歴史の立会人に   作:キューマル式

43 / 63
思ったより早く仕上がったので、土曜の投稿予定を繰り上げました。

今回はコジマ基地襲撃……に見せかけた、アイナ様の再会編。
ただせっかくの再会だというのに……。



第41話 戦場の再会

 

 閃光の雨が、空を彩る。

 拡散メガ粒子砲の閃光がまるでシャワーのように空にきらめくと、その光に貫かれたTINコッド戦闘機の編隊が一瞬にして光の花となって散っていく。それに混乱した残り僅かなTINコッド戦闘機の生き残りも、何の抵抗も出来ずに突っ込んできたドップⅡ戦闘機によって叩き落とされた。

 

『すごい……』

 

 通信機越しにエリスが息を呑むのが分かる。他のメンバーも同様の感想を抱いているだろう。かくいう私も、同感だ。

 

「まさかここまでとはな……」

 

 私は横を見ながら呟く。そこにはその閃光を放った存在の姿があった。

 ダルマのように丸い身体にドムの頭をもつモビルアーマー、ギニアス少将の実妹であるアイナ嬢の搭乗する『アプサラス』である。

 私と、そしてエリスとマリオンは今モビルスーツでドダイに乗り、『アプサラス』とともに空に居た。

 周りには数多くのドダイ爆撃機。ほとんどが対地攻撃用に爆装をしているが、そのうちの何機かには爆弾のかわりに我々と同じようなザクやグフといったモビルスーツを載せていた。そして、それらを護衛のドップⅡ戦闘機が守る。しかし、その数はあまり多くは無く、普通ならば防空能力に不安を覚えることだろう。

 しかしその懸念は『アプサラス』の前ではいらぬ心配だ。事実、今連邦の基地から発進した防空戦闘機隊はアプサラスの拡散メガ粒子砲の一撃でほぼ全滅である。

 やがて、ギャンの最大望遠にしたカメラが連邦軍の基地の姿を捉えた。それはこの東アジア戦線において連邦の重要拠点でもある、そしてこの部隊の攻撃目標でもある『コジマ基地』であった。

 

 

 さて、ここでもう一度こちらの部隊の状態を説明する。

 モビルアーマー『アプサラス』に、リザド隊からは私とエリス、マリオンの3人だ。

 シャアはEXAMシステムを使用したことでイフリート改に大規模な整備が必要となり、ドム系の機体はドダイへの積載にあまり適さないことから不参加とした。その指揮をクスコに任せ、前回の教訓から『ユーピテル』の護衛についてもらっている。

 そしてドダイに乗ったビームグフこと『B4グフ』を駆るノリス大佐が指揮する精鋭モビルスーツ隊が合計10機、その他のドダイには対地攻撃用の爆装である。そして対空護衛機としてドップⅡが10機ほどだ。

 どう考えてもこの編成は基地の占拠を目的としたものではない。それもそのはず、この編成は『基地の完全破壊』を目指したものだからだ。

 何故『制圧』ではなく『破壊』なのかというと、それは『限られた戦力でより効果的に連邦に多くの出血を強いるため』である。

 

 先の奇襲および空爆作戦、さらに追撃戦によって連邦の『ペキン基地』は大きなダメージを受けた。これを回復させるには『補給』は不可欠である。

 『補給』とは『点と点を線で繋ぐ』ことだ。生産された物資を『点』である集積所に集積し、そこから次の『点』や必要としている各部隊へと分配していくことである。その『点と点』を繋ぐ補給の道が、いわゆる『補給ライン』だ。当然の話だが、この『補給ライン』の距離が長ければ長いほど、補給は困難になっていく。

 

 それを踏まえ、今のこの東アジア戦線の状況を見てみる。

 この地域の連邦の本拠地とは、インドにある一大拠点である『マドラス』である。しかし、生産されるのがマドラスでも補給ラインがマドラスから各部隊に繋がっているわけではない。その物資は中継地点ともいえるこの『コジマ基地』に集積されてからさらにその先にある『ペキン基地』や各部隊に配られている。

