紅い翼と白い鎧【IS】   作:ディスティレーション

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臨海学校は前々から構想していたので、そんなに投稿が遅くなることはない
……と思います。



第27話 臨海学校

臨海学校当日、シン達はIS学園が所有するとある離島に来ていた。

2泊3日お世話になる宿の人たちに挨拶をし、各自部屋に荷物を置いて近くの浜辺に向かった。

 

「なあシン、今の状況が知られたら俺たち全国の男子に殺されそうだよな」

 

「ISスーツで見慣れてるから水着ぐらい今更……って言ったら余計にな」

 

初日は自由行動であり、浜辺いっぱいに広がって各々水着ではしゃいでいる女子たちを見て改めて自分たちの異質さを痛感する一夏とシン。

そう、目の前には沢山の水着の女子たちで溢れており、健全な男子高校生には刺激が強い。

しかし、幸か不幸か普段の実習でボディラインがはっきりと出るISスーツを着て行っているせいか、普通に会話するだけの余裕はあった。

 

「確かに、この光景見ても水着の選び方に性格が出てるよなーって感じだしな」

 

「逆に俺たちは普段ISスーツ着てるから、Tシャツ脱ぐのに抵抗感あるよな」

 

「なんの話しをてるの?」

 

海水パンツにTシャツスタイルの2人が話していると、シャルロットが話しかけてきた。

その姿は以前の男装した姿ではなく、本来の女性の姿で水着を着ていた。

本来ならデュノア社長が行動を起こすのは夏休みに入ってからであり、正式にシャルロット・デュノアとしてIS学園に復帰できるのは2学期からの予定ではあるが、本人の希望もあり、書類上はシャルル・デュノアのままであるが正体を明かして在籍している。

彼女の水着姿を見て、シンは先日の出来事がなければ正体を隠したままこの行事に参加するつもりだったのだろうかと考え、一夏は風呂場での出来事を思い出して赤面してしまった。

その反応でシャルの方も思い出してしまい、両腕で胸を隠しながら恥ずかしがる。

 

「一夏のえっち」

 

「なんでだよ!」

 

「お、他の皆も来たみたいだな」

 

シンの言葉通り、残りのメンバーも着替えてやってきた。

先ほど一夏も言っていたように水着にそれぞれの性格が表れていた。

 

「なんでISスーツ!?」

 

「愚問だな、いざという時にも動けないのでは意味はない。

となれば機能性・耐久性に優れ、水着としても使えるISスーツが最適だ」

 

シャルの問いに当然だと言わんばかりにラウラは答えた。

拳銃こそ持っていないが、両足のホルダーにナイフを入れており、その本気ぶりが伝わってくる。

 

「それじゃあさっそく泳ぐわよ。誰が速いか競争よ!」

 

「お、いいぜ。中学の時みたいに勝たせてもらうぜ」

 

「俺も久々に本気で泳いでみるか」

 

「なら私もだ、軍人としての実力を見せるいい機会だ」

 

「水泳には自信があるから僕も参加させてもらうよ」

 

鈴の提案に一夏が乗っかり、それに軍人組のシンとラウラが追従する。

水泳に自信のあるシャルも参加し、残りのセシリアと箒と簪は泳げないわけではないがスピード勝負するほどではないので審判を買って出た。

 

「ほう、面白そうだな。私も参加させてもらおうか?」

 

「ち、千冬姉!」

 

「だ、誰が相手でも不足はないわ!」

 

こうして、鈴、一夏、シン、ラウラ、シャル、千冬の6人で競争することになった。

これだけの人数、面子で行うとなれば先に浜辺で遊んでいた人たちも注目する事態となった。

大勢の応援を受けながら、シン達はスタート合図を受けて約1kmのコースを泳ぎ始めた。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

「ふ、まだまだ負けてやるつもりはないさ」

 

常に1位をキープし、最初にゴールしたのは織斑先生だった。

そのスピードは圧倒的であり、素人目に見ても勝ち目はなかった。

そしてなにより1kmという距離を常にハイペースで泳ぎ切った彼女はまさに化け物だった。

 

