実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第14話 練習試合 VSあかつき大附属高校 ①

 あかつき大附属高校との練習試合。あかつきが先攻、聖ジャスミンが後攻ということになった。

 

 スターティングメンバーは、

 あかつき大附属

 1番 セカンド 中川

 2番 センター 松井

 3番 ショート 滑川

 4番 ピッチャー 猪狩 守

 5番 キャッチャー 十川

 6番 レフト 新田

 7番 サード 木村

 8番 ファースト 飯山

 9番 ライト 野田

 

 聖ジャスミン

 1番 ショート 小山

 2番 セカンド 夏野

 3番 ライト 瀬尾

 4番 サード 大空

 5番 レフト 美藤

 6番 キャッチャー 小鷹

 7番 ピッチャー 太刀川

 8番 ファースト 川星

 9番 センター 矢部

 

 

『プレイボール!』

 

 主審の声が響く。

 1回表、あかつきの攻撃。

 

『1番 セカンド 中川君』

 

 アナウンスが流れ、バッターが打席に入る。

 この試合、太刀川さんのあの「ストレート」がどれだけあかつきに通用するか。それがポイントになる。ライトの守備位置から見ていても、太刀川さんの表情に気負いはない。それに、捕手の小鷹さんもいるんだ。

 必要以上に心配することもない……と自分に言い聞かせる。

 

 そして、太刀川さんが投球モーションに入る。

 第1球。

 外角の110Km/hのストレート。

 見送って1ストライク。

 

 2球目。

 真ん中内寄りのストレート。

 

「甘いぜ!」

 

 バッターは鋭いスイングを見せる。コース的にも甘いボール。

 しかしバットの真芯に当たったはずの打球は、勢いの死んだショートへのゴロになる。

 小山君が華麗にさばいてファーストに送球。1アウト。バッターの中川は首を傾げてベンチへ戻っていく。

 

 続く2番打者もストレートを打ち損じ、サードファウルフライに終わる。110Km/h前後のストレートをあかつきの上位打線がことごとく打ち損じている。ストレートの球速は、あかつきが普段練習で使っているピッチングマシンより数段劣るだろう。

 でも太刀川さんのボールには『秘密』がある。相手がこちらを、太刀川さんを舐めてかかっているなら、痛い目を見るのはそっちだ……! 

 

『3番 ショート 滑川君』

 

 滑川が打席に向かう。

 右投げ左打ち。1年生にして180cmを超える長身。そして、恵まれた体格に反して覇気の感じられない表情。目尻の下がった垂れ目が、気だるそうな雰囲気をより強調している。

 

 滑川の打者としての特徴は、ミートの上手さだ。厳しいコースにきたボールはしつこくカットし、甘く入ったボールを狙い打つ。弱点が少なく、球数も稼がれるので投手としては1番嫌なタイプの打者だ。

 

 外角にカーブ、スクリューと変化球を続け、2ストライク。滑川はまだ手を出さない。

 そして3球目。内角低めにストレート。

 打ちにいくがファウル。

 

 4球目。

 外角に外れるストレートを見送る。

 

 5、6球目は低めの変化球をカットし、カウントは変わらない。

 

 7球目。

 内角高めのストレート。

 滑川はコンパクトなスイングで、それを迎え撃つ。

 

『ガンッ!』

 

 打球は高いバウンドでセカンド方向に跳ねる。夏野さんは捕って、投げるのを諦めた。内野安打。

 投手としてはしんどいだろう。でも、切り換えが必要だ。

 なぜなら次の打者は……。

 

『4番 ピッチャー 猪狩君』

 

 ……パワーヒッターの猪狩が相手だ。外野陣で目配せして、定位置より少し下がる。いくら猪狩でも、1打席目から長打はないだろうが……。

 

『キィーン!』

 

 初球打ち!? 

 ライナー性の強い打球はライトの前ではずむ。1塁ランナーは2塁を蹴って3塁へ向かう。

 

 ……刺せる! 

