EYESHIELD21 天使の軌跡   作:沢霧春慈

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遅くなって申し訳ありません。
執筆はちゃんと毎日してますので打ち切りだけはありません。


6th down 新学期の始まり

 私立誠光学院高等学校入学式当日、学生寮の部屋で目を覚ました021号室一同は、森羅と黎士が作った朝食を食べ、登校の準備を済ませていた。

 

 「お前ら忘れ物は無いな」

 

 森羅が確認する様に三人に聞くと、

 

 「うん、大丈夫」

 「昨日寝る前にちゃんとチェックしたからな」

 「そういうお前は大丈夫なのか?」

 

 瀬那が頷き、黎士がOKサインを出し、達磨が森羅に軽口を叩く。

 

 「大丈夫に決まってるだろうが、閉めるぞ」

 

 森羅は達磨の軽口に不敵な笑みを浮かべて答えると部屋の鍵を閉める。

 部屋の鍵は昨夜行われた話し合いで基本的に森羅が管理する事になった。

 理由は単純である。もし鍵を無くしたりしたら鍵を新たに作り直さなければならないからだ。

 

 「そんじゃあ余裕を持って登校しようか諸君!」

 

 達磨が爽やかに言うと、明るめの紺色ブレザーと青いネクタイにグレーのスラックスの制服姿をした四人は学生寮を出てすぐ近くの本校へと歩き始める。

 

 「それにしてもセナ、お前もう少し小さめの制服にした方が良かったんじゃないのか?」

 「これはこれでいいんだよ達磨。すぐに大きくなるんだから」

 「何だその確信めいた発言は」

 

 一人だけブカブカの制服を着ている瀬那を見て達磨が苦笑しつつ言うが、瀬那は全然気にせずに確信を持って断言して達磨を呆れさせる。

 成長すれば問題無い。瀬那は自分がまだ成長途上である事を知っているからの発言である。

 社会人になっても身長は平均よりも下だったが、今よりは随分伸びていた。

 今回が伸びるのか分からないが今のままという事はないだろう。

 

 「それよりも今日は昼で学校おしまいだけどどうする?」

 「僕はアメフト部の見学に行くよ」

 「俺も相撲部の見学に行く」

 「俺は部屋の戻るよ。森羅はどうするんだ?」

 

 森羅が放課後の事を三人に聞くと三人は各々答え、最後に黎士が森羅に尋ねると、飄々と答えた。

 

 「俺か? 俺はアルルと買い物に行く」

 「むっ・・・それはもしやデートでは?」

 

 達磨が興味深そうに尋ねると、瀬那と黎士も気になって耳を傾ける。

 

 「約束して異性と会うからデートだな」

 「森羅と美空さんって付き合ってるの?」

 

 昨夜の親しげな二人を思い出して瀬那聞いてみると、森羅は遠い青空を見据えながら呟いた。

 

 「あいつとはそんな浅はかな関係じゃねぇよ・・・・・・。ほら、さっさと行くぞ!」

 

 一人先を歩き出す森羅。それを見た三人は顔を合わせる。

 

 「どう思うお前ら?」

 「どうやら徒ならぬ関係を感じさせるね・・・」

 「何かあったんじゃないかな?」

 

 達磨が黎士と瀬那に聞くと、黎士は興味深そうに森羅の後ろ姿を見て呟き、瀬那は二人に何かあったんじゃないかと推測した。

 

 「まぁ考えても答えなんて出ないし、さっさと行こう」

 「それもそうだね」

 

 黎士の言う通り考えても推測の領域を出ないと思った瀬那は同意して頷き、先行く森羅の後を追った。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 瀬那達が登校している頃、今日から泥門高校の一年生となる澄原葵も登校していた。

 いつもと同じ二つに別けたお下げ髪の可愛らしい彼女だが、泥門高校の制服である緑色のブレザーとスカートに身を包み、学校指定の黒鞄を片手にいつもと違う通学路を歩いている。

 それが高校生になったのだと葵を実感させる。

 

 「瀬那も今頃登校してるのかな?」

 

 昨日関西へと旅立った友人の事を思い浮かべながら歩いていると、背後からシュタタタ、という軽やかな足音が聞こえて思わず振り向くと、

 

 「遅刻だぁあああっ!!」

 

