歴史の立会人に   作:キューマル式

7 / 63
昨日、日間ランキングを見てびっくり……何故に1位!?
日間ランキングの1位が取れました。これがガンダムのネームバリューの力か……。
読者のみなさん、読んでいただきありがとうございます!
正直、マウンテンサイクル(私のHDD)から発掘された過去の黒歴史に加筆したものだったので、こんなに好評とは思いませんでした。
今後もどうぞよろしくお願いします。

今回からシロッコ様の直属の部下たちが登場。
この子ら、みんな好きだったなぁ……。



第07話 集う女たち

 宇宙での戦いで連邦を屈服させることが出来なかったジオンは、地球侵攻を余儀なくされる。

 無論、ジオンに地球侵攻の準備が無かった訳ではない。宇宙世紀0078の段階でジオニック、ツィマッド双方に地上での戦いを考慮した陸戦MSの開発を依頼していることからも分かる通り、地上侵攻の準備は最初からあったのだ。

 とにかく地球連邦政府への恫喝と、戦争継続に必要な資源調達を目的とした地球降下作戦が決定される。その第一段階として月のマスドライバーを降下予定地点に向けて射出、対空防衛網にダメージを与えることが始まった0079の2月頭、私はガルマに呼び出しを受けていた。

 

「お呼びでしょうか、大佐」

 

「ああ。

 楽にしてくれ、シロッコ少佐」

 

 そうソファを勧めると、ガルマは手ずからお茶を淹れる。

 

「大佐、そのような気遣いは……」

 

「なに、このくらいはさせてくれ。

 それに今は誰も見ていない。

 軍人としてではなく、いつものように友人であるシロッコとして接してくれ」

 

「そうか。 わかったよ、ガルマ」

 

 私は頷いて、ガルマの淹れたお茶をすする。なるほど、香りからして普通とは違う。

 

「このお茶はいい物だな」

 

「分かるのか、シロッコ?」

 

「なに、日頃飲んでいるものとは段違いだというだけだよ。

 それでガルマ、旧交を温めようと呼んだのかね?」

 

「僕としても旧交を温めたいのだが……『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』のパプティマス・シロッコ少佐はそれほど暇ではないだろう?」

 

「それは君もだよ、ガルマ・ザビ大佐殿」

 

「ははは、気楽な士官学校時代が懐かしいよ」

 

 互いに苦笑すると、ガルマは一つのファイルを取り出した。

 

「確かに、今の時期はどこも忙しい。

 各モビルスーツ工房では今、地球降下作戦のために南極条約による対核防御を排除したF型、そして地上戦用のJ型へとザクⅡの改修作業を急ピッチに進めているが……不安はつきまとう」

 

「あの重力の井戸の底は我々スペースノイドにとっては未知の領域、準備はどれだけしても十分とはなるまい」

 

「予定通りならば来月……3月の頭には地球降下作戦が開始される。僕も地球侵攻軍の一員として参加することが決まった。

 そこでシロッコ……君には僕と一緒に地上に降りてほしい」

 

 そう言ってそのファイルを私に渡してくる。

 

「ほぅ……独立戦隊の設立か……」

 

 そのファイルはガルマ直属の独立戦隊の立ち上げについての資料であった。その任務は単純なモビルスーツによる敵の撃滅から、新規モビルスーツや武装の開発と改善のためのデータ取りまで多岐に渡っている。

 

「まさしく、君直属の便利屋だな」

 

 私の感想に、ガルマは苦笑した。

 

「確かに求めているものが多いのは認めるが、君ならば出来ると僕は思っているよ」

 

そう言ってガルマはどこか遠くを見つめる。

 

「僕は『親の七光り』……そう陰口を叩かれていることは知っているし、否定はしない。

 事実、ギレン兄さんやドズル兄さん、キシリア姉さんに比べて僕の能力が劣っているのは事実だろう。

 だが……僕はそれで終わりとすることは良しにしていない。

 必ず功を上げ、『親の七光り』で無いことを知らしめたいのだ。

 だからこそ、そのために信頼おける協力者が手元に欲しい。

 そして、それが出来るだけの能力あるものは君とシャアを置いて他にいないと思っている。

 だからこそ、この話を受けてほしい……」

 

「……そうまで言われては断りようがないよ。

 このパプティマス・シロッコ、その任を受けよう」

 

