ツァン……なんとかちゃんとの対戦後、俺は控え室でのんびりしていた。
と、いうのも大会決勝はメインイベントなのでまだ時間がかなりあるのだ。
ヴェノミナーガさんはまたどっかに行って戻って来ないしな。
大会中、何回か俺の周りからいなくなるんだけど何やってんだろう?
そんなことを考えていると控え室のドアをコンコンと軽くノックする音が響いた。
ヴェノミナーガさんでも帰ってきたのかと思い、立ち上がったがよく考えればヴェノミナーガさんが正しい出入りなんてしてくるハズもない事を思い出した。
じゃあ、人間だろうか。
「デス・ガーディウス」
『ゲッゲッゲ…』
デス・ガーディウスの顔が地面から生えてきた。
ふむ……敵意ある不審者なら"
俺はドアまで行くと扉を開けた。
「あ……」
ツァンなんとかちゃんと目があった。
手の位置から察するにドアノブに手を掛けようかどうかというところで止まっていたのだろうか?
「……あ、あう…………」
彼女は顔を真っ赤にさせてわたわたしていた。
なんだこれかわいい。
暫く見ているのもいいかと思ったが、取り敢えずこのままだと話が進まない。
「…………逆恨みなんてみっともないんじゃ無いのか?」
「ち、違うわよ! そんなわけないじゃない!」
皮肉の1つでも言うと彼女はいつも通りに戻ったようだ。
◆◇◆◇◆◇
「絶対勝ちなさいよ! 私を倒したんだから………頑張ってね…」
WhatsAppの連絡先を交換し、妙に機嫌のよくなった彼女は最後にそれだけ言って走り去って行った。
俺は彼女の背中が見えなくなるまで小さく手を振りながら見送った後、控え室のソファーに腰を降ろした。
時計を見るとけっこう話し込んでいたようで、想像以上に時間が経っていた。
尚もヴェノミナーガさんは戻ってこない。
いつもなら異性と会話をしているだけで何かと茶々を入れてくるのだが、今回はそれが無かったので寧ろ違和感に感じる。
マジで何やってんだあの人。
そんなことを考えていると俺の最終の試合を告げるアナウンスが流れてきた。
仕方なくそのまま、デュエルリングへ向かった。
◆◇◆◇◆◇
「HEY! やっと来ましたね!」
デュエルリングの相手が立っている所にはなにかがいた。声は違うが非常に聞き覚えのある喋り方だ。
見た目は俺と同い年ぐらいの少女だった。
藤色にも青色にも見えるとても長いストレートヘア、整った顔立ち。
そして、赤い眼からはまだ少女にも関わらず、可憐、あるいは美しいという表現が適切だろうか。
ただ……。
『ここであったが私換算1万年目! 未だにエースデッキを使わないマスターに鉄槌を下すべく、推★参!』
妙なことさえ直接俺の脳内へ、言っていなければの話だがな…。
ついでに言えば、あの少女から漏れている黒紫色の瘴気みたいなオーラはどう見てもヴェノミナーガさんのオーラだ。きっと特質系だ。
『ま、本当の所。マスターが万が一負けてもBMGが貰えるように私なりの気遣いですよー。どや!』
うわ、うざい。
ヴェノミナーガさんが相手とは……Bブロックはただのイジメじゃねぇか…。
『ならば負けてくれるかと思ったでしょう? 残念! そうは問屋が卸しません。こちとら、win×winな関係で身体を借りていますからねー』
「身体を…?」
『はい、この身体は他人のモノですから』
特質系じゃなくて操作系だった…。
「これ以上、言葉は不要です」
最後の対戦者、ヴェノミナーガさんはデッキを青色のデュエルディスクに差し込んだ。
それを見て俺もデュエルディスクにデッキを差し込んだ。
『大会決勝 リック・べネットVS藤原 雪乃』
互いにデュエルディスクを構えた。
『開始』
「「デュエル!」」
リック
LP4000
ヴェノミナーガ
LP4000
「先攻はどうぞ」
「なら俺のターン、ドロー」
手札5→6
「俺は手札からモンスター1体を墓地へ送って"ワン・フォー・ワン"を発動。手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する」
フィールドに羽の生えたカエルが現れた。
「"黄泉ガエル"を特殊召喚」
黄泉ガエル
ATK100
「"メルキド四面獣"を召喚」
メルキド四面獣
ATK1500
「"黄泉ガエル"と"メルキド四面獣"を生け贄に"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」
『ゲッゲッゲ…』
仮面魔獣デス・ガーディウス
ATK3300
「カードを1枚伏せ、"天よりの宝札"を発動。互いに6枚になるようにドローする」
リック
手札0→6
ヴェノミナーガ
手札5→6
「さらにカードを1枚伏せてターンエンド」
さーて、ヴェノミナーガさんのデッキ。
今回はどんな鬼畜なデッキなんだか。
リック
手札5
モンスター1
魔法・罠2
「私のターン、ドロー」
手札6→7
「私は"仮面魔獣デス・ガーディウス"を生け贄に"ヴォルカニック・クイーン"を特殊召喚します」
ヴォルカニック・クイーン
星6/炎属性/炎族/攻2500/守1200
このカードは通常召喚できない。相手フィールド上のモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールド上に特殊召喚できる。1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上のカード1枚を墓地へ送る事で、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。また、自分のエンドフェイズ時にこのカード以外の自分フィールド上のモンスター1体をリリースするか、自分は1000ポイントダメージを受ける。このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。
デス・ガーディウスが消え、よく燃えている頭に女性のようなものがついた竜みたいなモンスターが特殊召喚された。
