ある可能性の劇場   作:シュレディンガーの熊

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スランプって次へ進まない本編に逃避してたら書き上げた続きです


そこは異世界ですか? 2話

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだ、クソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだったぞ。これなら石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

「・・・いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう、身勝手な人ね」

 

湖の側にて、はるか上空から湖へと着水し、ずぶ濡れ状態の3人の少年少女と1匹の猫

 

岸に上がった各々は濡れた服装を軽く絞って乾かしていく

 

「で、まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。オマエたちにもあのへんな手紙が?」

 

「そうだけど、まずは<オマエ>って呼び方訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴方は?」

 

「春日部耀。以下同文」

 

「それで野蛮で狂暴そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介ありがとよ。見たまんま野蛮で狂暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義者と三拍子そろった駄目人間なので、用法と容量を守ったうえで適切な態度で接してくれよお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

三者三様に自己紹介を終える

 

「ここが何処かってのも気になるところだが、さっき別の方に飛ばされた奴を探しに行く方が先か?」

 

「そうね。と言っても、生きていないかもしれないけれど」

 

「生死は不明」

 

3人はほんの少し前の出来事を思い出す。彼等と同様に空中に投げ出されるも、思わぬアクシデントによってはぐれてしまった一人の少年

 

「確か、あっちの方角に飛んで行ったはずだ」

 

「うん。ガメラのように回転しながら飛んでった」

 

「・・・二人とも良く見えたわね」

 

「かくれんぼは負けなしなんでな」

 

「目はいい方」

 

最後の一人を探しに森へと入る。しばらく進み、落下したであろう位置に辿り着く3人。彼らの目に映ったのは・・・

 

「うきゅ〜・・・」 「」チーン

 

胸元を強調させたエロチックな衣装を着たウサ耳少女と、その上に、隠すものなど一切ない真っ裸の少年とが重なり合った状態で気絶していた

 

「・・・う、う〜ん・・・」

 

ここで女の子の方が意識を取り戻す

 

「・・・はて、なぜ黒ウサギは気を失っていたのでしょうか?確か召喚された方を観察しようとして・・・って、ここここれは!?///」

 

先ず目に入ったのは自分の上に乗った裸の少年。その様子は正に寝込みを襲われたかのような

 

「一体いつの間にこのような変態さんが黒ウサギの上にいるのですか!!?これはもしかして黒ウサギの貞操の危機・・・―――ハッ!?」

 

ここに来て、自分に向けられている三人の視線に気付く

 

「ヤハハハ・・・何か面白ぇ有様だな?」

 

「破廉恥極まりないわね」

 

「お邪魔だった?」

 

 

 

 

 

「・・・ち、違うんですぅぅぅぅぅぅっっ!!!」

 

黒ウサギの絶叫が森に木霊した

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

しばらくして、少年――相川歩は目を覚ました

 

「・・・あれ?ここは・・・」

 

「あ、どうやら目が覚めたようです!」

 

・・・わお・・・

 

目を覚ますと見知らぬ天井ではなく、見知らぬデカメロン

 

俺の知りうる吸血忍者達といい勝負であろう特大サイズを目前に突き付けられ、思わず息を飲んだ

 

体を起こすとそこは見慣れた自分の部屋ではなく、バカに広い湖と深い森というファンタジーな風景だ

 

「あら、貴方生きていたのね」

 

「びっくり」

 

「えと・・・どちら様?」

 

「そういうのは、自分が先に名乗るのが礼儀ではないかしら?」

 

いかにもお嬢様な女の子が目を細めていった

 

「・・・あ、はい。相川歩です」

 

「そう、久遠飛鳥よ。よろしくね、歩君」

 

ドレスを身に纏う女の子は微笑む

 

「春日部耀。こっちは三毛猫」

 

「で、俺は逆廻十六夜だ。よろしくな変態」

 

出会って早々変態扱いされた!

 

ニャーと鳴く猫を抱えた少女は簡素に淡々と、いかにも不良な見た目の少年は不敵な笑みを浮かべて名を名乗った

 

今周りにいる人は見覚えのない・・・いや、さっき空で見た人達だ

 

・・・ってことは、夢じゃ無かったのか

 

不思議の手紙を開けたら不思議な世界へご招待

 

生来、いや死来割とハチャメチャな日常を送っていたけど、まさかここまで露骨なファンタジーワールドに放り込まれるとは思わなかった

 

「さて、コイツも目を覚ましたし、いい加減説明してもらおうか?黒ウサギ」

 

黒ウサギと呼ばれる女の子、その名の通りバニーガールを彷彿とさせる恰好をした彼女は話を始めた

 

「そうですね。これ以上待たせてまた黒ウサギの素敵耳を弄られるのは勘弁願いたいですし・・・・さて。改めましてようこそ、《箱庭の世界》へ! 我々は貴方がたにギフトを与えられた者達だけが参加できる【ギフトゲーム】への参加資格をプレゼントさせていただこうかと思いまして、この世界にご招待いたしました!」

