紅い翼と白い鎧【IS】   作:ディスティレーション

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なんか解説回になってしまった気がする。

追記:うわああああ!! 思いっきり設定ミスしてるぅぅぅ……orz (詳しくは活動報告で)

更新履歴
2015.07.16:時系列の矛盾を修正
2015.11.14:サブタイトル変更


第16話 交流

放課後、シンは第1アリーナの整備室で届いた荷物を受け取っていた。

届いたのは砲撃型パッケージ「ブラスト」と高機動型パッケージ「フォース」の2つ。

名前の通り、ZGMF-X56Sインパルスのシルエットシステムを参考にして作られたパッケージだ。

 

 

 

砲撃型パッケージ「ブラスト」――これはブラストシルエットをそのまま再現しており、MSと同様、4連装ミサイルと高出力ビーム砲が上下に取り付けられた円錐形に近い2つの巨大な砲塔と、それにより増加した重量を相殺するために大型化したスラスターにレールガンが2門付いた接合部からなる。機動力・運動性こそ低下したものの、それを補って余りある圧倒的な火力を持つ。

 

 

 

高機動型パッケージ「フォース」――こちらは本来のフォースシルエットとは違い、デスティニーの赤い翼となっている。理由は単純に搭載されている第3世代装備「電磁推進スラスター」の可動域を確保するためである。このパッケージは電磁推進スラスターと通常のメインスラスターで構成されていり、武器の追加はないが通常時でも高い機動力・運動性を持つ。

 

 

 

シンはインパルスを展開し、届いたパッケージと整備用の端末にコネクタを接続する。

一緒に届いたディスクを起動し、パッケージのインストールを開始する。

 

 

 

『インストール中………… 現在:000% 残り09:58:34』

 

 

 

正常にインストールが開始されたのを確認すると、残り時間が表示される。

この長さでは今日中には終わらないので、調整は明日する事にしてシンは整備室を出る。

 

 

 

 

 

アリーナを出て寮に戻る途中、聞いた事のある声が聞こえてきた。

シンは声をかけようと、その声が聞こえて来た方へと歩いていく。

 

そして、そこには2人の人物がいた。

1人はドイツで知り合ったラウラ、もう1人は担任の織斑先生だ。

真剣に話し合っている2人に、シンは自然に足を止めていた。

 

「まさかここでもう一度、教官の指導を受ける事ができるとは思いませんでした」

 

「教官はよせ、今の私はただの教師にすぎん。

そしてお前もここでは軍人ではなく生徒だ、力を抜け」

 

「了解です」

 

本当に分かっているのかと不安になった千冬だが、今はそれよりも重要な事がある。

それはドイツが織斑一夏の護衛としてラウラを入学させると言ってきた事についてだ。

 

「それよりもアイツの護衛の件についてだ。

……結論から言うと、必要ない。

それについてはこちらで対処するし、独断による国の支援はIS学園の中立性を損なう」

 

IS学園は日本に存在しているが、管轄は国際IS委員会だ。

特定国家への肩入れを防ぐため、学校への支援は委員会を通して行われている。

故に、今回のような独断を受け入れる事はできない。

 

「いえ、我々はそう言った意味で護衛を買って出たわけではありません。

2年前の事件……あれは我々が招いてしまったようなものです」

 

「今のアイツにはISがある。

それに、そんな国の言う事を全て信用して受け入れる事はできない」

 

千冬が教官を務めている時、事件の背後関係を知った。

当時の罪滅ぼしとは言え、どんなにラウラ自身が信用できたとしても、一枚岩ではないドイツ軍の介入は一夏を危険にさらすリスクを上げるだけだ。

 

「この事についてはこちらからはっきりと拒否を示す。

だが、ドイツ軍人としてではなくお前個人がやると言うのなら、止めはしない」

 

「私は……」

 

千冬の言葉にラウラは考え込む。

織斑一夏の護衛は任務の1つだが、学園側が受け入れない以上遂行はできない。

彼はISを動かせる男性の中で唯一の無所属だ、狙う者は沢山いる。

 

(だが教官の弟とはいえ、私個人が彼を守る理由など……)

 

「焦って答えを出す必要はない。3年ある、その間大いに悩めよ小娘」

 

その場で思考をめぐらすラウラにそう言うと、千冬はその場から離れていく。

そしてそのまま歩きながら、物陰に隠れているシンに聞こえるように呟く。

 

「それと……男がガールズトークを盗み聞きとは、感心しないな」

 

「ガ、ガールズ……トーク?」

 