「くっ…」
「"仮面魔獣デス・ガーディウス"の強制効果により、フィールド上のモンスター。すなわち"ヴォルカニック・クイーン"に"遺言の仮面"を装備して貰いますよ」
遺言の仮面がヴォルカニック・クイーンに張り付き、ヴォルカニック・クイーンがヴェノミナーガさんのフィールドに移った。
「うふふ、私はフィールド魔法、"影牢の呪縛"を発動します」
「そのデッキまさか…!?」
フィールドの床が闇色に染まり、一色で塗り潰された。
「"影牢の呪縛"の効果。一つ目はこのカードがフィールドゾーンに存在する限り、"シャドール"モンスターが効果で墓地へ送られる度に、1体につき1つこのカードに魔石カウンターを置きます。二つ目は相手ターン中、相手フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードの魔石カウンターの数×100ダウンします。三つ目はこのカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分が"シャドール"融合モンスターを融合召喚する度に1度、このカードの魔石カウンターを3つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を融合素材にできます」
「シャドールデッキ…だと…?」
説明しよう。
シャドールとは対融合、シンクロ、エクシーズメタデッキである。まあ、厳密にはエクストラ召喚メタデッキなのだがそれは置いておこう。
最近の遊戯王では特にエクシーズが猛威を振るっていたため、その性能は凄まじいの一言だ。
何せ、手札が減らない。デッキから効果で墓地へ送るだけでモンスターが増える。エクシーズすればデッキから素材を持ってこられる。ネフィリムこわい。
とやりたい放題である。
バカな…そのデッキカテゴリーは今の世界には存在しないはずでは…?
そんなことを考えているとヴェノミナーガさんが呟いた。
「デュエルモンスターズノート3"シャドール"」
そ、それは…俺が昔…書いた未来のモンスターのイラストノートじゃねぇか!?
『私の神的なパウワァーを持ってすればイラストのカード化なんて造作も無いことです! さあ、自らの夢の前に崩れ落ちなさい!』
こいつマジで俺の精霊かわからなくなるほど容赦がねぇ…。
「"
ちなみにもうひとつの効果はエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する場合、自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができるというメタ効果である。
「私は手札の"シャドール・ビースト"とフィールドの"ヴォルカニック・クイーン"を墓地へ送り、"エルシャドール・エグリスタ"を融合召喚します」
エルシャドール・エグリスタ
融合・効果モンスター
星7/炎属性/岩石族/攻2450/守1950
「シャドール」モンスター+炎属性モンスター
このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。「エルシャドール・エグリスタ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手がモンスターを特殊召喚する際に発動できる。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを破壊する。その後、自分は手札の「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。
(2):このカードが墓地へ送られた場合、
自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
爆炎を巻き上げながら人型の巨大なモンスターが現れた。
エルシャドール・エグリスタ
ATK2450
「さらに"シャドール・ビースト"の効果発動。このカードが墓地へ送られた場合に発動できます。自分はデッキから1枚ドローします」
手札3→4
「"シャドール"モンスターが効果で墓地へ送られた事で"影牢の呪縛"に魔石カウンターを1つ置きます」
影牢の呪縛0→1
「エルシャドール・エグリスタの攻撃! 城之内ファイヤー!」
おい、それリアルタイムで見てたけどラヴァ・ゴーレムの技(?)だろ。
エルシャドール・エグリスタの効果上、今伏せカードを使うのは得策ではないか…。
エルシャドール・エグリスタも空気を読んだのか城之内ファイヤーと全く同じ攻撃をしてきた。
「ごふっ…」
リック
LP4000→1550
「カードを2枚セットしてターンエンドです」
ヴェノミナーガ
モンスター1
魔法・罠2
手札2
そこまで言ったところでヴェノミナーガさんから立ち上っていた瘴気が晴れた。
さらに髪の色が藤色とも青色とも取れた色から藤色に変わった。
「さあ、ボウヤのターンよ? あなたも私の求めた男ではないのかしら?」
それだけ言ってヴェノミナーガさんのニコニコした笑みとは違う妖艶な笑みを浮かべると、再び髪の色は藤色とも青色とも取れる色に戻り、黒紫色のオーラが放出された。
そしてニコニコとした笑顔に戻った。
『とまあ、今の通り、この娘には了承済みですから』
「おい待て、中身(?)の方がキャラ濃いじゃねぇか」
「濃いキャラと濃いキャラが合わさり、最強に見えるでしょう?」
それ以前にヴェノミナーガさんから立ち上る黒紫色のオーラのせいでラスボスに見えます…。
あ、決勝だから大会のラスボスか。
俺はデッキに手を置いて目の前の敵を見た。
恐らく、今回の大会最大の壁だろう。
それが身内とは皮肉だがな…。
「フフフ…」
面白いじゃねぇか…俺はカードをドローした。
デュエルモンスターズのカードに人間が操られるってよくあるはなしですよねー(白目)