活動報告でも愚痴ったのですがまぁ、ここ数か月リアルの方で色々ありまして……『人を育てる』って本当に大変ですね。
今回はEXAM遭遇戦、ハマーン様たちの視点です。
あの野獣の暴れっぷりをご覧下さい。
ハマーンとレイラのドワッジのMMP80マシンガンが重低音を響かせながら弾丸を吐き出し続ける。
貫通力に優れた90mmの高速徹甲弾はモビルスーツの分厚い装甲すら距離次第では手痛いダメージを負わせる強力な弾丸だ。それがまるで嵐のように降り注ぐ。だが、その弾の嵐が、目の前の蒼いモビルスーツには通用しないのだ。
ハマーンとレイラの射撃の腕は悪くは無い。それどころか精鋭であるリザド隊の面々と比較しても何の遜色も無いほどにその射撃能力は優秀なのだ。
『ハハッ!!』
だというのに、相手は笑いさえ飛ばしながら避け切るのである。そのあまりにも圧倒的な技術にハマーンとレイラは戦慄を覚えた。
「くっ……レイラ、弾幕が薄いわ!」
「こっちもこれで精一杯よ! これ以上は銃身が焼けちゃう!?」
ドワッジの高速機動力を生かしてジグザグに動き回りながらMMP80マシンガンを乱射するが、それをことごとくかわす蒼いモビルスーツ。
そして、蒼いモビルスーツが手にしたビームライフルを構えた。
キュピィィィン!
「「ッッ!?」」
突き抜ける悪寒に、ハマーンとレイラは本能に突き動かされるように機体を急旋回させた。ビームライフルから放たれた閃光が2人のドワッジに迫る。
ドワッジの高速機動力をまったく問題にしていないようなその正確な射撃は、ハマーンたちが直前に機体を急旋回させていなければ直撃を受けていたであろう。
「きゃぁぁ!?」
完全には避け切ることができず、閃光がレイラのドワッジの左肩アーマーを掠める。
それを隙と見た蒼いモビルスーツは背中からビームサーベルを抜き放つと、レイラめがけて突進してきた。
「!! レイラ!?」
それを感じ取ったハマーンは手にしたMMP80マシンガンを空中に放り投げると、背中からヒートサーベルを抜き放ってレイラ機の前に躍り出た。振り下ろされるそのビームサーベルをヒートサーベルで受け止める。
ビームサーベルとヒートサーベルが互いに発生させた高磁場同士が干渉し合い、激しくスパークしながらつばぜり合いを演じる。
その瞬間、レイラが動いた。
「喰らえっ!!」
レイラのドワッジは、ハマーンのドワッジが空中に放り投げたMMP80マシンガンを器用にも空中でキャッチ、2丁のMMP80マシンガンを構えて全力のフルオート射撃を行う。
動きを止めたところに襲い来る弾丸の嵐、普通ならば撃墜必至の見事なコンビネーションだが、その蒼いモビルスーツは横に転がるようにしながらその必殺の弾幕を避け切った。
しかし、そこにさらなる追撃が入る。
「そこよっ!!」
「オラァ、当たれぇ!!」
ビグロフライヤーからビーム砲が、そしてビグロフライヤーの上に載ったマリオンのビームザク・スナイパーから、ビームマシンガンの細かなビームが空中から襲い掛かる。
ただでさえ弾速の速いビーム兵器、しかも一方は大量にばら撒くことで避けにくいビームマシンガンである。それは必中かと思われたが……再び絶妙なテクニックでステップを踏むように後退するとそれを避け切ったのだ。
その動きは尋常ではない。『まるでそこに来ることがわかっていたような先読み』と『精密機械のような正確な機動』を兼ねそなえなければできない芸当だ。ハマーンたちの誰もがその力に戦慄を隠せない。
そんな中、蒼いモビルスーツのカメラアイが空中のビグロフライヤーを捉えた。そして蒼いモビルスーツはビームライフルを撃ちながら、スラスターを全開にして空中に飛び上がってきたのだ。その推力は凄まじいもので、このモビルスーツの高い性能を正しく証明している。
「避けなッ!!」
「言われなくても分かってますって、姐さん!!」
キリシマの檄に答え、ホルバインはそのビームを避けながらビグロフライヤーを突進させる。コースは丁度衝突のコース、ビグロフライヤーは折り畳まれていた格闘戦用のクローを展開すると格闘戦の準備を整えていた。
この時、『ベテランとしてのホルバイン』は自身の勝利を確信していた。
いかに馬鹿げた性能を誇っていようが、人型である以上どうしても空中での機動力ではビグロフライヤーには劣るはずである。そんな相手の土俵である空中に飛び上がったのは明らかな失策だろう。しかも相手のビームライフルの次弾よりもビグロフライヤーのクローが敵を捉える方が明らかに速い。
そんな冷静な分析の結果をはじき出した『ベテランとしてのホルバイン』だが、彼の中の『直感を信じるホルバイン』は言いようもない、嫌な予感を感じていた。
(これだけの技量、こいつは明らかに連邦のエースだ。それもとびっきりのな。
そんな奴が、この局面でこんな明らかな失策をやるのか……?)
