紅い翼と白い鎧【IS】   作:ディスティレーション

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シグーの中の人、いったい何者なんだ……


第23話 シグー

突如現れたCEのMSであるシグーを前に、シンは一瞬固まっていた。

それでも、相手がビーム砲をその場において飛び出したのに反応してこちらも動き出す。

 

(なんで、シグーがここに……)

 

今すぐにでも通信で疑問を投げつけたいが、自分の正体を隠すために気持ちを抑える。

シグーはバルカン砲を撒きながらビームライフルで狙撃してくる。

こちらもビームライフルで応戦するが、どちらの攻撃も当たる気配がなかった。

単調な攻撃ではないが、どういうわけか相手の狙いが読みやすいと感じる。

妙に戦いやすいというか、自分と似た考え方をしているような気がする。

 

「おい、アンタ。いったい何者だ」

 

「……」

 

そんな中、簪とラウラを戻してきた一夏がスピーカーで相手に呼び掛ける。

相手からの返答はなく、ただの全身装甲のISに見える一夏はこの間の無人機を思い出す。

 

「アンタが敵だってんなら、俺が相手になってやる」

 

一夏は啖呵を切ると雪片を構えてシグーに向かって行き、シンはそれをライフルで援護する。

そのおかげで一夏は被弾することなく接近することができたが盾で受け止められてしまう。

シグーは右手に持ったライフルを撃とうとするが、シンが放ったビームライフルを避けるために白式から全力で離れる。

 

「待て!」

 

一夏は後退するシグーを追おうとするが、バルカンによって阻まれる。

そして回避するために方向転換しようとしたところをビームライフルで狙撃される。

 

「く、ここまでかよ」

 

シグーのライフルは一夏の腹に見事に刺さり、ついに白式のエネルギーが0になる。

さすがにこの状態で戦うわけにもいかず、一夏はシンに後を託してピットに戻る。

そしてシンは、シグーの一連の行動を見て確信する。

あの時、エネルギーシールドで攻撃を防いでライフルを撃てば、エネルギー残量がわずかしかない白式を退けることができたはずだ。

シンは今までISで戦ってきた相手と比べ、シグーは被弾を極端に避けようとしており、特にビームライフルに対しては大きな警戒心があると感じた。

そしてISであれば表面積の大きい機体の上半身を狙うところを、シグーはわざわざ表面積が小さいパイロットの腹部をピンポイントで狙った。

これらの癖はシン自身にも当てはまったが、それはほぼ全てのMSのコックピットが腹部に存在し、ビーム1発で生死が分かれるCEの戦場においてはこの感覚を身に着けなければ生き残ることはできないものだった。

 

(間違いない、こいつCEのMSパイロットだ……となると俺と同じ元ZAFTか?)

 

シンはシグーの戦い方や癖から自分と同じMSパイロットであると確信する。

それはつまり、自分以外にもCEからこちらの世界に来た人物がいることを意味する。

また相手がインパルスを知っており、今のフォースシルエットの翼がデスティニーを元にしていると分かれば、シン・アスカにたどり着くのは容易だ。

 

(もしかしたら、相手は既に俺の正体に気付いているかもな)

 

しかしセカンドシリーズが発表される前にこちらの世界に来た可能性もあり、あくまでも可能性の1つとして思い留めることにして今は相手を退けることに集中する。

見た目がシグーであるせいか、ISであることを忘れCEでMS戦をしているようだった。

そして戦場の感覚が呼び起こされるのか、自然と今まで以上に集中力が高まっていき、頭の中で赤く光る何かが弾けようとしている。

CEで何度か経験した、頭の中がクリアになり視界が全方位に広がったような感覚の前兆だった。

 

「アスカ、もう戻れ」

 

しかし、突如聞こえてきた織斑先生の通信によりその何かが弾けることはなかった。

こちらの世界に来てから今まで使ってこなかったからか、それとも途中で中断されたからかは分からないが、先ほどまでの感覚が今まで以上に鮮明に残っていた。

それに気づいたシンだったが、シグーが攻撃をやめてビーム砲を置いたピットへ戻っていくのを見て次になにかをしようとしているのか疑問に思った。

 

『以上により、エキシビションマッチを終了します』

 

「な、どういうことだよこれは!」

 

そして直後の放送でシンは完全に混乱し、思わず怒鳴りつける。

通信越しに織斑先生のため息が聞こえ、投げやりな口調で指示を出す。

 

「とにかく一旦戻れ、それから説明する」

 

シンはその指示に渋々従ってピットに戻ると、走って管制室に向かった。

そこには先に戻った一夏だけでなく、簪、箒、鈴、セシリア、シャルルも来ていた。

 

「さて、どう説明したものか……」

 

「まずは皆さん、モニターを見ていてください」

 

織斑先生が頭を抱えている間、山田先生に促されてアリーナが映っているモニターを見る。

そこにはシグーだけではなく、マイクを持った見知らぬ男性が何か喋っている。

 

「えー皆さん。先ほどのエキシビションマッチ、如何でしたでしょうか?

