私もちょっと風邪でダウンしてました。
ヤバイヤバイ、週1投稿ペースが崩れそう。
今回はシャアサイドの戦い、そして当然あのシステムが起動します。
「……」
出撃前、シャアはイフリート改を見上げ無言だった。
出撃前というこの時間は幾度経験したところで緊張するものだと、シャアは心の中でひとりごちる。
シャアほどのエースパイロットが緊張など……などと思うかも知れないが、むしろ緊張しない方が問題だ。
『緊張』とは、つまり『警戒心』の一形態である。警戒心のない兵など、戦場ではカカシにも劣る。
本当に強い兵というのは堅くならぬ程度に程よく緊張感を持ち、その緊張感を注意力と集中力とに転化できるもののことを言う。そしてシャアは間違いなくそんな『強い兵』であった。
「しかしシロッコめ……改めて無理難題を言う」
思わず苦笑が漏れたが、それが信頼ゆえだと思えば悪い気はしなかった。
(それに……これは私への『テスト』でもあるだろうしな)
シロッコの作戦……と言っていいものかどうか、これの意図をシャアは正しく受け止める。
その時、シャアの背後に人の気配がした。
「シャア少佐、そろそろです」
見れば、マリオン=ウェルチ少尉がシャアに敬礼していた。今回はマリオンはシャアとともに行動することになっている。
その幼さを残す少女の、どこかぎこちない敬礼にシャアは苦笑すると、返礼を返す。
「準備はいいかな、マリオン少尉」
「はい、万全です」
「すまないな。
本当ならシロッコと共にいたいだろうが、私の援護にまわってもらって」
「いえ、今回の作戦では私のビームザクでは一緒の行動はとれません。
それに、兄さ……シロッコ中佐は『シャアを助けてくれ』と私にいいました。
その期待には必ず答えます」
その言葉の節々からシロッコへの確かな信頼を感じる。その忠誠心に、よくもここまで仕込めるものだと、シャアは内心で改めてシロッコに感心していた。
「そうか……では今日は安心だな。
君が私を守ってくれるのだろう?」
そうシャアが言うと、マリオンは意外にも首を振った。
「私も守ります。
でも……それ以上に、あの人があなたを守ってくれると思います」
「……君も分かるのか?」
イフリート改を見上げながらのマリオンの言葉に、シャアは少しだけ驚いたような顔をしたが、よく考えればあのシロッコが目をかけた少女だ、ニュータイプとしての才があったとしても何もおかしくは無い。その予想を裏付けるように、マリオンはコクンと頷く。
「このマシーンからは……シャア少佐に対する親愛のようなものを感じます。
そして暖かい女性の心も……。
だから、今夜は私とこの人との2人でシャア少佐を守ります」
「そうか……ならば安心だ。
行こう、マリオン少尉」
「はい、シャア少佐」
シャアの言葉にマリオンが答えると、2人は自らの乗機へと上っていった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「作戦開始か……予定通りだな」
作戦開始時刻、友軍の西側に位置する山岳地帯に連続した爆発の閃光が巻き起こる。それはドダイ爆撃機の支援爆撃である。
シャアはそれを『眼下』に眺めながら、作戦が開始されたことを知る。
そう、シャアは今その山岳地帯の光景を『眼下』に見下ろす位置にいた。
シャアの搭乗するイフリート改とマリオンのビームザクスナイパーは今、ドダイに乗って夜の空に居たのである。
「では、行くとしよう……」
イフリート改は機体を固定させるためにドダイを掴んでいた腕をはなすと、ドダイの上に立ち上がる。
「援護を頼む」
『ご武運を、シャア少佐』
雑音混じりの短距離通信でマリオンにそれだけ言うと、シャアのイフリート改は空へとその身を投げ出した。
今回、シロッコがシャアに頼んだことは単純明快だった。
つまり『ドダイに乗って敵陣に降下、制圧してきてくれ』、である。
作戦の内容としてはシロッコのとった戦術とほとんど同じ、ドダイの爆撃で混乱する敵に降下、混乱中の敵を制圧するというものだ。ただ敵への接近に使用する足がシュツルムブースターかドダイかという違いだけである。
何故、今回の作戦でシロッコたちがシュツルムブースターを使い、シャアの方はドダイを使ったのかと言えばこれには理由があった。
まずシュツルムブースターはその性質上、地上での運用の場合ホバーシステムの搭載された機体で無ければ制御が難しく、ホバーシステムの無いシャアとマリオンの機体に装備するのは難があったのである。
それにもう一つ……シュツルムブースターはシロッコがテストを行ったとしても、新開発のものだ。『万一』の想定外の故障などもあるかもしれない。シロッコなりがついていればそんな時対処のしようもあるだろうが、そうでないシャアには『万一』があっては不味いのだ。
