織斑一夏はテロリスト ―『お父さん』と呼ぶんじゃねぇ―   作:久木タカムラ

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真面目な戦いが始まる前のボケ成分充電。

シスコン当主と変人の、ちょっとした一幕です。

批判も酷評もバッチコイやー!

……あ、でも少しはお手柔らかにお願いします。


028. Dark Hero Show ― 舞台袖 ―

 更識楯無(本名:刀奈)は自分が『できる女』だと自負している。

 頭脳明晰にして容姿端麗、快刀乱麻を断つ才色兼備。イタズラ好きの猫のような性格と行動力を腹心の布仏虚に窘められる事も多いが、それすらも彼女の魅力の一つと言えよう。

 更識家当主の称号『楯無』を十七代目として正式に襲名し、ロシア代表操縦者とIS学園最強の代名詞でもある生徒会長まで兼任する楯無。けれどもそれらの肩書きは、血を吐きかねないほどのたゆまぬ努力の果てに成し遂げられた――至極当然の帰結に過ぎない。

 

「邪魔するんじゃねぇよクソガキがぁ!!」

「乱暴な男はモテないわよん?」

 

 およそ少女には似つかわしくない多種多様の技を――物心ついた頃より更識の後継者となるべく研鑽を重ねてきた楯無にとって、たかが軍人崩れの傭兵なんぞ取るに足らない雑兵に等しい。

 横薙ぎに振るわれるナイフを半歩下がって躱し、そのまま愛用の扇子を用いた合気術で男の腕を絡め取って地面に引き倒す。流れるような動作で関節を極められ、男が野太い悲鳴を上げた。

 周囲には意識を刈り取られて無力化された侵入者達が何人も転がっており――粗野粗暴ながらも鍛え抜かれた肉体と染み付いた銃火器の扱い方から、元々は職業軍人か、あるいは警察の特殊部隊出身だろうと楯無は冷めた思考で推測する。

 

「この、離しやがれっ!」

「離してもいいけど……あっち(・・・)に行ったらもっと酷い事になるんじゃないかしら?」

 

 いくら経験を積もうと。

 どれだけ裏社会に身を浸そうと。

 織斑千冬然り『彼』然り、この世界にはどう足掻いても真似できない――真似したくないほどに常識から逸脱した存在がいる事を思い知らされる。

 自分では、ああも楽しそうに戦えない。

 

「オラオラオラ! ぎっちょんちょんってなぁ!!」

《SWORD VENT》

 

 あっち――と楯無が男を取り押さえながら指差した場所で。

 メタリックパープルのアーマーを身に纏うライダーが、何処からともなく飛んで来たドリル状の剣でバッサバッサと敵を斬り伏せていた。

 殺陣自体は『暴れん坊○軍』とか『子○れ狼』など――勧善懲悪をテーマとした時代劇を彷彿とさせる見事な腕ではあるものの、お世辞にも正義の味方とは呼べそうもない雰囲気と風貌と言動が彼に『人斬り』のイメージを植え付ける。どちらかと言うと主役の方がかなり悪っぽい。

 斬り捨て御免もそこそこに、悪人はバックルのデッキケースからカードを引き抜くと、コブラを模した杖に慣れた手つきで装填する。

 

《FINAL VENT》

 

 電子音声の直後に現れたのは、体長六メートル以上はある巨大な紫色のコブラ。

 頭部両脇には無数の刃が生えており、外見は生物よりも機械に近い。

 

「ハァァァァァ――!」

 

 猛然と敵の一団に走り迫る主人を追随し、跳躍して後方へと身を翻す彼を捉え――黄色い毒液のエフェクトを正面に押し出すように吐き浴びせる。

 契約モンスターの援護を背中に受けて炸裂する連続蹴り。

 打撃なのに何故か爆発で吹き飛ばされる哀れな侵入者達。

 

「話が……違うじゃねぇか。これ(・・)を使えばISを役立たずにできるはずだろ!?」

 

