織斑一夏はテロリスト ―『お父さん』と呼ぶんじゃねぇ―   作:久木タカムラ

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今回は短めです。


034. 父娘の休日

 これは、私にまだ彼女達の名を呼ぶ資格があった頃の記憶(ユメ)

 

 

 銀糸の髪を振り乱しながら、私の上でラウラ(・・・)が淫らに腰をくねらせる。

 漏れる息は熱く湿り、肌は薄暗い室内でもはっきり分かるほど桜色に上気して、玉のような汗が胸の間や小さなヘソを伝って流れ落ちていく。

 学生時代からあまり伸びなかった背丈と、相反する強烈な色香。

 それがこの上なく――獣欲をそそる。

 

『ん……お前と二人きりになるのも、随分と久し振りな気がするな』

『まあ、お互い忙しい身の上だから仕方ないだろ』

『……とか言いつつ、他の皆とは頻繁に会って楽しんでいるそうじゃないか。私だけ除け者にして浮気三昧など……嫁のくせに生意気だぞ?』

 

 綺麗な爪を肉に浅く食い込ませ、首筋に強く吸い付くラウラ。

 はて、ここに吸い跡を残したのは鈴だったかセシリアだったか刀奈さんだったか。シャルや簪は吸うより吸われて悦ぶ方だし、箒と千冬姉達は好みの体位がアレとかアレとかアレとかで体勢的に不可能だとして――それに上書きするかのように、負けじとばかりに自分の印を刻み付ける。

 

『私だって、お前を独り占めしたい』

『なら独占すれば良い。私に見えているのはお前だけだ』

 

 そう言ってやると、彼女は金と赤の双眸を細めて恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

 

『…………昔は女心に気付いてもらいたいと本気で願ったものだが、今のお前は年を重ねるごとに女たらしになっていくな。酷い男だ。酷くて卑怯なクセに……優しいから始末に負えん』

『皆の気持ちに正直に応えようとしてるだけだぜ?』

『女はな、惚れた男の特別になりたい生き物なんだ』

『欲深いねぇ』

 

 貪るように。

 啄ばむように。

 私の首や鎖骨に赤い痣をいくつも作ったラウラは、仕上げに深く唇を重ねて唾液を味わうと、

 

『今夜は寝かせないぞ、先生』

『望むところだ。今まで待たせた分きっちり可愛がってやるよ、教官殿』

『おい、今日は私がお前を――んぁっ!?』

 

 ドイツ軍にその人ありと謳われ、一睨みで泣く子も黙るボーデヴィッヒ大佐は、やだ、待ってとあられもない嬌声を上げながら快感にひたすら身を震わせるのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「…………」

「ようやく起きたか父よ。おはよう」

「…………おはよう。で、キミは何してんの?」

「父親を起こす時はこうするのが一般的だと教えられたのだが?」

 

 私に跨ってゆさゆさと身体を揺らすうーちゃん。当然裸じゃないし発情もしていない。

 うんまあ、確かに休日の朝とかによくあるシチュですけども……さっきまで見ていた夢のせいで背徳感と罪悪感が凄まじい事になっちゃってるのでゴザイマス。

 改めて現実を再確認する。

 デュノア家の諸事情を片付け、パパさんに『娘をお願いします』と頼まれたのも先月の話。

 時刻はまだ六時前、隣のベッドでは山田先生が涎を垂らしてぐっすりお休み中。彼女のお胸様に挟まれているクリーパー抱き枕が羨ましい。

 

「ほれ、もう目は覚めたから降りた降りた」

「わぁー」

 

 オデコを軽く小突いてやると、うーちゃんは楽しそうにころんと引っくり返った。

 そうなると当然、この娘の背中に私の下半身の感触が伝わって来る訳で――

 

「む、背中に何か硬い物が」

「いざって時のデザートイーグルだから触るなよ。暴発するかも知れん」

 

 するほど初心者でも旺盛でもないつもりだが、やっぱり溜まってんのかなぁ私ってば。

 純真無垢――かどうかはともかく、周りで生活するお嬢ちゃん達や同居人に配慮して、これでも節制っつーか性欲をコントロールしていると思ってたんだけど。

 

「白衣じゃないんだな。何と言うか……新鮮だ」

仕事中毒(ワーカホリック)でもあるまいし、寝る時まで着てたら流石に変でしょうが」

 

 洗面所に行く――トテトテとカルガモの子どもみたいに後に続くうーちゃん。

 気にせず歯を磨く――自前の歯ブラシを取り出して隣でシャコシャコ磨くうーちゃん。

 髭を剃る――その様子をキラキラした目で興味深そうに見るうーちゃん。

 最後に顔を洗う――びしょ濡れの顔で『拭いて拭いて』とアピールするうーちゃん。

 

