ある可能性の劇場   作:シュレディンガーの熊

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観客動員数(UA)850人突破

着々と増えています

さて、これはハイスクールD×Dのオリ主物です


死神憑きの処刑人

とある町の一角にある神社。その神社に仕える宮司は悪霊祓いで名のある者であった

 

といってもこの男、雑霊を大仰にでっち上げては、これまた適当にお祓いした上でアフターケアと称しご利益など皆無であろうお札を売り付ける輩。詐欺同然である

 

そんな神社にある一人の少女が現れた

 

背中まで長いであろう艶やかな黒髪を三つ編みに結ったおさげ、目元には青縁のメガネ、緑色のジャージを着たその姿は、一昔前の田舎少女を彷彿とさせる素朴さと陰気暗さに溢れている

 

「すいません。ここお祓いで有名と聞いたんですけど・・・」

 

「はい、私がそうですよ」

 

今日も鴨が葱を背負ってやって来たと、心の奥でほくそ笑みながら、男は来客を本殿に上げる

 

「お祓い・・・と言うことは、お嬢さんは何かに取り憑かれていると?」

 

「はい。実は私、昔からそう言うのが見え易いみたいで・・・」

 

か細い声で話す少女は簡単に経緯を話した

 

幼い頃から霊が見え、取り憑かれることも年に1、2度、害の少ない低級霊が数日入り込んでくる程度であったが、先月から身体を乗っ取るような厄介な霊が取り憑いたようで、それがずっと居座っているので困ってここに来た・・・との事だ

 

そうなんですか。それは大変お辛かったようで。と、相槌を打ちながら話を聞く男。だが男が心の奥底で思ったことは『なんとも電波なガキが来たもんだ』である

 

「事情は良く分かりました。ここに来られたからにはもう安心してください」

 

だがそこは商売、それらしいことをしてサッサと金を巻き上げよう、と男はお祓いへと準備に取り掛かった

 

神酒、浄めの塩、動物の頭蓋、お祓い棒、十字架、蝋燭、御札、etc・・・

 

何やら色々と混在している気がするが此れが私独自のやり方ですと押し通し、お祓いが始まった

 

「オン・ハンドマグダラ・アホカンジャニ・ソロソロ・ソワカ…」

 

デタラメな真言を口ずさみ、祓い棒片手に動き回る男。その様子を少女はただ正座して待っていた

 

動き回ってから5分と経った。ここら辺で終えておくか、と男が祓い棒を下ろしたその時、

 

「―――っ!」

 

ドサッ

 

側で見ていた少女が突然倒れた事に驚く男。彼女の側に寄り、起こさんと触れようとしたその時、その手を払われた

 

《ククク・・・クククク》

 

先のか細い声とは全く異質の不気味な笑い声。少女はゆらりとその体を起こす

 

ゾクリと背筋に寒気を感じる。暑くもないのに顔から大量の汗が流れる。理由は分からない、が逃げろ。と、危機を男は感じとった

 

その時、男は少女と目が合う。怪しげに嗤っている彼女の瞳は、鮮血の様な真紅に染まっていた

 

「」ニタァ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

少女は目を覚ました。いつの間にか寝ていた様だ

 

身体を起こして辺りを見回して、自分はお祓いに来たことを思い出していく。神棚の下には先の宮司が倒れていた

 

「だ、大丈夫、ですか・・・?」

 

彼女は倒れている男を軽く揺さぶり起こす

 

「う・・・あ、ひぁっ、ああああ!?」

 

意識を取り戻した男は少女と目が合った瞬間彼女を押し払った。突然押された少女は後ろに倒れると、男は逃げるように隅まで後ずさる

 

「助けてくれ!俺は祓いなんてできない唯の坊主なんだ!騙して悪かった!もうこんな真似は二度としないから!だから、命は、命だけはあああ!!」

 

神主なのに坊主かよ、と言うツッコミが入りそうな懇願だ

 

恐ろしい化け物でも見るかのような怯えた様子で無様に少女に命乞いをする男。それを見て少女は何も言わず、部屋から出て行った

 

 

………………

 

 

私は朱主 沙希(あけす さき)。この春から駒王学園に通うことになったごく普通の女子高生―――ではないや。ごく普通と言うのが当てはまらない

 