「ありがとう、受けてくれて嬉しいよ。

 物資に関しては出来得る限りの協力をする。

 人事に関してもよほどのことが無い限り希望通りになるように努力しよう。

 必要なものをピックアップしておいてくれ」

 

 その後は、士官学校時代の他愛無い思い出話に花を咲かせることになった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「さて……」

 

 私はその帰り道、ファイルの内容を思い出していた。

 部隊の設営に関しては願ったりである。私とシャアの目標である『打倒連邦・ザビ家』のためには、功績を重ねる必要がある。そのことを考えると恵まれた環境かつザビ家の近くに入りこめる絶好の機会だ。

 ただ問題は、部下をどうするかということである。

 今回はガルマ直属ということでかなり無茶な人事も許されるようだ。それはいいのだが、いつかザビ家と袂を分かつことを考えると、そこに連れていけるような人材が欲しい。

 加えて言えば、当然人材は優秀な方がいい。これらの条件の合致するものは……そう考えながら歩いている時だ。

 

 

 ドン……。

 

 

「むっ?」

 

「ごめんなさい……」

 

 薄汚れたコートにハンチング帽をかぶった小柄な人影が、私にぶつかる。そのまま小声で謝るとそのまま歩き去っていこうとするのを、私はその手を捕まえた。

 

「ふむ……中々いい腕だが、相手は見極めた方がいいな」

 

 その人物の手には、私の財布が握られている。

 

「放……して……」

 

「そうはいかん。

 窃盗は犯罪だ。 未遂とはいえ見過ごすわけにもいくまい」

 

 私の言葉にその人影は再びもがく。

 その時……。

 

「むっ!?」

 

 今一瞬、この人物からの思念のようなものを感じた。

 これはニュータイプ……またはその素質があると見た!

 その時、もがいた為にハンチング帽を取り落とした人影は、その素顔を見せる。

 

「女の子……か」

 

「……」

 

 私の言葉に、少女は無言だ。歳の頃は15前、多分メイ嬢と同い年といったところ。綺麗な短髪だが、その髪は少し薄汚れている。

 私は手を離すと、問い詰めるように少女に詰問した。

 

「親はどうしたのだ?」

 

「……親は、いなくなった」

 

 死んだという意味か、はたまたどこかへ蒸発か……それは好都合と、私は心の中で笑う。

 

「名前は?

 名前は何と言う?」

 

「……マリオン。 マリオン・ウェルチ」

 

 そう言って私に対し、どこか脅えるようにして少女……マリオンは名を名乗った。

 

「そうか……。

 では、マリオン。 私のところに来るつもりはないか?」

 

 警戒心を抱かせないように手を広げるようにして、出来る限りやさしく語りかける。

 すると、ますます警戒心を強めたように目を細めるとマリオンは言い放った。

 

「……ロリコン?」

 

「違う! 私はそのような低俗なものとは断じて違う!」

 

 失礼なもの言いに一瞬だけ私は声を荒げるが、一つ咳払いをして呼吸を整えると変わらず微笑みながらマリオンに言う。

 

「マリオン、君には才能がある。

 私ならばその才能、余すところなく引き出してみせよう。

 無論、このようなスリなどしなくてもいい生活を私が責任もって約束しよう。

 どうだ?」

 

 差し出した私の手と私の顔を不安そうに交互に見つめ、ややあってポツリと言った。

 

「……本当?

 本当に今の生活から抜け出せるの?」

 

「もちろんだ。

 後は君がこの手を取るだけだ。 さぁ……」

 

 その言葉にマリオンは意を決したようにゆっくりと私の手を取る。

 

「マリオン、君は今、最良の選択をした。

 その選択を後悔させることはしない。

 さぁ、行こう」

 

「……はい」

 

 こうして、私は将来の楽しみな部下を1人手に入れることになった。

ちなみにマリオンを連れ帰ったところ、『私はロリコン』だという根も葉もない噂が飛び交う様になってしまった。

 まったくもって失礼な話だ……ただ単に、才能溢れる愛でるべき『女』が少女だというだけのことであるというのに。

 低俗なものに品性を求めるのは絶望的かもしれんが、最低限の礼は持ってもらいたいものである。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翌週、私はあのツィマッドの工房にて人を待っていた。

 このツィマッドの工房は戦争開始によって軍事施設化し、私のオフィスのような形になっている。今日はガルマに頼んでいた人材がやってくる日だ。

 そんなことをしているうちに、ドアをノックする音がする。

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

 そして入ってくるのは栗色の髪の女性だった。

 

「クスコ・アル。 着任いたしました」

 

「ごくろう」

 

 そして入ってきたのはクスコ・アル中尉である。ニュータイプの素養のある女性であり、私が是非自分の副官として欲しいとガルマに頼んだ人材だ。

 

「遠路ご苦労だった。 楽にしてほしい」

 

「はっ!」

 

 敬礼をして休めの体勢のクスコに、私は言い放つ。

 

「来てもらったところ済まないが、もう少し待っては貰えないか?

