歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回はシロッコたちのいない間の地球での戦いの様子です。
珍しい人物たちの活躍となります。
ある意味、『これがやりたかっただけだろ』を繋げた状態。

思いのほかに長くなったので前後編に分けました。


第24話 重力戦線 戦果報告書(前編)

 見上げればどこまでも青い空、見渡す限りの青い海を連邦の輸送船団が進んでいた。

 宇宙世紀になっても、船舶を用いた輸送は重要だ。『輸送』といえばミデアやガンペリーなどの航空輸送機を思い浮かべるかもしれないが、そのペイロードには限界はあるし、何より自身の消費する燃料との比率を考えればそこまで経済的ではない。船舶は未だに『輸送』においては中心的な存在だった。

 そんな輸送船団で海を眺める2人、彼らは訓練課程を終えたばかりの連邦軍のモビルスーツパイロットたちだ。彼らは自分の愛機となるザクと共に、この輸送船で任地へと送られる最中である。

 

「ようやくだ。

 あっちに着いたら、俺たちのザクでジオンのやつらを地球から追い出してやろうぜ!」

 

「……」

 

 景気のよい言葉に、相方は無言であった。いつもとは違う様子に、彼はいぶかしむ。

 

「おい、どうかしたのか?」

 

「ん?

 ああ……実は俺、海って苦手なんだよ」

 

「何だよ? ガキの頃に溺れかけたとかか?」

 

「まぁ、ガキの頃の思い出なのは間違いないけどな……」

 

 そういって照れくさそうに鼻の頭を掻く。

 

「うちのオヤジ、旧世紀の骨董品のムービーを集めるのが趣味だったんだよ。

 その影響で物心つくガキのころから、旧世紀のムービーを見て育ってな。その中に……人食いザメの話があったんだよ。

 ガキの頃に見たそれがトラウマでさ、それ以降海が苦手になっちまったんだ……」

 

「ははは、そいつぁ災難な話だな」

 

 その連邦兵はアハハと笑い飛ばす。

 しかし超巨大人食いザメは所詮ムービーの中だけの存在だ。だが、現実にはそれよりももっと怖い、『海の悪魔』がいるのである。

 それを2人は思い知ることになる。

 

 

 ウ―――――!!

 

 

「な、なんだ!?」

 

「サイレン!? ジオン野郎か!?」

 

 突然の警報に2人は辺りを見渡す。その周りでは兵員があわただしく動き始めていた。

 

「おい、どうした!?」

 

「ジオンだ、ジオンが来るぞ! お前らも持ち場に急げ!!」

 

 1人の兵員を捕まえて話を聞くと、やはりジオンの襲撃らしい。そのとき、水中からの爆発の水柱が上がった。

 

「……護衛のフィッシュアイがやってくれたのか?」

 

 期待を込めて海面を見つめる。しかしその時、ピンクのモノアイの光とともに水柱が上がり、青いモビルスーツが空中へと飛び上がってくる。

 

「ジ、ジオンだ!!」

 

 その1機を皮切りに、次々とジオンの水陸両用モビルスーツ『ハイゴッグ』が空中へと飛び上がり、連邦の輸送艦へと飛び乗る。

 そして、そのうちの一機は2人の連邦兵の乗る輸送艦にも……。

 

 

ドォン!!

 

 

「うわっ!?」

 

 モビルスーツという大質量の着地の衝撃に輸送艦は激しく揺れ、誰もが手近なものにつかまって身体を支える。だが、彼らにそれを気にする余裕は無い。何故なら、ハイゴッグが左手のハンドミサイルユニットを地面……自身の降り立った輸送艦へと向けたからである。

 ハイゴッグが再び飛び上がると同時に、ハンドミサイルは発射された。

 着弾、そして爆発。

 輸送船の竜骨はへし折れ、船体は真っ二つになって積み荷もろとも海の底へと引きずり込まれていく。

 海に投げ出され、海水をたらふく飲まされ遠のく意識の中で思う。

 

(う、海になんか来るんじゃなかった……)

 