「はぁー。今日もダメだったか・・・」

 

成果が出ず、神社を出て私は溜息をつく

 

私には人と明らかに違う物を持っている。それは決して、超能力や魔法が使えるだとか、異世界出身だとか、妖怪の血を引いてるだとかそういったものではない

 

《ハッ!俺を祓おうなんて無駄だよ無駄無駄》

 

頭の中に一人の声が響く。これだ。これが私が普通ではない要因だ

 

霊視―――幼い頃から私には幽霊と言うものが見えていた。しかも、ただ見えるだけならいざ知らず、あろう事か私は憑かれやすい体質だったらしい。昔は雑霊が間違えて入ってきたとか、さほど問題になるような事ではなかったのだけれど、つい先月、高校へ通うため一人暮らしを始めた途端、私はこの悪霊に憑かれてしまったのだ

 

当然それを快しと思っていない私は、休日は宮司、神官、霊能力者等を探して、悪霊のお祓いに勤しんでいる

 

しかし結果は今日の通り惨敗。これで通算7敗目だ。まぁ殆どが彼に恐れてボロを出した偽物だったけど

 

《いい加減無駄骨って分かっただろ?諦めて俺に協力しろよ》

 

姿は見えないけど、踏ん反り返って威張っているだろう

 

悪霊の中には、金持ちにしてやるとか、モテモテだよ?とか甘い言葉で油断させて完全に乗っ取ったり、憑き殺そうと画策する輩もいる。けど、これは・・・ただの馬鹿?

 

《こいつ馬鹿か?と思ってるな?俺は約束は決して破らねぇ!協力した暁には望みを一つ叶えてやるよ》

 

「えっと・・・なんでも叶えられるのであれば、自分の悩みも解決できるのでは?」

 

《・・・》

 

ふと無言になった

 

《良いから手伝えや!》

 

えー!いきなりキレられた!

 

「その・・・、如何にも怪しい人の言う事は信用するなって親から言われているので・・・」

 

《怪しいとはなんだ!そもそも!俺様は人じゃねぇ》

 

まぁ幽霊ですし

 

《いやそうじゃねぇよ。聞くがいい。俺様は神だ。それも・・・死神だ》

 

「死・・神・・?」

 

死神―――生命の死を司るとされる神様。人間に死期を知らせたり、死者の魂を回収する者を指す

 

「・・・」

 

《あん?信じてねぇな?》

 

確かに信じられない。幽霊という存在を長年かけて、最近になってようやく呑み込んだ私に、今度は死神を信じろというのはなかなかの無茶ぶりであろう。今の私には神だとか言って威張っている小物臭漂う幽霊としか思えない

 

《顔に似合わず口の悪い嬢ちゃんだな・・・。あー分かったよ。そこまで言うなら証拠見してやんよ》

 

証拠ってなんだろう?名前を書いたら死んでしまうノートとか

 

《それはないが・・・とりあえず、街の方へ行け》

 

死神である証拠と言って死神を名乗る悪霊は私を外へと誘導していく。言われたままに歩かされ、気がつけば駅の近く、人々の賑わう声が聞こえてくる

 

《・・・お!丁度いい所に。オイ、今すぐあの公園にはいれ》

 

呼び止めた場所は、中央の噴水が有名な自然公園だ

 

《あれを見な。あの噴水の方だ》

 

悪霊に促され噴中に入る。ピークを過ぎたというのにまだ残っている桜の花びらが地面に敷かれ、まだ春を感じさせている。そのまま奥に進み、公園のシンボルともいえる噴水を見てると、二人の男女がいた。

 

一人はなんと、学園のブラックリスト、駒王のおっぱい魔人、と(悪い意味で)有名な兵藤一誠先輩。その隣にはとても綺麗なお姉さんが座っている。まさか彼女さん!?

 

驚きだった。友人曰く変態の代名詞と言われている兵藤先輩を好きになる人がいるなんて・・・きっと明日には学園は大騒ぎなのではないだろうか?

 

《さて、俺様には人の死期が分かるなんていうのはいかにも・・・あの男―――兵藤一誠か。あれ、これから死ぬぜ?》

 

突然の言葉に反応ができない。兵藤先輩が死ぬ?友人曰く、『ゴキブリ以上にしぶとい男』の彼が?

