密林エリア・とある遺跡型のダンジョン、最上階。
そこで、他種族混合の妖精戦士達は戦いを繰り広げていた。
【――――――ッ!!!!】
「よし、今だ!! 一気に畳みかけろ!!」
「「「「「了解」」」」」
チナツの合図とともに、ツバキ達は自身の持ち得る最大のスキルで一気に攻撃を開始する。
「やぁあ!!」
「せい!!」
「ここは、弓……かな!!」
「ふん!!」
彼女達の攻撃は次々と決まり、見る見るうちに最上階のモンスターはHPは削られていく。
そして―――!
「チナツ、今!!」
「おう!!」
チナツはモンスターの懐に入り、片手剣奥義スキル・ノヴァ・アセンションを放つのであった。
その一撃が決まり、モンスターはガラスが砕けるようなエフェクト共にその場から消滅するのであった。
するとどうだろ? 美しい翼がその場に現れたと思ったら一つの羽根になりゆっくりとチナツの手へと落ちてくるのであった。
それは、クエストNPCが言っていた奪われた羽根と見て間違いなかった。
「……やった」
リンがポツリとそう呟くと他の皆もわっと喜びの声を上げるのであった。
「やったよ、皆!!」
「はい、目的の物も手に入りましたわね!?」
「後は、そのアイテムを届ければいいだけなのだな」
クエスト達成を目前にして喜ぶ仲間達。しかし、チナツは何とも言えないモヤモヤを感じていたのであった。
「どうした、チナツ」
その様子を敏感に感じ取ったチンクがチナツに尋ねる。するとチナツは何とも言えない微妙な顔をしてそれに答えるのであった。
「いや、もしこのままクリアならさっきのがクエスト最終ボスって事だよな。それにしちゃぁ……」
「前の階層のネームドの方が強かった―――、か」
それを聞くとチンクはふむぅ、と考え込む。確かに一理ある。だが、それもこの羽根アイテムを最初に会ったクエストNPCに渡せば判る事だ。チンクはそう判断して、チナツにその事を伝えるのであった。
それを聞いて彼も確かにと感じ、クエストNPCの所に戻ろうと皆に伝えようとした。その時だ。
「―――なにッ!?」
「きゃぁあ!?」
「これって!?」
床に巨大な魔方陣が展開し、チナツ達はその光に包まれる。この事象に彼等は心当たりがあった。
強制転移によるフィールドの変更。つまりクエストはまだ―――。
「終わっていなかった、という訳か」
チンクのその呟きと共に、周りの景色ががらりと変わった。そこは先ほどまでいたボロボロな遺跡とは違う、神々しく神聖な空気を漂う神殿、その中と思われる広い通路であった。
「オイ、皆いるか!?」
「私はいるわよッ!!」
「僕と、セシリアも!!」
「どうやら、全員いる様だな。ツバキ?」
「モッピー、何でも知っているよ。ここに皆そろっているって事を」
「オイ、チンク。それはモッピーだ。斬るぞ」
「あ、うん。皆そろって何より」
ちょっと内輪揉めをしそうであったがみんな無事なようだ。チナツは安心すると同時に辺りを見回す。長い通路という事は、何かに繋がっている可能性がある。問題は前方、後方のどちらに向かって行けばいいかであった。
「モッピー、何かを感じとっているよ。あっちに誰かいるって事を」
「ん?」
モッピーはふらっと出て来てはその場を引っ掻き回すだけ回してなかなか出てこない。積極的にサポートするユイとは多い違いだ。だが、重要な時、本当に困っている時はこう言った発言をして助けてくるのだ。
「どうせ、適当な事を言っているのだろう」
最も、ツバキだけは決して認めていないが。
「けど、ツバキ。モッピーって、冗談は言っても嘘は言わないよ?」
「その線引きはひじょーに難しいけどね」
「とりあえず、行ってみませんこと?」
やたらモッピーを嫌うツバキは否定的な発言をする。しかし、普段からからかわれて苛つく事もあるがどこか憎めないモッピーの言う事を仲間達は信じたようであった。
「お、おい!? 本当に行くのか?」
「まぁ、いいじゃないか。ツバキ」
「そーよ、どーせ当てもないんだし」
何とかモッピーの提案を捻じ曲げようとするツバキであるが、皆はサクサクモッピーに誘導されるままに進んでいくのであった。
「モッピー、何でも知っているよ。ここから先は皆で行くといいって事を」
「え?」
だが、モッピーは不意にピタリと止まり、ニヤニヤしながら正面の巨大な扉へ指を指す。それはつまり自分はここに残るという事。
これはモッピーなりの合図だ。こう言った時は、大抵戦闘になるのだから。
「毎回そうって訳じゃないけど」
「だな、セシリアにシャル。皆にバフをかけてもらえるか?」
