1月は修士論文を書かなきゃいけないのにインフルエンザになったりしましたが、何とか期日までに完成させることができました。
皆さんもインフルエンザには気を付けてください。
夕暮れの洋上で、銀の福音と紅椿がぶつかり合う。
紅椿はそれぞれ攻撃・防御・機動と切り替えることができる展開装甲を持ち、それによりパッケージ換装なしで全ての状況に対応できるようにした第4世代型ISである。
機動力重視で装甲を展開した紅椿は銀の福音を超える機動力を有しており、初搭乗で不慣れな箒は、そのスピードに振り回されながらも肉薄する。
「これでは確かに、周りを気にしている余裕は無いな」
スピードは足りると言っても、気を抜けばエネルギー弾の嵐が直撃する。
鈴の援護を受けながらそれらを掻い潜り、二刀を振る事が出来たとしても、反撃されればその間合いを保つことはできない。
箒や鈴が避けたエネルギー弾の大半は海や空に消えていったが、それでもいくつかは島へ向かってしまい、そのたびに一夏とシャルが食い止めている。
島からさほど離れていない場所で戦闘しているため仕方のないことではあるが、銀の福音と対峙している鈴はできれば押し返したいと思っている。
「こっから先には行かせないわよ!」
鈴は拡張領域からビームライフルとバズーカを取り出すと、景気よく連射する。
そしてその攻撃でできた一瞬の隙を付いて、特化重粒子砲をぶちかます。
回避こそされたものの箒が接近するには十分だった。
「……」
銀の福音に神経を研ぎ澄ました箒の一閃が炸裂する。
そのまま連撃に移ろうとしたが、銀の福音の両翼が光り輝いている。
「箒、下がれ!」
どこからともなく聞こえてきたシンの声に箒が反射的に後退した瞬間、目の前にいる銀の福音に光の翼を広げ大剣を構えたインパルスが弾丸の如く突っ込むと、激しい金属同士の激突音と共に吹き飛んでいく。
その様子を見ていた鈴はパイロットにかかる衝撃を想像してしまい声を上げそうになるが、2機の状況を認識するとそれも引っ込んでしまった。
超高速による突撃をもってしてもバリアを貫くことはできず、銀の福音は大剣を脇に抱えてインパルスの速度を殺している。
バリアの堅さを知っているシンは即座にブラストに換装するとミサイルとレールガンを全門斉射し、衝撃で離れたところにビームランチャーを叩き込む。
だが銀の福音も黙ってやられるわけもなく、ランチャーが発射されるまでの一瞬で反撃する。
「ハァハァ……間に合った」
「あんた、無茶しすぎよ……って、こいつ相手じゃそれでも足りないんでしょうけど!」
あれだけの攻撃を受けたというのに銀の福音はいまだ健在だった。
フォースに戻したシンは何事もなかったように箒と共に銀の福音に立ち向かっていく。
人数が増えたからか、銀の福音はより一層自身の得意とする中距離を維持しようとする。
「ええい、逃げるな!」
数度の接近をことごとく躱されてしまった箒はその感情を吐き出す。
銀の福音の攻撃を避けながら次の接近の準備をしていると、一筋の閃光が走る。
その次の瞬間には白いISが高速で接近し、銀の福音に襲い掛かる。
「さすがにそう何度も通用しないか……」
「千冬姉!」
奇襲を回避した銀の福音を逃がさないよう、追いついてきたメンバーが展開する。
全員が合流したことで鈴は肩の荷が下りたものの、変わらず動き続けながら指示を待つ。
「私は避難誘導に回る。織斑、白式を返すから私と共に来い。
残りの者はボーデヴィッヒの指揮に従い、作戦を続行しろ」
「「了解」」
合流して早々に織斑先生は指示を出すと、一夏を連れて島へ戻る。
残って戦う皆に後ろ髪引かれつつも、一夏は今まで気になっていたことを聞いた。
「なあ千冬姉、何でアイツはあれだけ暴れまわってるのにピンピンしてるんだ?」
銀の福音はアメリカでの起動実験中に暴走して太平洋を横断した。
その後の交戦で砲撃やバリアでISのエネルギーはかなり消耗しているはずであるのに関わらず、変わらず動き回っているのが不思議だった。
「……ISにおいて最もエネルギーを消費するのは何だと思う?」
「絶対防御じゃないのか?」
「半分正解だ……正解は絶対防御を含む操縦者保護機能全般だ。
パイロットと機体の接続、バイタル測定と生命維持装置、重力や衝撃からの負担を軽減する慣性制御など、ISには絶対防御と合わせてパイロットを守る幾多の機能が搭載されている。
ISのエネルギーの多くはこれらの機能に割かれているため、パイロットのいない無人機であればその分のリソースを稼働時間や武装に回せるというわけだ」
普通に戦闘するだけでも有人機であるこちらはエネルギー的に不利である。
さらに無人化の恩恵で機体性能も突出している以上、こちらには数しか優位性がない。
「私はこれから山田先生と避難誘導を行う。お前は白式に乗りなおして急いで戻れ」
「分かった、行ってくる」
一夏は乗っていた打鉄を織斑先生に渡し、代わりに白式を受け取った。
白式を展開するとスラスターを全開にして皆の所へと飛んで行った。
……
…………
一夏も合流して銀の福音に立ち向かうが、一向に墜ちる気配がない。
全員が合流してから本気を出したのか、銀の福音は持ち前の高機動を思う存分発揮している。
「ああああ、なによこの無人機!