 前進して打球を捕ると、3塁に送球。勢いのある送球はビュッと風を切り、ワンバウンドでサードの大空さんのグラブに収まる。タッチしてアウト。

 

『チェンジ!』

 

 初回、あかつきを無失点に抑えた。ベンチへ小走りで向かうと、みんながハイタッチで迎えてくれる。

 

「ナイスプレー!」

「ありがとう! 助かったよ!」

「すごいッス! まさにレーザビームッスね!!」

 

 賞賛の声。でもあれは、俺の手柄じゃない。

 猪狩の本来の打球は、高い弾道でスタンドに運ぶアーチだ。それを痛烈な当たりとはいえ、ライナーにした太刀川さんのボールのキレ。そして、俺の送球をしっかりと捕球し、ランナーをアウトにした大空さんの守備。

 

 ……やっぱり、このチームは強い。勝つんだ、あかつきに。

 

 ☆

 

 1回裏、聖ジャスミンの攻撃。

 

『1番 ショート 小山君』

 

 スイッチヒッターの僕は、サウスポーの猪狩君を相手に右打席に立つ。

 猪狩君の持ち球はストレートにカーブ、スライダー。

 でも非力な打者が多いうちの打線が相手なら、球速の遅いカーブを投げることは少ないよね。とにかく、まずはボールをよく見よう。

 

 1球目。

 外角にストレート。ボール。

 球速は134Km/h。

 ……? 

 映像を見た限りでは、140Km/hを軽く超えていたはず……。

 まさか、手を抜いてる? ……なら、好都合だよ。

 

 バットを握りしめる。

 

 2球目も直球。

 今度は外角に決まって、ストライク。

 ……やっぱり、球速が出ていない。打てない球じゃないよ! 

 

 3球目。

 内角、高めにくる直球。

 これだったら……! 同じ球速でも、瀬尾君のボールの方が……すごかった! 

 

 シャープなスイング。打球は三遊間を抜けていく。

 ライト前ヒット。

 

「よし!」

 

 1番の役割、果たせたよね? 

 

 

 ☆

 

 ナイス、ミヤビン! じゃあ次は、アタシの番だね。

 

「2番 セカンド 夏野さん」

 

 右打席に入る。

 

 1球目。

 外角、ボールになるスライダー。映像より曲がりが小さい。

 

 さてと……どうするかな? 

 ランナーのミヤビンの方を見る。

 ヘルメットのつばを触りながら、まばたきを2回。1、2番を組むことになった時に決めた、2人だけのサイン。わかったよ、任せて! 

 

 2球目。

 猪狩が投球動作に入った瞬間、ランナーがスタート。

 低めの直球を流し打つ。ヒットエンドラン。

 打球がライト前に抜ける間に、1塁ランナーは3塁に到達する。

 ノーアウト3塁・1塁。

 よし、大成功! 

 あとはよろしくね、瀬尾君! 

 

 

 ☆

 

「3番 ライト 瀬尾君」

 

 大きく深呼吸をしてから打席に立つ。

 猪狩……、久しぶりだな。圧倒的な野球センス、誰もが目を奪われるスター性 。高校だけでなく、その先のステージでも活躍するのだろう。

 でも、こっちにも負けられない理由があるんだ。

 

 バットを構える。

 

 

 ☆

 

「瀬尾……。こうしてキミと敵同士として対戦する時が来るとはね。キミ相手に手は抜けないな……!」

 

 誰にも聞こえないような、小さな声でつぶやく。ボクはキミの遥か先にいる。

 食らいついてこい、瀬尾! 

 

 投球モーションに入る。溜めた力を指先に伝え、そして解き放った。

 

 ☆

 

 唸りをあげて、猪狩の直球が向かってくる。

 ミートを意識したスイングで対抗するが球威に押されて、ファウル。

 

 っ!? 直球を狙い打ったのに、捉えられない……! 

 

 電光掲示板の球速表示は146Km/h。

 さっきまでのボールとは、まるで違う。本気を出したっていうのか!? 