 つまり『コジマ基地』は軍事拠点であると同時に、この東アジア戦線において『点』、いいかえると『ハブ』とも言える役割を果たしている重要拠点なのだ。

 『コジマ基地』を破壊することで物資の中継点は無くなり『ペキン基地』への補給は、マドラスからペキンまでという長い長い補給ラインでもっての補給を強いられる。陸路・海路のどちらをとっても大量の出血を免れまい。

 ならばいっそペキンを放棄すれば……そうも思えるが、実はそれも現状では難しい。

 そもそも、『コジマ基地』を失えばペキン基地からの撤退先は遥か遠くマドラスだ。とても無事に撤退しきれるものでもない。

 それに『ペキン基地』の戦力は激減しているが人員の規模は決して小さくは無い。まったくの外界から遮断された『孤島』ならまだしも、しっかりと陸で繋がった地域の味方をそう簡単に見捨てられるはずもない。

 ペキンという手負いの基地()を殺さず生かし、そのために送られてくる補給物資()補給隊(餌係り)ごと叩き続ける……これがノリス大佐が言っていた、そして私の考えと同じこの東アジア戦線での戦略である。

 狙撃手(スナイパー)は1人に怪我を負わせそれを餌に助けにきた仲間を次々に射殺するのを常套手段としているが、言ってみればこれはその拡大版ともいえる戦略だ。

 

 もっとも、この戦略のためには『コジマ基地の完全破壊』が必須になる。そのためにはガウ攻撃空母も含めたような大量の爆撃隊とそれを護衛する戦闘機隊、そして残った敵を倒すモビルスーツ隊と大戦力が必要で、本来なら実行は中々難しい。

 だが、そのすべてを『アプサラス』という切り札(ジョーカー)が可能にした。

 

『行きます!』

 

 通信機越しに、アプサラスを操るアイナ嬢の声が聞こえる。その言葉とともにアプサラスの大口径収束メガ粒子砲は放たれた。

 ジャブローの分厚い防御装甲を貫くことを目的としたそれは、試作段階とはいえ凶悪なまでの威力によって眼前の『コジマ基地』を一撃で焼き払う。建造物が次々と意味を為さない瓦礫へと代わり、連続した爆発の炎がコジマ基地を包んだ。

 一撃……ただの一撃で連邦の重要拠点であった『コジマ基地』はその機能のほとんどを喪失させてしまった。

 

『アイナ様、お見事です。

 あとは我々にお任せを』

 

 そう言ってノリス大佐のB4グフを載せたドダイが前に出ると、それに伴い他のドダイ隊も前に出た。

 爆装したドダイからの一斉爆撃、その爆撃が僅かに残っていた『コジマ基地』の対空砲や施設を破壊していく。それを確認してから、モビルスーツ隊が降下を始めた。

 

『仕上げに行ってまいります、アイナ様。

 ……シロッコ中佐、アイナ様をよろしく頼む』

 

「了解です、ノリス大佐」

 

 私の返事を聞いてか、ノリス大佐の操るB4グフが降下し、地上でモビルスーツ隊の指揮に入った。

 我々リザド隊はアプサラスの護衛ということで戦闘には参加せず、ドダイに乗ったままアプサラスの傍に居続ける。何故なら、この戦いにおいて私を含めたリザド隊は『お客様』だからだ。

 この戦いはある意味『デモンストレーション』でもある。

 アプサラスの性能、そしてノリス大佐率いる『サハリン家』のモビルスーツ隊が精強であることを私に、ひいてはガルマに示しガルマ陣営での『サハリン家』の地位を確かなものにするためのものだ。戦力的に少し少ない気がするのも、そのためのデモンストレーションの一種である。私もそれを理解しているからこそ、積極的な戦闘介入はせずに観戦に廻っていた。

 それにしても……。

 

「……大丈夫ですかな、アイナ嬢?」

 

『は、はい。 大丈夫です……』

 

