ツィマッド万歳!!
『コンバットマニューバP&C』
攻撃力:4200
消費EN:30
射程:1~3、P兵器
……数字にするとこんな感じです。
『メインブースター点火、カウントダウンスタート』
その音声を聞きながら、私は隣を見た。
そこではガルマが、ノーマルスーツを着ながら少々緊張の面持ちだ。
大気圏脱出は初めてなのだし分からなくもないが、何となく予防注射を嫌がる子供のように見えてしまい、思わず笑いがもれる。
「ガルマ、そんなに緊張しなくてもいいではないか」
「分かっているよ。
だが、
「それは私の護衛では不安だということかな?」
「ち、違う! そう言うわけではない!」
そうやって必死で否定してくるガルマに、私は笑いをかみ殺す。
「シロッコ……あまりからかわないでくれ」
「だが、緊張はほぐれたろう?」
そうしている間にも、カウントダウンは終わりを迎える。
点火したブースターによって加速する私のザンジバル級機動巡洋艦『ユーピテル』は、地球の重力を振り切り
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「
自分を縛っていた地球の重力は消え、無重力状態に私はベルトを外すと指示を出す。
「大気圏離脱後の異常は無いか、各部チェックを開始しろ!
周辺警戒、怠るな!」
そしてその言葉と同時に、私は不吉な何かを感じた。『ユーピテル』に衝撃が走る。
「今のは!?」
「れ、連邦艦です!
連邦の艦に補足されています!!?」
「哨戒部隊に捕まったか……あまり運はよくないようだな。
いや、運の無いのはどちらかな?」
私は1人笑いをかみ殺すと、指示を出す。
「私はモビルスーツで出る。
あとは頼む、キリシマ大尉」
「わたくしにお任せ下さいませ、シロッコ少佐。
総員戦闘配置! 各対空砲座、用意!!
近付くやつぁはブッ殺……墜として差し上げなさい!」
私は後のことを艦長のフローレンス=キリシマ大尉に任せるとモビルスーツデッキへと急ぐ。
「さて……」
モビルスーツデッキにはすでにリザド隊の面々が集結していた。私は口早に指示を飛ばす。
「クスコ、ニキとエリスを率いてザンジバルの護衛をしろ。
久しぶりの宇宙の上、機体はザクだ。
勝手が違うから気を付けるように」
そう、ドムでは宇宙で使えないため、仕方なく今回はザクⅡを護衛として持って来ているのだ。
こういうときに局地戦機は不便だ。汎用機の重要性を、つくづく思い知る。
「マリオンは、もしもの時のためにビームザクでビームライフルを装備して待機。
敵にビームライフルの情報を教えてやる気は無いが、いざとなれば出てもらう。投入の判断はクスコに任せる。
レイチェル、君は待機だ。まだ傷が痛むのだろう?」
「隊長、こちらから攻撃はしないのですか?」
一しきり指示を飛ばした私に、横を進むクスコが聞いてくる。
「宇宙では防衛の方が重要だからな。
防衛に戦力を裂く」
宇宙では母艦をやられることが何よりも怖い。母艦がやられては、どんなにモビルスーツ戦で勝っても漂流するしか無くなってしまうからだ。
しかも今回はガルマの護衛が任務である。そのため、隊のほとんどを艦の防衛に廻したのだ。
とはいえ……攻撃をしないという訳ではない。
「攻撃はする。 相手も条件は同じ、母艦を墜とされれば終わりだからな。
だがその戦力は最低限……私1人でいい」
その言葉に、クスコは苦笑した。
「『
ただご自分が宇宙の感覚を取り戻したいだけなんじゃないですか?」
「良い勘だ、クスコ中尉」
「わかりますよ、そのくらい」
