と言っても、今回の話はストックで残していた分なので次回はまたいつになるのやら……。
「SAO事件。天才プログラマーにして、量子物理学者である茅場晶彦によって引き起こされた凶悪にして、残忍な事件……」
放課後、シャルルは一人自室にてSAO事件を自身の端末で調べていた。
「被害者は1万人、その内およそ4000人が死亡。生き残った人間の中にはゲーム内で積極的な殺人を行った者もいる」
シャルルも当然この事件は知っている。しかし、海外の事と言う事もありどこか自分には関係ない話と思っていた。それと同時に当時の彼女は色々と自分の事で忙しく、しっかりとはこの事件を知る事はなかった。
「だけど、まさか一夏がその事件に巻き込まれていたなんて……」
シャルルはどうにも一夏と言う存在が気になって気になって仕方がないようだ。二人目の男性操縦者と言う事は、自身も大変な立場であるはずなのに。
ところで、なぜシャルルが一人部屋にいるのかという話をしよう。
実は、一夏達とは一緒に訓練をという話が出ていのだが、今日はお流れとなっていた。その理由は訓練場が使用できないからであった。いくら専用機を持っているとはいえ、訓練場の予約がいっぱいだったり、整備中で使用できないと訓練できないのだ。
そう言った時は、それぞれ部活に行ったり、好きな事をしている。
因みに、その一夏はと言うと放課後の筋トレに勤しんでいたりする。チンクは『良い筋肉の付け方を教えてやる』とコーチをしていたりする。
「それだけじゃなくて、ドイツの代表候補生と日本の代表候補生も巻き込まれていたなんて……」
一夏が特別なのか、それともSAO生還者が特別なのか。彼の思考はぐるぐると回っていた。とても、大きな流れに飲まれかけている一男性とは思えない考えであった。
「(どちらにしろ、男性という事以外でもとにかく特別なんだ一夏は。その因果関係が少しでも分かれば……)」
千冬と同じ単一仕様能力と言い、接近戦に特化しすぎたISと言い、男性であるという事以外でも一夏はイレギュラー過ぎた。彼女はその事が、SAOにも関係があるのかと勘繰っていると……。
「なんだよ、シャルル? なにを見てるんだ?」
「わひゃぁああ!!?」
行き成り声をかけられ、思わず可愛らしい悲鳴を上げてしまっていた。
「い、いいいい一夏!? いきなり声をかけないでよ」
「いや、一応ただいまって言ったけど」
「だって帰ってくるの、ギリギリだって言ってたのに!?」
「そう言えば、そうだっけ?」
そんな事も言っていたな……と、一夏は思い出した。
「いや、ちょっと用事ができてさ。ちょっと大きな端末が欲しくて」
「用事?」
「おう」
そう言って、一夏は部屋の周囲を見渡す。確か目の見える位置に置いていたと思っていたはずだが……。
「あ、これって……」
そこで一夏は床に落ちていた端末を拾った。しかし、それには電源が付いて何かの記事が載っていた。
「あ、そ、それは!!」
それは先ほどまでシャルルが使用していた端末。先程驚いて立ち上がった際に床に落としてしまっていたのだ。
「あぁ、シャルルのだったのか。悪い、返す―――!」
そこで一夏はチラリと記事を見てしまった。SAO事件に関する記事を。
「(やっぱり、同室がSAO被害者だと気になるのかな?)」
しかし、それならば先ほど自分が声をかけて驚いたのも納得だ。そう一夏は感じた。隠れて調べていたのもきっと自分に気を使っての事だろう。一夏はそう納得していた。
「ほら、これ。悪かったな、急に声をかけたりして」
「う、ううん。僕こそ勝手にこんなこと調べたりして……」
「別にいいって。俺の個人情報とかじゃないんだしさ」
そうはお互いに言うが、どうしても気まずい空気が室内を漂い始めていた。どうしたものかと考える二人であったが、先にシャルルが口を開くのであった。
「そう言えば、大きめの端末を探していたんじゃないの?」
「っと、そうだった! 早くしないとアイツが―――」
「すでにいるが?」
「うおッ!?」
「ひゃぁッ!?」
いきなり背後にラウラが現れ、驚きの声を二人は上げた。シャルルは本日二度目である。