 

何の冗談を言ってるんだろうか?遠くから見た感じですと、雰囲気も好調、今にもキスのシーンに入るのではないかというほどにではないでしょうか?とてもこれから死ぬような展開になるとは思えません。

 

むしろ、ここにいる私がこれからこの甘い酸っぱい雰囲気を壊してしまわないだろうか?こんなデバガメみたいな真似をしている私、バレたらどうなってしまうのでしょうか―――

 

この時、『兵藤一誠に捕まったら何をされるか分からない』とクラスメートの冗談めいた警告を思い出した。見つかったら私は何をされるのだろうか?とにかくここは見つかる前に早々にこの場を離れようと足を半歩後ずさる

 

《おっと、今は動かない方が良いぜ?》

 

「え・・・?」

 

ふと頭に語りかけてくる悪霊。いきなりの忠告に足が立ち止まった

 

その時でした。兵藤先輩の隣にいたお姉さんの背中に羽が生えました。何言ってるのって自分でも思っているけど、比喩でも冗談でもなく、本当に羽が生えてます。烏みたいな真っ黒な羽。何、あれ・・・

 

そして次の瞬間、お姉さんは槍のような光輝く物体を兵藤先輩の腹に刺した。兵藤先輩はお腹から大量の血を流しながら地面に倒れ伏して、瞬く間に兵藤先輩の周りに血の海が広がっていく。その様子をお姉さんは何か呟くと空へと飛んで行ってしまいました

 

そんな衝撃的な一部始終を見た私は公園から走って逃げていました。一言も発さず、無我夢中で走ったのだと思います。余りにも非現実で衝撃的だった出来事から逃げるために

 

気がついた頃には、私は自分の部屋のベッドの上にいた

 

《つーことで、信じてくれるよな?》

 

「・・・」

 

《おい?》

 

「・・・さっきのが夢じゃないのなら、あの女の人は何なの?いきなり真っ黒な羽が生えるし、と思ったら光り輝く槍で兵藤先輩殺しちゃうし!・・・あ!兵藤先輩そのままじゃない!?ああどうしよう!もしかしてこれって私警察に行くべきなの!?いやでも『翼の生えた女の人に殺された』なんて言っても信じてもらえるわけ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《・・・落ち着いたか?》

 

「・・・はい」

 

取り乱しました。突飛な話と衝撃的場面で混乱してました。ゆっくりと深呼吸をし、落ち着きを取り戻した

 

さて、さっきのが幻覚でも白昼夢でもなく歴とした現実なら、兵藤先輩は死んでしまった。きっと明日のニュースで報道されるだろう

 

この悪霊、いや死神の言っている事が事実と証明するに値するだろう。死期が読めるというのも如何にも死神らしい能力だ。しかし、なぜそんなものが私に取り憑いているのだろうか?

 

「もしかして私ももうすぐ死ぬのですか!?」

 

ああ、なんてことでしょう。齢16という若さで死んでしまうのか、私は。美しい青春も、甘酸っぱい恋の一つもせず・・・

 

《悲しんでるところ悪いが、今の俺にお前の魂取れるほど力はねぇ。っていうか、取りに行けないんだよ》

 

「・・・へ?」

 

―――――

 ―――

  ―

 

《俺がちょ~っと仕事でへましただけだってのに、コキュートスに放り込みやがってよぉ。大体あの骸骨爺、陰険なプルートやヘルメースのキザ野郎ばっか贔屓にしやがって・・・》

 

「つまり、貴方の肉体はそのコキュートスって場所にあるってこと?」

 

《そ。氷点下ぶっちぎってやがるから俺様の本体は氷漬けマンモスちゃん状態。凍ったバナナで釘が打てるんじゃなくて、凍ったバナナが釘と一緒に砕け散るレベル》

 

「それで、動けない状態から何とかするために身体から脱け出して、転々と色んなものにとり憑いて、そして今度は私に・・・」

 

《ま、そんなところだな》

 

またしても暴走仕掛けた私に、死神は事の経緯を語った。それを簡単に纏めると、

 

冥府という所で死神の一人として働いてた彼は、ある日、仕事で大きな失敗をした上、上司の逆鱗に触れてしまい、コキュートスとよばれる牢獄に放り込まれた。それをなんとかするために精神を身体から離脱し、出るために色んな人や物に憑いては脱走せんと画策している

