紅い翼と白い鎧【IS】   作:ディスティレーション

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皆さん、お久しぶりです。
今回で長かった福音戦が決着します。



第31話 銀の福音Ⅳ

一夏の墜落というアクシデントにより、今まで保っていた均衡が崩れた。

特に庇われた箒ときっかけを作ってしまったシャルの動揺は激しかった。

 

「あ、一夏……ああ」

 

「う、ああ、僕が……僕のせいで」

 

このままでは一夏に続いて彼女たちも撃墜されてしまう。

しかし先ほどまでのように戦うことができる状態ではないので、ラウラはクールダウンさせるために戦闘以外の指示を与える。

 

「……箒は一夏の回収、シャルロットは浮上ポイントの確保と誘導!」

 

あえて今まで以上に大きな声で指示を出すことで2人の意識を少しでも回復させる。

効果があったのか、動揺は完全に消えないまでも2人は指示に従う。

そして、箒が海に潜り、シャルが配置についてところでラウラは続きを話す。

 

「シャルロット、一夏と箒が上がったらそのまま島に戻れ。

それを合図に私達も撤退する」

 

そして今、ブルー・ティアーズのエネルギーが1000を切った。

セシリアに加えて一夏、箒、シャルをこれ以上戦わせることはできない。

4人が抜けた状態でこの包囲網を維持することはできず、敵のエネルギー残量が不明な以上、これ以上の戦闘はじり貧になるだけであり、深追いすれば撤退すらできなくなる。

 

「全員、聞こえたな……一夏を回収次第、我々は撤退する。

時間は十分に稼いだ、後は各国の対応にまかせよう。

だが、このまま下がれば奴は我々を追って島に来る可能性がある。

そのため、シャルロット達の合図が来るまでに可能な限り引きはがす」

 

「悔しいけど、時間切れか……」

 

一夏が墜落した以上、鈴をはじめとしてラウラの決断に異議はなかった。

作戦が受け入れられたところで、ラウラはシンにプライベート通信を開く。

 

「シン、撤退時は私が殿を務める。

その時の指揮はお前に任せるが、私の回収は後回しにしろよ」

 

「なら、俺が残ってラウラが引きずってでも皆を島に返す……役割が逆だな」

 

士気の低下を防ぐため、撤退時の役割をシンにのみ話したが、反論されてしまった。

確かに、機体性能と状態を考えればインパルスの方が適任ではある。

 

「軍人の私よりも、民間人のお前の安全の方が優先されるんだがな……

すまないが、もしもの時は頼んだぞ」

 

「了解……皆は頼んだぞ」

 

話がまとまったところで銀の福音に集中する。

幸いシャルの方には興味がないのか、そちらへ向かう気配はなかった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

白式と共に海に墜ちた一夏は、気づくと不思議な空間にいた。

既に日は暮れたはずなのに空には青空が広がり、自分は見渡す限りの水面に立っていた。

太陽が存在しないのか、自分だけでなく目の前にいる見知らぬ少女の影も無かった。

 

「君は……力が欲しいですか?」

 

長い白髪に白い帽子をかぶり、白いワンピースを着た少女に尋ねられる。

一夏はこの状況を不思議に思いながらも、彼女の問いにはっきりと頷く。

 

「ああ」

 

「……何のために?」

 

「俺は今まで、千冬姉に守られてきた。

いつまでも守られてばかりじゃ駄目だって思ってたから、早く一人前になりたかった。

そんな俺にも守りたいと思う仲間がいる。

だから今度は、俺が千冬姉みたいに皆を守る側になりたい!」

 

「それが、君の意思なんだね」

 

一夏の力強い答えを彼女は目を閉じて自分の胸にしまい込む。

すると今度は、どこからか聞きなれた声が聞こえてきた。

 

――一夏……一夏!――

 

「箒……?」

 

一夏は箒の声であることは認識できたが、彼女が切羽詰まっている理由は分からなかった。

そしてそんな彼を名残惜しそうに見ながら、彼女は手を差し出した。

 

「迎えが来たみたいだね」

 

それを見た一夏は、覚悟を決めたように彼女の手を取ると、眩い光が辺りを覆いつくす。

すると自分の身に白式が展開され始め、頭の中に彼女の言葉が響いてくる。

 

 

 

――君は心、強くなろうとする意志――

 

 

 

――私は力、強さを体現する鎧――

 

 

 

――そして今、対となる2機が揃った――

 

 

 

今まで曖昧だった自分の感覚が現実に引き戻され、自分の今の状況を思い出す。

そして今にも泣きそうな箒の顔を見て、安心させようと声をかける。

 

「箒、ごめん。心配かけた」

 

「な、なぜ、お前が謝る。謝るなら私の方だ……」

 