 それだけを思いながら、彼は大量の鉄くずと共に海の底へと沈んでいったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 敵輸送艦に飛び乗り、再びのジャンプと同時に射撃、そして着水。

 急機動で無理をさせてしまったのではないかとすぐに計器を確認するが、負荷はほとんどない。

 それを見て彼は得意そうに言った。

 

「さすがハイゴッグだ、何ともないぜ!」

 

 彼……ジオン軍の海洋部隊の一員であるコーカ=ラサ曹長は自機の性能に感嘆の声を上げながらも次の獲物を狙う。だが、それをさせまいと水中用ボール『フィッシュアイ』が着水したラサ曹長のハイゴッグに接近してきたのだが……。

 

「へっ! ウスノロが!

 このハイゴッグの動きに追いつけるかよ!!」

 

 ドムの熱核ホバー推進システムを発展させたハイゴッグの推進器は圧倒的な水中速度を発揮する。その速度でフィッシュアイを振り切ると、ハイゴッグは再び海上へと飛び上がった。

 ハイゴッグ最大の武器はこの機動性だ。水中から水上と瞬時にその推力で飛び上がることで立体的な動きをするハイゴッグ、それに水中運用のみのフィッシュアイは対応できなかったのである。

 そんなハイゴッグが、集団で襲ってきたのだからたまらない。次々と輸送艦群は海の底へと沈んで行く、輸送船団は壊滅ならぬ『消滅』といっても差し支えない大損害を受けていた。

 その奇襲を終えたハイゴッグ隊は増援の現れる前に悠々と海に消えていったのである……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……今回の奇襲も上手くいったな」

 

 彼はこの新型のM型潜水艦『マッドアングラー』の艦長であり、このマッドアングラー隊の隊長、フラナガン=ブーン大尉である。

 帰還したハイゴッグ隊の報告を聞き、その戦果に満足そうにすると部下たちに命令を下した。

 

上層部(うえ)からの命令だ。 連邦の輸送隊は輸送艦一隻、輸送機一機も通すな。

 連邦どもには海水浴を楽しませてやれ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 隊員たちの顔には『まだまだ暴れ足りない』というのが雄弁に見て取れた。それを見ながらブーンはこれからここを通るだろう連邦兵に、少しだけ同情したくなったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふぅ……」

 

 彼は一つ息をつくと、ペンを置いた。

 まだあどけなさを残す彼は、連邦軍のモビルスーツパイロット候補生の1人である。ここ連邦軍のモビルスーツパイロット養成施設で現在、パイロットとしての訓練を受けている最中だ。

 モビルスーツ……それはこの戦争において、戦争のあり方自体を変えてしまった新兵器である。だが今までの兵器系統に存在しない、人型のマシーンを操るというのは簡単なことではない。そこには様々な知識とセンスが問われ、一朝一夕にできるようになるといったものではないのだ。そこには今までの経験も何もない。その証拠に傍の同じ候補生には彼の父親ほどの年齢の人間もいるくらいだ。連邦にとってモビルスーツパイロット育成は急務であり、モビルスーツパイロット候補生たちはこの施設で毎日をハードな修練に費やしていた。

 誰も彼もがそのハードな内容に、一日の終わりにはクタクタになって眠りに着くが、彼はそれでもいつもの習慣になっている日記をつけていた。

 ここは寝るためだけの簡素な部屋だ。2段ベッドが二つ、仕切りの薄い布程度しか遮るものは無い。そこに下着姿で横になり、ペンライトの明かりを頼りに日記をつけていたがそろそろ自分も寝なければ明日に差し支える。

 彼は日記を閉じると布団を被り、眠りに入った。睡魔が彼の意識を刈り取ろうとゆっくりと迫るその時……。

 

 

 ドゥン! ドゥン!! ドゥン!!!