そう……降下するのはシャアのイフリート改のみ。マリオンがドダイに乗って上空からスナイパーライフルで援護射撃をしてくれるが、敵陣に突入するのはシャアだけなのである。普通には『死んでこい』と言っているに近い無理難題だが、シャアはシロッコの真意を正しく汲み取っていた。
(『EXAMシステムを実戦で使え』、ということだな)
そう、シロッコは実戦の場で『EXAMシステム』を使うことをシャアに要求しているのだ。
『EXAMシステム』は時として、パイロットの意思を無視した暴走を引き起こすシステムだ。そのことは『EXAMシステム』によって危うくシロッコを殺しかかってしまったシャアにはよく分かる。
その後、何度も『EXAMシステム』を起動させてのテストは行っている。しかし、実戦であっても大丈夫かと問われれば、首を傾けざるを得ない。それほどにEXAMシステムは『読めない』のである。だからこその実戦の中でシャアが『EXAMシステム』を制御できるかどうかを計るテストが今回なのだ。
単機突入であれば、もし暴走を引き起こしたとしても周りには友軍はおらず、被害を出さなくて済む。イフリート改の射程外である上空からの援護と、万一のときのシャアを回収するためにマリオンを着けてくれたのはシロッコなりの、精一杯の心遣いであった。
「
問題は私にそれほどの才能があるかということだな」
降下するイフリート改のモニターには夜の空を引き裂く、対空砲火の火線が映る。
恐らく空を飛ぶドダイに向けて撃っているのだろう。明確にイフリート改を狙っているものはまだ無い。しかし、それも長くはないだろう。もうそろそろ、シャアのイフリート改の存在に気付いてもおかしくない距離だ。全員が気付かぬほど連邦にマヌケを期待するのはいささか無理がある。
シャアはスティックから右手を放すと、プラスチックカバーに覆われたボタンに手をかけた。
「……ララァ、私を導いてくれ」
そして、シャアはそのボタンを押し込む。
<EXAMシステム、スタンバイ>
ララァ=スンによく似た声のマシンボイス、そして……シャアの見る『世界』が一転する。
~~~~~~~~~~~~~~~
「ジオン野郎め! 墜ちやがれ!!」
この山岳地帯を防衛する連邦は突然の夜間爆撃に虚を突かれたもののすぐに混乱から回復、空を飛ぶドダイに向かって対空火器による射撃を開始する。
しかしレーダー誘導ならばまだしも、ミノフスキー粒子によってレーダーが死んでおりほとんど命中していない。
「クソッタレが! 全然当たらねぇ!!」
そう吐き捨てながらも、ザクが100mmマシンガンを上空にばら撒く。
その時だ。
「ん?」
空に輝く月の中に……何かがいる。
それはグングンと大きくなっていき……やがてそれが何なのかしっかりと確認する。
「も、モビルスーツ!? ジオンだ!!」
そう、それはジオンのものと一目で分かるモノアイのモビルスーツだ。
「おい! あれグフじゃねぇぞ!?
見たことのねぇ機体だ!」
『構うか! 降りてくる前に蜂の巣にしてやれ!!』
見たことの無い新型に驚きの声をあげるのは一瞬、すぐに4機のザクから100mmマシンガンが放たれる。
その時、彼らはこの敵機の撃破を疑ってはいなかった。
モビルスーツは陸戦兵器だ。そのため、航空機のように自由に空を移動できるわけではなく、空での動きなど重力に引かれて下へ下への一方通行だ。ブースターを吹かせれば多少は動き回れるだろうがそれでも多少程度のものである。そんなものは的とそう大差ない。
「死ねよ、ジオン野郎!!」
100mmマシンガンの火線がその機体をハチの巣にせんと迫る。
しかし……。
「!?」
その機体はブースターを吹かしてその火線を避ける。そのブースターのパワーにも驚いたが、何よりの驚きはその正確性だ。まるでそこをマシンガンの弾が通ることを分かっていたように、スレスレのところを最小限の動きで避けているのである。
しかもそれはマグレではない。その証拠に同じような回避を続け、未だに無事にこちらへと向かって来ているのだ。
『な、何だこいつ!?』
そのあまりの異常性に誰かが悲鳴のような声を挙げると、その機体は脚部のミサイルランチャーを撃ってきた。有線で放たれたそれはザクの周囲で炸裂し、爆煙を巻き上げる。それによって、ただでさえ夜間で悪い視界が完全に塞がれていた。
『くそっ!? 見えねぇ!?』
『奴はどこだ!!』
「!?」
その時、彼が咄嗟に横に転がるようにしてザクを横にずらしたのはほとんど勘の偶然であった。だが、その偶然が彼を救う。
