紅い翼と白い鎧【IS】   作:ディスティレーション

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よし、まだ7月にはなってないな……

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


第15話 転入生

「皆さん、今日は何とこのクラスに転校生がやって来ました。

では2人とも、自己紹介をお願いします」

 

入学してから1か月以上が経ったある朝のHR、山田先生が2人の転校生を連れて来た。

 

「シャルル・デュノアです。

ここには僕と同じようにISが動かせる男性がいると聞いて、フランスからやって来ました。

これからよろしくお願いします」

 

まずはブロンドの髪を後ろで束ね、中性的な顔立ちをした少年が自己紹介をする。

そしてそれに、軍服を連想するズボンに眼帯という格好をした銀髪の少女が不愛想に続く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、所属はドイツ。

シュヴァルツェア・レーゲンの専属パイロットだ……」

 

2人の自己紹介が終わると、シンと一夏はとっさに耳を塞ぐ。

貴公子と呼ばれる雰囲気を持つ少年が3人目の男性操縦者として来たとなれば、次に起こる事など火を見るよりも明らかだった。

 

「金髪美少年!金髪美少年!」「嘘!3人目の男の子!?」「わが世の春が来たぁぁ!」

「デュノア? どこかで聞いたような……」

 

「レーゲン型って、本国でトライアル中って聞いたけど!?」

「ドイツってアスカ君と同じところだよね。もしかして知り合いだったりするの?」

「ねえねえ、アスカ君。そこんとこどうなの?」

 

シャルルはISを動かせる3人目の男性であり、ラウラはシンと同郷という事で、シンと一夏の予想通りクラス中が熱狂している。

その光景を見た当事者の2人は、面を食らったのか少し引いている。

 

「静かにしろ。今日は2組と合同でIS実習を行う。

各自着替えてグランドに集合。以上だ」

 

転校生に盛り上がるクラスを黙らせ、織斑先生は連絡事項を伝えるとHRを終わらせる。

それを聞いてクラスの皆は、名残惜しそうに次の授業の準備を始める。

 

「君が織斑君だね。よろしく」

 

先ほどの集中砲火がやんだので、シャルルは一夏に話しかける。

 

「ああ、いいから……それより急ぐぞ」

 

しかし一夏はシャルルの話を聞かず、彼の手を取ると一目散に教室を出て行った。

突然の出来事に思わず声が出るシャルルだったが、すぐに一夏の取った行動を理解する事になる。

廊下に出るとそこには、他クラスや上級生の群れが新たな男性操縦者を見ようと待ち構えていた。

 

「噂の転校生発見!」「あー、織斑君と手繋いでる」

 

などなど……好き勝手に盛り上がりながら、前だけでなく後ろからも女子が次々と集まってくる。

一夏は慣れないシャルルの手を握ったまま、女子の群れを迂回して更衣室へと走っていく。

 

「あ、新聞部です。せめて写真を……」

 

これ以上は迷惑だと思ったのか、それとも一目見れただけで満足したのか、女子の群れは走っていく2人をこれ以上追う事はなかった。

 

 

 

 

 

「ハァハァ……何とか撒けたな」

 

「それにしても凄かったね」

 

「そりゃあ、俺たちは数少ない男子だからな」

 

何とか更衣室にたどり着き、先ほどの光景を思い出しながら一息つく。

そして落ち着いた所でようやく2人は、ある事に気付く。

 

「そういえば、アスカ君は? 置いてきちゃったけど大丈夫かな」

 

「あ」

 

今日の女子の狙いはシャルルであり、今更シンが大々的に狙われる事はないだろう。

それに万が一そういった事態が起きても、シンなら大丈夫……なんせ、入学当初は毎日のように自分たちが狙われたのだから、いやでも対応できるようになる。

シンの事をすっかり忘れていた一夏だが、大丈夫であろうと結論付ける。

 

 

 

 

 

で、置いて行かれたシンはというと……

 

「あれが、織斑一夏か……」

 

「ラウラ、早く着替えた方が良いぞ。

遅れると織斑先生の一撃が飛んでくる」

 

一夏の行動を見届けたラウラに声をかけていた。

 

「知っている。私もくらった事があるからな。

それにしても……ISを動かせる男が他にもいたとはな」

 

「でも、何で動かせるかは誰も分かってないんだよな」

 

