……間に合ってませんね。ごめんなさい。
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2015.11.14:サブタイトル変更
突然の出来事に、悲鳴を上げてパニック状態になる生徒。
観客席のシャッターは閉じられ、アリーナに警報が鳴り響く。
「千冬姉、山田先生……なあ、聞こえないのか!」
先ほどから一夏は管制室にいる先生方に呼びかけているが、返事がない。
アリーナに降り立った正体不明機は、何かを待っているのか……それとも見定めているのか、一夏と鈴を見つめたまま動かない。
その機体はとにかく大きかった。実際はISより一回りほど大きいくらいだが、機体も搭乗者も黒色で覆われ、その巨大な手足によりより大きく見える。
「ちょっとあんた、いったい何のつもりよ!」
鈴が武器を構えたまま、相手に怒鳴っている。
だが、まだ相手は動かない。
一夏は繋がらない通信を諦め、相手に話しかけようとするが、突如辺りが暗くなる。
「な、何だ」
とっさに上を見ると、アリーナの天井が動いている。
そしてすぐに天井は閉じられ、同時に照明が点灯する。
「まさか……閉じ込められた!?
くっ、アンタねえ、こんなことしてどうなるか分かってんの!」
天井が閉じられては救援が突入できない。
先生方がそんな事をするとは考えられない、どうやったのか知らないが閉じ込められたようだ。
一夏も雪片を構え直し、鈴に続いて相手に問う。
「お前、何者だ。答えろ、目的は何だ!」
すると、今まで無言だった正体不明機が突如両腕をこちらに向ける。
そして肥大化している両腕の先にエネルギーが集まる……
まずい――
「一夏!」「鈴!」
互いに声をかけ、左右に離脱する。
その直後、2人のいた空間をビームが貫く。
「なんて出力だ……シンやセシリア以上じゃないか」
危険だ――こいつを学園内で暴れさせちゃいけない。
通信も繋がらない、皆を守るために今俺たちにできる事は……
「鈴! こいつを野放しにできない。俺たちで倒すぞ」
「システムを乗っ取られてる以上、救援はすぐには望めないわね。
それにさっきの試合でエネルギーを消耗してる……正直時間稼ぎが関の山だと思うけど?」
天井を閉めたのが相手の仕業だと考えれば、アリーナのシステムは掌握されているという事だ。
それほどの敵を相手に、万全の状態ではない私たちで倒せるのか……鈴は相手の戦力を予測して自分たちが不利である事を告げる。
「逃げたきゃ逃げてもいいぜ」
「何言ってんのよ、私はこれでも代表候補生よ!」
だからと言ってこのまま尻尾巻いて逃げる気などない。
救援が来れるかどうかすら分からなくなった以上、私たちがやるしかない。
「そうか、なら俺もお前の背中ぐらいは守ってみせる」
「この状況で、よくもまあ言い切るわね」
正体不明機の攻撃は頻度を増し、両腕のビーム砲以外に肩からもビームを連射してくる。
状況はこちらに不利だ。
だが、倒すと決めたからにはこのまま逃げ続けるわけにもいかない。
「一夏、私が援護するからアンタは突っ込みなさい。
そんでその物騒な武器を叩き込みなさい」
「ああ、任せろ」
相手を倒すためには攻撃しなければならない。
鈴は指示を出し、龍咆を撃ち込んで足止めを狙う。
そして一夏はシールドで衝撃砲を防いでいる正体不明機へ飛び込む。
だが大型であるにも関わらず敵の動きは素早く、一夏の攻撃は避けられてしまう。
「くそ、まだだ」
それでも一夏は諦めることなく、再度攻撃を仕掛ける。
1回――
2回――
3回――
攻撃を仕掛けるもいずれも同じ結果に終わる。
エネルギー残量を気にして、無意識のうちに消極的になっているのか足止めが成功しない。
このまま消極的に攻めても結果は変わらずエネルギーが尽きるだけだ。
こうなったら全てのエネルギーを使って全力で次の1回で倒すしかない。
鈴は一旦攻撃をやめ、一夏のエネルギー残量を聞く。
「一夏、イグニッション・ブーストとあの物騒な攻撃、両方使うだけエネルギー残ってる?」
