実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第62話 甲子園 2回戦 VS流星高校 ②

『カーン!』

「…あちゃー!やられた〜!」

 

『ホームイン!

4番であろうと出塁したら盗塁を決め、浅いヒットでホームまで還って来る〜!

これが流星の攻撃です!』

 

2回表、流星の攻撃。

先頭の4番バッターにヒットを打たれ、更に盗塁を許した。

そしてランナーが得点圏に進んだ場面でタイムリーを許し、試合は1-1の同点となっていた。

 

一塁では当然の様に盗塁を狙っているランナーがリード幅を広げていた。

ここで盗塁を許せば完全に流星のペースになる。

単打と盗塁の繰り返しで点を積み重ねられるだろう。

ジャスミン打線にもそれに負けないだけの力はあるとは思うが、乱打戦になったらそれこそ相手の思うつぼだ。

流星は守り勝とうなどとは思っていないから。

そのくせ、選手が俊足揃いで一人ひとりの守備範囲が広いため当人達の意識よりは守りが堅い。

リードを許し、それを僅差まで追い上げたとしてもどこかでチャンスを摘み取られる。

 

…ここがそうなるか、ならないかの分岐点だ

 

俺はここでこの試合初となる牽制のサインを出した。

矢部君からは「無闇に牽制をするのはやめた方がいい」と言われているが、今回に関してはきちんとした『意図』を持ってサインを出していた。

 

『ザッ…』

夏野さんは投手経験者らしく落ち着いた動きで右足を軸に身体を反転させる。

そうして投げられた牽制球は川星さんのミットに収まる。

しかしランナーを刺すまでには至らず、塁審は水平に手を広げた。

 

『セーフ!』

 

(これでいい。()()()()

じゃあ次は…)

 

出されたサインに夏野さんは頷きセットポジションに入る。

そしてそのまま、それまでに比べて長くボールを持った。

 

『……っ!』

そうしている内に一塁ランナーが()れるのを感じると、夏野さんは先程の牽制よりも素早くターンをしてボールを一塁に送った。

 

『ザザッ!』

不意をつかれたランナーは頭からベースへと戻る。

一塁手の川星さんもボールを捕るとミットを真下に振り下ろしアウトを狙う。

判定は…。

 

『…セーフ!』

 

「く〜っ!」

この判定に川星さんは悔しそうに片目を(つぶ)ると天を見上げた。

 

夏野さんもマウンドでそれを見ながら、声には出さないまでも「惜っし〜!」と 口を動かしていた。

それ程際どいタイミングのプレイ。

しかしこれはランナーを褒めるしかない。

 

『ザッ、ザッ、ザッ…!』

 

一塁ランナーは、その程度では臆さないと言わんばかりに再びリード幅を広げていく。

しかしその表情は先程までよりも引き締まり、警戒心が高まったのは明らかだった。

 

「夏野さん、切り替えて!

バッター集中でいこう!」

 

ここで俺はキャッチャーズボックスからそう声をかける。

ランナーに聞こえようが関係ない。

むしろ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

そうしてようやく投じられる、バッターへの1球目。

初回と変わりない、流れるようなクイックにランナーは右足に一瞬グッと力を入れるも、スタートを切りきれない。

 

『ストライク!』

 

ランナーが走らなかったからかバッターは甘いコースへのストレートを見送り、ミットにボールが収まる。

俺はそれと同時に中腰の姿勢のままで右足を下げ、左足の爪先が一塁の方を向くようにステップを踏んだ。

そして、両足を結ぶラインが一直線上になり、軸足に溜めが出来たところでボールを()()()()()()

 

「川星さんっ!!」

 

「はいッス!」

川星さんは呼びかけを聞くとこちらにミットを向けて構える。

 

『っ!?』

『ランナーバック!!』

 

これにはランナー本人、流星ベンチも驚きをみせている。

ランナーは一塁への帰塁を試みるが…。

 

『パシッ!』

「三度目の正直…ッスよ!」

 

『アウト〜!』

 

「やった!

