紅い翼と白い鎧【IS】   作:ディスティレーション

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もう忘れ去られてるかもしれませんが、長い間お待たせして申し訳ありません。
今までの分を色々と修正しまして、今更ですが感想への返信も書きました。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


第14話 それぞれの思惑

無人機との戦いの後、一通りの検査と手当を終えて寮に戻ろうとした私を、一夏が呼び止めた。

制服を着ているため分かり難いが、袖の隙間から包帯を覗かせている。

思いっきり地面を転がったんだ、おそらく全身包帯巻だろう。

 

「なあ鈴。この前の約束って、どうする?」

 

並んで歩きながら一夏が話しかけてくる。

それは先日のクラス対抗戦で勝った方の言う事を聞くというという約束……

しかし、試合は乱入者により中断したため、勝負はついていない。

 

「引き分けよ引き分け。それでいいでしょ」

 

そもそもあんなことがあったため、勝敗を付ける気が起こらなかった。

 

「だな」

 

一夏もそうなのか、私の返事を聞いて笑顔を向ける。

だが私はその笑顔に見とれていたせいか、突如襲った頭痛により倒れそうになった。

 

「鈴!」

 

とっさに一夏が支えてくれたため、私は倒れずに済んだ。

 

「あ、ありがとう」

 

礼を言うと私は顔を上げる。

するとそこには心配そうに私を見つめる一夏の顔が真正面にあった。

抱きとめられた状態で顔が近くにあるせいか、互いに見つめあったまま動こうとはしなかった。

 

 

 

……

 

静寂に包まれた空間、密着した体、一夏の心臓の音まで聞こえてきそうだった。

しかし、今にも破裂しそうな自分の心臓の音がそれをかき消す。

 

そして音をたてないようにゆっくりと、一夏の顔があるところまで自分の顔を持ち上げていく。

 

 

 

…………

 

互いの顔が接触するまであと数cm――

耳には自分の鼓動しか入ってこず、目を開いているはずなのに何も見えていない。

自分が触れている一夏の肩と、私の肩に触れている彼の手の温もりが、奇妙な浮遊感を作り出す。

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「一夏!」

 

だが、誰かが一夏を呼んだことで私の足は地面に着く。

自然と顔は離れ、誰かが走ってくる音が耳に入ると感覚が元に戻る。

ここでようやく、一夏の後ろから箒が駆け寄ってきているのが分かった。

今の私たちの状態を見て箒が睨んできたので、私は睨み返す。

 

 

 

今にもキスしそうだった私たちを見て心中穏やかじゃない箒と――

 

無意識の行動だったとはいえ、せっかくのチャンスを潰された私――

 

 

 

「おい、どうしたんだよ2人とも」

 

一夏は一触即発の事態に驚いていたが、なぜ私たちが不機嫌なのか分かっていないようだった。

 

 

 

結局この睨み合いは、シンとセシリアがやってくるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

一夏達が寮に戻った頃、研究室では回収された無人機を解析していた。

そしてその結果は、まさに私の悪い予感がそのまま表れたものだった。

 

「やはり、未登録のISコアのようです」

 

解析結果を伝える山田先生の顔は、驚きが半分と予想どおりが半分といったところか……

無人機を作り出すだけでなく、IS学園のシステムに侵入できるような人間とくれば、未登録のISコアが使える事も想像の範囲内だろう。

 

「はぁ、あの馬鹿。いったい何のつもりだ」

 

ため息とともに愚痴がこぼれる。何をしたかったのかは何となく予想できる。

くだらない理由に付き合わされて、後処理をするこっちの身も少しは考えて欲しい物だ。

 

(まあ、世界中を振り回している奴に言っても無駄か)

 

思考を一旦戻す。

今考えなければいけないのは目の前にある未登録のISコアの存在だ。

ISコアの製造法は公表されておらず、生みの親である篠ノ之束にしか作れない。

そしてあいつはそれを467個作ったところでやめたため、世界は今、限られたISコアを分配して研究開発や実戦配備をしている。

そんな中で新たに作られたISコアの存在など、厄介な代物でしかない。

 

「このコアはここで厳重に保管するしかないだろうな」

 

私の言葉に山田先生は黙って同意する。

それにしても、何で今になって新しく作ったのか……

いや、あいつの手元にはあと何個のISコアがあるのかを考えるべきか。

 

考える事は山積みだが、まずはこの機体から得られるだけの情報を得ようと解析を続ける。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

IS学園に無人機が侵入してから数週間。

織斑一夏を巡る世界の動きは、未だ収束する気配はなかった。

 

「現時点を持って、IS学園の所属となるラウラ・ボーデヴィッヒ少佐に代わり、クラリッサ・ハルフォーフ大尉をIS配備特殊部隊隊長に任命する」

 