 

とのことらしい

 

《以上。他に何か聞きたいことはあるか?》

 

「ねぇ、死神さん」

 

「タナトスだ」

 

「タナトス、さん。あの女の人は、何者なんですか?」

 

素朴な疑問だった。人に見えて明らかに人ではないことをしたあの女性はなんなのか

 

《あの女か。あれは堕天使だ》

 

「だ、堕天使?」

 

《欲に溺れて堕落したり、問題起こして天界から追い出された元天使。俺から言わせてみればただの烏だな》

 

タナトスの言いよう。確かに、神様と天使だったら神様の方が上だろうけど・・・

 

しかし悪霊、死神と来て今度は堕天使か。・・・まるっきりファンタジーの世界じゃないですか。ひょっとしたら妖精やドラゴンなんかも案外いるのではないだろうか

 

《いるぜ?》

 

「いるの!?」

 

っていうかさらっと私の心を読んだ?

 

《そりゃお前に取り憑いているからな》

 

という事は私が考えている事は全部筒抜けなんですね。普段の日常の事とか。は、恥ずかしい悩みとか・・・

 

《豊胸ぐらいで悩むもんか?お前ぐらいなら普通だと思うが》

 

余計なお世話です!

 

デリカシーのない死神だと溜息を吐くとふと疑問が湧いた

 

「・・・でもなんで、そんなのが兵藤先輩を?」

 

そう。そんな大層な人外がなぜ彼を殺したのだろうか?誰かに頼まれた?実は神様から嫌われていた?

 

―――ハッ!もしかしてあの人も―――

 

 

 

『クッ!おのれ、人間が・・・!』

 

『ゲヘヘヘ・・・さぁ、俺と一緒に楽しいことをしようぜ』

 

 

兵藤先輩に何か辱めなことをされて・・・((((;゚Д゚))))

 

《いや、あれは多分神器(セイクリッド・ギア)持ちだからだろう》

 

「・・・セイクリッド、ギア・・・?」

 

《神器。聖書の神が人間に与えた異能の力ってやつだ》

 

「そんなものが・・・」

 

《あの坊主も中々の上物を持っていたしな。だが、坊主自身は気づいてすらいなかっただろうがな》

 

先輩からすれば理由もわからずに殺されてしまったってことか。そう考えると、いくらブラックリストと呼ばれている彼でも、可哀想だと思った

 

《他人事みたいに言ってるが、お前も持ってるぞ?》

 

「え!?」

 

私にもそんな選ばれた者のような物を!?

 

《あーでも、まだ使えないようだな。これじゃあ宝の持ち腐れってやつだな》

 

神器は使えない。でも持ってるから堕天使には命を狙われる・・・少し前の出来事を思い出し、背筋がゾクリとした

 

取り敢えず今日はもう寝よう。色々とありすぎて、頭が痛い

 

先を考えることを放棄して、私はベッドに潜り込んだ

 

 

………………

 

 

翌朝、私は目が覚めた。ああ、なんて清々しい朝、まるで長い夢を見ていたような―――

 

《オスオース!やっと目が覚めたか、神器持ちの嬢ちゃん》

 

「夢じゃ、なかった・・・」

 

一瞬にして現実に叩きつけられ、気が沈む

 

とはいえ今日は月曜日。学校に行かなくては

 

まだ真新しい制服に袖を通し、トースト1枚を食して家を出る。既に玄関には私の友達、淡い青色の髪を靡かせる元気な女の子、諌崎 恵美香(いさざき えみか)が待っていた

 

「オッハロー!」

 

「おはよう、恵美香」

 

「やっぱりこの学園選んで良かったよね。制服は可愛いし、綺麗な御姉様もいるし、そして木場様もいるし!」

 

道すがらの会話で目を燦めかせうっとりする恵美香。私の友人は学園の王子様にご執心みたいです

 

会話をしてるうちに校門迄来ていた私達。周りにはワイワイと同じ様に登校する生徒達

 

なんでもない平凡な日常だけど、今の私にはそれがとても心地良い。まるで、昨日のあれがうそみた・・・い・・・?