その想いと先ほどから渦巻く嫌な予感の中、ビグロフライヤーと蒼いモビルスーツが空中で交錯する。そして……蒼いモビルスーツがビグロフライヤーを『踏み越えた』。
……この瞬間に何が起こったのか、正確に理解できたのは蒼いモビルスーツのパイロットだけだった。
蒼いモビルスーツはビグロフライヤーの格闘戦用のクローと交錯する瞬間、スラスターを一段噴かした。それによって少しだけ浮き上がった蒼いモビルスーツはそのまま、迫るクローを足蹴にし、ビグロフライヤーを『踏み越えた』。
「野郎……俺を踏み台にしやがったッッ!?」
それに気付いたホルバインが思わず絶叫する。
人間で例えるならば、正面から時速200kmオーバーで迫る車にぶつかる直前に小さくジャンプし、ボンネットを蹴って車を飛び越えたと言えばどんな状態なのかがよく分かる。
最大限に控えめな表現をして、『正気の沙汰ではない。間違いなくイカれている』行動である。しかし恐るべきことに、このパイロットはそれを迷い無くやってのけた。もう『技術』やら『センス』やら、そんな陳腐な言葉ではとても言い表せるものではない。
ビグロフライヤーのクローを踏み越えた蒼いモビルスーツは、左手のビームサーベルを抜き放ちビグロフライヤーの背に載ったマリオンのビームザク・スナイパーに斬りかかった。
「ッッ!?」
ビグロフライヤーから飛び降りるようにしてビームザク・スナイパーが後方に飛び退くが間に合わず、手にしたビームマシンガンを銃身から真っ二つに溶断されてしまった。
空中に躍り出た2機、蒼いモビルスーツはそのまま返す刀でもう一太刀を浴びせかけるところを、マリオンはとっさに抜き放ったビームサーベルで防ぐ。
ビームサーベル同士のつばぜり合いによるスパーク、しかし次の瞬間に蒼いモビルスーツは渾身の蹴りをビームザク・スナイパーに叩き込んでいた。
「きゃぁぁぁぁぁ!!?」
衝撃と急激なGにマリオンの意識が翻弄されるが、マリオンはその瞬間にこれ以上ないほどの悪寒を味わう。空中で体勢を整えた蒼いモビルスーツが、ビームライフルをマリオンに向けて照準していたからだ。
発射されるビームライフル。空中で未だに衝撃に翻弄されるマリオンに回避の術はない。
その時だ。
「あぶねぇぇぇ!!」
「!? ホルバインさん!?」
横からの衝撃がマリオンのビームザク・スナイパーに走る。見ればビグロフライヤーが縦にロールするようにして、横からビームザク・スナイパーに体当たりをしていた。
そのおかげでビームザク・スナイパーは襲い来るビームの射線上から弾き出される。しかしそのかわりに、ビグロフライヤーがその射線上に入ってしまった。
当然、ホルバインも最初からそこを計算のうちでマリオンを庇いに行ったため、機体を縦ロールさせることで直撃こそ避けて見せる。しかし戦艦の主砲クラスの強力なビームは掠めただけで被害を与えていた。
ビグロフライヤーの右メインブースターの下部をビームが掠る。その熱量によって右メインブースターが黒煙を上げながら停止した。
「何とか持ち直しなッ!」
「もうやってますよ、姐さん!」
推力のバランスが急激に崩れたことで空中で蛇行するビグロフライヤーを、ホルバインはキリシマの叱咤を受けながらも持ち直す。そんなビグロフライヤーに再び蒼いモビルスーツは狙いを定めるが、地上にいるハマーンとレイラはそうはさせじとMMP80マシンガンの対空砲火を浴びせかけた。
蒼いモビルスーツもさすがにこれでは攻撃に移れないようで、空中で断続的にスラスターを噴かせてその弾幕を避けながら地上に着地した。同じようにスラスターを噴かせて、マリオンのビームザク・スナイパーがハマーンとレイラのドワッジのそばに降り立つ。
「マリオン、無事!?」
「ええ、なんとか。 ホルバインさんがいなかったらやられていたわ……」
マリオンの言葉にホッと息をつくレイラだが、同時に今の状況の拙さを再確認してしまった。
こちらはビグロフライヤーが損傷によりほとんど戦闘行動は不可、ビームザク・スナイパーはメインの火器であるビームマシンガンを失い、自分とハマーンの攻撃は当たる気配がない。それに比べて相手は損傷らしい損傷も無く余裕の状態だ。
このままでは遠からず自分たちはやられる……漠然とだが、事実としてそれがレイラには実感できた。そしてその認識はハマーンも同じだったのだろう。意を決したかのようなハマーンの声が、通信機越しにレイラとマリオンに届く。
「……私があのモビルスーツに『プレッシャー』をかけてみる!」
ハマーンの言う『プレッシャー』、これはニュータイプとしての能力によって相手の精神に直接働きかけることで相手を阻害する行為だ。