シンは表向き“ISを動かせる男性”という事になっているが、実際は“男性でも動かせるIS”に乗っているだけに過ぎない。

シンはインパルスを動かせる男性ではあるが、インパルスはシン以外の男性でも動かせる。

操縦難易度を考えればシンにしか動かせないとも言えないこともないが……

その事実を知っているからこそ、織斑一夏以外に現れた男性操縦者に2人はかなり驚いていた。

何故ISを動かせるのかは、専門家も一夏本人も分かっていない。

おそらく今日転校してきたシャルルも同様だろう。

 

「そうだ、重要な事を言うのを忘れていた。

ついにできたぞ、第3世代装備を搭載したインパルスのパッケージが」

 

「本当か!?」

 

インパルスは第3世代型ISであるが、肝心の第3世代装備はまだ搭載されていない。

それを搭載したパッケージがようやく届くと聞いて、シンは思わず喜びの声を上げる。

 

「ああ、一緒に持ってきた。今日中にはここに到着するはずだ。

今回はアーベント社が提案したパッケージが届くが、今後は軍からそちらに第3世代装備を搭載したパッケージを送る事になった。

シンには届き次第そのテストをしてもらいたい」

 

インパルスはパッケージ換装によってどんな状況にも対応できる万能機だ。

ISのパッケージというと、全身をがらりと変える物がほとんどだが、インパルスはMSを参考にしているため、パッケージで変わるのはバックパックだけである。

つまりパッケージに搭載可能な第3世代装備であれば、インパルス一機で全てのテストができるというわけである。

そこに着目したドイツ軍は、ラウラを通してシンに打診してきた。

会社側には既に話は通してあるそうなので、シンとしても断る理由はなかった。

 

「ゴホン……シンさん。少しよろしくて?」

 

話がひと段落したところで、セシリアがシンに話しかけてくる。

それに答えようとシンは振り向こうととするが、それより先に両手で自分の目を覆われてしまう。

 

「お、おいセシリア。何を!?」

 

「ほらほら、早く行きませんと、着替えもある事ですし授業に間に合いませんわよ。

それに……」

 

突然の行動にシンは困惑する。

セシリアの言う通り、そろそろ教室を出ないと授業に間に合わないのは確かだが、わざわざこんな事をする理由は分からなかった。

 

ちょっとした悪戯なのだろうか?

 

「シンさんがいると、わたくし達まで着替えられませんわ」

 

ここで初めてシンはセシリアの取った行動を理解する。

女子は教室で着替える事を完全に失念していた。

 

「あ、ああ、すまん」

 

シンは慌てて謝ると、目隠しされたそのままの状態で教室の外まで歩いていった。

教室を出たところでセシリアは手を離し、シンは恥ずかしさのあまり全力疾走で更衣室を目指す。

シンが出て行ったのを確認すると、女子達は一斉に着替えを始める。

中にはシンが残っているのに気付かず着替えてしまった人や、知っていて着替える人もいた。

 

「えー、アスカ君なら別にいいじゃん」

 

「いや、だめだろ」

 

教室内で上がった不穏な発言に箒が即座に突っ込む。

だが、先ほどのハプニングのせいか、女子達のテンションは何故か上がっていた。

 

「そりゃあ、篠ノ之さんは織斑君の方が良いもんね」

 

「な、なんでそこで一夏が出てくるんだ。

それにあいつとはただの幼馴染であって……」

 

突然矛先を向けられて弁明する箒だが、篠ノ之箒が織斑一夏の事が好きだという事は、既にクラスの皆が知っていた。

知らぬは当事者の2人と今日来た転校生ぐらいである。

 

「まあまあ落ち着いて。それに箒さんの言うとおりですわ」

 

廊下から戻ってきたセシリアが箒に助け舟を出す。

だが、女子達の追撃は終わっていなかった。

 

「でもさー、結婚したら旦那さんに……」

 

「そ、それ以上はいけませんわ!