「はは、じゃあお互いさまってことで、戻ろうぜ」

 

「ああ、行こう」

 

箒の表情も戻り、会場へ浮上しようとした時、紅椿が黄金に光出す。

困惑する2人だったが、すぐにその状況を理解することとなった。

 

 

 

――絢爛舞踏――

 

 

 

それは箒と紅椿のワンオフ・アビリティの発現だった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

最初に異変に気付いたのは浮上ポイントを確保しているシャルだった。

海中の一部が黄金に輝き、白式と紅椿のエネルギーが回復していく。

 

「なにこれ、いったいどうなってるの?」

 

シャルが困惑していると、白式と輝いている紅椿が飛び出してきた。

そして箒がラファールの肩に手を当てると、先ほどの2機のようにエネルギーが回復した。

そして間髪入れずに箒は飛び立ち、皆の所へ行ってエネルギーを回復して回る。

 

「いろいろ言いたいことはあるけど……一先ずは無事でよかったよ」

 

「心配かけた。で、これからどうする?」

 

シャルの元に残っている一夏は現在の状況を聞く。

しかし、彼の予想に反してここからは撤退という回答が返ってきた。

だが、箒のおかげでエネルギーが回復したのなら、もう少し戦えると一夏は思った。

 

「ラウラ、撤退は少し待ってくれ」

 

「エネルギーが回復できるのなら倒せるまで攻撃できる……そう言いたいんだな」

 

正直言ってラウラ自身はこの状況への理解が追いついていない。

試算では銀の福音のエネルギーは残り僅かだ。

なら一夏の言う通り、回復するエネルギーをもって消耗戦で削りきることも可能ではある。

現在は、エネルギー切れという問題が解消されたことで全員の士気もかなり高まっている。

しかし、エネルギーは回復することはできても、推進剤や弾薬、破損したパーツ……

そしてなにより、パイロットの肉体的・精神的疲労回復しない。

 

「一度だけだ……最後に一度だけ、奴に総攻撃をかける。

成否に関わらず、その後は撤退する……いいな?」

 

「ああ、ありがとう」

 

「よし……各員、最大火力を奴に叩き込んでやれ!」

 

一夏の提案を受け入れ、撤退を延期した。

そしてラウラの号令と共に最後の攻撃を始める。

 

「ここから先は弾切れを気にする必要はない」

 

「全弾もってけええええええ!!」

 

絢爛舞踏では回復できない実弾武器主体のISに乗るシャルと鈴は、残弾のある火器をありったけ取り出しては弾幕を張る。

銀の福音は持ち前の機動力と制圧能力でこれを回避・迎撃していくが、動きが少し鈍る。

 

「よし、行くぞ箒!」

 

「ああ、これで終わらせよう」

 

ラウラと箒は同時に瞬時加速をすることで二方面から銀の福音を強襲する。

弾幕に集中していた銀の福音は迎撃の対象を変更するが、シールドを全開にした2人は物ともせず攻撃を加えていく。

だが、それもずっと続くわけではないので、シン達が後に続く。

 

「セシリア! 簪!」

 

「言われずとも!」

 

「準備はできてる」

 

シンの掛け声と共に3人は回復したエネルギーを全て吐き出す勢いで火力を集中させる。

甲龍の龍咆による衝撃波の嵐と、ブラストのビームランチャーとブルー・ティアーズのスターライトを最大出力で照射する。

直撃させることができたのはほんの一部分だけだが、その圧倒的な火力と弾幕を前に銀の福音の行動範囲はかなり狭まった。

 

「「一夏!」」

 

「うおおおおおお!!」

 

皆の声を受け、零落白夜を発動させた白式が瞬時加速で砲撃に耐える銀の福音に迫る。

日が沈んで暗くなった洋上に、振り下ろされた雪片の黄金に輝く軌跡が浮かび上がる。

零落白夜が直撃したことでエネルギーを完全に失い、銀の福音はバリアを張ることができなくなりシン達の砲撃に押し潰されていった。

 

「……」

 

砲撃の衝撃で、ISコアを含む銀の福音だった塊が宙を舞う。

先ほどまで戦闘によって発生していた光や音がなくなり、静かな夜が訪れる。

一夏がその塊を受け止めると山田先生からの通信が入る。

 

『目標の沈黙を確認……皆さんよく頑張りました!』

 

その言葉で全員が任務の成功を実感する。

長時間の戦闘で溜まった疲労を癒すため、全員で島へ帰投する。

 

 

 




とりあえず次の1話をもって1学期が終了です。
ここまでは基本原作沿いでしたが、その後の夏休み編からはオリジナル展開に入る予定です。
不定期更新ですが、これからもよろしくお願いします。

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