 

箱庭、ギフトゲーム

 

手紙の文面にもそう書かれていたことを思い出す。差出人はこの女の子だったのか

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです! 既にお気付きかもしれませんが、貴方がたは皆、普通の人間ではありません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた《恩恵》でございます。【ギフトゲーム】はその《恩恵》を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございます!」

 

黒ウサギは両手いっぱいに広げこの箱庭の世界をアピールした

 

確かに、ゾンビである俺は、世間一般でいう普通の人間ではないな。だからここに呼ばれたのだろう

 

それから、黒ウサギと三人の少年少女による問答を繰り返しながらこの世界について理解していった

 

そして、最後の質問とばかりに十六夜が黒ウサギに声をかけた

 

「・・・この世界は面白いか?」

 

「YES!ギフトゲームは人を超えたものだけが参加できる神魔の遊戯、外の世界より格段に楽しめると黒ウサギが保障いたします♪」

 

その言葉に十六夜は嬉しそうに笑った

 

「・・・えーと、黒ウサギさん?」

 

「はい、相川さんも何か質問がございますのでしょうか?」

 

と、黒ウサギは俺に聞いてきた

 

「えと・・・今すぐ元の世界に帰れるか?」

 

自分で手紙を開けてしまったとはいえ、不本意にこの世界に来てしまったんだ。それに、アイツらが買い物から帰ってくる前に作りかけの晩飯を終えないといかん

 

「えっ―――」

 

俺の質問に対しての黒ウサギの凍った反応に、嫌な予感がひしひしと沸いてきた

 

「あ~・・・そうですか、帰りたいんですか。でもせっかくここまで来たのですから少し遊んでから帰るっていうのもいいんじゃないでしょうか?」

 

「悪いけど興味ないんだ」

 

「そうおっしゃらずに!ひとえにゲームと言いましても、決闘や迷宮探査、ナマコ拾いなどいろいろありますので!」

 

ナマコ拾いって何それ!?逆にやってみたい!・・・じゃない

 

彼女の言動はとても引っかかる

 

これまで数多くの難敵の策略に嵌められてきた俺にとって、彼女が話を誤魔化そうとしている体であることはとても分かり易かった

 

「・・・なぁ、アンタの目的ってのは何だ?」

 

「ドキッ!」

 

うわ、口で『ドキッ』言っちゃったよこの人

 

「あ、あの御三人様、黒ウサギは相川さんとちょっとお話をしてきますのでほんの少しお待ちください」アハハ

 

後ろからグイグイと背中を押されて、俺は森の茂みの方へと連れ込まれた

 

「・・・それで、アンタの目的は?」

 

「そそそれは、皆さんをこの世界でオモシロオカシイ生活を過ごしてもらおうと・・・・」

 

「・・・違うな。アンタは間違いなく何かを隠している。わざわざこんなところに俺だけを連れていくのが何よりだ」

 

「な、なんという初歩的なミスを・・・」

 

俺はここまでの会話の様子からある一つの推論を割り出す

 

一般人を越えた力を持つであろう俺達を呼んだのは、危機状態にある自分たちのコミュニティを強化する為。しかもその状態は、俺達に同意を致し兼ねるほどひどい有様なんだろう

 

そう告げると黒ウサギは硬直した。どうやら当たっているようだ

 

「話を聞かせてもらえるか?」

 

「・・・分かりました」

 

観念した黒ウサギは告白した

 

『ノーネーム』と呼ばれる、名も旗印も無くした自分たちのコミュニティの現状、そしてそれを奪った魔王という存在

 

魔王なんていうラスボスじみた存在を聞かされた俺の脳内には、大先生やネネさん、クリスに女王とマジもんのラスボスたちを浮かべた。あながち間違っていないと思う

 

「騙していたことは謝罪します。この箱庭にも、異次元世界を渡航するギフトもおそらく存在するので、それを用いれば元の世界へ帰ることもたぶん可能だと思います!それが手に入るまでの間でも構いません!ですから!」

 

どうか私達のコミュニティに入ってください!

 

黒ウサギは深々と頭を下げる

 

今帰る手段がない以上、しばらくは見知らぬこの世界にいることになる。それに、ここまで頼まれたら断れない

 

「・・・分かった。帰る手段が見つかるまで、俺で良ければ手伝うよ」

 

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒ウサギとのお話を終え、三人ところへ戻る最中

 

いきなり連れてこられた異界の地、そして帰る手段がない、なんて小説なんかでお約束の展開に、俺は目を閉じた

 

昔そんな冒険物語を愛読していた時期もあっただろうけど、まさか自分がそうなるなんてな・・・。まぁ今迄もそれ以上に冒険していたけど

 

兎にも角にも、こうして主人公気分を味わうことになった俺は、ファンタジー物語の主人公たちと同様に、困っている女の子を助けることになった


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