ナイスだよ、瀬尾君!」

 

夏野さんの言葉に手を挙げて応える。

 

…狙いが見事にハマってくれた。

ボールのスピードと持つ時間を変えた2回の牽制球。

そして夏野さんへと注意が集まったところでの素人キャッチャーからの一塁牽制。

1回こっきりしか使えない手だけど、使うならここしかなかった。

 

こうしてランナーのいない状況を作ったジャスミンは、後続を内野ゴロに抑え2回表の守備を終えた。

 

 

『カキーン!』

 

『おおっと!

9番の川星さん、フォークを狙い打ち!

打球が上がります!』

 

フォークをアッパースイングでかち上げた打球はセンター後方へ飛ぶ。

しかし瞬く間に中堅手が追いつき、走りながら長打をもぎ取った。

 

『アウトー!

得点圏にランナーを置いた場面で見事な守備を見せました!

流星高校、やはりと言うべきか、外野陣の守備範囲の広さは折り紙付きです!』

 

これで3アウト。

聖ジャスミンは無得点に終わった。

 

「もーっ!

抜ければ2点タイムリーだったのに〜っ!!

悔しいッス!!」

「あれは相手を褒めるしかないわね。

内容としては申し分ないバッティングだったわよ」

「そーそー!

しょーがないよ、切り替えよー!」

 

「アタシは3回でお役御免だから、みんな頼むよ〜」

夏野さんはそう言うとグラブを右手でバシバシと鳴らしながらマウンドへと向かった。

 

3回表、流星高校の攻撃。

8番から始まる打順。

夏野さんは先頭バッターをサードゴロに打ち取る。

 

「ミヨちゃん、ナイス〜!」

「はいー!」

 

そして打順は流星のキャプテンへと回る。

 

『9番 ピッチャー 阿久津君』

 

「内野安打あるわよ!気をつけましょう!」

セカンドを守る小鷹さんからの呼びかけに内野、そして外野も前進し備える。

 

阿久津は流星の選手の中でもアベレージが低く打力がある選手ではないが、チームで最多の内野安打、そして三盗の数を記録している。

俊足が多いというチームカラーから対戦する内野陣は常に内野安打を警戒し、塁に出ても走らせまいと策を講じてくる中でその成績を残している事。

その結果が阿久津が流星で最速の選手であるという事実を示している。

 

…ここは打ち取りたい。

 

夏野さんが投球動作に入る。

 

『シュッ!』

 

初球は高めに外れるボール球。

阿久津はこの球にバントの構えを見せたがバットを引いて1ボール。

 

(やはり転がそうとしてくるか…。

だったら…)

 

2球目。

投じられたのは縦のカーブ。

浮き上がり落ちるような軌道に阿久津はバントの構えで合わせにいくが、落差に泳がされ打球はラインを切れてファウル。

 

(間髪入れずにいくぞ!)

 

3球目は内角へのストレート。

これがインハイギリギリのナイスコースに決まり、阿久津の寝かせたバットに当てさせない。

これで2ストライク。

 

(スリーバンドを狙ってくるか…?

それともヒッティング?)

 

俺はどちらが狙いでも効果的であろう球種を選択し、夏野さんもこれに頷いた。

 

『シュッ…グググ!』

 

俺達が選んだのはドロップカーブ。

初球にバントを失敗した球種で、1球前のストレートとの緩急も効いているこの球なら大怪我はしない。

 

『カッ!』

阿久津はヒッティングで何とか打球を前に飛ばす。

しかしこれはショート正面へのゴロとなった。

 

「よし…!」

雅ちゃんが捕球体勢に入った、その時。

ボールは土のグラウンドの凹凸に当たり、僅かにイレギュラーする。

 

「こっのぉ…っ!」

雅ちゃんは巧みなグラブ操作でそれをグラブの中に収め、そのまま送球へと移った。

 

通常の打球処理に比べてもロスした時間は短い。

これなら問題なくアウトに出来る。

 

そう思ったところで阿久津はグングンと加速していく。

 

「ランナー速い!!」

 

「くっ…!」

雅ちゃんの手を離れたボールを川星さんが受ける、その一瞬の間に阿久津はベースを駆け抜けた。

 

『セーフ!』

 

「ご、ごめんナッチ!」

「いや、今のはしょうがないっしょ…。

阿久津、足速すぎだよ!?」

 

確かに今の雅ちゃんの守備には問題は何もなかった。

イレギュラーにも焦らず対応したプレイだったが、純粋に走力で上回られたのだ。

 

『これは速い!