 

ドサッ

 

「沙希?」

 

「あ、あ、あ・・・!」

 

鞄を落としてしまった私に呼びかける恵美香。私が鞄を落としたのは、別に転んだわけでも、捨てたわけでもない。驚くべきものを見てしまい、手からこぼれてしまったから

 

その見開いた私の目には、学園のブラックリスト、兵藤一誠先輩がいたのだから

 

昨日、堕天使とかいう羽生えた変なお姉さんに殺されたはずの先輩。だが今私の目の前で欠伸をしながら平然と登校している

 

「あー、兵藤先輩か。見てくれは悪くはないんだけど、やっぱり変態はダメよね」

 

呆れた顔で恵美香は兵藤先輩に対し辛口評価を述べるが私はそんなものは聞ける状態じゃなかった

 

なんでいるの!?夢?幻覚!?それとも本当は死んでいなかったとか!

 

《落ち着きな、嬢ちゃん》

 

これが落ち着いていられると!?つい昨日死んだはずの人間が翌日になってこうも平気な顔して自分の前に現れたのですよ!やっぱり夢だったの!?

 

《だからあいつは一度死んだって》

 

じゃあなんでここにいるの!生き返ったっていうのですか!ゾンビ!?ゾンビなの!?

 

《いや違うな。あれは悪魔だ》

 

「あ、悪魔!?」

 

つい声に出してしまった。突然の大声に周りの生徒たちが私に視線を向ける

 

「あ、あ~、言えてる。あの倫理のハゲ山マジで悪魔みたいね。うわ、今日1限ハゲ山じゃない。ホント最悪!」

 

恵美香の言葉に周りの生徒は、ただの悪口か、と去っていった

 

「あ、ありがとう」

 

「良いって。それより、いきなり叫んでビックリしたじゃない。一体何考えてたのよ?」

 

「た、大したこと、ないよ?」

 

「怪しい・・・白状しなさい!」

 

ガバッと後ろから抱きついて私の胸を揉み始めた

 

「ちょ、やめ、人が見てる、から・・・!」

 

再び私に視線が集まった。特に男子が。視界の端で鼻血を出してる人がいた気もします。顔から火が出るほど恥ずかしい!

 

「ほれほれ!YOU言っちゃいなよ?」

 

「わ、分かったから止めてぇ!」

 

 

朝も早くから、少女の叫び声が学園に響き渡っただろう

 

………………

 

 

私は昨日のことを恵美香に白状しました

 

「成る程、兵藤一誠に女の影がねぇ・・・確かにそれは一大事だわ」

 

あくまで死神とか堕天使のことは言ってません。言ったら間違いなく痛い子認定ですから。でも決して間違ってはいません。これは確かに昨日起きたことですので

 

しかし、今度は悪魔。二日目にして悪魔まで出てきちゃったよ!

 

《ま、それだけ人外は身近にいるってわけさ》

 

タナトスとの意思疎通の一方、恵美香に引っ張られて教室に入る

 

「オッハロー!」

 

「おはようございます」

 

と元気よく挨拶しながら入っていく恵美香の後に続き、私も教室に入る

 

『オハロー、恵美香』

 

『オッス!諌崎』

 

『朱主さんもおはよう』

 

恵美香の登場にクラスのみんなが彼女に挨拶している。入学から僅か2週間、人当たりの良さも相まって、今では彼女はクラスのムードメーカーです

 

「小猫ちゃんもオッハロー!」

 

「お、おはよう、塔城さん」

 

「・・・おはようございます、諌崎さん、朱主さん」

 

彼女は塔城小猫さん。私達のクラスメートです。寡黙でクールを装っているのでしょうけど、体格の小ささや、食べる時の仕草が相まって、学園のマスコットなんて呼ばれているそうです。わたしも、彼女を見てるとお菓子をあげたくなってしまいそうです

 

かく言う私は、特に目立つようなことはなく、皆からは唯の生徒の一人という認識だと思います。でも私はそれでいいのです。二人の様に人を惹きつける物も持っていませんし、目立つのはあまり好きではないので

 

しげきてきなハイスクールライフも良いですけど、ほどほどに、平穏に学校生活を送りたいですから

 

授業開始のチャイムと同時に教師が教室に現れて、今日も私の学校生活が始まった

 

 

………………

 

 

昼休み

 

「初日から思ってたけど、小猫ちゃんってものすごい大食いだよね」

 