肩を竦めるクスコに苦笑して、私はザクとは違う紫の機体に乗りこむ。この機体、長らく死蔵されていた機体だったが、
エンジンに火を入れながら、私はこの機体に語りかける。
「お前の
存分に力を発揮して見せろよ」
そう言ってコツンとコンソールを叩いた。
『発進準備完了。 少佐、ご武運を!』
「了解した。
パプティマス=シロッコ、出るぞ!」
ブースターをふかしながら、私は久しぶりの
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「よし、情報通りだ。
たまには諜報部もいい仕事をする」
その連邦パイロットはザクの中でそうひとりごちる。
彼らはジャブロー上空の制宙権を担う、防空艦隊の一部だ。そんな彼らの元に、連邦本部からある指令が下る。それはキャリフォルニアベースから打ち上げられるザンジバル級機動巡洋艦の撃沈である。
諜報部の情報で、キャリフォルニアベースのザンジバル級が、大気圏離脱用のブースターを装着、機体整備を急ピッチで行っているという。サイド3では、未だ詳細不明な情報ながらキシリア・ザビが更迭されたという情報もある。
この情報と急なザンジバルの大気圏離脱装備……これらを総合すると、このザンジバル級には重要人物が搭乗している可能性が高かった。もしかしたら、あのガルマ・ザビの可能性もある……そう判断した連邦本部は本来制宙権保持のための防衛戦力であるジャブロー防空艦隊から戦力を抽出し、一時的にジオン戦力下へと打って出ることを決定した。
その戦力は連邦ザクⅡ6機、ボール12機、サラミス級宇宙巡洋艦4隻、コロンブス級宇宙輸送艦2隻という、機動巡洋艦1隻にぶつけるには些か過剰な戦力ではあった。
「よし、モビルスーツ隊は接近。 ボール隊は援護。
必ず敵には3機一組で当たれ!」
その指示の元、モビルスーツ隊とボール隊は動き出す。
ザク1機にボール2機を1グループとし敵にぶつける……この部隊を任された彼の指示は現実的かつ非常に適切だった。彼の指示に落ち度は何一つない。
では、彼の何が悪かったのかというと……これは『運』が悪かったとしか言いようがない。
『た、隊長! 敵モビルスーツがこっちに!?』
「ザクか? それとも
隊長の言葉に、そのボールのパイロットは震えるように答える。
『それが……見たこともない機体です!?』
「ジオンめ、また新型を繰り出してきたのか!?」
『は、速い!! ザクよりもずっと速い!?
それにあの色は……!?
う、うわぁぁぁぁぁぁ!!?』
その言葉を最後に、そのボールとの交信は永遠に途絶された。
「一体……!?」
隊長はザクのモノアイを動かし、それを見て心臓を鷲掴みにされるような感覚を味わう。
敵は一機、それはスマートなフォルムの機体だ。背中にむき出しにされたようなブースターをふかし、ボールはもとよりザクすら寄せ付けない圧倒的な機動力で動きまわっている。
しかし、本当に彼を恐怖させたのはその機体ではない。
その機体は……紫に塗られていた。その色の意味するものは一つ。
「『
彼は死神の冷たい鎌の感触を、首筋に感じていた……。
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「……やはり機動性はザクの比ではない。
安全性さえ確立されればなるほど、これが採用されないのは『ジオニックの陰謀』とは言いたくなるものだ……」
そう呟き、私はペダルを踏み込む。
すると、背中の木星エンジン改は私の要求に答え、圧倒的な推力を生み出す。そのスピードでこちらへとキャノンを乱射してくるボールに接近、通り抜けざまにジャイアント・バズを直撃させて、ボールを爆発させた。