 葵と同じ泥門高校の制服を着た少年が豪快な走りで隣を走り抜ける。

 そのまま呆然と少年を見送った葵は『遅刻』と叫んでいた少年の言葉が気になって時刻を確認するが、登校時間までまだまだ余裕がある。

 

 「一体なんだったんだろう?」

 

 少年が気になった葵だが、彼は自分と同じ高校の制服を着ていたから会う機会はいくらでもあるだろう、と思い学校へと向かう。

 そして彼女の思惑はすぐに当たった。

 今日から一年間仲間達と暮らす教室に先ほどの彼はいた。それも自分の席の右隣にだ。

 両腕を枕にし、机に突っ伏して寝ていて顔は見えないが、黒板に書かれた席順を見れば名前くらいは分かる。

 

 「須山弾(すやま だん)・・・・・・」

 「呼んだか?」

 「!?」

 

 彼の名前を呟くと、いきなり彼がむくりと顔を上げて応える。

 寝ていると思っていた葵は思わず驚いた。

 

 「起きてたんだ」

 「生憎眠りが浅いんだよ」

 

 大きな欠伸をしながら彼は体を起こす。

 初めて見て思った彼の感想は、磨けば光るだろう、だった。

 やや癖のある黒髪から大きくハネたアホ毛が特徴で、今は眠たげな顔をしているがそれなりに整った顔立ちをしている。

 背も高校一年生にしては高く、体付きも鍛えているのかブレザーの上からでもはっきりとガタイの良さが窺える。

 しかしやる気と言うか覇気が感じられず、それが彼の魅力を削いでいた。

 

 「今朝、遅刻だ、とか叫んでたけど・・・」

 

 今朝登校中に彼が慌てて走る姿が気になって聞いてみると、弾は大きな溜息を吐いた。

 

 「見てたのか・・・。起きて目覚ましを見たら時間が一時間ズレてたんだよ・・・」

 「それで遅刻だと勘違いして、急いで猛ダッシュ、と」

 「おかげで一番乗りだったぞ」

 「それは御苦労様でした」

 

 弾のマヌケな話を聞いて葵は苦笑を浮かべる。

 

 「それよりあんた誰?」

 

 思えば弾は自分と話している少女の事を何も知らない。この教室にいるという事はクラスメイトなのだろう。ならば名前くらいは知っておかねば。

 葵の事を何も知らない弾が何者なのか問うと、葵は自己紹介を始めた。

 

 「私はあんたの隣の席の澄原葵よ。よろしくね、須王弾君」

 「ああ・・・こちらこそ一年間よろしく」

 

 互いに挨拶をする二人。

 この瞬間から弾と葵、二人の長い関係は始まった。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 今日から瀬那達が三年間通う誠光学院高等学校に着いた。

 瀬那、黎士、森羅、達磨の四人は一年の靴箱の前に置かれた掲示版で自分のクラスを確認すると、

 

 「僕と森羅が一緒で、後はみんなバラバラか・・・」

 

 こちらに来て初めて出来た友人達である黎士と達磨が一緒のクラスじゃない事にがっかりするが、当の本人達は全然気にしていない。

 

 「別にいいんじゃねぇのか。住む場所が一緒である以上毎日会うんだし」

 「そうそう。それに隣のクラスだし、合同授業とかじゃ一緒だよ」

 

 達磨と黎士がそう言うと、それもそうだね、と瀬那は呟いた

 

 「俺としてはクラスメイトよりも担任が面白い奴だったら嬉しいけどな。」

 「それは言えてるかも」

 

 掲示板を見ながら言う森羅に瀬那も同意する。

 瀬那としてはみんな人の好い人だったらそれでいいのだが。

 もう一度自分のクラスと出席番号を確認し、次にクラスメイトの名前を確認する。

 するとそこには昨日会った女子達の名前があった。

 

 「そろそろ教室へ行こうぜ。人が混んで来やがった」

 「そうだな」

 

 森羅が掲示板の方へとやって来る生徒を見ながら言うと、達磨も同意して頷き、瀬那達は靴を脱いで自分の靴箱に入れ、屋内用のシューズに履き替えると自分達の教室へ向かう。

 

 「おはよう、森羅、セナ」

 「ああ、おはようございます、小早川君、智慧君」

 「おはよう・・・」

 