「うん。たくさん食べるんだね。と、塔城さん・・・」

 

「はい。食事は身体の資本ですから・・・」

 

もしゃもしゃとあんぱんをかじる小猫さん。彼女の席には購買で売っているパンが、山の如く積もっていた

 

「いやいや、小猫ちゃんは今のロリっ子体系のままが一番はピッタリだよ」

 

ズバッとそれを言うのはどうなんだろうか

 

「それに貧乳はステータスだ!希少価値だ!っていうし。それに今の時代は美乳だよ。ほら、沙希の胸とかさ!」

 

「だから私の胸を揉もうとしないでください!」

 

胸を腕で隠す私にえ~、と不満げな恵美香

 

「・・・別に、胸を大きくしたいとか、そういうつもりではありません」

 

「もう、拗ねてるのも可愛いですなぁ!」

 

プイッとそっぽを向く小猫さんをギュッと抱きしめる恵美香。傍から見ればとても仲の良さそうな光景です

 

「・・・ん?ねぇ、あれって兵藤一誠じゃない?」

 

小猫さんを抱きながら恵美香は窓の向こうを指差す。指した方には兵藤先輩がいた。何か焦った様子で渡り廊下を走り回っていた

 

「ふーむ。これは怪しいねぇ」

 

興味ありげに恵美香は走り去っていく兵藤先輩を観察する

 

・・・悪魔、か

 

幽霊、死神、堕天使、悪魔

 

わずか二日で、漫画の世界のような奇想天外な人外達に出会ってしまった

 

果たしてこの出会いは私の生活に一体どんな影響を及ぼしてしまうのでしょう

 

やはり私は、この学園で普通に青春して、普通に恋をして、そんなありきたりでノーマルな学園生活を送りたいのです

 

しかし、その願いがそう遠くないうちに叶わなくなる事を痛感させられるとは、この時の私は分かるはずもなかったのです

 

一方その間小猫さんは、我関せずと唯ひたすらパンを齧っていました

 

 

………………

 

 

その日の夜、私はテレビのリモコンの電池を切らしていたので、コンビニで買って帰ろうとしていた時だった

 

「ふーん?こんな大人しそうな子が神器持ちか」

 

帰り道で黒のゴスロリ服を身に付け、金髪を両側に束ねた女の子が目の前に現れた

 

「死ぬ人間相手に変だけど・・・初めまして。アタシはミッテルトと申します」

 

お嬢様のようにスカートの裾を持って会釈をする少女。その背中には、真っ黒い翼が

 

神器、黒い翼、死ぬ―――堕天使。そんな言葉の羅列が頭をよぎった

 

《あーらら。短い命だったな、嬢ちゃん》

 

「淡白すぎない!?」

 

仮にも人にとり憑いてるんだから少しぐらい親身になってくれてもいいんじゃないかな!?

 

「なんかゴチャゴチャ言ってるけど、さっさと仕事終わらせて帰ろ。さよなら、お姉さん♪」

 

と、昨日のお姉さんと同じように槍の形をした光の塊を手に、目の前の女の子は私に向けた

 

その時、私の脳裏に浮かんだのは昨日の出来事―――血まみれに倒れた兵藤先輩の姿。その次に浮かんだのは―――

 

「う、わああああああ!!?」

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

 

何も考えもなく、ただその場から逃げるため、私は後ろを向いた

 

まさか次の日になって自分の番が訪れるなんt―――

 

ドスッ!

 

その時、右足に鈍い痛みを感じる。見ると私の太ももに光の塊が突き刺さっていた

 

「―――っつあああ・・っ!!」

 

足に力が入らなくなりその場に倒れ込んだ。刺さったところから真っ赤な血が流れている

 

「ウフフ♪逃げられると思った?」

 

「うあ、あああ・・・」

 

痛い、痛い、痛い!痛みで気が遠くなりそうだ

 

太股から血がだくだくと外へ流れていく。段々と身体が冷たくなっていくのを感じる。意識も霞んできた。・・・ああ、私死ぬんだ

 

《なぁ嬢ちゃん・・・生きたいか?》

 

死の間際になって死神が話しかけてきた

 

「死ぬのは、怖いよ。・・・生きたいよ」

 

《そうかそうかそうだよな?・・・じゃ、取引でもするか?》

 