シンは素直に出てくるも、見つかった事よりも織斑先生から出た言葉に驚愕する。

予想通りの反応に満足したのか、織斑先生は少し笑いながらそのまま通り過ぎていく。

 

「冗談だ」

 

それを聞いてシンは安心すると同時に、「あの人も冗談とか言うんだな」と思った。

そして織斑先生が去った後、シンはラウラに先ほどの会話の事を聞く。

 

「なあ、さっき言ってた2年前の事件って?」

 

「第2回モンドグロッソ大会。そこで教官が決勝戦を棄権した事は知っているな」

 

「ああ、確か機体の整備が間に合わなかったって理由だったな」

 

「表向きはそうなっている。が、実際は裏である事件が起きた」

 

ラウラはシンに2年前の事件について語り出す。

第2回モンドグロッソ大会、織斑一夏は千冬の応援のため開催地のドイツに来ていた。

そして決勝戦の直前、一夏はホテルから会場に向かう途中で何者かに誘拐された。

要求は「指定した場所・時間にISを持たないで織斑千冬が1人で来ること」だった。

しかし、捜査を行っていたドイツ軍から情報を得た千冬は、決勝戦を放り出して一夏の監禁場所にISで突入した。

交渉時間前の奇襲に犯人は抵抗できず、その場で同行していたドイツ軍に拘束された。

その後、織斑千冬は情報をくれたドイツ軍への感謝と決勝戦を放り出した責任から、1年間ドイツ軍のIS操縦訓練の教官を務める事になった。

 

しばらくして犯人の裏から糸を引いている者たちの存在が明らかになった。

なんとそれは、政府と軍に跨るとある一派が亡国企業と手を組んで事件を起こしたという。

身内が犯人であった負い目から、男性IS操縦者と分かり政治的な重要性が今まで以上に増した織斑一夏を守ろうとドイツは考えたというわけだ。

 

「まさか、一夏にそんなことが……

ところで、亡国企業ってなんだ?」

 

ラウラの話を聞いて、シンは一夏の過去の一片を知る。

そして裏で手を引いているという亡国企業について疑問を持つ。

 

「ああ、ファントム・タスクとも呼ばれるテロ組織でな。

最近はISを強奪したりしているが、詳しい事は分かっていない。

あの日、アーベント社の試作機を奪おうとしたのもおそらく亡国企業だろう。

あの機体にISコアが使われているのをどこかで知って奪いに来たと推測されている」

 

だがそれはあくまで推測の域を出ない。

ラファールで逃亡した犯人は軍用機と接触するもこれを巻くほどの手練れであり、その後の捜索でも見つからないことを考えると、強大な組織がバックにいるとみて間違いないだろう。

 

「ラウラ、俺は何が起きても一夏を守るつもりだ。

一夏だけじゃない、この世界に来て知り合った皆もだ」

 

亡国企業のような組織がいくつあるのかは分からないが、先日の無人機襲撃のような事が今後も起こり得る事は想像に難くない。

ISを動かせる男性が世界でたった2人のなか、自分は幸運にも世界に1機しかない男性でも動かせるISに巡りあった。

ならば、皆の明日を守るために俺はこの力を使おう。

 

「そうか……」

 

何かを決意したようなシンの顔を見ながら、ラウラは一言だけ返した。

 

 

 

 

 

何のために強くなる?

                  ――それは完璧なアドヴァンスドになるためだ。

 

 

本当にそれだけ?

                  ――他に何がある。

 

 

じゃあ今浮かんだ人たちは?

                  ――仲間と恩師と友だ。

 

 

そんなの強くなるのに要らないでしょ?

                  ――簡単に捨てるやつは嫌いだ。

 

 

 

 

 

…………くだらない。

 

「シン、学園の案内を頼めるか?」

 

調子が狂う。やはりまだこの環境に慣れてないからか……

ラウラは一旦考える事をやめ、気分転換にシンに学園施設の案内を頼む。

 

「ああ、いいぜ」

 

「では行くとするか。射撃訓練場はどこだ?」

 

シンは頼みを承諾し、ラウラに学園を案内していく。

ちなみに射撃訓練場はIS学園にはない。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

第3アリーナでは、一夏とシャルルが模擬戦を行っていた。

シャルルはオレンジ色のラファール・リヴァイヴのカスタム機を操り、一夏を追い詰めていた。

 

(くそー、近づけねえ)

 

ラファールの左手から放たれるマシンガンを、右手に構えるアサルトライフルの射線に乗らないように回避していくが、一夏は回避に集中するあまり近づく事が出来ない。

今までの訓練とハイパーセンサーの射線認識システムで射線を見ているため、被弾自体はあまりしていないとはいえ、シャルルにいいように翻弄されている。

 