その爆発の中を、私の乗機はモノアイを激しく動かし、次なる獲物を探す。
この機体の名は『EMS-04 ヅダ』であった。あのザクと正式採用を巡って争ったツィマッド社の機体である。
その後、保管されていたヅダを私はドム用の木星エンジン改のテストベッドとして改造し、さまざまなデータ取りに使っていた。そして、そのまま『大気圏下での運用実験』という名目で私と共に地上に降りていたのだが地上はドムの天下、今さらヅダの実験などしたところでどうしようもなく長らく死蔵されていたのだが、私は今回の宇宙へ戻るという際に、自分の乗機として改良・調整・整備を行い持ってきたのである。『大気圏下での運用実験』で持ってきた機体を宇宙空間で運用する……なんともおかしな気分だ。
「しかし……久々の
私はヅダを操りながら、久しぶりの宇宙の感覚を取り戻していた。
『大地』という不動のものがある地上とは違い、どこにも足がつかずフワフワと浮遊した感覚……重力から解き放たれた解放感、これこそが宇宙の証し。この解放感と共に、魂の枷すら解き放った者がニュータイプなのだ……そんなことを実感する。
だが今は戦闘中だ、雑念は振り払い、この戦いに集中する。
「遅い!」
ヅダはその間にもボールの1機に接近すると、その名の通りボールを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたボールがザクとぶつかり、そのザクの動きが止まる。
その瞬間にザクへとジャイアント・バズを直撃させるとザクが爆発、それに巻き込まれたボールも吹き飛んだ。
「どうやら、まだ敵のパイロットはモビルスーツの宇宙戦闘に慣れていないようだな……。
これなら艦艇を相手にする時のためにバズーカは温存した方がいいか」
私はジャイアント・バズを腰のラックにマウントすると、右手にMMP80マシンガン、左手にヒートホークを手にした。
マシンガンを撃ちながら接近する私に、狂ったようにボールがキャノンを、ザクが100mmマシンガンを撃ってくるが、それは分かりやす過ぎる攻撃だ。ニュータイプの感覚で、相手パイロットの明確な敵意と混乱と怯えが手に取るようにわかる。それを避けることは容易い。
「そんな生の感情丸出しの攻撃など!!」
2機のボールをハチの巣に変え、ザクの胴に通り抜けざまにヒートホークを叩きこむ。ところどころに穴の開いたボールと、胴体部分を溶断されたザクが続けざまに爆発した。
そのころになると、やっと連邦も最初の混乱から脱したのか、距離を必死で取りながら、連携し弾幕を張って私を墜とそうと狙ってくる。
「ほう……やはり数が揃われると厄介だな。
すべて倒すには弾と時間が掛かる」
だが、私は敵の猛攻に何ら恐れは感じていなかった。
何故なら……私はこちらに近づいてくる、良く知る存在を感じ取っていたからだ。
ドゥン!
私に攻撃していたザクが1機、粉々になって吹き飛んだ。
何事かとその僚機のボールがその方向を見るが、その瞬間赤熱したヒートサーベルによって真っ二つになって爆散する。
『敵の援軍なのか!?』
そして、混乱する敵機を通り越し、彼はそこにいた。
『こちら『グワラン』の護衛隊所属の、シャア=アズナブルだ。
合流ポイントに先行してこちらに来たが……余計なおせっかいだったかな、シロッコ?』
そう、やってきたのはシャアだ。
今回の件はザビ家にとって一大事、当然ながらドズル=ザビもサイド3に行く必要性があった。それならばと、ドズルはガルマと合流し、一緒にサイド3へと行くことになったのである。シャアはドズル・ザビの乗艦である『グワラン』の護衛の任務についており、先行して単機でこちらに合流しにきたようだ。