「取、引・・・?」

 

《何簡単だ。俺と契約すればいいのさ。何、悪魔以上の保証はしてやるぜ?》

 

これ見よがしに餌をぶら下げてきた。それはまるで、禍々しい色のした毒林檎の様だ

 

それを手にすれば、この先碌な事が待っていないことを容易に想像させる

 

毒林檎を食べてこれからを命懸けで生きるか、食べずにここで死を受け入れるか。生と死の天秤が私の目の前で吊るされている

 

生き残るには毒を選ぶしかない。でも、理性がそれを止める

 

葛藤をしてる中、動けない私の前に立った堕天使が、光の槍を振り上げる

 

「じゃあね。恨むのなら、神器を与えた神様を恨むッスよ?」

 

その一言。その言葉に私は動かされた

 

―――神様。神様の悪戯で私は、私の人生は踏み躙られるの・・・?

 

それはあまりに・・・理不尽で、無茶苦茶で、悔しいなと思った私は―――

 

「・・・するよ。だから・・・私に、力を!」

 

毒林檎を齧った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《いいぜ・・・契約、成立だ》

 

薄れ行く意識の中で、私は髑髏の仮面を被った男を見た気がした

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

突如、風が吹き荒れる。突然の突風にミットルテは弾き飛ばされる

 

「ナニコレ。風がいきなり・・・これがあの子の神器?」

 

風は円を描くように集まり、沙希を包んでいた。やがて風が止むと沙希?は棒立ちしていた

 

「《・・・俺様、参上!》」

 

そして某仮面の戦士のようにポーズを唐突に決める沙希?。いつの間にか掛けていた眼鏡は無くなっており、三つ編みは解けて腰まで長い黒髪が夜風に靡いて揺れている

 

「なんかよくわかんないッスけど、とりあえず殺しちゃえば同じッスよね!」

 

再び光の槍を手元に出して少女に投げた

 

沙希?は先ほどの逃げ腰とは大違いに、大きく跳躍して攻撃を避ける

 

「《さてさて、使えるかな?と・・・お!》」

 

沙希の右手から一本の鎌が現れた。鋭い刃が月明かりに照らされ妖しく輝る。禍々しい雰囲気を放つ―――

 

―――草刈用の鎌が

 

「《小っさ!これで刈れんの!?》」

 

「成程、それがアンタの神器っスね。でも―――」

 

堕天使は背中の黒翼をはためかせ、空に上がった

 

「空からなら、届かないっしょ?」

 

光の槍が彼女の周りに多数現れる。彼女がニヤリと笑うと光の集まりが降り注いだ

 

そのうちの一本が沙希?の顔に迫る。しかし彼女が鎌をフッと振るうと、光は形が崩れ、中空に霧散した

 

「うええ!?」

 

「《whew!・・・切れ味は問題ねぇみたい!》」

 

嬉々として鎌をブンブンと振り回す沙希?。予想外に唖然とするミッテルトだが、直ぐに我を取り戻し、二つ三つと光の槍をまた投げた

 

沙希?は小さな鎌を振り回し、飛んでくる槍を器用に捌いた

 

「《ハッハー!テメェに勝ち目はねぇぜ!》」

 

「むー!・・・でも、攻撃ができなきゃアンタに勝ち目は無いっスよ!」

 

「《フン・・・いいだろう。とっておきを見せてやる!》」

 

「と、とっておき!?」

 

力強く主張する沙希?は、手に持った鎌を真上に掲げ、身体を捻ると―――

 

「《おりゃあっ!》」

 

ぶん投げた

 

意外!縦に回転しながら小さな鎌がミッテルトに襲いかかる!

 

「《必殺!トマホークサイズチョップ!》」

 

「・・」サッ

 

「《アッ!?》」

 

・・・しかし、少し横に避けると、鎌は素通りして夜空の彼方へと飛んで行ってしまった

 

「《しまったぁ!俺の鎌がぁぁ!!》」

 

「キャハハ!バカだ!バカがいるっ!」

 

「《ぐぬぬ・・・》」

 

「さてこれで、お終いッス!」

 

ミットルテはとても太い光の槍を脇に抱えて沙希?へと飛び込み始めた

 

突撃してくる堕天使、しかし武器は投げてしまい防ぐ手はなし。万事休す!