「くそッ、追いつけなかった!」

 

「まだまだ教官には届かないか」

 

それに少し遅れて、シン、ラウラの順でゴールした。

化け物じみた織斑先生に隠れがちだが、それにある程度食いついていた彼らもまた普通じゃないと観客皆は思っていた。

 

「織斑君頑張れー!」「鈴さんファイトー!」

 

シンとラウラが息を整えたあたりで、一夏と鈴がラストスパートをかけていた。

どっちが勝つか分からないデッドヒートに辺りは2人への応援で盛り上がっていた。

 

「「プハッ、俺(私)の勝ちだ(よ)!」」

 

同時にゴールした2人は声を上げる。

しかしお遊び企画なので厳密なゴール審判はしていないため、結果は引き分けだった。

そしてその後ろからシャルがゴールし、全員が戻ってきた。

 

「ぜえ……ぜえ……なんで……あのペースで……泳ぎ切れるの……どれだけ……体力が……」

 

正直、ここまで廃スペックが求められる勝負になるとはシャルは思っていなかった。

シャルとて一般人から見ればかなりの身体能力ではある。

事実、500m地点までは織斑先生を追いかける2人につられてハイペースになってはいたが、一夏よりも前にいたのだ。

 

「誰も1kmコースなことに疑問が湧かなかった時点で、彼らの体力を推し測るべきでしたね」

 

「セシリアの言う通りだ。

千冬さんが規格外なのはいつもの事だが、一夏もなんやかんやであの人の弟だしな」

 

「もしかしたらお姉ちゃん以上かも……」

 

その後は水泳競争が盛り上がったからか、他の生徒たちで競争してみたり、チームを作ってビーチバレーをしたりと、臨海学校初日は楽しいひと時となった。

ひとしきり遊んだあとは、旅館で夕食や温泉を満喫して就寝した。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

翌日、生徒全員がISスーツを着て実地における訓練実習の説明を聞く。

現在ISはスポーツという形になっており、基本的にはアリーナ内部で行われるものだが、非常事態における自衛・防衛・救助などの理由でISを使用する可能性がある。

そのため、エリアが限定されない状況下における注意事項やISの使用感覚を学ぶ事がこの臨海学校の本来の目的である。

 

「それでは、各グループに分かれて順番に実習を――」

 

「ちーーーーちゃーーーーん!!!!」

 

織斑先生の説明が終わりかけたころ、上空から甲高い女性の声が響いてくる。

いや、それだけではなく何かが高速で接近するような音も一緒に――

 

「全員伏せろ!」

 

織斑先生の叫びと共に何かが近くに落ちた。

幸い大きな衝撃や四散物はなく、伏せていた生徒たちは順々に立ち上がってそちらを見る。

するとそこから女性が出てきて、勢いよく織斑先生に突っ込んでいく。

 

「ちーちゃん、久しぶりだね」

 

「なんでお前がここにいるんだ……」

 

突っ込んできた女性を手で止めながら、織斑先生は呆れている。

その対応から知り合いだとは思うが、謎の女性が現れて生徒たちは混乱していた。

 

「えっと……織斑先生、彼女は?」

 

「篠ノ之束、ISの生みの親だ」

 

「「ええええーーーー!!!!」」

 

このピンクの長髪に謎のうさ耳を付けた人物が、あの天災だという事実に驚きしかなかった。

この反応は想定済みなのか織斑先生は全てを諦めていた。

 

「あ、束さんお久しぶりです」

 

「いっくん久しぶり。どう白式は、束さん謹製だからもう凄いでしょ!」

 

「ええ、色々と凄いISだと思います」

 

「初めまして博士、わたくしはイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

 

彼女を知る一夏が話しているうちに冷静さを取り戻したセシリアが挨拶をする。

しかし帰ってきたのは予想もしない言葉だった。

 

「ああ、BTとかいうフルスペックを出せるパイロットがいない装備を作った国の人ね」

 

「おい、アンタいきなり何を――」

 