ドイツ軍中将であり直属の上官である老人の言葉を受け、ラウラとクラリッサは敬礼を返す。

ラウラがIS学園に入る理由……

それは現在トライアル中の第3世代型ISシュヴァルツェア・レーゲンのデータ取りだけではない。

 

“世界で唯一のISを動かせる男性”である織斑一夏がIS学園にいる。

 

そこでアーベント・ヴォーゲル社の協力を得て、シン・アスカを急遽2人目の男性操縦者としてIS学園に送り込んだ。

彼は特異性から特例としてすぐに入学できたが、ラウラの場合は部隊の引き継ぎや正規の転入手続きに時間がかかり、遅れてしまった。

織斑一夏がISを動かせる理由を知るためだけなら、シン・アスカだけでも十分である。

それでもラウラを向かわせる理由、それは織斑一夏に対するドイツ政府の認識もあるが、中将の計らいでもあった。

 

「ラウラ、学校にいる間、貴女は軍人ではなく生徒です。

軍人である事に囚われず、勉強、部活、行事と、学校生活を楽しんでください」

 

中将は穏やかに語りかける。

生まれてから今までずっと、戦闘に関する教育と訓練を続けてきたラウラに学校生活を知ってもらういい機会だった。

 

「はい、ありがとうございます。

ではこれより、任務に向かいます。失礼しました」

 

ラウラは再度敬礼をすると、出発の準備をするため部屋を後にした。

そして中将は、いつも通り任務に赴くラウラの姿を最後まで見つめていた。

 

「本来なら君たちみんな、それぞれの青春を過ごしている年頃なのに……」

 

遺伝子強化試験体として生まれ、普通の人生を歩めなかった者たちに懺悔する。

そんな中将を見て、クラリッサがゆっくりと語りかける。

 

「私はもうそんな歳でもありませんよ。

それに……アドヴァンスドであろうとなかろうと、私は自分の意思でここにいます」

 

彼女は本心から言ってくれているのを知っている。

だがその中には、諦めと呪縛にも似た決意がある事も中将は知っていた。

だからこそそのことについてはこれ以上何も言わず、静かにその言葉を受け入れる。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

しばらくの沈黙の後、中将はふと思い出したことを話す。

 

「そういえば、ラウラに頼みたい事がると言っていたが……」

 

「あ、すっかり忘れていました。ありがとうございます。

ではボーデヴィッヒ中将、私も失礼します」

 

中将の言葉でラウラに伝え忘れていたことを思い出し、クラリッサは急ぎ足で退出する。

内容は個人的な事だそうなので聞いていないが、ラウラが向かう先は日本なので大方予想は着く。

 

「諦めか、憧れか、それとも両方か……」

 

自分に向けてなのか、彼女に向けてなのか分らない問いが四散する。

そして中将は静かになった部屋で仕事に取り掛かる。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

織斑一夏の存在を確かめるべく動き出したのはドイツだけではなかった。

フランスのデュノア社もその一つだった。

 

「デュノア社長、息子さんのIS学園への御入学、おめでとうございます。

世界で3人目の男性IS操縦者ですが、その存在は世界に広く知れ渡るでしょう」

 

スーツを着た中年男性は、社長室でデュノア社長に挨拶をする。

彼は国際IS委員会委員を務めており、デュノア社長の大学の同期であり親友であった。

デュノア社長は友人から祝言を受け取るが、友人の言う3人目に引っ掛かった。

 

「ありがとうレイモン。

だが、3人目とはどういう事だ。男性操縦者は織斑一夏だけではないのか」

 

アラスカ条約により、ISに関連する情報は全て開示しなければならないとされている。

開示された情報は国際IS委員会に集められ、委員会が全ての情報を把握したうえで各国のIS保有数を規定する。

だがそこには、国家や企業の優位性を維持するために開示したくない情報や、世間に公表すべきでない情報が存在する。

その場合は国際IS委員会との合意を得る事で開示の範囲を決定することで規制する。

ただし国際IS委員会の情報の独占を防ぐため、どんな情報であっても各国政府には開示しなければならないと定められている。

 

世間に公表されていない2人目の情報は、一民間企業であるデュノア社では知る事ができない。

3人目の情報も公表するタイミングはこちらで決めるとしているので、扱いとしては同等なのだが、まさか同じような人物がもう1人いるとは思ってもいなかった。

 

「ああ、世間には公表されていないが、ドイツでもう一人見つかった。

いや、正確に言うと隠すのをやめたというべきかな」

 

