2015.05.17:最後の部分を大幅に改稿
2015.11.14:サブタイトル変更
ISが発表されてからドイツ軍と共同で、” ISの女性にしか動かせない欠陥の原因究明と解決”のための研究を行っていた。
当時、このような研究は世界各国の研究機関で行われていた。
しかしISコアは完全にブラックボックスであり、この世に1人しかいない制作者以外にはどうすることもできなかった。
この分野の研究については、世界中にあるどの研究機関も前に進むことはできず、次第に研究は打ち切られていった。
ドイツも例外ではなく、研究は打ち切られた。
ISが女性にしか扱えない事実を受け入れるしかなかった。
世界は1人の天才に勝つことはできなかった……。
だがISが女性にしか扱えないのに納得できなかった。
国の援助は打ち切られても、民間企業の中で研究を続行することにした。
ドイツ軍研究者の一部が共感し、軍と交渉してISコア1個確保して移籍した。
それからはブラックボックスを解明する研究と、ブラックボックスのままでも男性がISを動かせるようにする方法の研究を行った。
国からは直接的な援助はないが、元ドイツ軍所属の研究員のコネで軍のIS関連のデータを一部提供してもらえるようにもなった。
こうして研究を続けていくうちに私たちは、女性がISを動かす時にISが受信している信号の解析に成功した。
そしてその信号の男女差を研究し、男性の信号を女性の信号に変換させることが可能になった。
ここまでくれば後は変換した信号を使ってISを動かすだけだった。
軍との共同研究から苦節8年、ようやく男性でも動かせるISが完成した。
だが、これで完全にISを動かせるようになったわけではない。
ブラックボックスの解明は進んでいないし、この方法で動かすとISがパイロットを認識しないという状態になる。
ISの認識では無人状態なので、ISの操縦者保護機能の全てが機能していない。
コア・ネットワーク、絶対防御、ハイパーセンサーといった主要機能が使えないのでは、ISとしては欠陥品と言わざるを得ない。
それでもPIC、エネルギーシールド、拡張領域は使うことができた。
それらがどこまで使えるかを見るために作ったのが、あのパワードスーツだった。
当然この機体が使える機能は全て把握している。
だからこそ相当高度な訓練を長期間行わなければ、ISに匹敵するレベルでその機能を使いこなせるようにならないと知っている。
では、なぜ彼はその能力を持っているのか?
やはり彼の言う異世界というやつなのか、それともただの世紀の天才だというのか。
世紀の天才なら既に1人存在するが……。
うやむやのままにはできない、今すぐにでも確かめよう。
――――――――――
「やっぱり、君が異世界から来たというのは本当なのか?」
「まあ、自分でも信じられませんけど、確かにそうとしか言えないです」
模擬戦終了後、全員が集まる研究室に戻ってきた。
全員が模擬戦を見ていたのか、主任が質問している理由を理解しているようだった。
「最初聞いたときは冗談としか思わなかった。
もしかしたら何らかの影響で記憶障害が起きているのかとも思った。
君が襲撃事件の際の飛行を見た時は天性の才能を持った人間だと思った。
だが、さっきの模擬戦を見て確信した。
私はあの状況下で、君が攻撃を避けるためにどう動けばいいか瞬時に判断し、その判断通りに機体を動かしているように見えた。
これを1週間ほどの飛行訓練でできるようになるのを才能・天才で片付けていいのか」
主任の言葉にラウラが続く。
本当に天才だとしたら、遺伝子強化試験体として生まれ、越界の瞳まで移植してずっと軍事訓練をしてきた自分の存在はなんだというのか。
「実際に相手をした私から少し言わせてもらう。主任の言っていることは正しい。
さらに言うとシン・アスカは常に私の射線に入らないように位置取りをしていた。
ハイパーセンサーが使えない機体でだ……自分の眼だけでだぞ!