その物言いに頭に来たシンが言い返そうとするが、それより先に彼女が近づいてきた。

そしてシンをジロジロ見ながら言い返す。

 

「いきなりアンタ呼ばわりとはひどいなー。

そういう君こそ、何でここに居るのかな……

 

 

 

ISを使えないなら帰ってよね」

 

 

 

最後だけ今までの軽い口調ではなく、わざわざシンにしか聞こえないように話してきた。

恐らく彼女はインパルスについて知っている。

その事実にシンは驚き、どう対処しようか思考を巡らせる。

しかし彼女はまだ何か気になることがあるのか、まだシンのことをジロジロ見ている。

 

「んー、おおそうだ。君、妹いるでしょ。

どっかで見たことあるなーって思ったら、探してるって言ってた写真の男の子だ。

いやー束さん、うっかり忘れるところだったよー」

 

「それはホントか!?」

 

驚いた――

 

戸惑った――

 

不思議だった――

 

疑問だった――

 

嬉しかった――

 

突然の出来事に一瞬で様々な感情が駆け巡り、束に詰め寄った。

“あの日”から4年経つだろうが、クルーゼさんのようにマユもこの世界に来たのかもしれない。

 

「実際どうするかは、一応人違いじゃないか帰って確認してからだけどね」

 

興奮気味のシンに落ち着けとジェスチャーをしながら確認を取ると言う。

周囲の目もあったためここは抑えて次の言葉を待つシンだったが、束はそんな事お構いなしに感じていたことをそのまま言い放つ、

 

「でも正直がっかりだよ、探し人がISモドキ使ってるなんてさー。

例のシグーと言い、折角のコアをこんなゴミみたいな機体にするなんて馬鹿みたいだよ」

 

「束、その辺にしろ」

 

これ以上はいけないと判断したのか、織斑先生が束を制止する。

シンも何か言い返したかったが、織斑先生に目で止められたため何も言わなかった。

彼女もそろそろ本題に入りたかったのか、素直に言うことを聞いて仕切り直した。

 

「それじゃあ改めて、箒ちゃん誕生日おめでとー。

今日はプレゼントを持ってきたよ」

 

「な、姉さん。何で今になってこんな……」

 

「だって、折角IS学園に入ったんだもん。

そこで束さんは、気合いを入れて箒ちゃんの専用機をコアから作ってきました!」

 

そう言って自分が落ちてきた何かの方へ視線を誘導する。

そこには赤色のISが1機鎮座していた。

 

「この子の名前は紅椿……世界に2機しかない第4世代型ISだよ。

さあ、フィッティングするから早く乗って」

 

しかし箒はその言葉に従わず、困惑したまま立ち尽くしていた。

そして先ほどまでとは間違った雰囲気がこの空間を覆った。

 

「姉さんの妹だという理由だけで、その機体に乗っていいのか?」

 

ある意味、ここに居る生徒の大多数を占める感情の代弁だった。

困惑から不安になる箒に声をかけたのはシャルロットと簪だった。

 

「良いと思うよ。僕だって社長の子供ってだけで専用機貰ってるからね」

 

「おそらくコアから箒さん専用に調整されていると思う。

あの人の事だから既に他人には乗れないようになっていても不思議じゃない。

だからもう貴女が乗るしかない」

 

2人の言葉で少し気が楽になった。

あの姉の事だから自分以外には使わせる気はないことは分かる。

そして織斑先生の言葉が、最後に背中を押した。

 

「篠ノ之、“刀は振ったようにしか振れない”……私はISも同じようなものだと思っている」

 

「……はい!」

 

箒は覚悟を決めて紅椿の調整に向かった。

そして彼女抜きで実習を再開しようとしたとき、山田先生が血相を書いて走ってきた。

 

「織斑先生、大変です!」

 

彼女が伝えた内容、それは実験中のISが暴走しこちらに向かっているというものだった。

それは篠ノ之束の登場より厄介なものだった。

 

 

 




束さんの言動を表現するのが難しいです。
そしてシンが良い意味でも悪い意味でも彼女に目を付けられました。

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