紅い翼と白い鎧【IS】   作:ディスティレーション

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皆さん長らくお待たせしました。私のほうは無事に就職先が決まりました。
まさか8月までかかると思いませんでしたが、これで後は卒業するだけです。
そしてこの小説も気づけば2周年です。(まだ学年別トーナメントだけど……)
新たなシン×IS小説も増えて完全に埋もれてしまったような気がしますが、これからもよろしくお願いします。



第22話 学年別トーナメントⅢ

Aブロック優勝:織斑・ボーデヴィッヒペア VS Dブロック優勝:アスカ・更識ペア

 

 

 

≪戦闘開始≫

 

1年生とはいえ専用機持ちと代表候補性、更には男のIS操縦者が入り乱れる試合ということもあり、観客は例年以上の賑わいを見せていた。

試合のほうはインパルス対シュヴァルツェア・レーゲンのドイツ対決と、打鉄対白式という日本対決となり、どちらも一進一退の攻防を繰り広げていた。

そのさなか、一夏はあの日宣戦布告された疑問をぶつける。

 

「なあ、俺に勝負を挑んだ理由、聞いていいか」

 

「……いいよ、試合が終わったら教えてあげる」

 

すでに心情は変わっているため教えてもよかったのだが、自分から勝負を挑んでおきながらあっさり撤回するというのは、さすがに恥ずかしかった。

 

「へえ、勝ったらじゃなくて良いのか」

 

「うん、このことは織斑君も知っていた方がいいと思うから」

 

そして冷静に考えた結果、このことは白式を使う一夏も知っておくべきだと考えた。

今日の試合を見て白式への疑問は解決するどころか逆に増えたと言っていい。

戦況は、簪が焔火と撃鉄による射撃戦で優位に立っている。

そしてもう片方、ドイツ組みの対決の方は異様な雰囲気になっていた。

 

「対象を確認――殺傷兵器ではシールドが発生するため注意」

 

まるで機械のような口調で独り言をいいながら、ラウラはシールドが発生しないワーヤーブレードでヘルメットの脱離を狙う。

シンはフォースシルエットで回避に専念しながらラウラを攻撃する。

しかしラウラはレールカノンによる砲撃も、AICを絡めた接近戦もしてくる様子がなく、違和感を覚えたシンは通信を入れる。

 

「対象からの通信を確認――応答します」

 

「おいラウラ、どうしたんだ。俺と戦いたいから一夏と組んだんだろ?

後、冗談でもヘルメットを集中攻撃するのはやめてくれ」

 

「対象から任務の破棄を要請――却下します」

 

通信でのやり取りによって、シンはラウラの様子がおかしいことを実感する。

試合を見た限り準決勝の時は普段通りだった。

ということは、自分たちの準決勝からこの試合直前までに何かあったということになる。

それでもペアを組んでいる一夏が側にいたと考えると、シンはどうしてこうなったのかまるで見当がつかなかった。

 

(とにかく今は、ラウラを正気に戻さないと)

 

シンは簪にこの異変を伝えると、試合を終わらせて一刻も早くラウラをISから下ろすことを考える。

簪は一夏と戦いながら、シンとラウラの戦いを見て通信が正しかったことを確かめる。

 

(やっぱ、近づけねえか)

 

中々接近させてもらえない一夏は、強行突破することにした。

ヒット&アウェイもせずに徹底して距離を取っているということは、零落白夜を恐れているだけではなく近接戦闘に自信がないということ。

なら、被弾覚悟で突っ込んでも懐に潜り込めばこちらに軍配が上がる。

相手は手数重視で火力が低いため、被弾しても足は止まらないしエネルギーも足りる。

そして零落白夜の発動を見せておけば、警戒してこれまで以上に射撃による足止めに注力して逃げるという選択はなくなるだろう。

仮に全力で逃げたとしても、機体性能は完全に勝っているため追いつける。

 

「よし、いくぞ零落白夜!」

 

思考がまとまると、一夏は雪片を正面に構えて見せつけるように零落白夜を発動する。

雪片に金色のオーラが纏い、簪は零落白夜を発動したことを認識する。

 