驚きを隠せないデュノア社長に、レイモン委員は用意しておいた資料を渡す。

その資料にはレイモンが話す通り、世界初の男性操縦者である織斑一夏ではなく、シン・アスカという見た事も聞いた事のない男の情報が載せられていた。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

シン・アスカ(16歳・男)

国籍:ドイツ

管轄:ドイツ政府

所属:アーベント・ヴォーゲル社

区分:テストパイロット

機体:インパルス(第3世代)

 

略歴

昨年10月、アーベント・ヴォーゲル社にパワードスーツのテストパイロットとして入社。

そこで開発中のISを起動させるも、混乱を避けるため国際IS委員会に報告せず。

その後は第3世代型ISの開発に参加し、IS学園入学に際し正規のテストパイロットとなる。

翌年2月、織斑一夏の存在が知れ渡るのを機に国際IS委員会へ報告し、IS学園への入学を求める。

 

織斑一夏の一件からIS学園入学までの調査記録

2月16日――織斑一夏がISを起動した事を即日公表

2月25日――織斑一夏のIS学園入学と日本政府の暫定保護を発表

3月01日――シン・アスカの存在を国際IS委員会に報告

3月09日――国際IS委員会監査官5名がISの起動を確認[1]

3月12日――シン・アスカの存在を認知し、彼に関する取り決めを決定[2]

3月19日――IS学園にて面接及びIS適性試験を行い、正式に入学を許可

3月24日――入学手続き完了

4月01日――入寮

 

[1]アーベント・ヴォーゲル社で開発中の第3世代型ISの起動は確認できたものの、他の機体は起動できなかった。監査官がそのISを起動して調査を行うが、異常は確認されなかった。そのため原因は不明だが、そのISのみ動かすことができる男性である事が確認された。

[2]ドイツ政府の要望でIS学園在学中は世間への公表はしない事で合意。

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

デュノア社長は一通り資料を眺めると、「面白くない」と思った事を口に出す。

 

「ドイツのアーベント・ヴォーゲル社か……

流石民間用パワードスーツ世界シェア第1位の企業だな、第3世代型ISと男性操縦者を引っ提げてIS事業に新規参入か。

まったく老舗大企業様とは嫌な相手だよ」

 

量産型ISの世界シェア第3位を誇り、第2世代型ISの終着点とも言われるラファール・リヴァイヴを製造しているデュノア社ではあるが、現在は経営危機に陥っている。

世界は今、欧州連合のイグニッション・プランに代表されるように第2世代型ISから第3世代型ISへの世代交代を目指している。

当然世界シェア第1位と第2位や、シェア逆転を狙っているIS関連の企業は完全に第3世代型ISの開発を始め、今や第2世代型ISの開発から完全にシフトしている。

そしてこういった企業は元々、軍事兵器や重機などの製造を行っており、そこからIS事業に手を出したような大企業ばかりだ。

しかしデュノア社はIS事業のために設立した会社であり、元からある技術力の差と操業年数が少ないゆえの他企業とのつながりの薄さによる情報力不足により、未だに第3世代型ISの開発にシフトできていない。

そういった事情を抱えるデュノア社からしてみれば、ぱっと出でありながらあっさりと開発競争に入り込む大企業は嫌味にしか見えなかった。

だがデュノア社を始めとした新規設立企業のほとんどが、ISの部品や武器の製造に留まる中で機体製造において上位に入っているだけ快挙ではあるのだが、現状が経営危機である以上それは過去の栄光でしかなかった。

 

「たしかに男性操縦者と共に新型ISの発表というのは、こちらと同じ作戦ですね。

IS事業に関しての実績はありませんが、パワードスーツ分野での実績があるアーベント社と勝負する場合、こちらが勝つのは難しいでしょう」

 

レイモン委員はデュノア社側が不利である事を冷静に分析する。

それはデュノア社長も分かっているので、一応の対応策を提示する。

 

「だからこそ、アイツには先を越されないように頑張ってもらわないとな」

 

IS学園に集まる情報、それを元に第3世代型ISの開発に着手する。

目標としては現在難航しているイグニッション・プランに滑り込むこと。

アーベント社側もそれを狙っているのかは不明だが、いずれにしろ勝つためには先に発表する必要があるので、息子の迅速かつ有益な情報の収集が必要不可欠となる。

 

 

 

こうしてデュノア社の命運を背負った少年が1人、IS学園へ足を踏み入れる。

 

 

 




唐突にオリジナル人物&設定をガンガン突っ込んでくスタイル……
こういう設定ばっかり浮かんでくるのに肝心の本編が(ry

そういえばIS世界って年号や年代の設定とかってありましたっけ?
このあたりも設定しておかないと不便だから設定しようと思うんだけど、なかなかいいのが思い浮かばないです。

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