今も続いてる某ゲームのキャラたちが冬木市へ・・・
真っ黒の艶のある綺麗な黒髪をツインテールに結いた少女は地下の工房の時計を確認する。その床には複雑な術式が描かれている。
少女―――遠坂凛は手を術式に掲げ、深呼吸する。そして、発し始める
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」
第一節を紡ぐ。静かに、しかし闇の中には映える光が魔方陣を源として発生する。凛はそれを見て少し安心した。そして詠唱を続ける。
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。」
淡かった光は詠唱に応じて次第に強さを増してゆく。もう止めることは出来ない、後戻りはできないのだ
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。」
最後まで気を抜いてはならない。遠坂の一族であるなら尚のこと。一族の特殊な遺伝に危惧して凛は一心に唱え続ける
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」
それが引き金となり、眩い光に包まれた。あまりの眩しさに両腕で目を庇うが、それでも眩しかった。光だけではない。それは現象のひとつに過ぎず、魔方陣からは強風が吹き出、辺りの物を吹き飛ばす。
そして彼女の左手には魔力の共有をする経路パス|が、確かに繋がっていた。そのせいか、少し身体に気だるさがある。しかし、それが紛れもなく英霊召喚に成功したということを証明していた。
穏やかになる光。立ち込める煙が徐々に薄れ、魔方陣の上にサーヴァントが現れる―――はずだった
「あ、あれ・・・?」
あれだけの風が魔法陣の上で起こったのだ。てっきり、魔法陣の上に立っているのではないかと思っていたサーヴァントは、一切姿が見えない。
「おっかしいわね・・・」
もしかしたら、数分ほどしてから現れるのかもしれない。そう思いながら、魔法陣の前に体育座りで待機する。
それから―――5分、10分、20分
―――30分
「・・・お・・・遅ーーーーい!!!」
いくら待てども、一切その姿が現れない。呼び出したはずの従者が、英霊が、どこにもいない
なぜ?儀式の失敗か?いやそんなはずはない。魔術回路は確かにどこかへと繋がっている。きっとどこかに隠れているんだ、そうに違いない
思うやいなや即行動と凛はサーヴァントを探さんと地下室を出る。そこで気がついた。この屋敷に誰かがいると
両親は幼き頃に他界し、この屋敷には自分一人で生活していた。加えて、敵に備えて周囲に張り巡らせた外敵の侵入探知には誰も引っかかっていない。ならこの今屋敷内にいるのは誰か?答えは決まっている
「そこにいたのね!」
私のサーヴァント!身を乗り出すような勢いで何者かのいるリビングに飛び込むとそこには―――
モグモグ、ペラリ
「ふむふむ」
おっさんがいた
青のストライプパンツ、ど真ん中に『おでん』と書かれた白い半袖のシャツ、クセの強い茶髪、昔ながらの泥棒の様な口髭、古めかしい丸眼鏡。英雄の様な気品さや気高さどころか、家に不法侵入した浮浪者の方が納得のいく見た目のおっさんが、ソファに寝そべって漫画を読んでいた
「・・・サーヴァント?」
「んん?あぁ、お嬢さんが僕を召んだのかな?」
漫画を置くとソファを降りて凛の前にチョコチョコと近づいた
「初めまして。僕を喚んだマスターと云うのは君かな?」
やはりこのおっさんが私のサーヴァントで間違いない様だ
「そ、そんな・・・」
こんなのが私の従者とは。変えられる物なら是非変えたい。然し聖杯戦争のルール上変更は至難な上、新たなサーヴァントを喚ぶための儀式を組む余裕も既になかった
という事は必然的にこのおっさんと聖杯戦争を戦わなければならないという事になる
一族の悲願たる聖杯を手に入れるため意気込んだというのに、『いざという時にうっかり失敗する』遠坂の血筋を心底恨めしく思う
「まぁ落ち着いてこれでも食べなよ」
と言っておっさんは食べかけていたポテトチップスの袋を凛に差し出す
落ち着くも何も原因はアンタにあるのよ!
