紅い翼と白い鎧【IS】   作:ディスティレーション

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この小説は、機動戦士ガンダムSEEDDESTINYのシン・アスカがIS世界に行くお話です。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


ドイツ編
第01話 異世界


「ここは……俺はなんで……」

 

朦朧とした意識の中で呟いた言葉に、答える者はいない。

真っ黒な空間の中を漂い、目の前に存在する赤く光る球体を見つめていた。

直前に何をしていたのか思い出せず、なぜここにいるのか分からない。

それにだんだんと体が空間に溶けていくような奇妙な感覚に襲われている。

 

(早く……ここから出ないと)

 

そう思うと腕が動き、手を伸ばて赤く光る球体を掴むことができた。

掴まれた球体は、光がますます強くなっていき空間の全てを包み込んでいく。

 

(光が……広がっていく)

 

その光を眺めながら、彼の意識はなくなっていった。

 

 

 

 

 

――CE.74年7月

シン・アスカがMIA(作戦行動中行方不明)になった。

二度目の大戦の終結後、わずか半年後の出来事だった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

どの位気を失っていただろうか、体に冷たい風が当たったことで意識が覚醒する。

立ち上がって辺りを見回し、ここが見知らぬ公園だと理解する。

そして立ち上がった際に感じた重力からここは地球だと判断する。

 

(地球? 俺はずっと宇宙にいたのに……)

 

自分の感覚に間違いがあったのかもしれないと、今度は夜空を見上げる。

コロニーの天井が見えないためここが地球であるのは間違いない。

しかし、地球から見えるはずのコロニー群が見えない。

どういう事かと誰かに聞きたいところだが、夜なので誰もいない。

次になぜこんなところにいるのか考えてみる。

 

(俺は廃棄コロニーに潜むテロリスト討伐のために、ナスカ級に乗った。

そして任務の打ち合わせをした後、部屋で寝て……なぜかここにいる。

もしかして寝ている間に放り出された? いや、さすがにそれはないだろう)

 

考えれば考えるほど状況が理解できなくなる。

戦闘中に何かあったのかとも考えたが、自分が今軍服であることから違うだろう。

 

(とりあえず公園から出てみるか)

 

公園から出ようと思ったが、入り口の近くに地図を見つけたので覗いてみる。

その地図の地名を見た瞬間、シンは公園の外にある建物を見回した。

 

「ベルリン……。

そんなバカな……だって、ここはあの時!」

 

シンはかつて守れなかった少女と、彼女が壊した都市を思い出す。

もしあの時……と考えてしまうが、過去は変わらない。

だからこそ、同じ過ちを繰り返さないために自分は軍人として戦うことを選んだ。

だがここにあるのは廃墟からの復興中の都市ではない。

まるであの時の悲劇が全て夢であるかのように、整備された街並みがここにある。

 

何も考えたくなかったが、街中を歩いて人に会うたびにここは本当にベルリンか確認した。

 

 

 

 

 

やっぱりベルリンだった。

 

 

 

 

 

ZAFTのジブラルタル基地について聞いた。

 

 

 

 

 

ZAFTなんて軍は存在しないそうだ。

 

 

 

 

 

今の年月日も確認した。

 

 

 

 

 

今は西暦だそうだ、しかも再構築戦争よりもさらに昔ときた。

 

(もしかしてここは過去の世界なのか?)

 

次々と判明する事実に頭を悩ましても答えはぜず、どうしようもないので

 

(少し冷えると思ったら今は10月か……)

 

などとどうでもいいことを考え、気を紛らわせることにした。

任務に向かったのは7月だったのだが、そんな事ではすでに驚かなくなっていた。

人に尋ねるのをやめ、何も考えずに歩いていると大通りに出た。

 

そこに街頭テレビを見つけたので、近くのベンチに座り画面に目を向ける。

 

「本日、国際IS委員会より第4回モンドグロッソ大会の開催国がアメリカに決定しました」

 

ISが何か気になったのでそのまま見たが、ニュースの内容だけではよく分からなかった。

 

「本日は第4回モンドグロッソの開催国決定に伴い、第1回と第2回大会の特集をお送りします」

 

幸い次はISの番組なので、そのままテレビを見ることにした。

 

「第1回大会はISの開発国である日本で、第2回は我が国ドイツで開催され――」

 

司会者の後ろの画面には、過去大会の物と思われる映像が流れていた。

 

(パワードスーツによる模擬戦か?

しかし変なデザインだ、上半身がほとんど露出している。

模擬弾とはいえ当たると痛いよな……)

 

「そもそもIS、インフィニット・ストラトスとは――」

 

ここからISそのものの説明が入る。

元々は宇宙開発用ということなので、ISはMSの先祖に当たるのかと考えたが

説明の続きを聞いてシンはまた頭を悩ませることになる。

現実逃避で見ていた番組は不幸にも、彼に追い撃ちをかけることになった。

 

(PIC、量子変換、絶対防御……そんなの聞いたことないぞ)

 

この番組のおかげで、ISが何なのか理解することができた。

 

天才、篠ノ之束が1人で作り上げた世界最高のパワードスーツ。

 

しかし、自分はISの存在を今まで知らなかった。

MSの前身である宇宙用のパワードスーツの一種であるにも関わらずだ。

そしてISには、女性にしか使えないという訳のわからない欠陥を差し引いても兵器として十分な(MSクラスの)性能がある。

現在は競技用とはいえ結局アラスカ条約なんて無視されて、再構築戦争に使われたはずだ。

もし仮にすぐに技術が失われて戦争で使われなかったとしても、パワードスーツに変革をもたらしたISが歴史から完全に消える事ができるはずがない。

他にも、この時代にISが存在していたのなら、CE時代にビーム兵器の小型化に苦労したのもおかしな話になってくる。

その小型化だって約18mのMSが使うサイズで、ISの物と比べれば明らかに大きい。

考えれば考えるほどおかしい事だらけであり、過去と未来が繋がらない。

 

 

つまりここはCEとのつながりがない場所……

 

 

ここまでくれば誰もがある答えにたどり着くだろう……

 

 

 

――異世界――

 

 

 

ここが過去ではなく異世界だとすれば、すべて辻褄が合うではないか。

 

「あは、ははは……」

 

頭が痛い。

 

「次のイタリアでは今回果たせなかった初代ブリュンヒルデとの勝負を――」

 

番組の内容なんてとうに頭に入ってない。

いっそ狂ってしまえたらどれだけ楽だっただろうか……

しかし、過酷な戦争を生き抜いた精神は壊れてはくれなかった。

なぜ今、ISを知ってしまったのだろう……どうせなら状況が落ち着いてから知るべきだった。

 

 

 

何も知らない方が幸せだった……。

 

 

 

 




みなさん初めまして。今後よろしくお願いします。
夜中に街中を赤服で徘徊して迷子みたいな質問する主人公……
MSはついて来なかったので、シンが異世界から来たって向こうは分からないから仕方がないね。

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