友との久しぶりの再会にここが戦場だということを忘れ、つい笑ってしまう。
「いいや。 援護に感謝するよ、シャア」
そう言ってシャアの搭乗する赤い専用のリック・ドムが、私のヅダの隣に並ぶ。
「そう言えばシャアよ。
こうして戦場で共に並ぶのは、あの『暁の蜂起』以来だな」
『そうだな……。
また戦場で君の隣に立てること嬉しく思う』
「私もだ。
あの時のように私の背中、君に預ける」
『では、私の背中も君に預けよう』
「共に行くぞ、『赤い彗星 シャア=アズナブル』!!」
『了解した、『
私とシャアは同時にペダルを踏み込むと、機体が急加速する。
加速力は私のヅダの方が上だ、私の後ろに続くようにシャアのリックドムが続く。
「墜ちろ、カトンボ!!」
ヅダのMMP80マシンガンでハチの巣のなったボールが爆散する。それを見て1機のボールが私に照準を合わせるが……。
『やらせんよ』
リック・ドムからのジャイアント・バズに直撃し、粉々に弾け飛んだ。
ザクの一機がそんなシャアに100mmマシンガンを向けるが、それを撃たせる気は無い。
「遅い!」
すり抜けざま、ヅダのヒートホークがザクのその右腕を斬り飛ばす。
『もらった!』
そして右腕を失い体勢を崩したザクに、リック・ドムがヒートサーベルを突き刺した。
コックピットを貫かれたザクを、シャアのリック・ドムが蹴り飛ばす。ザクはスパークしながら力なく浮遊し、数秒の後に爆発した。
私とシャアの即席のコンビネーション。だが、この連携攻撃はともすればあの黒い三連星の『ジェットストリームアタック』を越えるだけのものであると確信できた。
「流石だな、シャア。
即席で、こうもこちらの動きに合わせてくれるとは」
『君が合わせやすく動いてくれているお陰だ、シロッコ』
ここは戦場だというのに、互いに微かに笑いさえ漏らす。
命を預ける存在に、これ以上の相手はいない。私とシャアは同じことを感じていたと思う。
「艦艇を含め、まだまだ敵は多いが……大したことはあるまい」
『こちらは『
数の違いが、決定的な戦力の差ではないことを連邦に教えてやるとしよう』
「ただし授業料は高くつくぞ。
何と言っても、我々2人を相手にしたのだからな!」
同時に、再び私とシャアはペダルを踏み込む。
紫のヅダと赤いリック・ドム……二つの光が、戦場を駆け抜け抜ける!
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「ぜ、全滅?
会敵からまだ3分しか経ってないぞ。
それがザク6機、ボール12機が……全滅?」
ザンジバル級の撃沈命令を受けた艦隊を指揮していたパオロ・カシアス中佐はオペレーターからの言葉が信じられなかった。
「う、嘘だろう? 冗談なんだろう?」
報告の虚偽を希望する問いなど、長い軍人生活で使うことなど絶対にあり得ない。しかし、その問いを自然としてしまうほどの衝撃を彼は受けていた。
だが、狼狽するパオロの言葉に、こちらも同じく狼狽しながらもオペレーターが返してくる。
「……事実です。
全機からの応答が途絶えました。
爆発の光も確認しています……」
「そんなバカな……」
そう言って宇宙の闇を見つめるパオロだが、そんな悠長な時間は残されてはいなかった。
「艦長、敵機がこっちに!!?」
「!?」
そして、その場にいた全員がその紫と赤の光に恐怖する。
「『
に、逃げろ!!」
敵を前にいきなり逃げろという、軍人としての資質を疑われかねない指示をしたパオロを誰が責められるのか?