 

 

 連続した爆発音に睡魔は吹き飛び、彼は目を見開く。そしてそこには……。

 

「!!?」

 

 彼の視界いっぱいに、『上の階』が広がっていた。彼も、彼とともに訓練に明け暮れていた仲間たちもすべてその瓦礫の下で、死神にその命を刈り取られたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふぅ……」

 

 男は闇の中で大きく息を吐いた。

 その男は闇に溶ける黒色の全身タイツのようなものを着込んでいた。それは温熱遮断機構(サーモプロテクト)を備える、秘密潜入用の特殊戦闘服である。それを身に纏った彼はジオン特殊潜入隊の工作員、アカハナであった。

 

「大したことないな」

 

『それは少尉だからですよ。

 そうでなければ、ああも簡単に連邦の施設内に侵入して爆弾など仕掛けられませんって。

 敵基地内の主要目標の倒壊が確認できました。

 見事な手並みですね、少尉』

 

「ははっ、おだてたって奢りの約束は忘れないぞ」

 

 耳の通信機から聞こえる若い男のオペレーターに、アカハナも軽口を返した。

 

『あははっ、やっぱり駄目ですか。

 分かりました、私も潔く奢らせてもらいます。

 帰還、お待ちしておりますよ、少尉どの』

 

「了解、これから帰還する」

 

 そう言って交信を終わらせると、アカハナは偽装した自らのモビルスーツのコックピットハッチを開くとそこに潜り込む。茶色く、丸みを帯びたそれは水陸両用モビルスーツである。これこそ、スウィネン社によって開発された特殊潜入モビルスーツ『アッガイ』の再設計モデル、『アッガイⅢ』だ。

 スウィネン社は元々土木・作業機器のメーカーであり、そんなスウィネン社によって開発された水陸両用モビルスーツが『アッガイ』である。しかし水陸両用モビルスーツにはすでにツィマッド社の『ハイゴッグ』という高性能機がいた。

 MIP社ですらその性能を前に巻き返しは不可能だと判断した高性能機『ハイゴッグ』、それよりも数段は性能の劣る『アッガイ』はそのまま歴史の闇に消えていくモビルスーツになるはずだった。しかし、そんな『アッガイ』に一つの光明が灯る。

 『アッガイ』はその形状と内部機構によって廃熱と静粛性に非常に優れていた。その上、装甲には特殊電波吸収剤が塗られており、形状のせいもあってレーダーに探知されにくい。その高い隠密性に目を付けた特殊潜入部隊が採用を決めたのである。

 同時に、『アッガイ』存続を決めた大きな事件が起きた。あの『ザク情報漏えい事件』である。

 この事件によって連邦軍はザクを量産させることに成功した。そのためジオン軍ではザクは旧式化したこともあり順次外見の変わる改装を施されたり、作業用・訓練用に廻されるなどしたが、それでもパーツは大量に余る。

 『アッガイ』はザクのパーツを流用しており、『アッガイ』は余ったパーツの受け皿としても注目された。さらにそこにツィマッド社との『ハイゴッグ』とのパーツ共用を考え、あのパプティマス=シロッコ少佐協力の元で再設計されたのがこの『アッガイⅢ』である。

 純粋な戦闘能力に関してはさすがに『ハイゴッグ』には及ばないが元になった『アッガイ』と比べ劇的に向上、特徴でもあったステルス性を維持しつつ静粛性ホバー推進システムによる高機動を実現、しかもほとんどのパーツがザクとハイゴッグの流用のためパーツが手に入りやすく整備がしやすいという代物である。

 アカハナのアッガイⅢは、その自慢の静粛性でゆっくり静かに、河から海へと消えていった……。

 

 




よく訓練されたガノタ兄弟の会話。

私「アッガイってさ……」

弟「さんをつけろよデコ助野郎!!」

私「アッハイ」

というわけでこの作品ではシロッコ印の魔改造で、アッガイにはⅢがつきました。
アッガイにはさん付けを忘れずに。いいね?

今回は地球を離れる前にシロッコが提案した戦略の様子でした。
正直、今回やりたかったことは『さすがハイゴッグだ、何ともないぜ』と『スネークアカハナ』だけです。
これがやりたかっただけだろと言われたら、その通り。
しかし私は謝らない。

次回は後編。
こういう強襲作戦には欠かせない、あの部隊の活躍です。

次回もよろしくお願いします。

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