2015.11.14:サブタイトル変更
(ここにいても仕方ないか……)
ここが異世界だとしても、途方に暮れていてはどうしようもない。
とにかく行動を起こそうと、停止した思考を再起動し持ち物を確認した。
IDカードもクレジットもナイフも拳銃も何も持っていなかった……
自分の全財産は今着ている赤服だけだった。
…………
大通りを歩きながら今後のことを考える。
(まずは当面の生活費だけでもどうにかしないと……)
ここが山の中とかならサバイバルできただろうが、川とかがあってもここは市街地だ。
売ってお金にできる物もないので、身元不明でも雇ってくれる所があればいいが……。
そうこう考えているうちに大通りを抜け、ISアリーナの前にいた。
何かのイベントが行われているのか夜中だというのに賑わっていた。
「ISの技術を利用し飛行を可能にしたアーベントヴォーゲル社の試作パワードスーツのデモンストレーションか……ちょっと覗いてみるか」
ISの技術というのが気になったので足を運ぶ。
どうやらデモフライトは終了したようだが、試作パワードスーツは展示されていて間近で見ることができるようだ。
順番待ちをしながらスクリーンに映る昼間のデモフライトの映像を見る。
このパワードスーツはISと違い人間と同じサイズになっている。
たしかに飛行しているが、ISと比較する以前のレベルで遅い。ラジコンの方が速いくらいだ。
ただ説明を聞く限り性能が低いわけでなく、今のパイロットの腕ではこれ以上の速度を出すと機体を正確に制御できなくなるそうだ。
ちなみにパイロットの男性はドイツ軍の少尉で戦闘機乗りだそうだが、軍人の腕をもってしてもこの程度の速度しか出せない制御システムで大丈夫なのだろうか。
映像を見ているうちに順番が回ってきた。
機体の周りに集まっている人に説明を行う担当者と飛んだ時の感想を語る少尉。
すると突然、1人の女性が柵を超えて機体に近づいて行った。
「あ、勝手に入っちゃ「動くな!」
女性は銃を取り出し担当者に向けようとする。
それと同時にシンは柵を越え、少尉も取り押さえようとする。
女性は少尉に銃を叩き落とされ、捕まらないように距離を取ろうとする。
シンは移動する女性の背後に回り取り押さえようとするが、できなかった。
女性が突然光りだした。
光が収まるとそこには人間の倍ほどの大きさの緑の鎧が存在していた。
「IS……ラファール・リヴァイヴ」
少尉の呟きからこれが本物のISだと認識する。
会場はパニック状態になり、全員が一斉にアリーナの外へ駆け出していく。
女性はこの状況に意を介さずパワードスーツの方を向く。
「すみやかに武装を解除して投降してください」
少尉は銃を構えて警告する。
「ISの使えない男に何ができる」
女性はISで殴ろうとするが少尉は後ろに下がって避け、構えた銃を発砲する。
少尉は正確に女性の肩を撃つが、当たった場所にバリアが現れて防がれる。
この状況で投降させるのは無理と判断したのか少尉が担当者に指示を出す。
「時間を稼ぎます。その間に搬送してください」
少尉と共にISの注意を引くため、シンは女性が落とした銃を拾いISを後ろから撃つ。
「あんたがパワードスーツを着て逃げろ!飛ぶのは難しくても走れるだろ!」
「だ、ダメだ。腰が抜けて立てない」
機体のすぐ横にいる担当者に着てもらおうと思ったができないようだ。
「くっ 着込めばすぐに動かせるんだな」
ここで時間をかけても意味がない。担当者の肯定の言葉を聞き機体に近づく。
会話が聞こえたのか、ISがこちらを向く。
シンは振り向いた所を狙って顔面を撃つ。
銃弾を防いだバリアの発光で視界が塞がれ、ISの動きが一瞬止まる。
その隙をついて少尉が照明を倒し、ISの動きを封じる。
ISが動き出さないうちに、シンは機体を纏う。
「装着を完了した。どこに行けばいい?」
「連絡はしてあるのでもうすぐ軍のISが来るはずです。
外に出ると市民に被害が出るので、貴方はアリーナで時間を稼いでください。
その機体は安全のため稼働中は常時全方位に“ISと同じバリア”が展開されています。
ラファールの武器では突破できませんので、エネルギーが切れない限り大丈夫です」
そう言うと少尉はシンにインカムを渡し、担当者を立たせる。
ISが動きを取り戻し、こちらを取り押さえようと迫ってくる。
シンはこれを避け、少尉の指示通りにアリーナへ向かう。
「アリーナの天井を開けて軍のISを突入させます。私たちも行きましょう」
少尉と担当者はアリーナの制御室へと向かった。
――――――――――――――――
(とにかくアリーナに向かって……それからどうする?
武器は拾った銃しかないし、あまりバリアにも頼りたくない)
正直言って不可視のバリアは展開されているか分からないので怖くて頼れない。
そうなると全ての攻撃を避けなければならない。
「少尉、この機体で空を飛ぶにはどうすればいい」
「訓練なしで飛ぶつもりですか!」
「バリアで亀になって捕まるよりマシだろ」
「……イメージです。飛ぶイメージを持てば機体は飛びます。
ですが制御が難しいので、イザという時以外は飛ぶよりジャンプしてください。」
「サンキュー」
礼を言って通信を切ると、アリーナに到着する。
「あら、鬼ごっこは終わりかしら?」
「いや、まだ終わってないよ鬼さん。」
先手を取って銃を撃つ。少尉には悪いが忠告を無視して上昇する。
(なんだこれ。少しのイメージでこんなに加速がつくのか)
機体制御に戸惑っていると、ISはライフル銃を出現させていた。
「そんな下手な飛行で逃げられるものか!」
シンは引き金を引く直前に飛行をやめる。
飛行能力を失った機体は重力に引っ張られて落下し、撃ち出された銃弾は空を切りアリーナの天井のバリアに当たる。
今度は避けられないようにと、ISはライフルをしまい次はマシンガンを2丁構える。
シンは飛行に慣れようと上昇と落下を繰り返しながら空中に浮遊している。
「バカにして!」
ISは飛行しながらマシンガンを連射する。
今度は大きく旋回して躱していく。
「このッ このッ!」
時間が経って焦っているのかISは闇雲にマシンガンを乱射している。
一方シンは飛行に慣れてきて、だんだんと速度を上げて回避していく。
(大気圏内じゃなくて宇宙空間を移動するイメージだな。
軍人より宇宙飛行士のほうがこの機体にむいてるな)
生身でもMSでも、宇宙空間での移動と姿勢制御は体に染みついている。
とはいえイメージで飛行する感覚には違和感を覚えるので、まだ細かい動きはできない。
そうこうしているうちにアリーナの天井が開く。
「時間切れだ。あんたの負けだな」
「くっ ここで捕まるわけには」
そう言うとISは一目散に天井から外に出ていき、待機していた軍の同型機と接触する。
2機は戦闘をしながらアリーナの上空から離れていった。
次回は眼帯を付けた謎の少女と出会います。
眼帯の少女……いったい何者なんだ。