ショートへの内野安打です!

この俊足には小山さんの懸命な守備も一歩及ばない〜!』

 

俺はマスクを被り直しながら呟く。

 

「三塁まで行かれる覚悟はしておいた方がいいな…」

 

阿久津はその予想通り、直後の1番バッターへの2球で連続して二盗、三盗を決めた。

もちろんバッテリーとして出来るだけの努力をしたが、それを軽々とくぐり抜けられてしまう。

しかし、1番打者が盗塁を邪魔しないように見送った2球で2ストライクと追い込む事が出来た。

 

(ここで何とかバッターを内野フライか三振に仕留められれば…)

 

ランナーを三塁に置いての3球目。

左バッターへの内角ストレート、ボール球で様子を見る。

 

『バシッ!』

「……」

 

バッターを横目で見る。

スクイズを狙っている気配はない。

ランナーの阿久津も変わった動きはしていない。

…帰塁のスピードはさすがだが。

 

(じゃあ次は…)

 

コクリ。

夏野さんが構えたミットへとボールを投げ込む。

外角へのボール球。

これにバッターはぴくりと反応を見せる。

 

(外の球に食いついた…。

サードがベースに付いて広がった三遊間に流し打つ事を狙っているのか?)

 

転がされた時点で阿久津がホームに還ってくるのは避けられない。

ならばバッターは打ち取れる確率が高く、上手くいけば空振りを取れるボールで攻めよう。

 

そう踏ん切りをつけて出したサインに夏野さんは笑顔を見せる。

それは「ここでその球かぁ〜、燃えるね!」という笑みにも見えたし、「でもミスっても責任取れないよ?」という苦笑にも見えた。

 

どちらの感情なのだろうか。

いや…どちらも含めての表情、というのが正解か。

 

しかし、自分の不安からか夏野さんの顔が引きつっているように見えた。

 

(…こんな事でどうする!

こういう時こそ捕手が投手を励ますんだ!)

 

刹那の間だけ両目を瞑り、小さく頭を振ってから夏野さんの方に視線を向ける。

すると、いつも通り飄々(ひょうひょう)とした…それでいて強靭(つよ)さを秘めた眼でこちらに微笑む夏野さんがそこにいた。

 

(…そうだよね、夏野さん。

よし…いこう!!)

 

俺が構えた内角低めへと夏野さんがボールを投げ込む。

その球は今までのどのボールとも違った。

手の振りに比べて()()()()()()()のだ。

これにバッターは崩れるような形で空振りを奪われ、片膝をついた。

 

『ストライク!バッターアウト!』

 

「ナイスボールだよ!夏野さん!」

 

夏野さんが投げたのはチェンジアップ。

それも、OKボールとも呼ばれ、シンカー気味に沈む『サークルチェンジ』だ。

ドロップカーブに比べ精度が低く、自信がないという事で投げるのは控えていたボールだが…。

その事が逆に『切り札を温存していた』形となり機能した。

 

「それに、俺からしたらそんなに悪いボールには思えなかったしね。

チェンジアップの有用性は俺自身、肌で感じているし」

「それにしたってここで要求する〜?

まったく、瀬尾君は鬼畜だな〜」

 

マウンドでそう言葉を交わした後、俺が守備位置に戻っていく間も夏野さんは「鬼畜、鬼畜〜!」と連呼していた。

キャッチャーズボックスに戻ると、流星の2番打者と目が合った。

 

「……あはは」

気まずさを会釈と苦笑いで切り抜けようとしていたところで、小鷹さんの「はしゃいでんじゃないわよ!集中しなさい!」という怒声が耳に入ってきた。

流星の選手からの気の毒な人を見るような、同情の視線が痛い…。

 

「さあ瀬尾君、切り替えよ〜!」

 

いや、夏野さんのせいだよね!?