淑女たる者、発言には気を付けて頂かないと。

ねえ、箒さん……箒さん?」

 

これ以上は言わせてはいけないと、セシリアが強引に割って入って発言を止める。

箒も同様に感じてくれていると思い、彼女の方を見るが何やら様子がおかしい。

 

赤くなった顔を伏せながら、何やらブツブツと呟いている。

 

「だ、旦那、旦那……確かに結婚すれば、そういった……

昔は一緒に風呂に入ったりもしたが……ああダメだ、まだ心の準備が」

 

((ダメなのはアンタのほうだよ……))

 

おそらくその相手は……いや、言うまでもないか。

妄想が爆発している箒を見て、クラスの心が一つになった。

 

「日本では結婚する時、“不束者ですが、よろしくお願いします”

と挨拶すると聞いたが?」

 

「うわああああああああ!!」

 

「ラウラさん、ドイツ人だよね。いったいどこでそんな日本語を……」

 

何故そんなことを言ったのか分からないラウラの一言で、箒は完全にオーバーヒートしていた。

そしてドイツ人でありながら日本の様式を知っているラウラにみんな驚いていた。

 

「アンタたち何やってんのよ!早くしないと遅れるわよ!」

 

2組の鈴が廊下から叫んでいる。

それを聞いた、1組の皆は慌てて準備に取り掛かる。

流石に騒ぎすぎたし、なにより彼女の言うとおり時間も切迫している。

遅れれば出席簿だ、それは避けたい。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ごめん。待たせた」

 

「遅いぞシン、早くしないと千冬姉に怒られる」

 

「悪い悪い」

 

シンがアリーナの更衣室に到着したのを、既に着替えを終えた一夏とシャルルが迎える。

時間も押しているので、シンはそれに答えながら素早く着替えていく。

 

……

 

…………

 

「ごめんね、アスカ君。置いてっちゃって」

 

シンの着替えが終わり、3人はグランドに向かいながら雑談を始める。

 

「こっちもラウラと話してたから、気にしなくていいさ。

あと、俺の事はシンでいい」

 

「俺も一夏でいいぜ。数少ない男同士、これから頑張ろうな」

 

「うん。僕の事もシャルルでいいよ。

一夏、シン。これからよろしくね」

 

改めて挨拶をすると、シンは気になっていたことをシャルルに問う。

 

「なあ、ファミリーネームがデュノアって事は、シャルルってもしかして」

 

「うん、そうだよ。デュノア社の社長は僕の父さんだよ」

 

「気品があっていい所の育ちって思ってたけど、社長の息子って凄いな。

所でデュノア社って何の会社だ?どこかで聞いたような気がするんだけど……」

 

「おい、一夏。デュノア社と言えばラファール・リヴァイヴで有名だろ」

 

ISに携わる者になら常識である。

シンは呆れながら一夏に言うと、シャルルが続いて説明する。

 

「他にもIS関連の商品も作ってるよ。僕が着てるスーツもデュノア社製のオリジナルなんだ。

一応フランスで一番大きなIS関連企業かな。

でも、規模で言ったらシンのアーベント・ヴォ-ゲル社の方が凄いよ。

IS以外のパワードスーツと言えば、アーベント社製が常識って言うくらいだし。

IS産業が動き出した当初は、一番危険視されてた企業なのに参入してこなかったのが業界内で最大の謎だって言われてるよ」

 

「別に俺は社長の息子でもなんでもなく、一介のテストパイロットだけどな……」

 

いくら企業が大きいといえども、社長の息子と一社員では差がある。

そしてさっきから「凄いんだな」としか言っていない人がいるが、そいつはそいつで世界最強と言われるブリュンヒルデの弟である。

さらに一夏は何を思ったのか、突然2人に向かって突拍子の無い事を言う。

 

「シン、シャルル……卒業したら働かせてくれ!」

 

「一夏、何を言ってるんだ。冷静になれ!」

 

「そ、そうだよ。一夏は世界中に知れ渡ってる上に、無所属なんだよ。

君を欲しがってるところはたくさんある。それこそどんな手を使ってでも!」

 

シンとシャルルは即座に一夏を説得する。

シャルルの言う取り、一夏は世界中に存在が知れ渡った無所属の男性IS操縦者である。

今はIS学園にいるため表立っての行動はないが、彼が欲しい組織は世界中にあり、それぞれ水面下では獲得しようと相手を牽制し合っている。

結局一夏はグランドに着くまでずっと、自分の微妙な立場についての説明と、安易にどこかに所属するなんて言わないように言いつけられていた。

 

 

 




一般社員でも大企業なら勝ち組じゃねえかああああ!!

……というわけで、シャルル初登場&ラウラ再登場回でした。
そしてようやくインパルスのパッケージも届きました。
今回のパッケージは2種類ですが、詳しくは次回。
(まあ、隠さなくても皆さんにはバレバレな気がしますが……)

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