差し出されたポテトチップスを払いのけ怒鳴り出す。英霊なのか疑わしい目の前のおっさんに怒鳴り散らす姿は優雅さの欠片もない醜態に違いない。だが、この遣る瀬無い怒りを何処かにぶつけないと壊れてしまいそうだ。そんな言い訳を胸に凛は己のサーヴァントに怒りを向ける
「大体アンタは何者なのよ!」
「そういえば自己紹介が未だだった?」
眼鏡が光った様な気がした。おっさんは手を腰に当てると、胸を張り背を後ろにそらすーー所謂偉そうなポーズをすると言葉を紡いだ
「僕の名はオーディン。ヴァルハラで主神をやってます」
凛が主神の言葉を耳にし、理解し、数度の反芻を経て、大仰な反応をするのは30秒後の事であった
とある家屋にて、1人の少年がサーヴァントの召喚を果たしたのだ。然しサーヴァントの出現に対して少年の反応は、呼び出せたことへの歓喜でも想定以下のサーヴァントである事に対する失望でもない
驚愕だった。その少年―――衛宮士郎は魔術師としての修行を殆ど受けておらず、云わば最低クラスの魔術師だ。聖杯戦争はおろか魔術師としての知識をほぼ知らないのだ
この日彼は蔵の整理途中に手を切り、蔵の床に描かれていた魔方陣に
「女の子・・・」
「む?ここはどこだ?フレイヤ様は?・・・! 頭の中に何何かが入って。・・・そこの少年、君が私を呼び出したマスターという奴だな?」
「マスター?」
「・・・どうも君は私よりも事情を知らない様だな。私の事はそうだな・・・
こうして正義の味方を志す未熟な魔術師は正義を貫くひよっこ戦乙女と共に聖杯戦争へと足を踏み込んでいく
御三家の一つ、間桐の子息である間桐慎二は目の前の変人?を前に突っ込まずにはいられなかった
「おいおいおい!どういうことだよ!呼び出したのは『ライダー』のはずなんだよな!?」
「ええ。私のクラスは『ライダー』でございます。慎二殿」
ほんの5分前の話、召喚の儀式が終わったにも関わらず、未だに出てこない義妹や蟲爺に腹が立った慎二は、蟲蔵の戸を叩こうとしたその時戸がバンと力強く開くと義妹である桜が飛び出てきた。その青くなった顔つきはまるで何か恐ろしい物から逃げているかの様に怯えていた
パニックに陥っている桜から話をよく聞けなかったがとんでもないサーヴァントを召還したのだろう。慎二が恐る恐る蟲蔵を覗くとそこにいたのは、黒いスーツを着た馬面の男---いや、これだと語弊を産むだろう。そこにいたのは首から先が馬の化物だった。その傍にはさっきまで燃えていたのか、黒ずんだ何かが黒煙と共に焦げ臭い匂いを発していた
ふと化物と目が合う慎二。馬は真正面を向くと恭しく頭を下げた。そこで思わず何者かと問う慎二は間違っていない。そして冒頭に至る
「じゃあなんでお前が出てくるんだよ!お前どう見ても騎手じゃなく騎獣の方じゃないか!」
騎獣だとしてもこんなのに乗りたくはない、桜はそう思った
「ご安心を。これでもわたくしは紳士ですゆえ。この神獣スレイプニル、慎二殿を安全かつ早急に何処へなりとも送り届け致します。ですので、鞭を!私のお尻に鞭をビシッと!!」
「どこの変態紳士だよ!寄るな!気持ち悪い!」
ハァハァと息を荒げながら泣き喚くワカメを追いかける馬男。その光景は正に
『うふふ。明日は先輩に何を作ってあげようかな?』
桜は現実逃避をすることにした
冬木市の片隅にある古城、そこは御三家の一つアインツベルンの拠点である。その夜、城の離れにある小屋の地下室でイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは聖杯戦争の為にサーヴァントを召喚した。触媒にはアインツベルンから送られた神殿の礎から切り出した巨大な斧剣、つまりヘラクレスを呼び出さんとしていた
バーサーカーの為の一節を加え、唱え終えたその時、雷が直撃した
城周辺から光が消えたその一瞬、唯一光が残された魔方陣から強風と共に白き雷が走り出した。そして契約者たるイリヤまでも包み込んだ光が収まると魔方陣の中心に人影が現れた。城に再び明かりが灯されるとその人影の全身が彼女らの双眸に映し出される。僅かな光に照らされたのは雷のごとく輝く金の髪、2mを優に超える筋肉隆々の大男がブーメランパンツ一丁で立っていた
「あ、貴方がバーサーカー・・・ヘラクレスなの・・・?」
「ヘラクレス君?確かに彼も僕に劣らない良い筋肉を持っているけれど、上腕二頭筋は僕の方が自信があるよ」
イリヤの問いに大男は謎の返答をすると証明といわんばかりにダブルバイセップスを披露する
話が通じていない。バーサーカークラスだからだろうか、狂化によって知性が欠如しているのだろう。兎に角筋肉に対する主張が激しいバーサーカーとの、時折筋トレを挟みながらの会話の末、彼がヘラクレスではないことだけは分かったのは30分後の事であった