むしろその指示は彼我戦力差を鑑みた上での最良の指示であったと称賛されるべきだろう。
その証拠に、3隻のサラミスはそれから5分もたたぬうちに爆発の閃光の中に消えて行ったのだから。
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「……なかなか優秀な指揮官だったようだな」
私は撃沈したサラミスから離脱していく脱出用ランチの多さに思わず言葉を洩らす。
これだけ脱出者が多いというのはそれだけ総員退艦の指示が早かったということである。
早々に敗北を悟り、抵抗より脱出に力をいれたあたりは見方によっては『臆病』とも見えるかもしれない。しかし『臆病』さとは、時に戦場では美徳になりえる。適度に臆病なものは慎重になり、引き際をわきまえているからだ。
その証拠にこれだけ味方を生かすという結果を生んだのだから、そういう意味でもこの指揮官は有能なのだろう。
「……」
私は残り1隻のサラミス級へと逃げて行く脱出用ランチに向けていた銃口を下げた。モビルスーツ戦でも脱出したポッドを好んで撃つようなものはいまい。同じ理由で私は無益な殺戮は避けた。
それに残ったサラミス級もすでに反転し、逃げの体勢に入っている。速力は残しているようだが、私とシャアの攻撃で砲塔等は見るも無残に砕け散り、戦闘能力は残っていない。
今回は護衛任務であるし、その護衛対象から離れ過ぎる訳にもいかず、ここで追撃は打ち切ることにした。
「それに、どうやら合流のようだからな」
『ユーピテル』に接近してくる、ドズル・ザビの搭乗するグワジン級戦艦『グワラン』の姿が見える。
『シロッコ、戻るとしよう』
「そうだな、シャア」
私のヅダとシャアのリック・ドムは同時に反転すると、スラスターをふかして母艦へと帰還するのだった……。
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「久しぶりだな、ガルマ。
お前の地球での活躍のことは聞いているぞ」
招き入れられた『グワラン』の司令室で、ガルマは久しぶりに兄であるドズルと対面していた。そのいかつい外見同様の豪快さを全身から醸し出す変わらぬ兄の姿に、ガルマはある種の安心を覚える。
「兵たちが優秀だったおかげです。
僕などドズル兄さんに比べればまだまだですよ」
「謙遜などするな、ガルマよ。
お前なら、いつか俺をも使いこなせる稀代の将になれると俺は信じているんだ」
「兄さんの期待に応えられるかはわかりませんが、僕はできる最善を尽くしますよ」
「うむ、それでいい」
しばしドズルとガルマは兄弟水入らずの世間話をする。そして、頃合いを見計らったガルマはその話題を切り出した。
「ところでドズル兄さん……キシリア姉さんのことは……」
「……直接の確認はできていないが、事実らしい」
ガルマの言葉に、ドズルは重々しく答える。
「僕はまだ信じられないんだ。
キシリア姉さんが死んだなんて……」
「俺だって信じられんし、信じたくないが……間違いはないようだ。
まったく……俺より先に逝きおって……。
どうでもいい策など講じる頭があるくせに、逝く順番すら守れんとは……あのバカ者が」
そう憮然としたドズルの言葉には、妹を失ったさみしさが見て取れた。
「ギレン兄貴は俺たちが戻ったのを見計らってキシリアの国葬を執り行うとのことだ」
「国葬、ですか?」
「ああ。 さすがにキシリアの死は隠しきれんからな。
『ザクⅡのデータを連邦に渡そうとした部下の暴走を止めようとして殺害された』……そういうことになるらしい」
「そう……ですか……」
ガルマとしては、ギレンがキシリアの国葬をという話には納得しかねる部分もあった。
キシリアはザクⅡの情報漏えいに関わった。これは覆せない大失態である。しかしこの国葬はその事実を上手く覆い隠し、キシリアの名誉を守るものになる。
そう考えればこれはギレンなりのキシリアに対する兄心とも取れなくもない。しかし、家族として姉の冥福を静かに祈りたい気持ちはあり、ある意味では国家のパフォーマンスとして姉の死が使われるというのは気分のいいものではなかった。
それが顔に出ていたのだろう、ドズルも苦虫を噛み潰したような顔で頷く。