 もうしばらくで他のパイロットたちも到着するはずだ。 揃ってから話を始めさせてもらいたい」

 

「構いません」

 

 待つことしばし、再びドアがノックされ入ってきたのは年若い3人の少女である。全員が直立不動の体勢で敬礼を行う。

 

「ニキ・テイラー准尉、着任しました」

 

「同じくレイチェル・ランサム准尉です」

 

「お、同じくエリス・クロード准尉であります」

 

「ご苦労だった。 全員、どうか楽にしてほしい」

 

「は、はい」

 

 そう言って返事をするが3人は変わらず緊張の面持ちだ。

 

「君たちは私の2期下の士官学校生だ。 私にとっては後輩にあたる。

 そんなに堅くなることはない」

 

 彼女たち3人はついこの間まで士官学校生であった。戦時下のため特別繰り上げ卒業によって配属された新兵である。

 

「いえ、あのシャア少佐と同じく伝説的な先輩であるシロッコ少佐の前ですし、その……」

 

 全員を代表するようなニキの言葉に、そんなものかと私は苦笑すると全員の前に立って話を始めた。

 

「さて、自己紹介をしておこう。

 私はパプティマス・シロッコ少佐である。

 君たちも聞いている通り、我々はガルマ・ザビ大佐の直属の部隊として新型兵器開発や武装のためのデータ収集を中心にした、独立戦隊として活動していくことになる。

 そのため難度の高い任務に従事することも多い。

 特にクスコ君を抜いた3人は未だ実戦を知らないため、不安は大きかろう。

 だが、私は諸君らならそれを超えられるものであると確信している。

 全員、ジオン公国のために一層努力することを期待する」

 

「「「「はっ!」」」」

 

「部隊の編成に関しては後にしよう。

 とりあえず、我々の使用するモビルスーツを見てもらいたい」

 

 そして私は全員を先導してモビルスーツ工房の方へと進んで行った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「これがこの度実戦に投入される新型MS『ドム』の先行量産型である」

 

「これが……」

 

 そこには、地球降下作戦前に何とか完成した『ドム』の先行量産型が3機、並んでいた。

 ザクとは違う威容に、全員が目を奪われる。その時、1機の『ドム』が格納庫へと戻ってきていた。そのドムの色は紫色だ。

 そのドムがハンガーにロックされパイロットが降りてくると、そこに白衣の少女が駆けよってくる。

 

「マリー、お疲れ様。

 どうだった?」

 

「ん……どこにも問題ないわ。

 流石メイね」

 

「もう、そんなお世辞言っても何も無いよ」

 

 そう言って語り合うのはマリオン・ウェルチ嬢とメイ・カーウィン嬢の2人である。

 あの後、連れ帰ったマリオンを工房で紹介すると、私手ずからモビルスーツ戦の訓練を施した。ニュータイプの素養があったためかそれとも本人の努力か、マリオンは真綿が水を吸う様に日々その技術を高めている。そんな中、同い年ゆえかいつの間にか2人は親しくなり、今では名前で呼び合う仲だ。

 

「2人ともやっているな」

 

「あ、お兄さん!」

 

「兄さん」

 

 私に気付いた2人がすぐに駆け寄ってくる。

 ちなみに、マリオンもここでの生活に慣れ私に懐いてくれたのか、いつの間にやら私を『兄さん』と呼んで慕ってくれている。

 昔、アルテイシアにもそう呼ばれていたが、何ともこそばゆい気持ちになる。

 

「私専用のドムの調子はどうかな?」

 

「ばっちりだよ、お兄さん!

