ラウラはもっと戦闘で活躍するべきだと勝手に思ってます。
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2015.11.14:サブタイトル変更
襲撃事件の後、シンはパワードスーツの開発会社からある提案をされていた。
「君にその気があるのなら、是非このスーツのテストパイロットになってくれないか」
聞けば、普段は研究員がテストパイロットをしているが、まともに飛べないらしい。
デモンストレーションの時は上手に飛んでいるところを見せるために、ドイツ軍に協力を頼みセンスのあった少尉に乗ってもらったそうだ。
今後はより詳細な飛行データを取りたいのだが、研究員では満足に取れず、軍人を長い間派遣してもらうわけにもいかない。
そのため、正式にパワードスーツのテストパイロットをしてほしいと頼まれた。
シンからしてみれば願ってもいない提案なので、すぐに承諾した。
その後研究室で自分の状況も話したのだが、異世界については信じてもらえなかった。
確かに自分も相手の立場なら信じないが……。
おかげで今は住む所があるし、身元の方もドイツ国籍で融通してくれるそうだ。
それほどこの会社にとって、このパワードスーツの開発が重要なのだろう。
――――――――――
「いっけね、時間がない。急がないと」
あの事件から1週間ほど経ち、訓練を繰り返すことで飛行にも慣れてきた。
そして昨夜は自分の歓迎会を開いてくれた。
それは嬉しかったが、久しぶりにお酒を飲んだせか寝坊してしまい集合時間に遅れそうだった。
そのため今は走ってIS試験場に向かっている。
「ここを曲がればすぐだ。良かった、間に合うぞ」
速度を落とさず曲がろうとするが、それがまずかった。
別の方向から歩いてきた人物とぶつかってしまった。
(しまった)
ぶつかったことで互いに後ろに倒れていく。
シンはとっさに手を伸ばし、相手の腕を掴む。
そのまま相手を引き寄せ、その反動で自分の体勢も立て直す。
結果、ぶつかった相手は倒れることはなくシンに抱かれる形となった。
歳は自分より少し下だろうか、研究員の誰かの娘かと思ったが恰好がそれを否定する。
ストレートに伸びた長い銀髪の小柄な少女だが、眼帯に軍服は父親の仕事場に来る恰好ではない。
「ご、ごめん。急いでたからつい……。
大丈夫? 怪我はないか」
「あ、ああ……大丈夫だ」
少女は突然のことで少し混乱していたが、怪我はないので大丈夫だと返す。
シンは少女の言葉を聞いて安心し、もう一度謝罪するとIS試験場へ走っていった。
取り残された少女はようやく冷静になり何が起きたのか理解した。
「あ、あいつ。
人にぶつかっておいて、さらには抱き寄せるなどと……新手の痴漢か!」
「いえ、彼はただ隊長が転ばないようにしただけかと」
「そんなことは知るか。
クラリッサ、私たちもいくぞ」
後ろにいたクラリッサと共に少女もIS試験場へ向かう。
――――――――――
<<戦闘開始>>
「シン・アスカ 行きます!」
パワードスーツを着て試験場の上空を舞う。
武器は間に合わせだが、実体剣とマシンガンを装備している。
ターゲットが5体出現し、こちらに向けて光線を放つ。
光線を避けつつ、マシンガンで1体ずつ確実に撃破していく。
低速移動に単調な攻撃しかしないターゲットを全機壊すのに時間はかからなかった。
<<戦闘終了>>
ターゲットを全機撃破すると、シミュレーションの終了が伝えられる。
「いやあ、今でも信じられないよ。
ここまでISみたいに飛ぶ事ができるなんて」
この研究の責任者である主任が目に涙を浮かべながら言う。
周りにいる他の研究員も似たように感動している。
今までは誰がやってもただ飛べるだけだった機体が、低レベルとはいえISの戦闘シミュレーションをこなせるまでになったからだろう。
すると見覚えのある少女が声をかけてくる。
「まさかお前が新たなテストパイロットだとはな……
確かに、今までの誰よりも使いこなしている」
軍服を着た少女が言う。
そう、ここに来る前にぶつかってしまった少女である。
少女とその横にいる女性はシンの横にいる主任に近づき敬礼して挨拶をする。
「ドイツ軍IS配備特殊部隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐です」