脳ミソが2つも付いてるみたいであの時と全然違うじゃない」
クラス対抗戦とは全く違う動きの無人機に鈴は苛立ちをぶつける。
自身が高速で移動しながらも、正確な射撃で牽制や本命を撃ち込んでくる姿に、鈴は移動と攻撃で脳が分かれてるんじゃないのかと思った。
「複座でここまで動ければ最高のコンビだ……だからこそ、無人機とは厄介なものだ」
人間同士では相手の思考を推測することはできても直接読むことはできない。
だが機械同士であれば、並列で計算された結果を随時相手側に渡すことで、自身の計算にフィードバックすることができる。
そこに一切の誤解はなく、情報は過不足なく正確に相手側に伝わる。
本来であればこれは無人機の目指す理想形であり、開発者はその理想形を目指して日々研究・開発・試験を繰り返しているはずのものだ。
この銀の福音とて、その過程で生まれた機体であったはずだ。
そしてラウラは疑問に思う。
以前に公開された資料では、単純な移動と攻撃くらいしかできなかったはずだ。
ISではないがドイツ軍も無人機の研究はしており、その成果は似たり寄ったりである。
公開資料では本来の性能を隠している事も考えられるが、暴走しただけでこうも的確な回避や攻撃ができるようになるものなのだろうか。
それに、自分は見ていないがIS学園に無人機が乱入した事件があり、そちらのAIも人間に近い動きができるそうだ。
世界レベルで見ても年代を飛び抜けた性能差を見せるAIが、IS学園に乱入した無人機と銀の福音を動かしているのでれば、その製作者は同じ可能性が高い。
その因果を調べるためにも、ここで何としても銀の福音を確保しておきたい。
(作戦を開始してからかなりの時間が経つ。
各自の疲労や重圧を考えても早々に手を打ちたいところだが……)
まず自分自身の状態が良くない。
既にレールカノンは弾切れを起こし、機体のエネルギー残量は約1500にまで減っている。
シールドを張って強引に接近してAICを使うには心許ない量だ。
だからこそ、中遠距離から攻撃しつつここぞという時にAICを使いたいのだが、肝心の攻撃手段がないため、今はシンから予備のビームライフルを借りている状態だった。
「ええい、そろそろ落ちろって!」
雪片がことごとく回避されて若干焦りが見られるが、一夏は今のところ問題はない。
最初は織斑先生が乗っていたこともあり、白式のエネルギー残量は約2200ある。
零落白夜を使うには十分なエネルギー量であり、機体の損傷もなく、本人もようやく前に出られるようになって体力・気力共に充実している。
「俺とセシリアで頭を叩く!」
シンはインパルスの機動力を持って箒と一緒に近接戦を仕掛けたり、セシリアと連携して牽制射撃を行ったりと、その動きには目を見張るものがある。
そんな激しい戦闘をずっと続けているにもかかわらず、エネルギー残量は約1700ある。
銀の福音を相手にするために展開し続けている光の翼は決して燃費の良い兵装ではないが、奴と似たような理由で継戦能力が向上しているのは喜ぶべきなのかは分からなかった。
だが、機体本体の損傷こそないが度重なる攻防のせいでバスターソードと物理シールドが破壊されており、予備のシールドもいつ壊れてもおかしくない状態だった。
シン自身はCEの経験からか疲れた様子はなく、集中力を維持している。
「大丈夫、甲龍はまだ動く」
銀の福音を足止めするために、簪は攻撃を回避しつつ龍咆で弾幕を張る。
甲龍の損傷はないが、龍咆を打ち続けていたせいかエネルギー残量は約1400になる。
その顔には長時間の戦闘による疲労が表れているものの、本人が訓練を積んでいると言っていたように、動きには表れていない。
「……」
簪に続いてセシリアがBTによる牽制射撃で援護する。
だがBT 2基をフル稼働しているため、機体のエネルギー残量は1100を下回っている。