 

 猪狩は、テンポよく2球目の投球に移る。

 

「くそっ! 」

 

 考える時間も与えてもらえない。

 投じられたのはスライダー。このボールも先程とは、変化の大きさも鋭さも大違いだ。あまりのキレに相手のキャッチャーも捕球に苦労し、前にこぼしている。

 

 おそらく3球勝負。遊び球はないだろう。

 ……ストレート狙いだ。それ以外の球種は捨てる。そうでもしないと、バットに当てるのも一苦労だ。

 

 3球目。

 ストレート、しかも1球目より回転が多くかかっているのか、手元で伸びてくる。間違いなく、三振を奪いにきたボール。

 

『ブンッ!』

 

 懸命にバットを振るが当たりもしない。

 三球三振か……。そう落胆しかけたその時、

 

「キャッチャーこぼしてる! パスボールよ!」

 

「っ!!」

 ベンチからの声に、ランナーがスタート。キャッチャーはようやく追いつき、本塁のベースカバーに入った猪狩に送球する。

 それを見て、小山君が本塁へ向かう。

 

「くっ……!」

 

 ボールを受けた猪狩はタッチしてのアウトを狙うが判断よくスタートした小山君は、タッチをかいくぐる。

 

『セーフ!!』

 

 ベンチからワッと歓声が沸く。

 先制点は聖ジャスミン学園……! 形はどうあれ、貴重な1点だ! 

 

 夏野さんは2塁へ進塁。なおも1アウト、ランナー2塁。俺は三振に倒れたものの、チャンスは続く。

 

 猪狩が本気で投げたボールは、今の俺たちでは打てないだろう。

 だが、キャッチャーも捕れないとしたら? それなら、小山君と夏野さんに投げた、猪狩にしては球速の出ていない直球や曲がりの小さい変化球も納得できる。猪狩の調子が悪かったんじゃなくて、キャッチャーの力量に合わせて猪狩が力をセーブしていたんだ。でもランナーが得点圏まで進んで、「絶対に点はやらない」と力が入ったんだろう。

 捕手が交代する様子はない。5番打者だし、スタメンで出るくらいだから、おそらくあかつきの1年の中では1番いい捕手なんだろうが。

 

 ふと疑問に思う。

 この試合、猪狩が投げる意味があるのか? 猪狩は同じ1年生同士でもモノが違う。調整登板か、次代のエースとしての経験を積むためか……と思っていたが……。

 猪狩のボールを捕れない捕手がいる、そんな状態で相手チームの監督が猪狩を投げさせるものだろうか? 猪狩自身もそれ受け入れるとは思えないが……。

 

 ……いや、考えるのは後でいい。

 今はチャンスなんだ。猪狩が本気で投げれば、相手捕手は捕れない。

 かといって力を抑えて投げたボールは、甘いボールではないが打てないほどではない。今も得点圏にランナーがいる。1点でも多く積み重ねるんだ。

 

 ☆

 

『4番 サード 大空さん』

 

 初めての試合、初めての実戦。体が固くなり、緊張と責任感が襲う。

 ほむらちゃんと違って、私は野球の知識も経験もない。本当に素人。みんなに迷惑ばかりかけてる。でも、こんな私をみんなは4番に選んでくれた。なんとか打たないと……! 

 

 1球目。

 外角にストレート。ボールの判定。

 

 この試合で初めて、ボール球を投げた。点を取られて、慎重になっているのかな? それに瀬尾君に投げる前の、手加減したボールに戻ってる。

 ……このストレートなら打てるかも? 

 

 2球目。

 内角スライダーに空振り。

 

 当たらない……。

 

 3球目。

 スピンがかけられたボールが、弧を描いてキャッチャーミットに収まる。

 ストライク。

 

 これがカーブ……!? スライダーとは全然違う変化だ。

 

 どうしよう。やっぱり、変化球を打つのは難しいよ……。もうストレートは投げないのかな? せっかくのチャンスなのに、私が台無しにしちゃうよ……。

 

「大空さん!」

 

 私を、呼ぶ声の方を見る。ベンチから瀬尾君が声をかけてくれていた。

 

「三振してもいい! その代わり、自分のスイングを忘れないで!」

 

 自分のスイング? 