それを聞いたレイラとマリオンは即座に反対の声を上げる。
「危険よ!」
「……あれだけの相手にそれをすれば、ハマーンの精神の方が参ってしまうかもしれないわ」
「それでも、そのくらいやらないと現状を打開できないわ」
自分を心配する友人の声を聞きながらもハマーンの決意は固かった。
それに……。
「勝算ならあるわ……」
ハマーンは戦いが始まった時点で、敵のモビルスーツから懐かしい感覚を覚えていた。それは間違いなく、あのフラナガン機関での辛い日々で自分たちを励ましてくれた姉のような相手……ララァ=スンの気配だ。
『EXAMシステム』についても聞かされているハマーンは、『EXAMシステム』の根幹ともいえるララァに語りかけることで、その動きを抑制できるのではと考えていた。いかに在り方を捻じ曲げられていても相手がララァであるのなら説得もできるはず……ハマーンはそう考えたのである。
そしてそれができるのはこの中でニュータイプとしての能力がもっとも高い、自分だけなのだ。
「行きます!!」
ハマーンは一呼吸おいて意識を集中させると、ニュータイプとしての力を解放する。
瞬間、ハマーンの意識はここではないどこかに飛んだ。
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蒼い、どこまでも蒼い宇宙のような空間にハマーンは浮いていた。
「どこ? どこにいるの、ララァお姉さん……」
やがて、その彼方に懐かしいララァの姿をハマーンは認めた。
しかし……。
「えっ……?」
そこにいたララァは破壊の衝動などではない、何やら困ったような……そんな顔をしていたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「ッ!!?」
実時間にして1秒にも満たない時間の後、ハマーンの意識は現実へと戻ってくる。
「ハマーン、無事!?」
「……どうだったの?」
ハマーンの意識が戻ったことを感じ取ったレイラとマリオンはその様子を尋ねる。
それにハマーンは驚愕しながら答えた。
「……ダメだった。
あのモビルスーツのパイロット……『EXAMシステム』に支配なんかされていない!?
それどころか……むしろそれを跳ね返して『力』だけ上手く使ってる!?」
稀代のニュータイプであるララァの意識の入った『EXAMシステム』の支配を跳ね除け『力』だけを引き出す……それがどれほどのことか理解したハマーンは震えが来る。
同時に、今の自分たちではこの相手には勝てないということが確信できてしまった。そしてその心情は即座にレイラとマリオンにも伝播する。
(こんな相手に勝てるのなんて……それこそあの人しか……!)
ハマーンがそう考えながらも、なんとか離脱の方策を考え始めたその時だ。
『よく頑張った。
選手交代といこう』
その言葉とともに上空からビームが蒼いモビルスーツに向かって降り注いだ。
そのビームを後方に跳んで距離をとりながら避ける蒼いモビルスーツ。そして、ハマーンたちの前にその紫に染め上げられた機体が着地した。
それは……。
「シロッコ(中佐)(兄さん)!!」
それこそ、ハマーンがこの相手に勝てるかもしれないと考えた人……パプティマス=シロッコその人だったのである。
『待たせてしまってすまないな。
その状態では戦闘続行は不可能だろう。
全員後退しろ!
マリオンは私の乗ってきたドダイを使え。ビグロフライヤーは帰還だけで手いっぱいだろうからな。
アポリー少尉とロベルト少尉は……今は無理だ。戦闘後に回収を行う。
キリシマ大尉、後退指揮を頼む』
「……了解しましたわ」
素早く、それでいて有無を言わせぬ口調のシロッコにキリシマは頷くしかない。事実、全員が自分たちがいてもシロッコの足手まといにしかならないということは理解できていた。
「全員後退! 速く!!」
その声に急かされるように、マリオンのビームザク・スナイパーはドダイに跳び乗り、ハマーンとレイラのドワッジも、全力のホバー機動で後退を始める。
シロッコの牽制が利いているのだろう、そんな彼女らの背にあの蒼いモビルスーツからの攻撃はなかった。
そんな中、ハマーンにポツリと隣を並走するレイラから通信が入る。
「シロッコ中佐……勝てるわよね?」
「……今度ばかりは分からない。
あの相手は、普通じゃないもの」
「……」
先ほどの『プレッシャー』をかけた時の感覚を思い出しどこか震えながら言うハマーンに、レイラは何も言うことが出来なかった……。
野獣さんハッスルするの巻でした。
……これ、どうやって勝ったらいいの?
次回はもう片方のEXAM遭遇戦の予定。
次回もよろしくお願いします。