 あまりの光景に、楯無の尻の下で男は唖然とする。

 おそらくは男達の切り札であったのだろう――大きさ四十センチほどの金属製のボディに四本の脚を持つ物体が、役目を果たせないまま虫の死骸のように無造作に転がっていた。

 剥離剤(リムーバー)――対象に取り付いてISを強制解除させる悪夢の装置。

 ISが深く根付いたこの社会においては、国家最高重要機密として『存在しない兵器』の烙印を押された代物だが、

 

(…………『危なくなったら使え』って言われたから使っただけで、肝心要の標的の情報は何一つ知らされてない。雇い主からすればコイツらはただの使い捨て、か。傭兵家業も世知辛いわねん)

 

 このご時世、情報こそが何にも勝る武器だと言うのに。

 剥離剤よりもさらに使い勝手の良さそうな装置を、あろう事か一人の少女をからかうためだけに自作してしまった男が、それが自分に向けられた場合の対策を考えていない訳がない。強制解除に対する耐性など、予防接種のような気軽さでつけているはずだ。

 そもそも、彼はこの『遊び』でISなど一切呼び出していない。

 特撮スーツの早着替えに拡張領域(バススロット)こそ利用しているものの、使う武器もベルトも市販されている普通の玩具――彼曰く『折角買ったんだから遊ばなきゃ』とか何とか。

 

「おほー、どうよおっさんのこの仮装! さっすが浅倉さんは痺れるぜい! テメェらもワルならこの気持ち分かるだろ、んん? ほいじゃどんどんいってみよう!」

「私は女の子だからちょっと理解できないんですけどねー」

 

 本音や簪ちゃんだったら夢中になって見てるかもだけど……と、男を座布団代わりに一人ごちる楯無そっちのけで、侵入者達にとっての悪夢のような遊びはまだまだ続行される。

 手始めに金の装飾が印象的な重厚感溢れるベルトを巻いたかと思えば、

 

《Standing by》

「変身」

《Complete》

 

 携帯にコードを打ち込んで『Ω』を象徴とする漆黒の帝王(オーガ)となり、

 

《HENSHIN》

《Cast Off》

《Change Beetle》

 

 黒いカブトムシ型コアを使い、羽化するかの如く外装を弾き飛ばして悪しき成虫(カブト)と化し、

 

《GAOH Form》

 

 電車の定期入れのようなアイテムとベルトで全てを喰らう暴君(ガオウ)を名乗り、

 

《ガブリッ!》

 

 厳格な雰囲気漂う蝙蝠に腕を噛み付かせ、魔種族を束ねる魔界の王(ダークキバ)の称号を継承し、

 

《Eternal》

 

 地球の『永遠』の記憶を収めたメモリを差し込み、人間に絶望した純白の狂気(エターナル)を演じ、

 

《チェンジ、ナウ》

 

 左中指のリングで呼び出した魔方陣を潜り、破滅を企む金色の魔法使い(ソーサラー)を蘇らせ、

 

《ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!》

 

 禍々しい果実の力に縋り、士道を捨てた血染めの鎧武者にまで堕ち果てて――

 

「こいつで最後だ。さあとくとごろうじろってな!」

《ブレイク・アップ》

 

 バイクのハンドルグリップにも似た、極端に銃身が短い拳銃型ツール。

 その銃口を手の平に押し付け、バイクを意匠化した装甲で全身を包み込む。

 骸骨の全身にエンジンパーツを融合させたかのような――右目がシャッターで隠されて隻眼にも見えるその異様な姿は、その名の通り追撃する死神(チェイサー)を彷彿とさせるものだった。

 

《チューン・チェイサースパイダー》

 

 言うまでもないが、この場で繰り広げられているのは単なる『遊び』でしかなく、年甲斐もなくはしゃぐ中年が悪役ライダーのコスプレをしながら大仰に必殺技を再現しているだけである。

 不憫なのは『手頃なサンドバッグ』と認識されてしまった雇われ共だ。

 うわーうぎゃーと断末魔の叫びを上げながら、噛ませ犬の群れが木っ端のように舞う。

 そして、二人以外にまともに話ができる人間がいなくなったところで、

 

「先生、やり過ぎ」

「けど言われた通り死人は出してないぞ?」

 