 私が初めて野球のボールを打ったあの日。みんながすごいって褒めてくれた。確かあの時は……。

 

 4球目を投じられる。

 

「ボールをよく見て、引きつけた」

 

 投げられたボールは手元で曲がる。スライダー。

 

「それから、全力でバットを振ったんだ」

 

 あの日と同じように、ボールをぎりぎりまで引きつけると、ボールが変化するのがわかった。あとはフルスイングするだけ。

 

 ☆

 

 それはまるで、ボクシングのカウンターのようだった。相手がパンチを打ってくるタイミングに合わせて、パンチを放つように。引きつけた変化球を大空さんのフルスイングがとらえた。

 

 電光石火。言葉で形容するならばこれが一番ふさわしいだろう。鋭いスイングで放った打球は、サードの左横を抜いていった。タイムリーツーベースヒット。さらに1点を追加した。紛れもない4番の働き。

 

 1アウト2塁。チャンスはまだ続く。

 

 ☆

 

『5番 レフト 美藤さん』

 

 ……1アウト。だが、ここで私が凡退し、さらに6番の小鷹まで打ち取られるようなことがあるとせっかくのランナーが無駄になってしまう。とすれば私の仕事はここで確実にランナーを進めることだ。

 

 私は左打ち。左対左の対戦なら、外角のボールを勝負球にして見逃し三振を狙ってくるはずだ。内角のボールを引っ張られて進塁打にされると、2アウトながらランナー3塁になるからな。それは相手としても嫌だろう。

 なら、それを逆手に取る。2ストライクまで待球、そして外角にくる勝負球を打つ。

 

 1球目。

 内角にストレート。

 ストライク。

 

 2球目。

 外角スライダー。

 ストライク。

 

 これで2ストライク。

 1球外すか? それとも3球勝負か? 

 

 3球目。

 肩口から切り込んでくるカーブ。

 きわどいコース。これを見送る。

 

『……ボール!』

 

 少し間が空いて、審判のコールが響く。

 ……ボールでよかった。正直、手が出なかった。

 

 今まで投げたコースは内、外、内の順。1球も同じコースに続けて投げていない。……外角のストレートに絞る! 

 

 4球目。

 予想通り、外角への直球。

 それを引きつけて、流し打つ。

 真芯でとらえた! 痛烈な打球は三遊間へ。

 

 完全にヒット性の当たり。

 その打球にショートの滑川が飛びつき、バウンドしたところに追いつく。あの体勢では投げられない。そう思ったその時、1塁に糸を引くような送球が放たれた。

 

『アウト!』

 

 捕球してからすぐに起き上がり、テイクバックを取らず横手投げからの素早い送球。いわゆるスナップスロー。三遊間の深いところで飛びついて捕球したため、3塁に送球してもフィルダースチョイスになる可能性があった。一瞬の判断で、確実にアウトを取ることを選んだのだろう。高校1年生であの守備、あの送球……。さすがはあかつきの選手、といったところか…… 。

 

 ランナーは進塁。2アウト3塁。

 

 

 ☆

 

「6番 キャッチャー 小鷹さん」

 

 ここで1点を取れるかどうかが勝敗に直結する。

 深呼吸をして、打席に立った。

 

 相手投手はまだポーカーフェイスを保っている。でも、本当は早くこのイニングを終わらせたいんでしょう? 

 ちらっと、キャッチャーズボックスの方を見る。キャッチャーも冷静さを失っているみたいね。そのポジションを守る選手が、そんなに感情を表に出さない方がいいわよ。

 

 1球目。

 球種はストライクになるカーブ。

 今までの配球で初球カーブはなかった。でも、その球種を投げていないカウントで要求するのが配球だと思ってるなら大間違いよ。打者のクセ、反応を見て、球種を選択してこその配球じゃない。

 

 だから、簡単に配球が読まれるのよ! 

