歴史の立会人に   作:キューマル式

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メリクリ、メリクリです。

リアルの事情もあり久々に更新となったガンダムSS、クリスマスに更新となりました。今回はブルー1号機の技術解析の様子です。

恐らくガンダムSSはこれが今年最後の更新だと思います。

……『メリクリ』って言葉、『メリークリスマス』よりみんな先に『メリクリウス』を思い浮かべたよね?
私は思い浮かべた。



第51話 連邦の技術力

 

 

「あははははは~~!」

 

「変な頭のお兄ちゃん、おっそ~~い!」

 

「ぬぅ……なかなかやるではないか!

 あと髪型の話はしないでもらおう。 これは私のポリシーなのだ!」

 

 私は外套を脱いで走り回っていた。私が追い回すのは小さな子供たちである。私は今、街の子供たちと追いかけっこで遊んでいる真っ最中であった。

 

「それ、捕まえた」

 

「きゃ~~、頭の変なお兄ちゃんに捕まっちゃった!」

 

「いや待て少女よ、今の言い方は第三者から私が激しく誤解を受ける!」

 

 そんな私のそばではシャアも外套を脱ぎ、同じような目にあっていた。

 

「変な顔のお兄ちゃん、こっちこっち!」

 

「これは仮面だ。 顔が変なわけではないぞ、少年!」

 

 素早い子供を何とか捕まえるが、その時にはシャアも肩で息をしていた。私も捕まえた子供を離すと、退避するようにシャアのそばにやってくる。

 

「すごい体力だな。 これが若さか……」

 

「言うほどお互い歳はとっていないはずなのだがな、変な顔のお兄ちゃん」

 

「そちらこそ、その髪型は子供には不評のようではないか、頭の変なお兄ちゃん。

 友人として指摘しないように気を付けてきたが……そのヘアバンドと髪型は激しくダサいと思うぞ、シロッコ」

 

「仮面男の君が言うことか、シャア。

 これは私なりのポリシーのようなものなのでね、変えるつもりは毛頭ない」

 

 軽口を叩きあいながらお互いに脱いでいた外套を羽織るが、いまだ暑くて前を閉めることができない。

 そんな私たちに向かってくる軍服姿の男が1人、眼帯を付けた男……ヴィッシュ=ドナヒュー中尉その人である。その姿を認めた子供たちが歓声をあげた。

 

「あ、おじちゃんだ!」

 

 すぐに子供たちは集まってくるが、それをヴィッシュ中尉はやんわりと避けながら私たちのところにやってきた。

 

「こちらでしたか、お2人とも」

 

「なに、少々時間があったのでね。

 オーストラリアのエースにならって、子供の遊び相手をしていたところだ」

 

「なかなか貴重な時間だったよ」

 

 ここはヴィッシュ中尉たちの拠点としている『アリス・スプリングス』であり、我々リザド隊も今、ここに身を寄せている。

 ヴィッシュ中尉は時間を見ては街の子供の相手をしたりしており、『アンクル・ドナヒュー』と親しまれるほどに評判はよく、この街のジオン統治をスムーズにするために一役買っていた。我々もそれにならっただけのことである。

 とはいえ、いつまでも遊んでいるわけにもいかない。私たちは子供に別れを告げ、連れだって基地施設の方へと歩き始めた。

 

「作業の方はどうかな?」

 

「中佐の部隊のスタッフは素晴らしい腕だと、うちの整備も感心しきりでした。

 ただ……新しい機構も多く、戸惑いの声もちらほら聞こえます」

 

「そこは慣れてもらうほかない。

 今後次々と導入されていく技術なのでね、戸惑って避けるわけにもいかん」

 

 その答えにヴィッシュ中尉も頷く。

 今回我々は基地に身を寄せる宿代代わりに、この間のブルー1号機との戦闘でほぼ半壊していたヴィッシュ中尉のグフを改造していた。内容としては依然ノリス大佐に渡した『ビームグフ』こと『B4グフ』とほぼ同一、地上での運動性能を高めたうえで、ビーム兵器運用能力を持たせたものである。

 『ビームザク』やら『ビームグフ』やら『イフリート改』やら、もういい加減リザド隊のスタッフもこの手の無茶振り魔改造は慣れたもので改造作業自体は急ピッチで進んでいた。あと1~2日もすれば改造作業自体は終わるだろう。オーストラリア戦線を代表するエースが強力な新型機を手にすることは喜ばしいことだ。

 ただ、難航していたのは現地の整備班に対する指導である。

 モビルスーツはもちろんのことながら兵器だ、しっかりとした整備があってこそ力を発揮できる代物である。しかも今回の『ビーム兵器対応改装』は新技術の塊ともいうべきものだ。パイロット側にも覚えることは多いが、それ以上に整備側の覚えるべきことは多い。そのレクチャーのほうが改造作業よりもよっぽど時間がかかる。