「……納得できん気持ちはわかる。
だが今は連邦との戦争中だ、無用な混乱は避けねばならない。
ただでさえ前線では連邦のザクⅡが現れたことで動揺が起こり、キシリアが情報を流したという噂までまことしやかにささやかれている。
それを払拭するためにも必要なことなんだろう。
キシリアの突撃機動軍も、混乱が起こらないようにギレン兄貴が直接指揮をするそうだ」
「ギレン兄さんが?」
その言葉に、ガルマは引っかかりを覚える。
あまりにもギレンの動きが早すぎだ。そう考えると、次から次におかしな点が浮かび上がってくる。そのすべてが、ガルマをある一つの可能性へと導いた。
(まさかギレン兄さんが姉さんを……)
そんな風に考え始めたガルマに、ドズルの声が飛んだ。
「ガルマ、それ以上は考えるな!」
「ドズル兄さん……」
「……俺たちは血の繋がった家族だ。
今は家族の死を悼み、その魂の安息を祈る……それだけでいい。
それ以上は考えるな」
「……わかりました」
ドズルの有無を言わせぬ口調は、まるで自分に言い聞かせるようだ。その言葉に、ガルマも頷く。
その様子を見て、ドズルも肩の力を抜いた。
「後で食事を供にしよう。
ゼナやミネバも喜ぶはずだ。ゼナもお前には会いたがっていたからな」
「わかりました。
そうだ、丁度同期のシャアもシロッコもいるし、後でゼナとは一緒に思い出話でもしますよ」
「あいつらか……」
シャアとシロッコの名前に、ドズルは露骨に嫌そうな顔をする。
「前から気になってましたが、ドズル兄さんは何であの2人を毛嫌いするんですか?
2人は我がジオンの誇るエースたちです。その力は凄まじい上に、僕の友ですよ。
あの『暁の蜂起事件』のせいですか?
それなら、あれは僕も……」
「そうではない。
いや、それもあるんだが……」
いつもの豪快さはどこへやら、何か言いにくそうに口ごもる。
「ゼナがな……その……士官学校時代にあの2人のことを……好いておったらしい。
昔のこととは分かっているんだがな……」
「ああ、そういうことで……」
どうやらドズルがシャアとシロッコが苦手な理由は、酷く個人的な嫉妬だったらしい。
厳つい外見に似合わず、まるで少年のような兄に思わず笑みの漏れたガルマだった……。
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「久しぶりだな、シロッコ」
「それはこちらのセリフでもある。
シャア、宇宙に戻って早々に君と再会できるとは嬉しい限りだ」
私とシャアは互いに再会を祝っていた。今は勤務中なので酒とはいかないが、互いに飲み物を口にする。
「しかし……色気のないところに連れ込んでくれたものだ」
そう言ってシャアは辺りを見渡す。ここは私のザンジバル級機動巡洋艦『ユーピテル』の機関室の奥だ。
轟々と常に『ユーピテル』の心臓が動く低い音が響いている。
「君ほどの有名人、食堂にでも連れて行けば大騒ぎになってゆっくり話などできまい。
それに……内緒話をするのならうってつけだろう?」
「なるほどな……」
『ユーピテル』は私の艦とはいえどこで誰が聞いているか分かったものではないし、盗聴器という可能性もある。その点、ここはそういう内緒話にはうってつけだ。
「シャア……率直に言おう。
今の君からは、何か悩みのようなものを感じる。
友として、何かあったのなら力を貸すが?」
「シロッコ……君の勘は鋭いな。
まるで彼女と話をしているようだ……」
その言葉に、私は感じるものがあった。
「彼女……ララァ=スンか?」
「……ああ、実は……」
そして語るシャアの話、それはまた厄介な話だ。
(この分ではサイド3でも動きまわらねばならん。
さて……どうしたものか……?)
私は額を数回トントンと指で弾くと目を瞑り、深く思考に浸るのだった……。
シロッコ専用ヅダとシャア専用リックドムの揃い踏みは夢の構図。
ツィマッドの夢は輝いていますよ、デュバル少佐。
もっとも、この構図は今回限りです。
シャアは今回の宇宙での話で、普通では絶対乗らせない、乗っちゃいけない機体に乗り換えることになりますので。
次回ですが……そろそろ週2の更新は辛くなってきましたので、毎週土曜日0時の更新にしようかと思います。
次回もよろしくお願いします。