 

 

 ヤマを張れば、球速の遅いカーブはバットに当てやすい。

 素直に打ち返した打球はセンター前に抜ける。

 

 このヒットで3塁走者はホームイン。

 これでヒロも楽に投げられる。

 あかつき相手に2点差ではセーフティリードとは言えない。失点を覚悟しなくちゃいけない場面も、やって来るはずだから。

 

 ☆

 

 

 

 2アウトになり、7番の太刀川をピッチャーゴロに打ち取る。これで3アウト。1回裏の長い攻撃が終わる。

 

 初回に3失点。

 力を抑えて投げているとはいえ、甘いボールではないはずだ。

 それをことごとく打ち返してくる。

 女性選手が大半のチームだからといって甘く見ていたわけではない。

 セーブしたピッチングでも抑えられる、名ばかりの強豪校がどれだけあることか。それだけ聖ジャスミンが優れたチームだということだ。

 ……瀬尾、いいチームを作り上げたな。

 

 これは、全力で向かい合わなければ失礼にあたる。

 

「……監督、キャッチャーを代えてもらえませんか」

 

 ベンチに戻ったところで監督に進言する。

 

「……どういうことだ?」

 

 初回から大量失点という、名門あかつきらしくない展開。怒りに震えている監督が、ボクに対し鋭い眼光を向ける。

 

「あかつきが無名校に、敗れるわけにはいきません。しかし、このまま手を抜いたピッチングをしていれば敗北は免れないでしょう。確実に勝利するためには、ボク本来のピッチングで、勢いに乗る彼らを黙らせるしかない!」

「……本来ならこのような試合に、お前を投げさせるようなことはしない。しかし、お前が『この試合でどうしても投げたい』というから条件付きで許可したのだ」

「……全力で投げず『打たせて取る』に徹することで野手陣に守備機会を与え、実戦の中で守備力を鍛えられるように心掛けること。

 そして、上級生次ぐ捕手を育成するために、十川(そがわ)にリードを全て任せ、彼の思う通りに投げること……でしたね」

「そうだ。あかつきの1年は全体的に小粒の選手が多い。お前以外は、だがな。今の2年生、いわゆる『黄金時代』の核となっているレギュラー陣が卒業した後に備え、力をつけさせる必要がある」

「ですが、それで負けていては話にならない。ボクたちはあかつき野球部の選手なんです。勝つことが義務である、ボクはそう考えています」

「……では、他の1年生の成長がなくても勝ち続けられると思うのか?」

 

 ボクは首を横に振る。

 

「1人だけの力では野球はできません。だからこそ、この世代を牽引していくべき責任のあるボクが背中で伝えていきます。勝つために必要なこと、そして覚悟を」

 

「……」

 

 しばらくの沈黙の後、監督が口を開く。

 

「……わかった。お前の意見を尊重しよう。だが、お前の力を引き出せるだけの捕手が、1年の中で他にいるか?」

「1年生とは限らないでしょう? 将来、ボクたちの後輩になるであろう選手がいるじゃないですか」

 

 そう言って、視線をベンチの端に移す。

 中学3年生ながら将来を期待され、あかつき大附属高校野球部の練習に参加している少年。今日は彼も見学のため、ベンチに入っていた。その体は周りの選手より一回り小さく、表情には幼さが目立つ。その少年は驚き、立ち上がる。

 

「ぼ、僕ですか!?」

「そうだ、キャッチャーミットは持ってきているな?」

「は、はい!」

「なら問題ない。すぐに準備をしろ!」

 

「いいですよね?」

 そう尋ねると、監督は静かに頷く。

 

「次の回の守備からいくぞ、進!」

 

 猪狩(いかり)(すすむ)

 このボクの弟であり、優秀な捕手。……あいつが受けてくれるなら、ボクも全力で投げられる。

 

 ……瀬尾。次の回からのピッチングが、本当のボクの実力だ。

 


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