1週間の訓練でこんなことができる天才がいてたまるか!」
全員の視線がさらにきつくなる。どうやら皆、大天才が嫌いなようだ。
当たり前と言えば当たり前だ、ここにいる人たちはISを作り上げた大天才に対抗するために研究をしているのだから。
ドイツ軍の2人に関しても、ISの戦闘訓練を長期間に渡りこなしてきたのだろうから良い気にはならないだろう。
当然だ、MSに乗って1週間足らずの人間に性能が明らかに劣る機体で同じことされたら、自分だって良い気分にはならない。
この状況なら全てを話せば信じてくれるだろう。
向こうも異世界から来たのか、ただの天才なのかと問いかけてきているのだし。
「……俺も本当のことを話します。だから信じてください。
俺は天才ではなく、異世界から来たということを」
この前は宇宙進出とMSについてしか話さなかったが、今度は事細かにCEについて話をした。
コーディネイターの存在、ナチュラルとの確執、MSの出現、2度に渡る戦争を……。
そして2度目の戦争で自分は最前線で戦い、戦後の任務中に気付いたらこの世界にいたと。
――――――――――
「宇宙に人が住んでるのか!?」「MSはISとはまた違うのか?」
「あの赤い服ってコスプレじゃなかったのか……」
シンの話は衝撃的なものであり、中には異世界が信じられず、やはり記憶障害による妄想ではないのかとシンを心配する者もいたが、真偽は置いといて彼の話には興味深い内容が数多くあり、それに関する質問が次々と湧き上がっていた。
特に宇宙に人が住むために作られたコロニーについてとMSについての質問が多く、シンは自分が答えられる範囲でそれらに答えた。
この世界では宇宙に行くことはできるが、宇宙ステーションがあるくらいで民間人が一般生活できるような場所は未だできていない。
近年ISの登場で宇宙開発が躍進すると思っていたが、様々な政治的要因によりIS利用による宇宙開発は計画の段階で完全に凍結、できたことといえばISが本当に有人で宇宙空間を活動できることを証明しただけだった。
さらに世界はISの技術開発に力を入れるようになったため、結果として宇宙開発はIS登場以前のまま停滞してしまった。
そしてアーベント・ヴォーゲル社は主力事業の一つとして民間用のパワードスーツを作っているため、ISと合わせて自社製品とMSの比較に目を輝かせていた。
そしてデリケートな問題だと判断したのか、それともただ単に技術者として宇宙やMSへの興味がそれ以上に大きかっただけなのか、研究者達はコーディネイターについてはあまり触れなかった。
ラウラはそれをただ黙って見ていた。
彼の口から語られた、自分と同じ存在について考えながら。
(コーディネイター……)
驚きだ、彼の世界では遺伝子操作が賛否こそあるが一般に認知されている。
そして私は戦闘能力を高めるために遺伝子操作されて生まれた人間だ。
遺伝子強化試験体――通称アドヴァンスド。
名前の通り未だ試験段階の技術であるが、この世界にも人間の遺伝子操作技術はあった。
しかし倫理に反するとして人間への遺伝子操作は禁止され、その存在は世間へ認知される前に試験段階で終了した。
(いったいどんな人生を送ってきたんだ……お前にとってコーディネイターとはなんだ?)
コーディネイターとしての人生を彼は語っていない。
彼にとって戦争がコーディネイターよりも大きな位置にある事は分かった。
だが彼自身はコーディネイターをどう考えているのか、戦争を経てコーディネイターとしてどう生きているのか、それがこの世界に来たことで変化があったのか……
自分と似た存在でありながらまったく別の境遇である彼について、ラウラはただ知りたかった。
シンが嘘をついている、あるいは嘘でなくても何らかの記憶障害による妄想の可能性など、ラウラは微塵も考えていなかった。
「はあ、こりゃあ想像以上だ。
でもまあ、巨大機動兵器のエースパイロットなら納得だよ」
その場を一旦治め、主任はシンの話の感想を述べる。
答えられるものには事細かに答えた事もあり、ほとんどの人がある程度納得してくれた。
それでもまだ納得しきれない人もいるが、シンに実力がある事と新たに入った仲間だという事は全員が認めてくれた。
シンは、まだここに居てもいいと分かり気が楽になった。
そして一応は言っておかないと、と思い皆に向かって喋る。
「あ、できるならCEに帰りたいので、帰り方知ってたら教えてください」
「ははは、私たちが知っているわけないだろ。
もしかしたらあの篠ノ之束なら異世界への行き方知ってるかもな!」
…………
皆が静まり返った。
主任は冗談で言ったのだろうが、皆の気持ちは見事に一致した。
((あ~、あの人なら知ってても不思議じゃないな))
むしろあの人も異世界から来たんじゃないだろうか……。
「では、我々はここで失礼する。
シン・アスカ、今回は良いデータが取れた。次に会う時も楽しみにしているぞ」
ラウラが帰る旨を伝えると、こちらに向かって右手を差し出してきた。
「ああ、次は負けないからなラウラ」
シンは差し出された手を握ってラウラと握手をする。
(おや、これはもしや!)
それを見たクラリッサが何かに気付いたようだが何も言わずに研究所を後にした。
それを見届けた主任は声を張り上げて全員へ指示を出す。
「さて皆、研究を再開するぞ。まだまだやることはいっぱいあるからな。
それとシン。君にはこれから次の2つの事をしてもらう。
1つはその機体の稼働データを取るためのテストパイロット。
もう1つ、MSの設計思想や実際に使われている技術に興味がある。
本当は実物を見たいところだが、そうはいかないからMSのデータを書き起こしてくれないか?
大まかなデザインとか、どういった武器を使っているのとかだけでいい」
主任の言葉を聞き、シンはそれを了承する。
一先ずの信頼を得たシンは、共に研究をしながら、いずれ元の世界に帰ると決意する。