 

 これは新技術開発に携わると必ずぶつかるジレンマだ。

 いかに画期的な新技術を早期に開発しても、それが運用できる段階にまで広まるタイムラグだけはどうしようもなく、非常にもどかしい気持ちになる。私の導入した『ビーム兵器』という新技術も開発自体は5月辺りには終了していたが、8月に差し掛かるような今、やっと広めるために本腰を入れ始めたというレベルだ。

 天才1人がいかに先に進もうと、取り巻く世界がその動きに付いていけていなければなんにもならないということである。

 

 ……案外、『原作』の天才であるシロッコは、彼に『世界』が追いつくまでのタイムラグを待てず、それを速めようと歴史の表舞台に立ったのではないかとさえ思ってしまう。

 

 とにかく、しばしの足止めともいうべき時間だ。今、リザド隊は所属する全機の整備作業を終え、演習と実験を行いながら日々を過ごしている。

 あのブルー1号機との戦いの後、連邦は損害を恐れてか積極的な攻勢はなく、このところオーストラリア戦線は散発的な小競り合い程度の戦闘のみだ。

 そして……私とシャアにとっての最優先目標とも言える残り2機のEXAMマシーンの行方とクルスト=モーゼスの居場所についても、追加の情報はなにも入ってきていないし目撃情報もない。

 こうも動きがないと、もしや他のEXAMマシーンはオーストラリアではないどこかに運び込まれたのではないか……そんな不吉な考えが時折首をもたげるが、私は技術者としての感性でそれはないとほぼ確信している。

 EXAMは未だに実験段階の域を出ていないシステムだ。実験を行い、データを取り、修正していく……トライアンドエラーの真っ最中のはずである。ならばその現場には、それを誰よりも知るクルストがいなければならないし、システムの完成を目指すクルストもそれを望むはずだ。

 EXAMとの決着は間違いなくここ、オーストラリアのはずである。

 

「さて、では様子を見に行くとするか……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ユーピテルの格納庫……シャアを伴ってそこにやってくると、メイ嬢やマイ中尉が機器とにらめっこの真っ最中だ。そしてその先にはケーブルに繋がれた、ブルー1号機の腕がある。

 

「やぁ、調子はどうかね?」

 

「あ、お兄さん!」

 

「中佐!」

 

 双方ともに私に挨拶してくる。私は軽く敬礼を返しながら、同じくモニターを覗き込んだ。

 

「連邦の技術、なかなか面白いよ」

 

「これが現段階の解析レポートです。

 気になる部分をピックアップしておきました」

 

「仕事が早いな、中尉」

 

「いえいえ……どうしても興奮してしまい、その勢いです」

 

「仕事熱心なのはいいことだがほどほどにな。

 ただでさえここは冬の真っ只中で寒いのだ、身体をいとえよ」

 

「わかっています」

 

 8月に差し掛かったオーストラリア、南半球のここは季節が逆転し、いまは冬となっていて寒い。亜熱帯だった東アジアからの転戦ということもあり、その環境の大きな変化から体調を崩す隊員も出てきている。そのためマイ中尉の仕事の速さを褒めるが、同時に無理をしすぎないように釘を刺した。とはいえ、この興奮しきった顔を見るに、私の言葉の効果は薄そうではある。

 私は苦笑しながら、そのレポートに目を通した。

 

「駆動系、それに装甲材か……」

 

 回収したブルー1号機の腕から今までに解析しピックアップされたのはその2つだ。

 

 まず駆動系、連邦のモビルスーツがジオンのパルス駆動システムとは違う、フィールドモーター駆動システムを採用していることは連邦ザクやザニーから知られていたが、ブルー1号機はこれの可動部のいくつかに、部分的に磁気がコーティングされていた。それによってリニアモーターカーのように磁気によって『滑る』ような、なめらかな動きを可能にしていた。

 そして装甲材、ブルー1号機には超硬スチール合金以上の剛性を持つ金属で、細身の見た目以上の堅牢な防御力を誇るようだ。試算ではこの装甲、初期型の120mmザクマシンガンで貫徹させようとするならゼロ距離射撃でもしかしたらどうにかできるかもという状態。装甲貫通力を増した90mmマシンガンでも、有効距離はそう長くない。

 

 ……『原作』の知識を持つ私には分かる。これは『マグネットコーティング』と『ルナチタニウム合金』だ。

 

 『マグネットコーティング』はかのガンダムが、アムロ=レイの反応速度に追いつけなくなった際に施された技術だ。関節などの可動部を磁気コーティングすることで『滑らせ』、スムーズな動きを可能にするものである。どうやらブルー1号機ではいまだ実験的な初期型がごく一部の可動部に採用されているだけのようだが、確実に運動性の上昇につながっている。