 今日から一年間勉強する1年2組の教室に入ると、阿瑠琉、花梨、桜の女子三人が挨拶をしてくれた。

 誠光学院の女子制服である明るめの紺色ブレザーと青いリボンに青白のチェックスカートを着ており、三人とも人目を惹く美少女だからかよく似合っている。

 

 「おはよう、美空さん、小泉さん、庄司さん」

 「おはよう」

 

 瀬那と森羅も挨拶を返すとそれぞれ自分の席に座る。

 ちなみにアイウエオ順である為、小泉花梨の隣が瀬那の席である。

 

 「これから一年よろしくおねがいします」

 「いえいえあたしこそ一年間よろしゅうおねがいします」

 

 向かい合って何度も下げる小市民な二人。

 それを見た森羅と阿瑠琉は、この二人似たもの同士だな、と思った。

 

 「・・・・・・それにしても・・・」

 「どうしたん、小早川君?」

 

 教室の中を恐る恐る見回す瀬那を怪訝に思い話しかける。

 すると瀬那は恐る恐る静かに口を開いた。

 

 「僕らのクラスさ、怖そうな人多くない?」

 「えっ!? ・・・・・・そ、そう言われてみれば、そんな気がする様なしない様な・・・」

 

 瀬那に言われて花梨も教室の中を見回す。

 いわれて見れば確かに恐そうな、簡単に言えば不良らしき男女が多い様な気がする。

 制服改造、髪染め、ピアスなどなど―――それだけで不良と決め付けるのは良くないかも知れないが、それでも気の弱い小市民二人にとっては居心地が悪い。

 気のせいかもしれないが彼らから視線を感じる。

 何か嫌な予感を瀬那は感じた。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り、クラスメイト全員が揃った1年2組の教室のドアがスライドして担任の教師が現われた。

 

 (外人・・・・・・?)

 (うわっ、凄いマッチョや!?)

 (知性を持ったゴリラみたいだな)

 (ワイルドな熱血教師っぽいわね)

 

 教室に入って来た担任教師を見て瀬那、花梨、森羅、阿瑠琉が各々心の中で思う。

 彼らの思った事は外れてはいない。

 これから一年間世話になる担任教師はどう見ても日本人の風貌をしていない。金髪翠眼のゴツイ白人だった。

 まだ壮年で、着ている背広の上からでもはっきりと分かる、はち切れんばかりに鍛えられた鋼鉄の肉体。

 口周りにワイルドな髭を生やし、厳つく強面の顔立ちをしてるが、その翠の瞳は知性を感じさせる。

 担任は教壇に立って教室にいる生徒達の顔を見回すと口を開いた。

 

 「おはよう諸君! 私は今日から一年間、君達の担任を務めるブライアン・マーフィーだ!」

 

 1年2組の担任教師、ブライアン・マーフィーは、見た目どおりの大きな声で、想像以上に流暢な日本語で自己紹介を続ける。

 

 「担当する教科は英語で、茶道部の顧問をしている。これから一年間よろしく! それじゃあ諸君らも出席番号一番から順番に自己紹介を頼む。名前はもちろん、好きなものや将来の夢なども言ってくれ」

 

 にこやかにブライアンがクラスメイトの自己紹介を始めさせ、出席番号順に次々とクラスメイトが自己紹介をしていく。

 簡単に名前だけで済ます者、丁寧に色々喋る者、ユーモアに自己紹介する者。

 人それぞれの個性を感じさせる自己紹介をし、とうとう瀬那の出番がやって来た。

 教室にいる者から視線を集めつつ瀬那は立ち上がり、ピッと背筋を伸ばして自身の自己紹介を始めた。

 

 「東京から来ました小早川瀬那です。好きなスポーツはアメリカンフットボールで、高校でもアメフト部に入部するつもりです。そして将来の夢はNFLの選手です・・・!!」

 「!?」

 

 瀬那の自己紹介を聞いたブライアンが目を見開いて瀬那を見つめる。

 まるで懐かしい何かを見たみたいに物憂げな目をしていたが、その視線に瀬那は気付く事なく自己紹介を終えて席に着いた。

 ちゃんと何事もなく自己紹介が終わってほっとする瀬那だが、次にブライアンから掛けられた言葉に思わず唖然とする事となる。

 

 「小早川・・・ウチの高校にアメフト部は無いぞ」

 「・・・・・・えっ?」

 

 




ちゃんと泥門側も書こうと思ってますけど、どう思いますか?

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