「避けるだけじゃ埒が明かねえ!」

 

一旦止まり、放たれたライフルを防ぐ。

シャルルはもう一発ライフルを撃つが、一夏はそれより先に加速して突っ込む。

一夏はマシンガンを防ぎながら射線の下を潜り抜けるような軌道でそのまま接近し、シャルルが右手に構えた銃を発砲するが、射線上ではないため気にせず突っ込む。

 

「!?」

 

しかし、突然銃弾が拡散しその一部が白式に当たる。

一夏の認識外からの攻撃に白式は絶対防御を展開しシールドエネルギーが目減りしていく。

そのことに気を奪われている一夏にシャルルは右手にいつの間にか持っていたショットガンを戻し、即座にアサルトライフル呼び出して追撃する。

 

 

 

≪戦闘終了≫

 

 

 

模擬戦が終わり、シャルルは一夏が勝てない理由を分析する。

 

「一夏が勝てないのは単純に射撃武器の特性を理解できてないからだよ」

 

「うーん。一応理解してるつもりではあるんだが……」

 

「それに射線認識システムは便利だけど、頼り過ぎちゃだめだよ。

例えば、僕が最後に使ったショットガンっていうのは小さな弾を詰めた弾丸を発射して、途中でそれをばら撒くことで広範囲に攻撃する銃なんだ。

だから射線だけじゃなくて、攻撃範囲読まないといけないよ」

 

「言われてみれば確かに……

いやー、シンとセシリアは実弾装備をあんまり使わないからショットガンを忘れてたよ」

 

箒は打鉄で射撃武器を使わないし、鈴にいたっては射撃武器が見えない龍咆しかない。

セシリアの機体にはレーザーと誘導ミサイルがあるが、誘導ミサイルを使っているところを俺は見た事が無い。

シンの機体にはビームライフル以外にも実弾装備があるがショットガンはない。

それに俺との訓練ではビームライフルしか使わない。

 

「実弾装備とエネルギー兵器って考えるより、避ける側は弾道の種類で考えた方が良いと思うな」

 

「へー、ちなみにどんな種類があるんだ?」

 

「僕個人の分類だけど、平射、曲射、拡散、誘導の4つかな。

平射って言うのは弾が水平にまっすぐ進む軌道のことで、だいたいの射撃武器はこれだね。

曲射は山なりの軌道を描いて目標に向かう軌道で、追撃砲とかがこれに当たるよ。

まあISはこういうのは装備しないから、グレネードなんかの投げる武器くらいだけどね。

そして厳密には平射した弾がたくさんあるだけなんだけど、拡散は別と考えるよ。

さっきのショットガンもそうだけど、面での攻撃を意識しないといけないからね。

最後に誘導、これは目標に向かって自分で軌道を変えるタイプでミサイルが代表例だよ。

射線認識は平射にしか対応してないから、どのタイプの武器か見極めが重要になる。

その点エネルギー兵器は、平射と拡散しかできないから弾道予測はし易い。

実弾の中には平射からの拡散といった複合軌道の物もあったりするからね」

 

「へー。シャルルの説明って分かり易いな」

 

「そ、そうかな?」

 

「ああ、他の皆は説明が分かり難くてな」

 

褒められて照れるシャルルに一夏は皆の事を話し始める。

 

……

 

…………

 

シャルルが来る前のとある放課後、鈴も交えて皆で特訓をしていた。

俺はその時、皆に回避や防御のコツを聞いたんだ。

 

「いいか一夏、グワーンと行ってこうガキーンとだな……」

 

「だからそこは、感覚よ感覚。グイッと避けてからドカーンと一発……

って、なんで分からないのよ!」

 

箒と鈴は感覚で動かしているのか、擬音語を多用して説明する。

当然こちらには何を言っているのかさっぱり分からないが、たぶん俺も説明する側になると同じ事をするだろうというのは、容易に想像できた。

そして、それの真逆を行くのがセシリアだった。

 

「防御する時は、防御側の半身を斜め前に5°出し、腕を水平から45°持ち上げた状態で、対象の投射物の軌道上に腕を持っていき、腕から20cmほど離れた位置に軌道上を中心とした投射物の直径に着弾誤差を加算して求めた円形のシールドを展開!

え、なぜ円形ですのかって?