「チ、チンク!? 勝手に部屋入ってくるなよ」
「ふふん。お前の部屋は私の部屋も同然」
「SAOの頃とは違うんだぞ。第一、アークソフィアでは別の部屋……」
あれ? 良く考えれば、勝手に合鍵を作って入ってきてはアスナに怒られてたっけ? 主に何故か俺が。
一夏はその事を思い出し言葉を詰まらせていた。
「(と言うか、合鍵ってシステム的に勝手に作れるものだったか?)」
(実は、フィールドにシステムコンソールを見つけてガーディアンの目を欺きながら命懸けで作っていたりする)
「ん? 貴様は一夏と同室の……。たしか―――」
「そう言えば、ちゃんと自己紹介はしていなかったね。改めまして、昨日転入してきたシャルル・デュノアだよ。宜しく」
「デュノア? デュノア社の関係者か?」
「う、うん。僕の父が社長をしているのだ」
デュノア社とは量産機IS・リヴァイヴの開発元である。リヴァイヴは第2世代のISながらも安定した性能を兼ね備えているため、十二か国で正式に採用されている世界シェア3位のISだ。
話を聞く限り、シャルルは御曹司という事だ。
「全然知らなかった」
「なんだ、チナツ。気付いていなかったのか?」
「って言うか、IS関連の会社すら知らねぇよ。現実世界でのブランクは2年以上あるんだぞ? リアルに戻ってからも勉強漬けで―――」
「デュノア社は何年も前からあるが?」
「あ、あはは。うん、そうだよ?」
「うぐ! 味方は居ないのか!?」
ガビーンとショックを受ける一夏。だが、そこである事に気付いた。
「うわ!? やっべ!! そろそろ時間だ!! チンク、早く寮の外に行こうぜ!!」
「む、ま、待て! チナツ!?」
慌てた様子で部屋を出る一夏。その様子を見て、呆れたように溜息を吐くラウラであった。
「(ふん。SAOの頃から何も変わらない。とは言え、それが私にとってどれだけ救いになっているか知りもしないのだろな)」
そう、だからこそ。今しておきたい事がある。
「そう言えば、貴様。聞けばフランス代表候補らしいな?」
「え? そ、そうだけど?」
てっきりすぐにでもラウラは一夏を追うと思っていたシャルルであったが、急に自分に話掛けてきた。シャルルはそのことに困惑するしかなかった。
「それがどうしたの?」
「いや、別に。ただ、2世代ISのようなアンティークしか使えないような骨董品使いが、よくこの学園に来たものだとな」
「ッ! 未だに量産の目途が立たない3世代ISのようなルーキーよりは安定して戦えると思うけど?」
それは挑発であった。シャルルはラウラのその言葉にムッとなってそう言い返してしまう。だが、その言い返しを聞いたとたん、ラウラはおかしそうに笑うのであった。
「何がおかしいのさ!?」
「いや、なに。最近の男にしては胆が据わっているなと」
今の世の中、悲しい事に男は強く言えない時代だ。学生の内もそうだが、社会に出ればなおさら。
「チナツの奴ではこう挑発されてムッとなることがあっても、すぐにこうも言い返したりはしない。いまのは……そう、まるで……」
―同性にでも言い返されたような気分だ―
「―――ッ!!!?」
そう言われ、シャルルは身を強張らせる。まるで隠しきれない罪をつきつけられたように。
「ふん、これで失礼させてもらう。チナツの奴を待たせるわけにはいかないからな」
一方ラウラはそんなシャルルを見向きもせず、言いたい事を言うと部屋を出るのであった。一人残されたシャルルは茫然と立っているが、不意にぺたんと尻餅をついた。
「あ、あはは。ばれても一夏が相手だって思ってたのに……」
警戒するのはむしろ彼に恋する乙女だったか。シャルルはこれからの事を考えると、膝がガクガクと震えるのであった。
「おせーぞ、チンク」
「すまん。ちょっとな」
シャルルとの会話の所為で少し遅れたラウラは一夏に謝罪をしていた。
「しかし、何故外に出る必要がある」
「いや、別にどっかの談話室でも良かったんだけどさ。電話だし……誰かいたら気が散るだろ?」
「ん? 何故電話で私が必要なのだ?」
「いいから。ほれ。お前が遅れた所為で向こうも待ちかねてるぜ」
「お、おい! チナツ!?」