「あ、ああ。1回分なら」
甲龍のエネルギーは残り少なく、龍咆もあまり連射できない。
なら白式のエネルギーが残っているうちにやるしかない。
「なら作戦変更よ。あんたはいつでもイグニッション・ブースト使えるようにしときなさい。
そんで私があいつの動きを止めるから、そしたら全力で攻撃しなさい」
私が全力で足止めし、一夏が全力で攻撃する。
失敗すれば2機ともエネルギーが尽きるだろうが、手を打たなければあいつには勝てない。
鈴は一夏の返事を待たずに正体不明機へ接近する。
「お、おい鈴!」
一夏は一方的な打診に戸惑うも、瞬時加速の準備をしつつ鈴を追う。
鈴は龍咆を撃たずにビームを避けながら連結した双天牙月を投げつける。
投げた武器はブーメランのように敵を襲うも、易々と避けられてしまう。
だがそれは重々承知の上だ。
回避したところにさらに龍咆を撃ち込むが、シールドに弾かれる。
一瞬とはいえわざわざ足を止めて受け止めてくれたのは嬉しい誤算だった。
おかげで少ない軌道操作で双天牙月を足に当てる事が出来た。
これにより敵はバランスを崩した。
だがシールドがあるため足は無傷であり、この程度では足止めの時間としては不十分だ。
だから鈴はその瞬間に現在撃てる最大威力の龍咆を撃ち込み、一夏に合図を送る。
「一夏、今!」
一連の鈴の行動に合点がいき、合図とともに準備していた瞬時加速で相手に突っ込む。
「うおおおおおお!」
敵は何とかバランスを取り戻し左肩のビーム砲で迎撃しようとするも、それよりも先に零落白夜が発動した雪片が食い込み砲門が潰れる。
肩が砲門から斬り落とされ、そのまま搭乗者を斬りつける。
零落白夜によりエネルギーシールドは消滅し、敵のISは搭乗者を守ろうと絶対防御を展開する。
(よし、このままエネルギーを……)
だがそう思ったのも束の間、敵は自ら絶対防御を解除し、雪片を搭乗者が左腕で直接受け止める。
「バカッ何やってんだ!」
絶対防御も張らず雪片を受け止めた敵を見て思わず声を上げる。
エネルギーシールドはおろか、絶対防御もなしに搭乗者自らが攻撃を受け止めるというのは、零落白夜でなくてもただの自殺行為だ。
そこに雪片を阻むものは何もなく、高出力のエネルギー刃は易々と肉体に食い込んでいく。
そして一瞬にして、雪片は振り抜かれる――
それにより身体と左腕が分離する。ISのではない……搭乗者の腕が――
白式は瞬時加速の勢いでそのまま離脱する。
一夏は先ほどの出来事が信じられず、自分が斬ったモノを確認しようと振り返る。
そこには左腕を失い、振り抜かれた雪片の軌跡が脇から腹にかけて刻まれていながらも、無表情のままこちらを向いている敵の姿があった。
その姿はどう見ても人間のものではなかった……
切り落とされた左腕の切断面からは無数の配線が飛び出し、切り裂かれた身体からは見慣れぬ機械を覗かせており、そこからは血液の代わりに火花をまき散らしていた。
無人機――
≪警告 右腕にエネルギー反応≫
自分たちが戦っていた相手は人間ではなく、ただの機械の集合体だった。
無人機だという事への安堵なのか、自身の損傷を気にもとめない無人機への恐怖なのか分からないが、一夏はこの異常な光景から目を離せずにいた。
そして視界が光で染まって初めて、敵が動いている事に気付いた。
ビームで吹き飛ばされた白式は地面を数回バウンドする。
それにより白式が強制解除され、一夏は地面に投げ出される。
「こんのおおおおおお!」
無人機の方を見ると、鈴が後ろから奇襲をかけている。
だが無人機は先ほどの損傷を意に介さず、身体を軸にして回転し、巨大な腕部に遠心力を乗せて甲龍に叩き付けた。
甲龍はそのままアリーナの壁に激突し、機体ごとそのまま地面に倒れ込む。
打ち所が悪かったのか鈴と甲龍は倒れたまま動かない。
これで敵が何をしようと、俺たちはただ見ている事しかできなくなった。
(ちくしょう……ここまでなのか)
諦めかけたその時、無人機に2つの光が刺さる。