 隣を飛ぶアプサラスに触れての接触回線に、アイナ嬢は少し声が震えていながらも冷静に答えていた。その様子に私は「おやっ?」と思う。

 アプサラスはギニアス少将にとって切り札中の切り札だ。だからこそ信用ある身内のアイナ嬢にしか、ギニアス少将は搭乗を許していない。しかしアイナ嬢はあくまで一般人、軍人ではないのだ。宇宙ではモビルスーツのテストパイロットも務めるほどなのでその操縦テクニックなどの技術的な面の適正は高いだろうが軍人としての精神的な部分……敵を打ち倒すことに対する精神的な耐性がないのである。だから、私としてはこの作戦でショックでも受けているのではないかと思ったが……意外にも平気そうだ。

 

「無理はなさらないでほしい。

 あなたは我々のように軍人ではないのだから」

 

『お気遣いありがとうございます、シロッコ中佐。

 でも……今は戦わなければならない時なのでしょう。

 戦わなければならない時に、それから逃げてはいけない……私は、そう考えますから……』

 

 その心境の変化とでも言うものに、私は思わず感嘆の息を漏らす。どうやら私の知る『原作』よりも現実的で効率的な見方のできる理想論者であるらしい。あるいは、何かのきっかけで変わったか……聞くところによれば、あの晩餐会以降ハマーン嬢とは懇意であるというから何かしらの影響を受けたのかもしれない。いい傾向だとは思う。

 私がそんなことを考えていると、突然警戒音が鳴り響く。

 

「何だ!?」

 

 すぐにチェックをすると、その警戒音は私のギャンからではない。隣のアプサラスからだった。見れば、アプサラスがどんどん高度を落として行っている。

 

「アイナ嬢、どうした!?」

 

『アプサラスの推進系が……! 高度が維持できない!?』

 

 未だ試作兵器であるアプサラス、どうやら安定性はまだまだのようだ。それを見て私は素早く指示を出す。

 

「エリスは私と一緒に降下、周辺警戒にあたる!!

 マリオンはそのまま空中からの警戒にあたれ!!」

 

『『了解!!』』

 

 エリスとマリオンに指示を出すと、私はギャンをドダイから空中に身を投げ出させた。重力に引かれ降下していく機体を、スラスターを連続して吹かせることで減速しながら、未だに抵抗を続けている対空砲および車両に向けてビームライフルを撃ち込む。

 ビームの奔流によって吹き飛ぶそれらの爆発を背に、ギャンはゆっくりと地上に降り立った。

 

「むっ!?」

 

 同時のアラート。見れば着地した私に向かって、どうにか起動を完了させたザクが担いだ6連装ミサイルランチャーを発射していた。

 

『中佐!!』

 

 それに気付いたエリスが、手にしたMMP80マシンガンとシールドに搭載された機関砲でミサイルを迎撃する。

 

「墜ちろ!!」

 

 そしてそのお返しと私のギャンから放たれたビームライフルの閃光はザクを貫き、ザクは風穴を開けた状態でドウッと倒れ込んだ。

 

「よくやってくれた、エリス」

 

『当然のことをしただけです、中佐』

 

 どこかはにかんだようなエリスの様子が、通信機越しにも伝わる。それを感じながら、私はギャンで周辺を見渡した。

 奇跡的に残った戦闘車両や起動したザクが何とか反撃を試みようとするもまったく足並みが揃わず、ノリス大佐率いる精強なモビルスーツ隊によって次々に各個撃破されている。

 すでに戦況は掃討戦の様相だ。連邦としても、もはやコジマ基地は放棄以外の選択肢がないだろうほどに破壊しつくされている。作戦は完全に成功だ。

 そんな中、不調をきたしたアプサラスが地面すれすれにホバーリング状態で制止した。

 

「そちらはどうですか、アイナ嬢」

 

『推進系のパワーがほとんど上がりませんが……少し調整すれば何とかなるはずです』

 

「分かりました。 では、アイナ嬢はアプサラスの復旧を。

 エリス、私とともに周辺の警戒だ」

 

『了解です!』

 

 そう言ってアプサラスを背に、私とエリスのギャンは周辺の警戒を強める。

 その時だった。

 

 

ピピピッ!!

 

 

「何ぃぃ!?」

 

 突然の反応、その場所は……真後ろ!?