(あれが零落白夜……なぜ、二次移行せずに使えるの)

 

本来なら二次移行して初めて使えるようになるワンオフ・アビリティを白式は一次移行しただけで使えることに疑問を感じる。

ラウラや白式のことを考えていると、弾幕をものともせずに一夏が瞬時加速で突っ込んでくる。

考え事をしていたせいか対応が遅れ、すれ違いざまに雪片が一閃される。

 

「くッ、避けきれない」

 

零落白夜の一撃を脇に食らい、今まであったエネルギーのアドバンテージが逆転した。

直撃していればエネルギーが0になっていたことを考えると冷や汗が出る。

 

「浅かったか!」

 

簪は考え事を一旦隅に置き、今はシンのヘルメットを取ろうとするラウラを優先する。

試合時間はようやく折り返し地点、憂いを断つためにも先に彼女を倒すべきだと判断し、簪は機体をシュヴァルツェア・レーゲンに向ける。

 

「先に彼女を落とす」

 

「敵の接近を確認――任務遂行に支障をきたすため、直ちに排除します」

 

ラウラは自分に向かってきた簪を排除するため、瞬時加速で打鉄へ突っ込む。

簪はAICで銃撃を止めながら突っ込んでくるシュヴァルツェア・レーゲンを止めることはできなかった。

それでも諦めずにすれ違いざまのプラズマ手刀を回避し、即座に反撃した――はずだった。

 

「!? いつの間に……」

 

打鉄の足にワイヤーブレードが巻き付いていた。

ラウラは打鉄を加速の勢いのまま引っ張ると、急制動をかけてアリーナの壁に叩き付ける。

簪は抵抗することもできず、そのままレールカノンを撃ち込まれてしまう。

これにより白式との戦いで消耗していた打鉄のエネルギーは0になった。

 

「くそッ」

 

シンはラウラに向かってライフルを撃ちながら接近していく。

それに応じてラウラもシンの方へ向かおうとするが、その間に割り込む機体があった。

 

「ラウラ、ここは俺に任せろ」

 

ラウラの様子に気付いた一夏は、シンとの間に割って入り彼女を一旦下がらせようとした。

 

「仲間からの要請を確認――任務内容と相違するため却下します」

 

「いや、俺がやる。ラウラは下がってろ」

 

いくら短い付き合いだとしても、明らかに普段とは違う口調であり、今までの試合からISに乗ると口調が変わるタイプではないことから、彼女の様子がおかしいことは決定的だ。

ここでシンと直接対決させるよりは、自分が間に入って試合終了まで戦う方がおかしなことが起こらないだろうと一夏は判断した。

シンもその判断を理解し、ビームサーベルを抜いて一夏の接近戦に乗った。

 

「勧告を無視――任務遂行の障害になるため、排除します」

 

しかしラウラは一夏を排除してでも任務を遂行することを選択した。

まずは一発、白式に当たるギリギリの射線でレールカノンを発射。

 

「危なッ! おい、嘘だろ」

 

その後、ワイヤーアンカーで白式を掴み、インパルスの傍から引っ張って地面に叩き付ける。

そしてレールカノンを白式に向けて撃とうとする。

 

「あ、ちょっと!」

 

ヘルメットが取れるのを今か今かと観戦していたDr.Mは、ラウラが一夏を撃とうとしたのに驚いてとっさに声を上げて立ち上がる。

周りに座っていた観客は驚いて、立ち上がった彼女に注目している。

その様子はISのハイパーセンサーの端に映っている。

シンに妨害されたためレールカノンは撃てなかったが、障害の排除に成功したラウラは任務を遂行しようとした。

しかしハイパーセンサーに映った彼女を見つけた瞬間、ラウラは自我が戻り今まで自分がしてきたことを思い出した。

 

「あ、ああ……私は、私はいったい……」

 

 

 

覚えのない記憶がフラッシュバックして行く。

ドイツ軍に入る前、まだ研究施設にいた時の記憶だ。

色々な研究員に様々な命令をされて、それを淡々と実行している。

そして最後に思い出すのは薄暗い鉄の部屋の中で柱に縛り付けられている少年。

 