 

ゴホン…。

確かに言葉通りではある。

あるのだが……。

()に落ちない気持ちを何とか振り払いながらバッターに対峙する。

そして…。

 

「うりゃっ!」

ストレートとカーブを交え、1ボール2ストライクと追い込んだ4球目。

ここで投じたのもサークルチェンジ。

 

この球に2番バッターも泳がされ打球はセカンドへの飛球となる。

しかしここで『甲子園の魔物』がその片鱗を垣間見せた。

 

「…っ!?」

 

その時、突然球場内に風が吹いた。

それは肌に触れる感覚だけでプレイに悪影響を与えるとすぐに感じる程の強風。

 

そして、その予感は残念ながら当たってしまった。

甲子園特有の、浜風と呼ばれるライトからレフト方向へと流れ込んでくる風が、本来ならイージーである飛球をどんどんと押し流していく。

 

「くっ…!このぉっ!!」

セカンドの小鷹さんはホームに背を向けながらボールを追い、グラブを伸ばして掴み取った。

 

『アウト!』

 

このコールの直後、三塁ランナーの阿久津が動いた。

 

「っ!?

小鷹さん、バックホーム!!」

「なっ…!?

タッチアップ !?」

 

小鷹さんは驚きながらもボールをホームへ送る。

それをホームベース前方でキャッチし、タッチをしようと振り向いた頃には、阿久津はホームへと滑り込み、そして立ち上がるところだった。

 

『セーフ!』

 

セカンドフライでのタッチアップ…。

風の影響でチャンスが生まれたとはいえ、常に狙っていなければ出来るプレイではない。

 

「…やられた」

 

この走塁でジャスミンは1点を勝ち越された。

 

 

『アウト!』

 

3回表、3つ目のアウトをファーストへのファウルフライで奪うと、ジャスミンナインは攻撃に移るためベンチへと戻っていく。

 

「……」

 

どこか落ち込んだ様子の小鷹さん。

普段ならこんな時に空気を変えてくれていた夏野さんも、自分が点を取られた手前、明るく振る舞うきっかけを掴めずにいた。

と、そこで。

 

「ナッチ、お疲れ様!

さっき投げてたのってOKボール?」

 

太刀川さんが顔の前で左手をOKの形にして夏野さんにニコリと笑いかけた。

 

「そ、そうそう!

OKボールだよ〜!」

 

夏野さんも太刀川さんと同じようにOKの形を作った手を頬に当ておどける。

それは天然タメ口キャラで人気となり、現在では動画サイトで自身の生活スタイルを投稿し人気を博しているハーフモデルがよくしているポーズに似ていた。

無意識のうちにポーズだけでなく口調まで真似てしまっているようだったが、それが夏野さんをどことなく明るくしているように思えた。

 

太刀川さんはそれを見て「何それ、可愛い〜!」と笑うと、小鷹さんに「タカもやってみて!」とせがんだ。

 

「いや、私は…」

「え〜!じゃあ、あたしがやってあげるよ!」

 

「えい!」

太刀川さんは小鷹の頬を両手の親指と人差し指でつまんだ。

 

「は、はひふふほほー!?」

おそらく「何するのよ」と言ったのであろう小鷹さんに太刀川さんはニカッと笑うと、

 

「だってタカ、OKポーズしてくれないからさ〜!

あたしが代わりにしてあげようと思って!

 

「はひはほーへーほーふほ!

ははふへっへふはへへほーは!

へふーは…ひはひひはひ!!

ひははひへふひほ!?

ひはひほほ!ほふひひはひへほほーは!」

 

なにがOKポーズよ!

ただつねってるだけでしょうが!

ていうか…痛い痛い!

力入れ過ぎでしょ!?

痛いのよ!特に左手の方が!

 

…だろうか。

 

確かにあれは痛そうだ…。

身長も太刀川さんの方が高いため、つねりに下から持ち上げる力が加わって小鷹さんの顔は既に天を仰いでいた。

それに投手の指の力は強い。

太刀川さんの利き手である左手にはよっぽどの力が入っていたのか、小鷹さんは両手でその左手を掴み引き剥がそうとしていた。

 

「痛〜い!」

『ゴシゴシ!ゴシゴシ!』

太刀川さんがようやく手を離すと、小鷹さんはつままれていた頬を両手でさする。

火花が出るのではないかと心配になる程の速さで顔を擦り上げるその姿は、自分の態度のせいで暗くなったムードを明るくしたいという小鷹さんの頑張りのように見えた。

 

「ヒロ〜!覚えてなさいよ!