 

『うぉぉぉぉぉぉ!!』

 

『な、何ですって!?』

 

 アイナ嬢の狼狽の声に慌てて振り返れば、アイナ嬢のアプサラスに飛びかかる1機のモビルスーツの姿があった。

 それはザクではない。脚部や胸部は確かにザクのそれだが頭部と腕部は私の知る『原作』のジムに近いものであることが後ろ姿だけでわかった。

 外見だけなら知識にはある。おそらくは『原作』において、鹵獲したザクを改修したと言われているモビルスーツ『ザニー』だ。

 そのザニーは今、『原作』では装備していなかったはずの光の剣……ビームサーベルを片手にしている。この『世界』での立ち位置はザクとジムの中間に位置する、ビーム兵器実用機体なのだろう。それが隠れていたアプサラス真下のがれきから飛び出し、アプサラスに襲い掛かったのだ。

 

「ちぃ!?」

 

 振り向きざまにビームライフルを構えるが、そのトリガーは引けない。何故なら、ビームライフルの威力は強すぎる。これではザニーを貫通してアプサラスにまでビームが直撃してしまうだろう。

 そしてザニーはそのままアプサラスの右前面に張り付くとビームサーベルを突き立てた。

 

『このぉぉぉぉ!!』

 

『離れなさい!!』

 

 ビームサーベルによって機構を焼かれながらも、アイナ嬢はアプサラスを激しく振ってザニーを振り落とそうとする。

 その激しい揺れにザニーはビームサーベルを取り落としていた。

 

『このぉ! 墜ちろ、墜ちろぉぉぉ!!』

 

 それでもザニーはアプサラスにへばり付きながら、頭部のバルカン砲をゼロ距離で連射する。アプサラスの装甲が弾け、弾丸が内部機構に火花を散らした。

 我々もそれを黙って見ている訳にはいかないが、いかんせん位置が悪い。

 私とエリスの火器ではザニーだけでなくアプサラスまでも傷付けてしまうことは確実だ。マリオンの狙撃に関してもマリオンはアプサラスの後方の空、狙撃できる位置ではない。よしんばザニーだけを撃ち抜いても、これではザニーの誘爆でアプサラスまで致命的な損傷を負ってしまう可能性が高い。

 

「ええい! アイナ嬢、今その敵機を引き剥がす!!」

 

 私は即座にギャンからビームライフルを捨てると、アプサラスに向けて走り出した。一方のザニーは未だに頭部バルカンの射撃を続けている。

 

『連邦兵、離れなさい! 死にたいのですか!!』

 

 アイナはアプサラスを揺らしながら、接触回線で敵の連邦兵へと通信を送る。事実、このままアプサラスが爆発を起こせば組み付いているザニーも誘爆で吹き飛ぶだろう。

 しかし、そこからの反応はアイナ嬢にとっては予想の範囲外だった。

 

『その声は……アイナ!? アイナ=サハリン!?』

 

『まさか……シロー!? シロー=アマダなのですか!?』

 

 驚いてか、ザニーからのバルカンが止むが、驚きは私とて同じだ。

 

(あのザニーのパイロットはシロー=アマダか!?)

 

 その瞬間、アイナ嬢からの悲鳴のような声が聞こえる。

 

『ダメ! 今の攻撃で推進系が暴走を!!

 シロー、離れて!!』

 

『アイナ!!』

 

 アプサラスのミノフスキークラフトが暴走を始め、爆発的な加速で再び空へと向かおうとする。

 私はそれを見てギャンのスロットルを全開にした。

 

「ちぃ!!」

 

『中佐!!?』

 

 ギャンはそのままザニーと反対……アプサラスの左前面にへばり付く。しかし、アプサラスという規格外のモビルアーマーの推進力は欠片たりとも揺るがない。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 私のギャン、そしてシロー=アマダのザニーを載せたまま、暴走したアプサラスは空の彼方へと駆け上がるのだった……。

 

 




シロー「せっかくアイナと再会して温泉でラブラブしようと思ったのに、何か変なヘアバンド男がついてきた件」
シロッコ「(#^ω^)ビキビキ」

そんなわけでシロー&アイナ様の最重要イベントに、シロッコが着いていくことに。

次回は『ドキッ、男だけの雪山遭難編』になる予定。
更新は2週間後くらいかなぁ……?

次回もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。