ラウラはパイロットの安全を考慮してエネルギーが1000を切った者は撤退させるつもりだ。
途中でBT2基を失ったことでまだ基準値は切っていないが、人数が減れば任務成功率にも影響するため、できればその前に決着を付けたい。
セシリア自身は戦闘に集中しているためか呼びかけても反応は返ってこないが、指示には従っているところを見ると声が聞こえない程ではないようだ。
BT2基を操りながらブルー・ティアーズ自体の回避と狙撃を長時間続けるその集中力は、ラウラですら驚くものであったが、それに甘えるわけにはいかなかった。
「よし、ドンピシャ! このまま行くわよ!」
無言のまま完全に集中しているセシリアに対し、鈴は良く声を出している。
銀の福音に対抗して手持ちの銃火器で弾幕を張っているが、機体が急造の第3世代型ISであるのもあり、エネルギー残量は約2500と余裕がある。
全体の指揮はラウラがするため、味方への発破や攻撃時の掛け声で士気を維持してくれるのはありがたかった。
「ハァハァ……僕だって!」
シャルも鈴に合わせて弾幕を張る。
第2世代型ISであり装備も実弾で揃えられていることもあり、エネルギー残量は約3300と全機体中最大である。
しかし、軍人でもなければ代表候補生でもないシャルにとって、肉体的・精神的にかかる疲労は他人の比ではない。
息はたえだえで呼吸は荒く、機体操作に精彩を欠きながらも何とか食いついている状態だ。
「はああああ!」
そしてそれ以上に危険な状態なのが、今までずっと最前列で刀を振るっている箒だった。
紅椿が機体性能で銀の福音に対抗できるISであるため、自然と彼女に負荷が集中する。
そのためエネルギー残量は約1300と、ブルー・ティアーズに次いで低い。
訓練経験のない彼女がここまで長時間、積極的に攻撃役として動いていられるのも最初の鈴の指示が剣道をしていた彼女にとって最適であった結果と言える。
しかし、剣道の試合とは違いこの作戦に明確な終了時間はない。
そのポジション故に、セシリア以上にいつ集中力が切れてもおかしくはない状態だった。
(もっとだ……もっと速く、鋭い一撃を)
シンとセシリアが逃げ道を封じ、皆の弾幕で回避範囲を狭めたところで、奴の動きを完全に止めるために……そこから一夏の零落白夜に繋げるために――
箒は銀の福音の動きにより集中する。
「しまった、箒!」
しかしこの瞬間、その集中力が仇となってしまった。
攻撃することにさらに神経を集中させた箒は、銀の福音の移動の意味を読み取ることができず、味方の射線上にまんまと誘導されてしまった。
「ッ!?」
シャルの声が聞こえた時には既に遅く、彼女のアサルトカノンが直撃してしまう。
被弾によって箒の視界が急激に元に戻ったことで、仲間の様子を知覚する。
(深追いしすぎたか……シャルロットに気にしないように言って……
それから……それから……それから……)
味方に攻撃を当ててしまい動揺しているシャルに声をかけようとするが声が出ない。
そして視界には攻撃を回避しながら動きの止まった紅椿を攻撃いようとする銀の福音が映る。
「箒、無理なら一旦下がりなさい!」
張り上げた鈴の声で箒は思考を取り戻すが、集中力が切れたせいか呼吸が整わず、全身の汗による不快感とこれまでの戦闘による重度の疲労感に襲われ、すぐに動くことができなかった。
直撃を覚悟した瞬間、箒は誰かに突き飛ばされたことに驚いた。
さっきまで自分のいたところには白式――一夏がおり、こちらに飛んできた銀の福音の攻撃の全てをその身で浴びた。
「一夏ああー!!」
既に日の沈んだ洋上に箒の悲鳴が響き渡る。
パイロットである一夏が気を失ったことで、白式は静かに海に墜ちていった。
本来ならここで決着をつけるはずが、長引いて次話に持ち越しになりました。
もっとさっくりと戦闘場面を書けるようになりたいです。