「あーどうしようかしら」
美と愛と豊穣の女神フレイヤは夜道を彷徨っていた
ほんの数十分前までアースガルドでいつもの如く、仕事をサボって遊んでいたオーディンに殴りかかったと思ったら突然辺りが光に包まれ、気が付いたら見知らぬ部屋の中にいた
突然の転移に困惑していたところに、そこにいた金髪褐色肌の青年が執拗にナンパを仕掛けてきたので工房と呼ばれる場所ごとまとめて一発ぶちのめし・・・いや、ひっぱたいて逃走した
「っていうか、アレが私のマスターってやつだったのね・・・」
外に出たところで事の経緯が脳内に伝わったフレイヤは先ほど殴り飛ばした優男を思い出し、いやそれでもないわ~と切り捨てた
「はぁ。美しいのは罪なのかしらね」
普段ツッコミに回る彼女、次元を超えた異界の地で珍しくボケるが、誰も突っ込んではくれない
聖堂教会の一員にして此度の聖杯戦争の監督役である言峰綺礼は遠くを見つめていた。彼の前には蜂の巣状態と化した礼拝堂が辛うじて残っていた。こうなった事の原因は今教会の外で死闘を繰り広げている2人のサーヴァントである
数時間前、魔術協会から派遣されてきた聖杯戦争参加者バゼット・フラガ・マクレミッツからサーヴァントを奪い取った。令呪を手ごと切り落とし、虫の息である彼女は捨て置いた。彼女が手にしていた、眠り続けるサーヴァントに目を向ける。それは紅き髪の美青年だった。腰に動物の角と思わしきものを携え、緑のマントを纏う青年は静かに眠っていた。如何にして起こすか考えているとその目は開かれた綺礼にその顔を向ける
「そうか。遂に、遂に僕に出番が!他の皆も居ないってことは、僕が主役ってことだよね?」
青年は目覚めたと思うとキョロキョロと辺りを見回すと突然意気揚々と立ち上がる
「名も知らぬ英霊よ。目覚めて早々だが汝のクラスを伺いたい」
「え、クラス?・・・もしかしてこの配役の事なら・・・アサシンだね。・・・ふふふ、僕のモーションを考えるなら剣士のはずなんだけど暗殺者だなんて、まるで影の薄いという理由だけで選ばれた気がするよ」
でも出番があるだけマシだよね、と彼は笑う。その顔には影が差していた
言峰綺礼はアサシンと名乗る英霊について考える。10年前喚びだした山の翁などでもなく、歴代で呼び出された者とも共通点が見いだせない。つまるところ彼が何者か見当が付かなかった
青年にその名を問おうとしたその時、青年は後ろへ飛び退いた
次の瞬間、青年の頭上から剣、槍、槌、凡ゆる武器が降り注がれた
敵襲か?否。この攻撃は敵のものではない
「綺礼よ。此度の聖杯戦争、実に愉快なことになるぞ?」
全身をこれでもかと言わんばかり黄金に包まれた男が宙から現れた。その背後には歪んだ空間と武器の数々
ウルクの王、英雄の中の英雄、英雄王ギルガメッシュ。10年前の聖杯戦争において受肉を果たしたサーヴァント。綺礼の協力者だ
「王よ、それは一体どういうことですか?」
「何故なら綺礼、貴様は異教の神を呼び出したのだからな。しかも他の英霊も此奴の縁者だ。此度は神話の大戦を再現することになろうぞ綺礼?」
神話の大戦の再現。その言葉が真となるのであれば、冬木の被害は10年前の比ではないだろう。だがそれだけ戦力が高いことを示している。ある程度の神性は落ちていようとその実力は期待できるだろう
「ああ・・・。なんだその煌びやかな衣装!?その目立つような恰好!我とかいう呼称!!そしてその傲慢で不遜な態度!!!まるで・・・まるで君が主役みたいじゃないか!!!!」
青年の周囲からドス黒い瘴気が広がっていく。まるで彼の鬱屈とした心が周囲に影響を与えているみたいだ
「決まっておろう。この世の財総て我の物よ。故に我こそこの世界における主役なのは明白だ!」
「確かに僕の知名度はフレイヤやオーディン様、トール様より圧倒的に低いのは解ってる。それでも数は少なくても僕も成した伝説が、出番があったはずなのに、ことごとくお蔵入りされているのはなぜなんだ!ああそうだそうだね!欲しければやっぱり自分から動くしかないよね!」
青年は腰元に提げていた角を手に取る。見た目こそそこらに生えてるものと大差ないがそこに込められた魔力、神秘性は人の手で計り知れるものではない
彼は豊穣と平和の神フレイ。出番のなさ、空気化に妬み疎み屈折した末、アサシンにありながら低度の神性と狂化を備えた空気サーヴァントがここに誕生したのであった
異教の神―――聖堂教会の崇拝する神と異なる神を手にしたという綺礼の行為は果たして幸か不幸か
「異教の神か。フフフ、ハハハ・・・」
綺礼はただ笑う。そこに込められた感情は誰もわからない
冬木市に集められた7人?の神に等しき者たち。果たしてこれは偶然か、それとも・・・
今、冬木市全土に
「働きたくないでござる」