「……私と同じ事すんのがそんなに楽しいか? 共同生活なんて軍隊で慣れっこだろ」

「自分でも不思議だと思ってる。けど……お、お父さんと何かを一緒にするのがな、その、何故かどうしようもなく楽しくて――嬉しくて仕方がないんだ」

「…………」

 

 照れるっつー人間らしい感情も遠い昔に置き去りにしたワタシではありますが、年頃の女の子にそんな事を言われて嬉しくも何ともないと言えば嘘になる。

 うーちゃんもうーちゃんで、自分で言ってて恥ずかしくなったらしく――真っ赤に染まった顔にタオルを押し付けて隠してしまう。ちょいとお嬢さん、それ私のタオルなんだけど。

 

「……ちと早いが、朝メシでも食いに行くか?」

「うん……」

 

 みんなお休み日曜日。故に寮の食堂が開く時間も遅い。

 けどま、きっちり寮内で食べなきゃならん必要も、学園外で食べてはいけないって校則もない。

 すっかりトレードマークとなった白衣を羽織り、携帯と財布をポケットに突っ込んで、ついでに山田先生に簡単なメモ書きを残してうーちゃんと部屋を抜け出す。

 こんな関係になってから初めてな気もする、父娘二人水入らずのお出かけ。

 さぁて、何を御馳走してやろうかね。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 働き過ぎな日本の因習だろうか、早朝から営業している店は存外多い。

 軒を連ねる飲食店の中から我が娘がチョイスしなすったのは、世界規模でチェーン店を展開する某ハンバーガーショップだった。らんらんるーのアレね。

 たとえ選んだのが牛丼屋でもラーメン屋でも回転寿司でもコンビニのサンドイッチでも、本人が食べたいと思ったのだから別に構わない。

 構わない、のだけども――

 

「……どうしてわざわざ私の膝の上で食べるのかねぇ」

 

 朝陽が差し込む窓際の席。

 もしゃもしゃと美味しそうに頬張る銀髪娘を眺めて心がほっこりするが、それを相殺するように周囲から視線が突き刺さって煩わしい。

 テメェら何だその犯罪者を見る目は。その通りだよ。

 

「父よ、父よ」

「んー?」

「あーん」

 

 何処ぞの女王感染者みたいな笑みでフライドポテトが差し出される。

 受け入れるか断るかっつったらさぁ、前者しか選択肢はないでしょうよ。だって、この子ってば絶対食べてくれると信じ切っている顔してんだもの。

 膝に乗せた欧州系美少女に『あーん』される、どう見ても日本人の中年。

 通報されないだけ御の字だが、夜勤明けのサラリーマンやら早朝シフトの店員やら――こっちに注目する野郎共が血の涙を流したりヤケ食いしたりでとんでもない事になっている。

 

「ふむ、何やら周りが騒がしくなってきたな」

「主に私らが原因だけどな。それでどうする? 腹も膨れたし学園に戻るか?」

「それなのだが……実は今日、一夏とシャルロットが出掛けるらしくてな、私としては嫁の行動に興味があると言うか何と言うか……」

「……要するに、少年とお嬢ちゃんのデートが気になる、と」

 

 こくんと頷かれる。

 しっかし、そんなに心配するもんでもないと思うが。

 人前で堂々と手を繋いだり、一緒に水着を選んだり、パフェやケーキを食べたり――客観的には十分にイチャついているが、少なくとも少年にデートしているって自覚はないだろう。

 何ともはや、女心を弄ぶ天才でございやがりますねぇ昔の私ってば。

 

「でも、少年とお嬢ちゃんが出掛けるって良く分かったな」

「鏡の前で『これなら一夏も……』とか言ってニヤケながら服を選んでいたら誰だって気付く」

「おやおや、そいつぁお嬢ちゃんの不手際だな」

 

 紛らわしいお誘いを受けて相当浮かれてたんだろうねぇ。簡単に想像つくわ。

 

「けどそうなると、どっかで時間潰さねぇと。流石に今行っても誰もいねぇだろうし」

 

 現在の時刻、七時過ぎ。

 尾行するにしても、当のターゲット二人はまだベッドから出てすらいないだろう。およそ大体の待ち合わせ場所と時間は覚えてはいるが、そこでずっと張り込んでいても仕方がない。

 公園で二度寝をするか、ハッピーセットでもらったオモチャで仲良く遊ぶか――まさか時間まで近所一帯のメシ屋をハシゴする訳にもいくまい。

 

「では父よ、一夏達が来るまで私とデートしよう!」

「いいよー」

 

 特に考えが浮かばなかったから娘の提案に賛成する事にした。

 野郎共がコーヒーを拭き出していたが、そんなに熱かったのかね?




最近、黒い砂漠というネトゲにハマッてます。
オープンワールドでクエストが無駄に多いから何から始めればいいのやら……。
今はロバに乗ってあちこちにカッポカッポ移動してます(笑)

次回は水着選びです。

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