実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第10話 声

 なんだよ、これ……。

 

「今回の地区予選、聖ジャスミン学園野球部は……」

 

 勝森監督が告げる、高野連の判断。

 

「出場できない」

 

 全員がショックを隠しきれない。だが、なんと言えばいいんだ? 

 

 川星さんと大空さん。2人は、野球経験がなかった。

 だけど誰にも負けない練習量で、みんなに追いつこうと頑張っていた。手には無数のマメやタコ。同世代の女の子と比べて傷だらけの手のひら。努力の証。

 

 小鷹さんと美藤さん。1年生ながら強豪ソフトボール部の主力。

 それなのに野球部に入部してくれた。でも、試合ができないなら彼女たちの思いが報われないじゃないか。

 

 夏野さんと小山君。いつも明るくて楽しげで、その姿につられてみんな笑顔になる。彼女たちがいるからチームに和が生まれる。みんなが同じ方向に進めるんだ。その献身に俺は応えられたのだろうか。

 

 矢部君と猫塚さん。おどけたり、ふざけてみたりしてみんなを笑わせる2人。でも実は、1番周りを気にして雰囲気を大切にしていることを俺は知っている。優しいムードメーカーだ。

 

 そして、太刀川さん。全ての始まり。1人で頑張っていた少女。彼女は今どんな顔をしているのだろうか。悲しみに暮れているのだろうか。もう駄目だと諦めてしまっていないだろうか。

 

 俺があの日、もう一度野球をやろうと思ってしまったから。みんなを巻き込んでしまったから。本当ならするはずのない悲しい思いをさせてしまった。愛想を尽かされても文句は言えない。もうあのグラウンドに集まれなくても仕方ない。

 

 それでも。

 俺はみんなと一緒に野球がしたい。野球をこんなに楽しくやれたのは久しぶりだった。

 でも、それは。こんなに素晴らしい仲間がいたからなんだ。みんながいるところに……、ここに! 俺はずっといたいだけなんだ……! 

 

「そんな顔して、どうしたの?」

 

 優しい声。顔を上げると、太刀川さんが微笑を浮かべてこちらを見ていた。

 

「瀬尾、あんた泣きそうな顔してるじゃない!」

 

 小鷹さんの声。

 

「大丈夫だよ。僕たちの野球は、まだ始まったばかりなんだから」

 

 小山君の声。

 

「そうよ! 元気出してよ、キャプテン!」

 

 夏野さんの声。

 

「まだまだ、これからですよー! ふぁいとー!」

 

 大空さんの声。

 

「落ち込まないで欲しいッス! 次があるッスよ!!」

 

 川星さんの声。

 

「まあ、そういうことだ! この私に任せておけ!」

 

 美藤さんの声。

 

「ネコりんも頑張るよ〜! やれることはたくさんあるんじゃよー!!」

 

 猫塚さんの声。

 

「瀬尾君、よかったでやんすね」

 

 そして、矢部君の声。

 

 

 ああ、そうか。俺だけじゃないんだ。

 いろんな問題と向き合って。いろんな障害を乗り越えてきた。一緒に悩んで、考えて。とっくに心は通っていたんだ。みんなも、この仲間で野球をしていたいって思っているんだ。

 

 俺だけじゃなかったんだ。

 

 

「ああっ! 瀬尾君、泣いてる!」

「どうしたの!?」

「誰か何とかするッスよ〜!!」

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 

 ☆

 

 

 翌日。

 

「瀬尾君、昨日はすごかったでやんすね〜」

「うん……、なんかごめんね」

 

 俺はあれから、せきを切ったように泣き続けた。今までの失敗や挫折が、そして、ダメな自分が全部許された気がしてホッとしたんだと思う。いや、単純に嬉しかったのか。みんながそばにいてくれて。

 まあすっきりした代償として、あれからみんなに「号泣王子」と呼ばれてイジられることになったんだけど……。

 

 野球部はいつも通り練習をしている。公式戦出場を高野連に認めてもらうために、どうしたらいいか考えなくちゃいけない。でもショックな出来事を乗り越えて、いつも通りに過ごせているんだから、今はそれでいいだろう。

 

 そこに「すいませーん!」と誰かの声。声の方を見てみると、女の子が2人。

 

「すいませーん! 野球部の人たちですよね?」

 

 そう言ってグラウンドに入ってくる。ピンクを基調とした鮮やかな色合いのユニフォーム。どこかの高校の野球部かな? 

 

「ボクたち、恋恋高校の野球部なんです」

 

 恋恋高校野球部……確か、今年野球部ができたばかりの学校だ。

 そして、女子選手がいるために公式戦に出場できないと聞いた。

 

「同じ1年生……だよね? 敬語なんて使わなくていいよ」

「ホント? ならお言葉に甘えようかな? 

 ボクは早川(はやかわ)あおい! 

 で、こっちが高木(たかぎ)幸子(さちこ)だよ!」

 

 おさげ髪の子が早川さん。ショートカットの髪に、どことなく小鷹さんに似た勝気な感じの子が高木さんか。

 

 恋恋高校野球部は部員がギリギリ9人だって聞いた。何から何まで聖ジャスミン学園と恋恋高校は似ている。そして同じ問題に直面しているんだ。

 

「それで相談なんだけどさ、うちの野球部と合同で練習をしないかい? いろいろと相談したいことや話し合いたいこともあるしさ」

 

 高木さんが言う。

 確かに魅力的な提案だ。だけど俺の独断では決められない。どうしようか悩んでいると、小鷹さんがやって来た。

 

「やっぱり、高木じゃない! 久しぶりねー!」

「小鷹! あんたも相変わらず元気そうじゃないか!」

 

 どうやら2人は知り合いのようだ。

「私と高木は中学時代よく対戦してたのよ」と小鷹さんが教えてくれた。

 

「今は野球部とソフト部を兼任してるんだよ」と高木さんが言えば、「私もよ!」と小鷹さんが答える。聞けば恋恋高校のソフト部もかなりの強豪らしい。

 

 ますます似てるな……。親近感がわく。

 

「小鷹さん。せっかくだから、合同練習やりたいと思うんだけど……」

「問題無いわ。高木がまとめてる野球部なら、一緒に練習してて得るものもあるでしょ」

 

「やったぁ!!」とはしゃぐ早川さん。おさげがぴょこぴょこ跳ねて、かわいらしい。

 

「じゃあ、みんなに伝えてくる!」

 

 

 恋恋高校……。どんなチームなんだろう。早川さんと高木さん……か。2人の実力を見るのが楽しみだ。

 


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