攻撃を受けた無人機は様子を窺うように光源から離れる。
そして光の出所を見ると、インパルスとブルー・ティアーズがライフルを構えていた。
「一夏、無事か!」
箒の声がアリーナに響く、見ればシンとセシリアの後ろのピットに箒が立っていた。
意識こそあるがピットに届くような大声は出せなかった一夏は、腕を上げて答える。
「俺が奴を引き付ける。その間に2人を」
シンは指示を出すと、ライフルで牽制しながら近づき、サーベルで無人機を攻撃する。
セシリアは無人機がシンと戦っている間に一夏を回収し、箒の隣に降ろす。
「一夏、大丈夫か」
「ああ、なんとかな」
箒は一夏の無事を確認し、ひとまず安堵する。
そしてセシリアが向かうより先に、意識が戻った鈴が自力でピットに戻ってきた。
「すいません。もっと早く来られれば良かったのですが」
「いいわよ、気にしなくて……悪いけど、後は頼んだわよ」
セシリアと鈴が言葉を交わし、アリーナから出る鈴に代わりセシリアが入る。
アリーナではシンが1人で戦っている、片腕が無い無人機相手に有利に立ち回っているものの、強固なエネルギーシールドを抜けないためダメージを与えられずにいる。
セシリアは上空へ飛び、BTを全て切り離して無人機を取り囲み、攻撃を開始する。
「シンさん、お待たせしました。
それにしても無人機ですか……いったい誰がこんなことを」
「分からん。でも今はこいつを倒すのが先だ」
2人とも無人機の存在に疑問が浮かんだが、すぐに友人を傷つけた無人機への怒りに変わる。
そして一夏たちの安全を確保した2人は反撃を開始する。
シンはセシリアに足止めを任せて接近攻撃を繰り返し、セシリアは無人機の足を止めつつダメージを与えるようにBTを操作している。
その動きはいつもより攻撃的で、1基は残っている右腕を重点的に狙い、2基のBTで相手の回避先を読んで攻撃して動きを止め、最後の1基は別方向から搭乗者を狙う。
そして4基全てを別々の方向へ動かし、常に4方向から攻撃を加えている。
その攻撃に容赦はなく、片腕の無人機は反撃することもできず、セシリアの作ったレーザーの檻の中で踊る事しかできなかった。
無人機は動きを封じられ一方的に攻撃されているが、エネルギーシールドでブルー・ティアーズのレーザーとインパルスのビームサーベルをなんとかしのいでいる。
でもそれは辛うじて首の皮一枚が繋がっている状態であり、防ぎきれるのも時間の問題だろう。
「すごい……あれがシンとセシリアなのか」
ピットで戦闘を見ていた一夏が小さく呟く。
セシリアが敵を逃がさないようにレーザーを連射しているにもかかわらず、シンは自由に檻から出入りして攻撃を繰り返している。
セシリアもセシリアで、シンが接近してようともお構いなしにレーザーを連射している。
一緒に訓練していても、2人がコンビネーションの練習をしている所は見ていない。
即席でこれだけ動けるというのは、それだけ2人の実力が高いという事だろう。
2人の実力を見て無意識のうちに拳を握っていたが、一夏を含めてそれに気付く者はいなかった。
そしてついに、文字通り最後の首の皮が切れる。
今まで防いでいたビームサーベルを無人機は防げず、搭乗者の頭部が斬り飛ばされる。
エネルギーが尽きてエネルギーシールドも絶対防御も展開されなくなり、レーザーの雨が背部や腕部を次々に貫いていく。
それでも攻撃の意思は止まる事は無く、近くにいるインパルスを右腕で殴ろうとする。
だが無人機は満身創痍であり、そんな状態で攻撃したとしても当たるはずもない。
「これで終わりだ!」
シンは踏み込んだ無人機の搭乗者の左足を、ビームサーベルで切断する。
既に限界なのか反撃するそぶりも見せず、無人機はその場に崩れ落ちていく。
搭乗者の部分はレーザーの貫通により無数の穴が開き、機体の部分は穴が開く以外にも大部分が熱で溶けだしており、その形は原形を留めていなかった。
あれだけ暴れまわっていた無人機は、今は見るも無残な鉄塊となっていた。
2月は忙しいため次は3月以降になります。