彼のザクが今まで立っていたところを、『赤い彗星』が通り過ぎていった。真っ赤なその機体はその加速と重量のままにキックを叩き込む。蹴られたザクがまるで空き缶のように派手に吹き飛ぶと、2機のザクを巻き込む形でぶつかりバランスを崩した。
赤い機体はそのまま地面に着地すると、腰から銃を引き抜いて振り向きざまにもつれ合う3機のザクに向かってトリガーを引く。
放たれたものは閃光だった。
その閃光は中央にいたザクを直撃し爆発、その爆発に至近距離で巻き込まれた残り2機も爆発の閃光の中に消えていく。
それがほんの数秒の間に起こったのである。
「な、なんだあいつは……」
まるで悪夢を見ているような気分で呟き、その時になって彼は相手の機体が『赤い』ということに気付いた。
「あ、赤い彗星!?」
まるでその答えを待っていたかのように、モニターの中で赤い機体がこちらに向かって走り出す。
「う、うわぁぁぁぁ!!?」
左手に光る剣を握りしめながらこちらへと迫る赤い機体に、彼はすぐさまザクを立ち上がらせると100mmマシンガンを構える。
しかしその瞬間真上から叩き下ろすように閃光が走り、100mmマシンガンが腕ごと吹き飛ぶ。
何が起きたのか分からぬうちに、彼の乗ったザクは赤い機体の光る剣によって横に切り裂かれ、爆発の閃光の中に消えていった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
「流石はシロッコの秘蔵ッ子だ。
凄まじい腕前だな」
上空から100mmマシンガンを持った腕を正確に貫いたマリオンの狙撃に、シャアは感嘆の声をあげるが、それも一瞬だった。
<少佐……>
「むっ!!?」
心に響くララァの声に導かれるままにイフリート改を横にステップを踏ませるとそこにミサイルが降り注ぎ爆発する。振り向けばそこにはこちらに向かってくる、背中にミライルランチャーを装備したザク……『ミサイルザク』の姿があった。
スプレーミサイルランチャーが連続して発射され猛烈な面制圧攻撃が降り注ぐが、シャアのイフリート改には当たらない。
(見える! 私にも敵の動きが見えるぞ!
だが、これは……!?)
『EXAMシステム』によりニュータイプの感覚をものにしたシャアには、相手の動きが確かに見えていた。だが、それと同時に猛烈なまでの『不快感』を感じる。
相手から、まるで粘つくような不快なもの……『殺意』が纏わりつこうと手を伸ばしてくるのがわかる。そしてそれを避け、その不快なものを感じる場所にトリガーを引けば発射されたビームによって『ミサイルザク』は貫かれていた。
それによって『不快感』は消え去るが、シャアはコックピットの中で一つ息を付くと垂れる冷や汗を拭う。そして、シロッコがあれほどに『EXAMシステム』を危険視していたのが分かった。
(性能もそうだが……これは下手をすれば精神がもたんぞ)
実戦で『殺意』に晒されることがこんなにもストレスとなるとは思わなかった。これでは下手なパイロットでは精神を破壊されてしまう恐れもある。
「しかし、シロッコはこの感覚の中で戦っているのか……。
いや、違うな。
シロッコはもっと、ずっと洗練された感覚を持っているのだろう」
つくづく恐れ入る男だと思う。ニュータイプの感覚を知っただけの、ニュータイプのなり損ないの自分ではまだまだだ。
(だが……置いていかれたくはないな)
そう苦笑すると同時に、山岳地帯の高所からまた『殺気』を感じる。
砲撃部隊からの砲撃だ。
その『殺気』を避けながらイフリート改を疾走させると、その動きを援護するように上空からマリオンが砲撃部隊に向かって狙撃を続ける。
弾雨を越えて肉薄したシャアに、動きの遅い砲撃部隊には為す術は無かった。
マリオンの正確なビームスナイパーライフルの狙撃という援護の元とはいえ、シャアは単機で山岳地帯の敵勢力を、短時間のうちに排除していた。
しかし、戦闘が終わっても今なお僅かに残る『不快感』に、シャアは顔を顰めるのだった……。
そんなわけでシャアのEXAM起動の話でした。
ユウ=カジマのようにミサイル基地とダブデを単機で潰すよりは、ずっと小ぶりな戦いですが……改めてEXAMはヤバいシステムだと思う。
次回はいやな予感的中のお話。
そしてついに初陣を飾る人たちが。
次回……体調が戻ればまた来週には投稿したいなぁ。
次回もよろしくお願いします。
追伸:今週のビルドファイターズトライ。
水着回だけど……いろいろ水着のお姉さんで遊び過ぎだろ、おい!
モデル高校生の一般人に、いきなりバーザムを勧めるユウくんはかなり業が深いなぁ。
そして相変わらずビルドファイターズでのベアッガイの扱いはいいなぁ。
次回は一期のニルスも出てくるし、また楽しみです。