 

 

――そんな、どうしてだよ……おいやめろ、No.0702。

 

 

 

この時もそうだった。

ただ命令を遂行することしか頭に入らず、その内容に疑問すら持たなかった。

 

 

 

――No.0702、聞こえてんだろ? なあ、何とか言ってくれよ。

 

 

 

ああ、聞こえてるよ……聞こえてたんだよ。

だけど私は、何も感じなかった。考えなかった。だから――

 

 

 

――ちくしょう、なんでだよ……なんで、こんな事に……。

 

 

 

言われるがままに撃った。私が彼を殺した。

そして私は、また同じことをしようとした。

任務遂行に邪魔だからと、この試合では味方の一夏を撃った。

状況はまるで違うのに、あの時と同じに思えて気持ち悪かった。

 

 

 

――これで出来損ないは後1人――

 

 

 

「私は、私はあああああ!」

 

ラウラが叫びながらレールカノンをDr.Mに向けて放つが、観客席のバリアに防がれる。

そして彼女は、錯乱したラウラを見て命令が解除された事を認識する。

 

「あらあら、久しぶりのせいか効果が弱かったわね」

 

これ以上見ていても仕方ないと思ったのか、彼女は出口へ向かう。

その様子をハイパーセンサーで見えたラウラは冷静さを失っているせいか、引き留めようとシュヴァルツェア・レーゲンが高速で突っ込む。

 

「ラウラ!」

 

シンはそこにインパルスを割り込ませ、シュヴァルツェア・レーゲンと激突する。

加速しすぎたせいか、2機とも盛大に弾かれるほどの衝撃を受けた。

 

「シン、すまない。私はなんてことを……」

 

衝突の衝撃で冷静さを取り戻したのか、ラウラは一言残して気を失った。

これによりシュヴァルツェア・レーゲンのエネルギーが0になったと同時に、タイムアップによって試合が終了した。

 

「ラウラ、いったい何があったんだ……」

 

 

 

≪試合終了≫

 

 

 

 

エネルギー残量

白式:34 シュヴァルツェア・レーゲン:0 vs インパルス:163 打鉄:0

優勝:アスカ・更識ペア

 

 

 

優勝が決まり観客席から盛大な歓声が響く中、シン達はピットに戻ろうとした。

しかし、戻ろうとしたピットから謎のISがアリーナに侵入して来るのが見えた。

 

「何だ、あの見たことないIS」

 

一夏が疑問を口にした時、謎のISは堂々とピットから出てきた。

観客からも見える位置まで移動したそのISは肩にかけるほど長い砲身を持った大砲を持っており、その砲口をゆっくりとアリーナへ向けて発射体勢をとる。

 

「一夏、2人を頼む!」

 

シンが即座に前に出ると、謎のISはインパルスに向けてビームの大砲を放つ。

ビーム砲を防いだシンは、改めて侵入者を見る。

シルバーグレーの全身装甲と言うだけなら第1世代型ISと言う可能性もあるが、その機体には非固定浮遊部位がなく、ISであれば人体の延長のような形状であるのに対して鎧のような装甲のような重圧感のある形状をしているため、インパルスと同系統の異質さを持つISである。

 

「そんな、嘘だろ……」

 

それはシンにとっては見慣れた機体であり異質さや違和感はないが、この場で自分とラウラしか知る者のいないはずのその機体が存在することに驚いている。

インパルスのフォースシルエットとは違い開きそうもない重厚な羽、バルカン砲を取り付けられた縦長の楕円形の盾、そしてこの場に最大の異質さをもたらす鶏冠を持った一つ目の顔をした機体――

 

 

 

ZGMF-515 シグー

 

 

 

前大戦時に指揮官機として投入され、CE74年においても少数ながら実戦配備されているMSであり、この世界には存在しえないはずの機体が目の前にいた。

 

 

 

 




VTシステムなんて無かった。
そして1戦目で中止になることに定評のある学年別トーナメントを表向きは問題なしに決勝戦までやったぞ。




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