アンタ、試合が終わったら何倍にもして返してあげるから!

何なら次の試合のマウンドの上でやってあげようかしらね!」

 

…あれ、本気で怒ってるかも?

 

「まあ元気にはなったようでやんすし、結果オーライでやんすね!」

「うるさいわよ!」

 

『バシッ!』

「痛いでやんす!」

 

矢部君が頭を引っ叩かれている…。

それを見た猫塚さんは、

 

「くわばらくわばら〜!触らぬ神に祟りなしにゃ〜!」

 

と忍び足でその場から遠ざかっていった。

 

「あちゃー…上手くいかなかったかな?」

 

「……」

俺が、『らしくない』太刀川さんの姿を見つめていると、それに気付いた彼女は少し恥ずかしそうに笑った。

 

「あはは…らしくなかったよね」

「まあ…そうかもね」

「でも普段チームを盛り上げてる2人があんな調子だったからさ…。

それこそ、あの2人を真似てやってみたんだけど」

 

うん、やっぱりらしくなかったや!

 

照れくさそうに帽子を被り直す彼女の姿を見て、誰よりもエース『らしい』姿だと思ったのは俺だけだろうか。

 

いや、俺だけではなかった。

それはこの後の展開が証明したのだ。

 

 

 

 

『粘ってボール、フォアボール!

2番の小山さん、矢部君に続きました!』

 

3回裏、ジャスミンの攻撃。

1番からの好打順を活かし、先頭の矢部君がヒットで出塁。

矢部君は塁上からのプレッシャーをかけ、盗塁を決める。

そして雅ちゃんがボールを見極め四球で塁に出た。

 

ここで俺に打順が回る。

 

『3番 キャッチャー 瀬尾君』

 

『さあ、このチャンスの場面。

守備で好プレイを見せている瀬尾君、打撃でも結果を残す事が出来るか!』

 

「ふぅー…」

阿久津の決め球はフォーク。

だが三塁にランナーがいる状況で多投出来る程のコントロールはない。

サードランナーが矢部君なら尚更だ。

阿久津自身も自分の足で稼いだ1点をそんな形で失いたくはないだろう。

 

ならばストレートに狙いを絞る。

 

そして、第1球。

その狙い通りのボールが来た。

 

『カキィィン!』

バットを振り抜く。

打球は低い弾道でぐんぐんと伸びる。

 

『ガシャン!』

そして、ライトフェンスにぶち当たった。

 

『ライナー性の速い打球!

これには流星の俊足外野陣も追いつけません!

サードランナーがホームイン!

ファーストランナーは三塁でストップ、バッターランナーも二塁まで行きました。

タイムリーツーベースヒット!』

 

「よし…っ!」

 

これで同点、試合は再度振り出しとなった。

 

そして続く4番の大空さんは、俺とは異なり待球で2-2の平行カウントに持ち込んでいた。

そして5球目。

ストレートでは勝負出来ないと判断したのか、決め球として投じられたフォークボール。

 

これを4番のスイングが捉えた。

蓄えられた力を解き放ったようなスイング。

そうして打ち返した打球が快心の当たりである事は、確信に満ちた大空さんのフォロースルーが物語っていた。

 

『……ドン!』

『ワァー!』

 

『ホームラン、ホームランです!

一撃必殺!この打席唯一のスイングで放たれた打球はレフトスタンドへ〜!

流星のエース、阿久津君を打ち砕きました〜!』

 

「ナイスバッティング!」

ダイヤモンドを一周する大空さんを一足先にホームを踏んだ俺と雅ちゃんが出迎える。

 

「うん!

この回は絶対打たなきゃって思ったからー!」

 

大空さんはそうにっこりと笑うと、

 

「だってみんな慣れないところで頑張ってるんだもん。

いつも通りに4番を任されてるミヨちゃんが仕事をしないとねー!」

「……うん!

『いつも通り』最高の仕事だったよ!!」

 

そうして俺と大空さんはハイタッチを交わした。


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