私達国際技術開発機関(ITDO)は本日、こちらの機体を発表するためにこの場を設けました。

まずはご協力して頂いたIS学園に、この場を借りてお礼を申し上げます。

さて、皆さんも気になっているでしょうからそろそろ本題へ参りましょう。

それでは、機体にご注目ください」

 

司会は観客を誘導すると、シグーの上半身が開き中からパイロットが下りてくる。

その人物が現れると、観客はどよめきが上がった。

それは管制室でも同様であったが、その中でシンだけは違う反応をしていた。

 

「レイ……?」

 

その人物は白に近い灰色のISスーツを着た、長めの金髪をした30前後の男性だった。

シンはその姿から親友であるレイ・ザ・バレルを思い浮かべたが、よくよく見ると年齢が合わないのと、戦い方が違う感じがしたことから彼ではないと結論した。

すると、呟きが聞こえていたのか簪が話しかけてくる。

 

「知り合い?」

 

「いや、知り合いに感じが似てただけだ」

 

シンはそう答えたが、レイに似ているであろうCEの人物には心当たりがある。

しかしその人物についてはレイから聞いた限りであり、自分がZAFTに入った時には既に戦死していたため確証はなかった。

その間にアリーナではパイロットであるギルバート・マックスウェルが紹介されていた。

 

「そしてこの機体、名前はシグーと言い、性別問わず搭乗することができます。

これにより、ISは女性にしか動かせないという常識はなくなりました……

と、この場で発表できれば良かったのですが、まだその域には達していません。

それはシグーにはISコアをただの動力としてしか使っていないからです。

本来のISであれば、ISコアは動力としてだけではなくパイロットと機体・武器全てを管理するシステムも兼ねており、それによりコア・ネットワーク、拡張領域、ハイパーセンサー、エネルギーシールド、PIC、操縦者保護機能など様々な機能が使えますが、シグーでは動力としてしか使っていないため、エネルギーさえあれば使えるエネルギーシールドとPICしか使えません。

その代わり、ISコアはパイロットとの接触がないため性別関係なく使えるというわけです。

他の機能はIS以外の技術で取り繕っているだけですので、シグーはISとは言えないでしょうが、匹敵するポテンシャルがあることは先ほどの試合をご覧の皆さまなら納得して頂けると思います」

 

司会の口からシグーがなぜ男性でも動かせるのかと、その大まかな原理が説明される。

しかし、この発想自体はIS研究の初期から存在しており、新しいものではない。

今まで実現しなかったのは、ISコアが数量限定であることから、劣化ISにしてまで男性を乗せる事が、女性を乗せるだけで本来の性能で運用できる数を減らすことに見合わないからだ。

説明を聞く限り今のシグーでもその判断は変わらない。

観客の大多数はこの発表に湧き上がっているが、こういった事情を知る知識人にとってはこうして大々的に発表したことを疑問に思う。

そのことを想定していたのか、司会はさらに説明を続ける。

 

「皆さん、喜んでいるところ申し訳ないのですが、このシグーは量産できません。

なぜならISコアが数量限定であるため、この方式の機体に回す分が無いからです。

ですが安心してください。

先ほど説明したように、シグーにとってISコアはただの動力……

ようは自動車のエンジンやモバイル機器の電池と同じです。

ISコアに個数制限があるのなら、それに代わる動力を用意すれば量産できます。

そしてITDOでは、ISコアに代わるバッテリーを開発しました。

後は実用化に向けた各種調整を残すのみであり、早ければ今年中、遅くても第3回モンドグロッソ大会までには正式な量産機として新機体を発表できると思います。

ISコアを使用しないため、ISではない独立した機体になりますが、性能は本日の試合でお見せしたシグーと同程度の量産機をご期待ください。

本日は突然のことで申し訳ありませんが、最後まで聞いていただきありがとうございます」

 

全ての説明が終わったのか、ITDOの人たちはシグーを持って引き上げていった。

観客席からは様々な声が巻き上がり、アリーナは興奮に包まれた。

そして管制室では、補足の説明を織斑先生がしていた。

 

「誰が優勝するのか分からなかったのと、本当のことを言えばシグー相手に手を抜く可能性もあったから黙っていた」

 

「はあ、何だそうだったのか。

俺はてっきり、また無人機が乱入してきたのかと思ったよ」

 

シグーについての種明かしがされ、一夏は安心する。

アリーナでの説明と織斑先生の言葉から他の皆も危険性がないと判断する。

シンも敵ではないことが分かり、今は決勝戦で様子がおかしかったラウラについて聞いた。

 

「織斑先生、ラウラはどうなったんです?」

 

「ああ、あの後医務室に運んでおいた。

検査したところ異常はないそうだから、まだ寝てるはずだ。

それとアスカ、ボーデヴィッヒについて心当たりはあるか?」

 

「いえ、俺にはさっぱり……」

 

「そうか、本人に心当たりがあれば良いが……

おっと、いつまでもここでウダウダしていてはいけないな。

ほらお前たち、もう閉会式が始まってるから観客席へ戻れ」

 

 

織斑先生の言葉に従い、シン達は管制室を後にした。

今日1日で色々なことが起こり、閉会式など耳に入ってこなかったが今年の学年別トーナメントは中断することなく幕を下ろした。

そして今日の発表はすぐさま報道され、世界中の人々に新たな衝撃を与えることになった。

 

 

 




うーん、前話と言い戦闘シーンが圧縮されすぎてる気がする。

次回で学年別トーナメントが区切りになるので
その後に設定等をまとめたものを投稿しようと思います。

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