 『ルナチタニウム合金』は高い剛性を持つ、ガンダムに採用された装甲材だ。その強度はザクマシンガンではまるで歯が立たず、ザクバズーカの直撃にすら平気で耐えるという『原作』におけるガンダム神話の立役者の一つと言ってもいいだろう。『原作』ではのちに『ガンダリウム合金』と名を変え、モビルスーツ開発史に深く関わっていった。

 

「関節部を磁気でコーティングして動きを良くしようなんて、すっごい面白いアイデア!」

 

「この装甲材……もし連邦のすべてのモビルスーツに採用された場合、今の我が軍が主兵装としている実弾兵器の効果は著しく落ちてしまいますね。

 ますますビーム兵器の早期普及が必要となります……」

 

 メイ嬢は純粋に『マグネットコーティング』のアイデアを褒め、マイ中尉は『ルナチタニウム合金』の強固さと、そこから導き出される戦場の変化に唸る。

 では私はというと神妙な顔で頷くが、内心ではこれでまた技術を進められるとも考えていた。

 私はこれらの技術、そしてその先にある技術まで知ってはいるのだ。

 しかし、あまりに一足飛びに技術を進めると敵側にも同等以上の、私の知らない強力な兵器が開発される恐れがあるため、自分の持つ技術をすべてさらけ出すわけにはいかない。あの伝説の機体、『ガンダム』を造り上げた連邦の技術力は侮れるものではないのだ。

 だから優先順位の高いと思われる技術を小出しにしているわけだが……今回の鹵獲でこの『マグネットコーティング』と『ルナチタニウム合金』、そしてそれに続く技術までは開発、世に出すこともできるだろう。

 

(丁度、キャリフォルニアベースに置いてきた試作しているあの機体……その正式採用型には間に合うか?)

 

 私はそんな先のことを考えながら、2人に指示を出す。

 

「引き続き、解析と研究を続けてくれ……と言いたいところだが、すまないが今はそれより優先したいものがある。

 そっちを手伝ってほしい」

 

「でしょうね……」

 

 少し残念そうにしながら、マイ中尉は頷く。

 敵の技術解析は確かに重要だが、それにはどうしてもまとまった時間が必要だ。それより、いま演習組の行っている実験の方が即戦力として必要なのだと、優先順位を分かっているのだ。

 分かってはいるのだが技術者として口惜しさがにじみ出てしまっているのを、同じ技術者として私は微笑ましく思う。

 

「なに、こちらは最終調整の段階、そうかからずに終わるよ。

 彼女らの演習の結果を見て修正を行えば……」

 

 そこまで言った時だった……。

 

 

 キュピィィィン!

 

 

「ムッ!?」

 

 突き抜けるような何かが、私の中を駆け巡る。

 『ニュータイプ』としての力が、虫の知らせのように何か嫌なイメージを知らせていた。

 

「どうしたのだ、シロッコ?」

 

 今まで技術者同士の話に割り込めず、後ろで小さくしていたシャアが私の反応にいち早く気付いた。

 そんなシャアに私は言う。

 

「何か……とても嫌な予感がする。

 もしかしたら、残りの2機やもしれん。

 シャア、付き合ってくれるか?」

 

 私の言葉に、シャアは大きく頷いた。

 

「是非もない。

 すぐに用意しよう!」

 

 そう言ってシャアはイフリート改のもとに走っていく。

 

「ど、どうしたの、お兄さん?」

 

「私も実験を行っているメンバーと合流する!

 発進準備!!」

 

 私たちの変化に驚くメイ嬢を尻目にそれだけ叫ぶと、私も愛機であるギャンへと急いだ。

 ジェネレーターに火が入りギャンが起動する。隣ではすでに起動済みのイフリート改が完全武装で出撃準備を終えていた。

 そこに、切羽詰まったようにメイ嬢からの通信が入る。

 

『お兄さん! みんなの、演習に出ているみんなに敵襲が!

 相手は2機の蒼い新型モビルスーツだって!!』

 

 予想通り……とはいえ、こういう嫌な予想は本当は当たってほしくないものだ。

 

「わかった! シャア、行くぞ!」

 

『了解だ、シロッコ!』

 

「パプティマス=シロッコ、ギャン出るぞ!」

 

『シャア=アズナブル、イフリート改出る!』

 

 すでにアイドリング状態にあったドダイ爆撃機に乗ると、すぐにドダイは空へと飛びあがる。

 私には確信がある。これから出会う機体は、間違いなくブルーの2号機と3号機だ。

 

(これがEXAMとの決着になればいいが……)

 

 そんなことを心の中で呟きながら、私は現場への到着を静かに待つのだった……。

 

 

 




次回はブルー2、3号機の襲来……にまで行ければいいなぁ。
次回もよろしくお願いします。

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