 

・・・しかし、この時、彼女?は、

 

「・・・な〜んちゃって」

 

真紅に染まった瞳を細めて、ニタリと不敵な笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ!

 

沙希?の僅か数メートルまで接近して来たミットルテの胸から刃が飛び出した

 

「・・・え?」

 

彼女の背中には先ほど投げた鎌の柄が突き刺さっていた。刃の現れた所から血が噴き出す

 

「《どうやら俺様の鎌は、綺麗に帰ってきたみたいだなぁ?まるでそう、ブーメランみたいに》」

 

「・・・カフッ!」

 

心臓を的確に貫かれたミットルテは血を吐くと、そのまま地面に墜落した

 

「《いやぁ~。こうも分かりやすく正面から突撃してくれるとはなぁ?実に呆気ない結末だよ》」

 

「嘘・・・アタシが、こんな・・・」

 

踏み潰された虫のごとく悶えながら這いずる。それも間も無いうちに動きは弱々しくなり、自分の血に塗れながら彼女は動かなくなった

 

「《さて、記録か。・・・下級堕天使ミットルテ。神器持ちの人間を殺すところを返り討ちにあい死亡、と。こんなもんか》」

 

ミットルテに突き刺さってる鎌を引き抜くとそこから青白い光が漏れる。それを手元に手繰り寄せ、沙希?はそれを懐へしまった

 

処理を終え、沙希?が指を鳴らした途端、ミットルテの身体から炎が噴き出した。揺らめく蒼炎が堕天使の亡骸を燃やし尽くし、炎が消えた頃には道に灰すら残っていなかった

 

「《呆気ない生涯だったな、烏ちゃん》」

 

真っ赤な帰り血で汚れた沙希?は振り返り、闇夜へと消えていった

 

 

………………

 

 

翌朝、気が付けば私はベッドの上にいた。昨夜の記憶が全くない。血生臭い匂いが鼻を刺激した

 

「昨日のことが途中から思い出せないんですけど」

 

《取り敢えず、あの堕天使は死んだぞ》

 

「し、死んだ?!」

 

《俺様がこう、プチっとな》

 

まるでアリを踏み潰すような言い方です。あの堕天使の子には申し訳ないけれど、これで安心、なのかな?

 

《全然だな。むしろ、神器使いに殺されたことを知った仲間たちが近い内に一挙に攻めてくると思うぜ》

 

むしろ悪化!?

 

《まぁ気を落とすなって。ほら、新しい朝が来た〜って》

 

「希望の朝・・・なんてないじゃない!」

 

なんて気が重い朝なんでしょう

 

「・・・あとなんか、頭痛い」

 

《そうそう。たった2杯で酔い潰れるなんて、弱い身体だぜ》

 

「人の身体で何やってるんですか!?」

 

「いや、ちょっとキャバクラで可愛いお姉さんとニャンニャンしようとしてただけだよ」

 

キャバクラ!?ニャンニャン!!?

 

《しかし、学生の身体ってのは不便だな。店で門前払いされちまったから側の屋台でやけ酒しちまったよ》

 

「人の身体で勝手にそんなことしないで下さい!」

 

私の猛抗議にタナトスは呆れるように溜息を一つ付いた

 

《勝手だ?オイオイ何言ってんよ。お前、契約しただろうが》

 

「契約・・・」

 

確かに最後の記憶で私はそう言った

 

《そ。内容はお前の望み、【生きるために俺の力を与える】その代わりに、代償として・・・【お前の身体を一時的に借りる】だ。契約書は机の上な》

 

机の上にはさもそれっぽい丸められた羊皮紙が置かれていた。広げるとよく分からない文字が書かれ、右端に血判と拇印が押されていた。拇印はたぶん私のだろう

 

昨夜持ちかけてきた死神との契約。今こうして生きていられたとはいえ、契約するんじゃなかったと思う私がここにいる。数年の間の我慢とはいえ、私の精神は果たして何年持つだろうか・・・

 

《あ、契約期間は100年な》

 

え、一生!!?一生憑き纏われるの私!!?

 

《ま、しばらくよろしくな、嬢ちゃん》

 

二ヒヒと嗤う死神に、私は頭を抱える他なかった




最近こっちで書いてばかりの駄作者ですいません


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