若干強引に携帯端末を渡す一夏。そんな彼に困惑しながらも端末を受け取るラウラであった。
「まったく、いったい誰と『わぁ! 本当にチンクちゃんだ!!』―――ッ!!」
だが、とても懐かしい声が聞こえ、ラウラはハッとして視線を端末へと向ける。そこに二はとても懐かしい、本当に懐かしい顔が映っていた。
「アス……ナ?」
『うん! うん!! チンクちゃん!! 元気そうでよかった!!』
「ははッ! 大きめの端末で良かっただろ?」
そう、一夏は昼休みの時点で密かに今日ラウラが日本に来たことを仲間達に知らせていたのだ。仲間達はダイシーカフェに集まり、テレビ電話をする事にしていたのだ。それはつまり……。
『ちょっと、チンク―! あたしの事を忘れんじゃないわよー!』
『きゃぁ! ちょっと、リズ!?』
「リズ……」
アスナと画面の間に強引にリズベットが割り込む。
『あたしもね』
「シノン」
続けてシノンが。
『チンクさん!! お久しぶりです!!』
「シリカ」
シリカが。
『私もいます!!』
「……誰だ?」
『リ、リーファですよ!!』
「あぁ、確かアバターとリアルは姿が違ったのだったな」
『うぅ……』
『はは。仕方ないだろ、スグ?』
『お、お兄ちゃ~ん』
「(このお兄ちゃん発言は、まぎれもなくリーファだな)」
キリトとリーファが。
『俺様もいるぜ!』
「お前はどうしようもない」
『い、いきなりひでぇ!!?』
「クラインは仕方ないな」
『おい、チナツゥ!!?』
クラインも。
『ったくよぉ。何で俺ばっかり。おら、次はエギルだぜ!!』
そう言うと、クラインは画面を動かしカウンターにいるエギルの方へと向ける。
『よ、チンク。画面越しだが、また会えて嬉しいぜ』
「エギルか。そう言えば95層渡したレアアイテムの代金をまだもらっていなかったな?」
『ぐぅ!? 覚えていやがったか……。ゲームの事は、ゲームでだ。お前さんが、ALOに来たらな』
「ほう。それは良い事を聞いた。今の内に私に渡す装備一式を準備しておけ。あのアイテムは実にレアだった」
『ちょっと皆!! 最初は私がチンクちゃんと話すって言ってたでしょー!!』
一通り、ダイシーカフェに揃ったメンバーが話すと、アスナは癇癪を起こしたかのようにクラインから端末を取りあげる。
「そう言えば、フィリアの奴は居ないのか?」
『うん。今日は残念だけどこれないって』
「まぁ、急だったし。仕方ないさ」
「そうか。まぁ良い。全員の無事が確認できたのであればな……」
その言葉に、一夏の心にずきりと何かが刺さった。本当は一人欠けている事実を伝えていないからだ。だが、その事を知らないラウラはおよそ半年ぶりに仲間達との会話を楽しむ。だが、不意に……。
『え? チ、チンクちゃん!?』
「む? どうした?」
『泣いているの?』
「な、に?」
気が付けば、ラウラの瞳からは涙が出ていた。
「ば、馬鹿な! この私が涙だと!? あ、ありえん!!」
「そんな事ないさ」
一夏そんなラウラにハンカチを渡す。
「嬉しくったって、涙は流れる。そんな事、あの世界では何度でもあっただろ?」
『うん、そうだよ。チンクちゃん』
「アスナ、チナツ……」
二人のそんな暖かな言葉に、更に涙が溢れる様にラウラは感じた。
「そう言えば、まだ言っていなかったな。おかえり、チンク」
『おかえりなさい、チンクちゃん』
「別に私は、日本出身ではないのだが……」
しかし、仲間がいる場所が帰る場所と言うのであれば、この地もまぎれもなく自分の帰る場所の一つだろう。それならば……。
「ただいま、皆」
『『『『『「おかえり、チンク」』』』』』
こうして、彼らに欠けていたピースはまた一つ埋まったのであった。
カリカリカリ
「…………」
カリカリ……ピタッ
「………あ、会長は雑誌出版社へ取材の仕方に問題がなかったをクレームに行っていため今日は不在です。静かですみません」
……カリカリカリ。
「ちなみに私は雑務中です。では」
カリカリカリカリカリ。
―同時刻―
「日本代表候補にアポをとったのは誰だぁあああ!!?」
「ぎゃぁあ!? 記事に出来ない人が来たーー!!?(外交的な意味で)」