 呆れたように非難する楯無に対し、死神ライダーは飄々と嘯く。

 殴られ、蹴られ、斬られ、撃たれ、挙句の果てに爆発にまで巻き込まれた哀れな傭兵達。しかし負傷の度合いに大小の差はあれど、いずれも立ち上がれなくなった程度に留まり、仕事上その手の知識に長ける楯無の目から見ても致命傷を負っている者は皆無だった。

 無駄に器用と言うか何と言うか……。

 

「ま、死体片付けるよりテメェらの足で歩いて帰ってもらった方が手間なくていいわな」

「それ以前に! 監視対象者が学園内で殺人を犯すのを黙って見過ごせる訳ないでしょ、もう!」

 

 見せ付けるように広げた扇子には『ぷんすか!』と今の彼女の感情を表す五文字。

 実際、彼が本当に息の根を止めるつもりで行動していたのなら、それこそ楯無が止める暇もなく全員が超重力によって床と一体化した血みどろオブジェに変えられていただろう。

 事前に釘を刺しといて正解だったわね……と、楯無は引き攣った笑みで冷や汗を拭った。

 自分とて決して短くはない年月を家業に費やしてきた。けれど現在進行形でふざけやがっているこの男は、それ以上に裏の世界を熟知している怪物だ。

 場の空気を掻き乱すように三枚目な道化を演じながらも。

 いつも馬鹿をやって手酷いオシオキを食らいながらも。

 時折垣間見せるその本質には――楯無ですら思わずたじろぐほどの危険な『純粋さ』がある。

 

(……本名、国籍、血液型に家族構成、学園に現れる以前の経歴も全て不明。自称している年齢も鵜呑みにはできないし、カルテ狙いで探りを入れてみた裏の病院や闇医者でも収穫ゼロ。更識家の情報収集能力にも限界があるのは認めるけど、各国の諜報部も総力を挙げて調べているのに正体の片鱗すら掴ませないなんて――そんな事が可能なの?)

 

 単にデータを削除して回るだけならそう難しい事ではない。どんな経緯で庇護下に収まったのか定かではないが、彼のバックにはあの篠ノ之博士が付いているのだから。

 けれど、彼を知る人間が誰一人として存在しないとなると明らかに異常だ。

 大秘境の奥地で誰とも会わずUMAのように生きてきたと言うならともかく、持ち合わせている知識量も――ほとんどノーブレーキぶっちぎりで無視しているが一般常識も――現代社会で普通に生きる人間と同じ。真っ当な教育機関で相応に学ばなければ得られない物だ。

 にも関わらず、あるはずのデータがまるで手に入らない。

 

(皮膚片や血液からDNAを採取してデータベースで照合しようにも、先生から削り取ると細胞がすぐに自壊して使い物にならなくなるらしいし……)

 

 ナノマシンの作用によるものと考えられるが、それすらも確たる証拠はない。

 風景画に人物像を無理矢理合成したかのような違和感が楯無を苛んだ。

 そんな彼女の心中を尻目に、白衣姿に戻った彼は、

 

「にしても、奴さん達も金ケチらないでもうちょっとマシなのを雇えばいいだろーに。どう見ても中の下が精々だろコイツらの実力は」

「奴さんって……心当たりでも?」

「まあオジサンてばモテモテですし? 慣れるとドギツいプレゼントを送ってくる熱烈なファンの素性くらい簡単に見当がついちゃうんよ。今回のは……女性利権団体の急先鋒ってトコだぁね」

「……確かに、他国や大きな組織が今回動いたって情報は私の耳に入ってないけど、どんな連中が雇ったかまで分かるものなの?」

「雇う側にもよるが笑える共通点があってねぇ。女性優位を強調したがる過激派であればあるほど腕の立つ男を選ぼうとしないんだ。専属料理人もお抱え運転手も――もちろん傭兵も」

 

 何故だか、その理由が分かる気がした。

 

「連中は『男が自分達よりも優れたところがある』と死んでも認めたくないのさ。認めちまったら負けた事になると考えているんだよ。それが私を目の敵にして狙う動機でもあるんだが、安っぽいプライドに縛られるってのも女尊男卑思想の弊害だわな」

「……一夏君が織斑先生の弟で幸いだったわ」

「でなきゃ、今頃少年の部屋は脅迫状とか動物や虫の死骸とかで溢れ返ってただろうねぇ」

 