「同部隊副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉です」
彼女たちの名乗りを聞いた主任はシンに目を向ける。
おまえも自己紹介しろと目で言われたので、シンは敬礼し自己紹介する。
「アーベントヴォーゲル社IS開発部所属、テストパイロットのシン・アスカです」
「で、私が開発部の主任だ。今日はよろしく頼むよ。
それじゃあ、銃弾全部模擬弾に変更したらすぐに模擬戦始めるよ」
模擬戦をするとは聞いていたが、まさか相手が軍の少佐とは思わなかった。
そしてその少佐がぶつかった少女だとは思わなかった。
互いに何か言おうと思ったのかシンとラウラは目を合わせるが、すぐに目を離し模擬戦の準備に取りかかった。
――――――――――
<<戦闘開始>>
合図とともに両機が動き出す。
最初に攻撃したのはラウラのシュヴァルツェア・レーゲンだった。
右肩に装備されている巨大な砲塔をシンに向ける。
「シン・アスカ、先ほどの礼をここでさせてもらう」
言うと同時にレールカノンから砲弾が飛んでくる。
シンはこれを避けてマシンガンの弾と一緒に言葉を返す。
「あ、いや、確かにあれは俺が悪かったけど……そこまで言うか!?」
「貴様の不注意を矯正してやる、感謝しろ」
そういうと今度は2本のワイヤーを自在に操ってシンを襲う。
迫りくるワイヤーを避け、剣で斬り落とそうとするも斬れない。
「なんだよこれ。ナマクラじゃないか!」
剣で斬れないのなら、模擬弾のマシンガンでも駄目だろう。
とはいえ、ワイヤーの2本くらい避けるのに苦労はしない。
悠々と避けながらマシンガンで応戦していく。
「ほう、少しはやるようだな。では、これならどうだ」
そういうとさらにワイヤーを4本追加する。
6本のワイヤーによる全方位攻撃によって、ラウラが優位に立つ。
シンは完全に防戦に回ってしまい、反撃できてもせいぜいワイヤーの隙間からラウラを狙ってマシンガンを撃つぐらいであり、当然そんな状態での攻撃など当たるはずもない。
それでもシンは6本全てのワイヤーを避け続けている。
(まさか全てのワイヤーを躱し続けるとは……
手数で翻弄して、足を止めたところを絡め取るつもりだったが)
数分間続いたこの均衡を破るためラウラはもう一度右肩のレールカノンを撃つ。
シンはすぐさま射線から外れ、ワイヤーを避けながらレールカノンも避ける。
(砲を向けてからの反応が速い。
この状況でも常にこちらの動きも見ているというわけか……なら!)
ラウラはISにレールカノンをオートでロックオンするように命令を出し、シンの意識をよりレールカノンに集中させる。
ロックオンされたシンは射線から外れるように動くので、ラウラはレールカノンを撃たずにワイヤー操作に集中し、回避先を狙う。
シンの回避に余裕がなくなっているのが分かる。
だが、ワイヤーはまだシンには届いていない。
ラウラにとってこの状況は想定の範囲内……ワイヤー6本とIS本体の動きを常に認識している彼をこの程度で捕まえられるとは思っていないし、レールカノンの囮も長くは続かないと思っている。
囮がばれる前にラウラは次の行動に移る。
今度は発射間隔をランダムにレールカノンを自動で発射するように設定する。
弾数は多くないのですぐに弾切れになるだろうが、すぐに決着をつけるつもりなので問題はない。
これで少しは囮とばれにくいだろうし、たとえ囮と分かっていても避けるためにはレールカノンに意識を集中させなければならない。
作戦は成功し、レールカノンを避ける度にシンはどんどんワイヤーに追い込まれていく。
「うわっ!」
3発目を避けた時、とうとうシンは体勢を崩してしまい思わず声が出る。
その隙にワイヤーが襲いかかるが、シンは手足を大きく振ることで強引に姿勢をずらして避ける。
避けられたからといってせっかくのチャンスを見逃すラウラではない。
シンの体勢が戻る前に攻撃を仕掛ける。
「もらった!」
右手のプラズマ手刀を展開し、瞬時加速で一直線に接近する。
…………
「私の勝ちだな」
ラウラはシンの面前にプラズマ手刀を、シンはラウラの面前にマシンガンを突きつけている。
そしてシンの背中を狙うように空中で静止している6本のワイヤー……。
「ああ、俺の負けだ」
<<戦闘終了>>
シンが負けを認め、模擬戦は終了した。
あれ? ラウラが有線BT付けたら結構強くね?
さて、このペースで行くと一夏登場までに何話かかるんだろう……。