 関節強度も、スラスター出力も問題無し。

 エンジンも出力調整して最適化したから、通常機よりもずっと動けるよ!」

 

「兄さんの指示通り、反応速度優先の調整にしたわ。

 敏感過ぎて物凄く動かしにくい……でも、これで問題ないんでしょ?」

 

「ああ、それでいい。

 よくやってくれたな」

 

 私は2人を労い、その頭を撫でると2人は嬉しそうに目を細める。一方、その様子を眺める4人は唖然とした表情であった。

 

「すまない。

 紹介しよう、君たち同様部隊の一員であるマリオン・ウェルチ嬢と、部隊の整備技術主任のメイ・カーウィン嬢だ。 双方仲よくして欲しい」

 

 その様子に4人はますます困惑顔をする。

 だが、無理もあるまい。新型機から出てきたのが自分のたちより年下の15にも満たない少女であり、さらにその機体の整備技術主任が同じく年下の少女なのだ。驚きもするだろう。

 ……何やら非常に失礼なことを考えている気がするが、私はそのことには努めて気付かないフリをした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 マリオンとメイ嬢にニキ、レイチェル、エリスの案内を任せると、私はクスコと共にオフィスで部隊についての話をしていた。

 

「クスコ中尉。 君にはドムを預ける。

 それとニキ准尉とレイチェル准尉を任せるので作戦中は両名を指揮してほしい」

 

「了解しました。

 残ったエリス准尉は少佐が指揮するのですか?」

 

「ああ、マリオンと共に私が直接指揮を取る」

 

 その言葉に、クスコは意外そうな顔をした。

 

「よろしいのですか、少佐?

 エリス准尉の士官学校での成績は、ニキ准尉とレイチェル准尉に比べ数段劣ります。

 少佐と共に行動するとなると明らかに実力不足かと……?」

 

「だからこそ、だよ。

 何、私が直々に指揮をとるのだ。 死なせはせんよ。

 エリス准尉は磨けば光ると、私は思っているからな。

 そう、私は彼女たち3人には多大な期待をしているのだよ。

 君に預けるニキ准尉とレイチェル准尉も、存分に鍛えてやってくれ」

 

「少佐がそうおっしゃるなら、努力します」

 

「頼む。 せっかくガルマや方々に頭を下げて集めた者たちなのでな」

 

「あら、これだけ綺麗どころの女ばかり集めてハーレムでもおつくりになるつもりなんですか、少佐?」

 

 ジオン軍では功績あるものは、戦場に愛人を連れて行くこともある。クスコはどうやら私がそういう意図で呼び寄せたのではないかと、少し挑戦的な視線で言った。そんなクスコに私は肩を竦めて言い放つ。

 

「そんなつもりはないが、私は時代を動かすのは『女』だと思っている。

 そんな期待を寄せる『女』たちにみすみす散って欲しくは無いというだけだよ」

 

「存外フェミニストなのですね、少佐」

 

「そんなつもりはないがな。 親代わりだった人の教育の賜物だよ」

 

 面白そうにコロコロと笑うクスコに、私は苦笑すると外を眺める。

 

「地上は連邦の領域、いかにモビルスーツがあれど苦戦は必至だろう。

 時間はあまり無いが、出来る限りの準備をしてくれ」

 

「了解です、少佐」

 

 そう言ってクスコは退出する。

 

「さて……」

 

 そう呟いて私は目を瞑った。

 『ドム』の早期開発は成った。まだ本格的な量産とは行っていないが、本来のロールアウトよりも半年以上の前倒しである。無論、まだ実戦を行っていないので改良点は出てくるだろうが、それでもそう時間のかかるものではない。まずは連邦に対して多少の時間は稼げたと見ていいだろう。

 とはいえ、ドムもそう長くは戦線を維持できまい。

 ドムのような局地戦機は問題も多い。ザクのような地上でも宇宙でも等しく使える汎用機こそが最終的に一番重要なのだ。早めに次期主力汎用機の開発に進まなければ明日はない。

 それに武装も重要だ。そろそろ、次に開発する汎用機に合わせてビーム兵器も開発すべきだろう。

 

「やれやれ、やることは山ほどあるな」

 

 そうため息交じりに呟くが、いつの間にか私は笑っていた。自分の持つ能力を全力で傾ける日々というのはとても充実している。

 ……もしかしたら原作のシロッコも野望などではなく、こうやって自分の才能をフルに発揮した充実感ある日々を送りたかっただけなのかもしれない……そんなことをふと私は思ったのだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。