 織斑一夏に『ブリュンヒルデの弟』の肩書きがなかったら。

 最悪の展開を想像してしまった楯無の背中に、ゾクリと冷たい物が走る。

 もし仮に一夏がこの世の『悪意』に狙われた場合、まずは脅迫の材料として彼の親友やその妹が人質に取られてしまったはず。

 

(先生は確信してるのね。敵が先生しか狙えない事を……)

 

 友人知人、親類縁者を複数の国家総掛かりでも探し出せないこの男だからこそ、迫り来る刺客を学園の一画に残らず集結させて一網打尽にできたのだ。

 守る者が『外』にいない幸運。

 不安要素の一切を排した強さ。

 世界中を敵に回して孤独になったが故に、誰かを失う恐怖をも握り潰した化け物。

 

「ISはな、言っちまえば侍が持つ刀みたいなもんだ」

「刀……?」

 

 楯無の本名を知ってか知らずか、白衣の男はケタケタ笑って己の見解を述べる。

 

「それを動かせるって事自体が一種の特権階級の証。下々の人間には何をしても文句を言われない免罪符と勘違いしてるのさ。そりゃプライドも刺激されるわなぁ。素性も分からん馬の骨と二十歳にもなっていない小僧が、自分ら女にしか使えないはずの、しかも専用機まで持ってるんだから」

「………………」

 

 楯無は黙り込むしかなかった。

 全ての女性がそうだと言う訳ではないが、彼の言い分も否定できなかったからだ。

 嫌うでもなく憎むでもなく――それすらも生温いと思えるほどの狂気に満ちた嘲笑。

 

「……先生は、一体何と戦うつもりなの?」

「この世の全て。腐ったルール。ついでに未熟者な自分自身かね。けど今は――」

 

 彼がそこで言葉を区切ると同時に、尋常ではない悲鳴とどよめきが届いた。

 そして数秒遅れて、アリーナで警戒していたはずの腹心から通信が送られてくる。

 

『――お嬢様』

「虚? そっちで何が起きたの?」

『それが……私もどう説明したら良いのか……』

「ドイツのお嬢ちゃんの機体が、素敵に愉快にトランスフォームしてくれやがったんだろ?」

 

 その声で視線を戻した時には既に遅く、彼の背中は楯無からどんどん離れていく。

 進む先にあるのは、騒動が巻き起こっているであろうアリーナ。

 

「あ、ちょっと待って私も行く! 虚、とにかく生徒の身の安全を最優先で! それとこっちで寝っ転がってる奴らを片付ける人員を寄越して!」

『了解しました。中々に旗色が悪そうなので急いでください』

 

 通信を終え、ドリルと独楽を掛け合わせた怪人に楯無は叫ぶ。

 

「先生! 何をするつもり!?」

「いやいやちょっとお手伝いをねぇ!」

「そんな格好で!?」

「大丈夫大丈夫、コマサンダーは強いのだー!!」

「わあ不安しかなーい!!」

「もんげー!!」

「コマさんだ!? と言うか着替えるの早っ!? でも可愛い!!」

 

 やっぱり、この人は分かりたくないくらいの変人だった――と。

 はぐらかされている事にも気付かず、会長として事態の収拾に努めるため、ぼてぼてぼてぼてと全力疾走する狛犬っぽいプリチー妖怪の後を追う楯無なのであった。




はっちゃけ悪役ライダー早着替え。
次からはちゃんと少年やラウラやオリ敵ISとか登場して戦いますよー。


今回のリクエストは、

 ARCHEさんより、

・「ぎっちょんちょんっ!!」(EXVS:サーシェス)
・「おほー、どうよおっさんのこの仮装!」(テイルズオブヴェスペリア:レイヴン」

 ディムさん、BFerさんより、

・「先生! 何をするつもりですか!」「いやいやちょっとお手伝いをねぇ」(ACV:主任)

 アキさんより、

・魔進チェイサーのコス(仮面ライダードライブ)

 ジオ社社員Nさんより、

・コマサンダーのコス(仮面ライダースーパー1)

 でした。

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