それは当然、展開面積を減らすことで防御時に消費するエネルギーを減らすためですわ。

シールド展開時にかかるエネルギー消費量は一般的に――」

 

一つ一つの動作を具体的な数字を出して理論整然と事細かに説明してくる。

理論的であるが故に聞く人が聞けば分かる分、箒たちよりマシなのだろうが俺には無理だった。

そしてなんとなく箒たちのような感覚型のイメージがあったシンだが、意外な事に理論を交えながらも分かり易い説明だった。

 

「最初に非誘導の射撃武器についてだが、これはまず相手の武器を見る事が重要だ。

武器を見ていれば銃口がどこを向いているのかが分かるだろ。

そうすればどれほどの数の銃口を向けられようが、射線上に自分を置かないように立ち回れば攻撃は当たらない。

これは射撃武器を避けるうえでの基本中の基本だ。

これだけで全て避けれるわけじゃないが、これができないと話にならないぞ」

 

確かに分かり易い、射線上に居なければ当たらないというのは俺にも理解できる……

だが、それを1つだけならともかく、全ての射線を把握して動けなんて無理に決まってるだろ!

いくら射線認識システムがあるといっても、数が増えたらどうしようもねえよ!

それが基本とかいう奴がいるか! あ、千冬姉も言いそうだ……。

 

「まあまあ、確かにいきなりそのレベルは無理ですが、基礎から一つ一つきちんと積み上げていけば、いずれはシステムなしでも織斑君ならできるようになりますよ」

 

いつの間にかアリーナの点検に来ていた山田先生が助言をする。

そして最終的にはシステムなしが目標な事に驚き、俺が驚いた事に皆が驚いている。

聞いてみると確かに箒以外みんな使ってなかった。

 

「わたくしとしたことが、忘れていましたわ。

一夏さんは専用機に乗っているとはいえ、本格的にISに乗り始めて1ヶ月程度……

もっと基本的な所から教えるべきでしたわ」

 

「そうだな、俺も忘れてた。

もう遅い気もするが、変な癖がつく前に基礎を叩き込まないと……」

 

シンとセシリアが俺に基礎からやり直そうと考え込んでいる。

今までの実践形式の訓練が少なくなるのは少し寂しいが、基礎は大事だな。うん。

 

「私も早くシステムなしで戦えるようにならないとな」

 

「まあ、射線認識システムなんて補助輪みたいなもんだし。

私が教えれば、一夏ならすぐに外せるわよ!」

 

「俺は自転車に乗れない子供かよ!」

 

……

 

…………

 

「凄く便利なのになんで皆ずっと使ってないのか疑問だったけど、そういう事だったんだな」

 

「あ……ああごめん。

そうとは知らず、僕はムキになって……」

 

システムを使って慣れるのが目的なら、ここで例外を持ち出したのは失敗だったかな。

最後の突撃に少しムキになって意地悪をした事をシャルルは反省する。

 

「なんでシャルルが謝るんだよ。

いつかはシステムなしで避けれるようにならないといけないって、これではっきりと分かったわけだし、むしろショットガン撃ってくれてありがとな」

 

「ぷっはは。撃たれてありがとうっておかしいよ」

 

一夏は素直に感謝を伝えたはずなのに、言い方のせいかシャルルは笑ってしまった。

確かに撃たれた事にありがとうは変だったかもしれないが……

 

「あ、おい笑うな。俺は純粋にだな……」

 

でもシャルルの可愛い笑い顔が見れたのは良かったかな。

 

……

 

…………

 

はッ! 俺は何を考えてるんだ、男を可愛いと思うなんて……

 

「ふふ。はいはい、分かりましたよー。

で、まだ時間もエネルギーもあるし、次はどうする?」

 

くそう、その悪戯っぽい笑顔も可愛いじゃねえか、箒や鈴とはまた違って……

いかん落ち着け、そもそも女子と比べるな! シャルルに失礼だろうが!

 

……

 

…………訓練で体動かして忘れよう。

 

「じゃあ防御と回避の基礎訓練に付き合ってくれないか?」

 

そう言うと一夏はシンとセシリア特製の訓練メニューを転送する。

それを受け取ったシャルルは内容を確認し、ラファールを飛ばして位置に着く。

 

「OK。今度はショットガンを使わないから安心してね」

 

「俺もシステム使わないからな」

 

両者位置に着き軽口を交わす。

まずは防御の訓練――

射手はその場を動かず10秒間隔で訓練者にライフルを撃ち、防御側はその場を動かずにシールドを展開してライフルを防ぐ。

防御側は機体のどこが狙われているかを判断し、適切な大きさでシールドを展開する訓練になる。

これを20回ほど行い、以降は攻撃タイミングを予測する訓練として射手は発射間隔をランダムにして射撃を行う。

回避の訓練は両者飛行状態で始め、手順は変わらず防御側は最小限の動きで回避する。

 

 

 

≪訓練開始≫

 

合図がなり、訓練が始まる。

一夏とシャルルは白式のエネルギーが尽きるまで訓練に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

翌日、朝食をとっていた箒は周りの生徒たちの様子にため息をつく。

今日は休日で皆いつもとは違ってのんびりと朝食をとりながら、雑談を楽しんでいる。

 

「ねえねえ、聞いた聞いた?

