5100

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンは受け継がれる力の効果が終了しても、現在5000以上の攻撃力を持つ。そう易々と倒せるものではなく、ナイトメアの復活から、攻撃力0のモンスターで攻撃という奇行に、遂に可笑しくなってしまったのではないかと観客から声が上がっていた。

 

 クリアー・バイス・ドラゴンはクリスタルの中から上半身を出すと、クリスタルごとシャイニング・フレア・ウィングマンの元へ、凄まじい速度で飛び、その巨大な鉤爪のような両腕をシャイニング・フレア・ウィングマンへと振り下ろした。

 

「迎え撃て、シャイニング・フレア・ウィングマン! シャイニング・シュート!」

 

 そして、シャイニング・フレア・ウィングマンはクリアー・バイス・ドラゴンに応戦し、その手が鉤爪と交錯した瞬間――。

 

「この瞬間、"クリアー・バイス・ドラゴン"の永続効果が発動する! このカードが相手モンスターを攻撃する場合、このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の――倍になる!」

 

クリアー・バイス・ドラゴン

ATK0→10200

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンは拮抗することすらなく、瞬時に腕ごと全身を切り裂かれ、戦闘破壊された。

 

 それに見た十代は開いた口が塞がらないといった様子――実際に目を開き切り、口をあんぐりと開けながら叫ぶ。

 

「こ、攻撃力10200だって!? なんだそのとんでもない効果!?」

 

「さあ……終わりだ十代……」

 

 クリアー・バイス・ドラゴンはその場で口を開け、超過ダメージ分の5100を十代へと与える体勢に入る。

 

「クソォォォォ!? 次は絶対勝つからなぁぁぁ!? でも楽しかったぜ!!」

 

「おうよ! やれ! "クリアー・バイス・ドラゴン"! クリーン・マリシャス・ストリーム!!」

 

 クリアー・バイス・ドラゴンのブレスを孕んだ咆哮により、十代のライフポイントは削り切られ、他の2人と同様に観客席の壁まで吹き飛ばされて気を失った。

 

十代

LP3600→0

 

 

 

 

 

 

『わーい! マスター勝ったー!』

『勝った勝ったー! マスター!』

 

「おう、勝ったぞ2人とも」

 

 デュエルが終了し、気絶した者は全員医務室に運ばれた後。

 

 自室に戻ったナイトメアは、流石に肉体的に堪えたのか、体の至るところに湿布のように"ゴブリンの秘薬"や、"モウヤンのカレー"を貼ってベッドに座りつつ、その両サイドに座って足をパタパタと動かしながら喜んだ様子のギミック・パペット-ビスク・ドールと、ギミック・パペット-ネクロ・ドールの頭をそれぞれの手で撫でていた。

 

 2人の人形はあくまでも少女の死体のような精巧な人形であり、1mほどの身長しかないため、彼にとっては小さな妹が出来たような気分なのかも知れない。

 

 そんな微笑ましいような、そうでもないような光景を、どこか影が差したような呆れたような表情で眺めるヴェノミナーガはポツリと呟く。

 

 

『なんであの流れで勝っちゃうんですかマスター……いや、そこがマスターらしいんですけど……』

 

 

 その様子はヴェノミナーガを知る者からすれば珍しく疲れて見えたそうだ。

 

 こうして、残り2人のセブンスターズに備えるための訓練デュエルは終了した。個々で得るものがあったのならそれはきっと幸いなことであろう。

 

 

 

 

 ちなみに今日3人に使用されたボスデュエル用のヴェノムデッキ。プロデュエルのボスデュエルでナイトメアが使い、プロデュエリストが阿鼻叫喚の地獄絵図になる姿がお茶の間にお届けされるのは、そう遠くないほど先の話である。

 

 

 

 

 

 






1年のやや終盤の十代くんに、4年のラスト付近で戦ったクリアー・バイス・ドラゴン(アニメ効果)をぶつけるクソ野郎が主人公の小説があるらしい。

明日香さんによるリックくんに心理フェイズを仕掛けた貴重な成功例(勝てるとは言っていない)


~ラスボスリックくん(ボスデュエル用ヴェノムデッキ)~
第1形態
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

第2形態
グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ ドラゴン

第3形態
モンタージュ・ドラゴン

第4形態(最終形態)←イマココ
クリアー・バイス・ドラゴン(アニメ効果)


モンタージュ・ドラゴン「ヴェノム下でも2往復ぐらいは戦えて、初ターンに攻撃通せばほぼ確実に1人潰せるし、ギミパペだと極限までコスト軽くて、トレードインに対応して、最終的にアドバンスドローのコストにされるから実質ヴェノムだよ」

クリアー・バイス・ドラゴン「墓地だと闇属性だからグリーディーのコストになるよ。星8だよ。アニメ版は元々の攻撃力0で、ダメージ計算時のみ攻撃力2倍になるのは永続効果だから、幾つヴェノムカウンターが乗ってても攻撃力は2倍になるから実質ヴェノムだよ。後、実は安全地帯と腹立つぐらい相性がいいよ」

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン「そうだよ(便乗)」

グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ ドラゴン「お、そうだな(便乗)」


鬼畜モグラ「お待たせ! ドリルしかなかったけどいいかな?」


ヴェノム・スワンプ「――!?」
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン「――!?」
グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ ドラゴン「――!?」
モンタージュ・ドラゴン「(ディスアドが)あー痛いっ痛い!!!痛いんだよお!!!」
クリアー・バイス・ドラゴン「――!?」

鬼畜モグラ「グランモールは獣族じゃなくて岩石族だということ覚えておくと、コアキ積み岩石族の取り回しが格段によくなるゾ。ちなみに作者は征竜全盛期の時代に征竜は通常召喚をまるで行わない兼ね合いから、征竜にモグラ刺して、大会で征竜のオベリスクとかバウンスしてたゾ(隙あらば自分語り)」





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