今度の学年別トーナメントで優勝すると、男子と付き合えるんだって!」

「私はデュノア君が良いなー」「断然アスカ君でしょ」「織斑君と付き合って千冬様とも」

 

なぜかトーナメントで優勝すると男子の誰かと付き合えることになったらしい。

今日はどこもかしこもその話題で溢れかえっている。

やっぱり、昨日私が一夏に言った事を誰かが聞いていたのだろうか……

 

……

 

…………

 

鈴と一夏に関する協定(抜け駆け禁止)を結んだあと、鈴のクラス代表戦での約束の話を聞いた。

すると今度はアンタが学年別トーナメントで一夏と何か賭けたら?と言われた。

私はわざわざ機会を譲った事に疑問を持ったが、鈴はクラス代表戦があのような結果になってすぐに同じことをする気にはならないのと、あんたは小さい頃の幼馴染なんだから今はあの時とは違うってアイツに意識させないと何も変わらないと言われた。

そして昨夜、一夏の部屋に行き声をかけた。

 

「一夏、話がある」

 

「おう、なんだ」

 

一夏が出て来たのでそのまま話を切り出す。

その緊張のあまり、部屋にシンがいたかどうかすら判別できなかった。

 

「こ、今度の学年別トーナメントだが……私が優勝したら、付き合ってもらう!」

 

 

 

今思えば部屋に入らず扉の所で言ったのが悪かった。

さらに言えば勢い余って結構大きな声を出したのも悪かった。

 

……

 

…………

 

うん。誰かに聞かれていてもおかしくないな。

少なくとも部屋にいればシンは確実に聞いている。

まあ、彼なら聞いたところで変に広めたりはしないと思うが。

 

「焚き付けた私が言うのもなんだけどさ、アンタ何やってんのよ」

 

隣で一緒に朝食をとっていた鈴が話しかける。

変な噂が広まってしまったのは少し可哀そうだが、他にも突っ込み所はある。

 

「そもそもアイツに勝ったらじゃなくて、優勝が条件って本気なの?

アンタ、私だけじゃなくてシンとセシリアを相手にして勝てるの?」

 

「う……だが、やるからには優勝しないと」

 

こういった根性はあるのに何で一夏相手だと一歩が踏み出せないのよ……

箒に対して鈴はそう思ったが、自分も同じなので声には出さなかった。

 

「はあ、まあ私がアンタとペアを組んであげるわよ。

焚き付けた私にも責任あるしね」

 

恋心が空回りする箒の姿がさすがに哀れだったので、鈴は手を差し伸べる。

箒もそれを振り払う事をせず、受け入れる。

そして2人は食べ終わった朝食を片付けるべく、席を立つ。

 

 

 

 

 

「あ、のほほんさん。おはよう」

 

一夏は食堂で出会ったのほほんさんに挨拶をする。

今日はいつも一緒の3人組ではなく、眼鏡をかけた別のクラスの人といた。

 

「オリムーおはよう。あ、こっちは私の友達で、4組のクラス代表」

 

「更識簪です」

 

自己紹介を聞いて、クラス代表の集まりに彼女がいた事を思い出す。

 

「そう言えば同じ1年のクラス代表なのに挨拶して無かったな。

俺は織斑一夏。クラス代表で専用機持ち同士、これからよろしくな」

 

一夏は握手をしようと右手を差し出すと、彼女はいきなりで戸惑っていた。

しかし戸惑いも一瞬、右手を持ち上げた所で表情が一転し一夏を睨みつける。

 

 

 

彼女の右手は思いっきり振り抜かれ、一夏の手に叩き付けられる。

 

 

 

乾いた音が食堂に響き、皆が一斉に音のした方を――こちらを――向く。

彼女はそれを意に介することなく、一夏を睨んだまま恨みを向ける。

 

「トーナメントで……貴方を倒す」

 

他にも色々と言いたいことを抑え、彼女はその言葉を残して食堂を去って行った。

周りは何事かと集まってくるが、一夏は掌の痛みを感じながら立ち尽くす事しかできなかった。

 

 

 

 




ハイパーセンサー先生ならこのくらい余裕と思い、謎機能が追加されました。
そして簪さん安定の一夏睨み(6話ぶり2度目)から、ラウラの代わりに一夏をペチーンしました。

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