用心するに越したことはない。チナツは、シャルとセシリアに支援魔法を皆に掛けるように指示を出す。
「分かりましたわ。――――――」
「うん。任せて、チナツ。――――――」
二人はその提案を承諾して、パーティ全体へと支援魔法を掛ける。その効果が発言を確認すると、チナツは全員を見渡す。
「よし。じゃ、いくか」
チナツのその短い言葉に一斉に全員が返事をした。そして、それと同時にチナツは扉に手を当てるのであった。
「うひゃ~、たっかそうな壺ねぇ~。リアルでもあんのかしら?」
「あら、これ実在しますわよ?」
「シャルはこういうのは分からないのか?」
「う~ん、どうだろう? 正直、僕こういうの判らないなぁ~。なんちゃってお嬢様だったし」
「お~い、皆警戒しろよ~」
扉の向こうは広い空間であった。辺りには壺やら像が煌びやかに飾られており、皆はキョロキョロと見渡していた。
「っと、誰かいるな」
しばらくすると前方に人影が見えた。チナツ達は何かあると感じ小走りでその場へと向かうのであった。
『よくぞ聖なる翼を取り戻してくれました。妖精の戦士たちよ』
そこにいたのは女性であった。美しい衣装を身に纏った女性。例え翼がなくても、一目で彼女が天使と分かる。そんな風貌であった。
だが、彼女の顔に皆は見覚えがあった。奪われた翼を取り戻してほしい。そうチナツ達に依頼したクエストNPCであった。
『さぁ、私に翼を。それで、私も光の守護を再び行う事が出来ます』
そう言って女性は手をチナツへと手を広げる。だが、チナツは「はいそうですか」と素直に渡す気にはどうしてもなれなかった。それは、モッピーの存在ゆえだ。
「(モッピーがついてこなかったって事は戦闘の可能性がある……)」
何だかんだでこんな信用はあるモッピーであった。ナビゲートしてくれないピクシーってどうなのだろうか?
『どうされましたか? さぁ、翼を私に……』
「あぁ、いや。その……」
どうにも煮え切らないチナツ。そんなチナツをじっと見て彼女はポツリと呟くのであった。
『なるほど……あの小妖精か。余計な事を』
「え?」
その声色は明らかに今までのモノとは異なっていた。どす黒く、怨念のこもった声であった。その声に全員がピクリと反応し、一斉に武器を構える。
『だが、無駄な事だぁッ!!!』
「ぐぁああ!!?」
「「「チナツッ!!?」」」
一喝。その叫びと共に激しい衝撃破がチナツを襲い、彼は壁へと叩きつけられるのであった。
彼のその姿を見て彼女たちは急いで彼の元へと駆け出すのであった。
「大丈夫か!?」
「いてて。大丈夫だ、ツバキ。結構衝撃を感じたけどダメージはない」
恐らくはクエストイベントの一環。だが、これで確定した。彼女は―――。
『手古摺らせて。地上を飛び回ることしかできない羽虫風情が』
「それが貴様の本性か」
幾らイベントの一環とは言え、チナツを吹き飛ばされたチンクは内心穏やかではなく、クエストNPCを睨みつけながらその台詞を口にした。
『ククク。それがどうした? ご苦労であった羽虫共。おかげで、忌々しい妹の翼がようやくわが手に入ったわ』
「え!? 羽根が!!」
気が付くと彼女の目の前にはチナツが所持していたはずの羽根が光を放ちながら浮かんでいた。
その一枚の羽根から強力な風が渦巻き、その風にクエストNPCは包まれるのであった。
『クッ、あははッ――――――』
その風の渦はどんどん広がり、チナツ達は目を開けれないほどの強い風へとなっていく。
そして、一際強い風が吹き、ふと風がやんだ。
「なッ!?」
そして、その場に突如現れた存在に皆が息を飲んだ。
それは、美しかった。
そして、禍々しかった。
左右で形状が違いながらも、デザインに違和感を覚えない鎧。それを身に纏った巨大な女性型のモンスターが、漆黒の翼と純白の翼を羽ばたかせ此方を見つめていた。
【アァ、ヨうやく。手に入っタ。私にも光ガーーーッ!!】
「アンタ、今妹の翼って言ったよな、もしかして―――」
チナツはある仮説を立て、モンスターと化したNPCに向かって問いかける。
【アァ、そうダ。お前達ガ持ってきた翼は私ノ妹の者ダ。あの小娘ハ、私ニ消滅させられる間際、忌々しくモ結界のあるアノ遺跡に翼を隠しのダ】
「それって、自分の妹を殺したって事ッ!?」
「何て事をッ!」
NPCの言葉にシャルもセシリアも非難の声を上げた。
自分達にとってゲームであったとしても、NPC達にとってはこの世界こそが現実。加えてモッピーやユイ、ストレアのように人と何ら変わらない感情を持っているNPCを知っているからこそ、単なるゲーム中のイベントと流せなかったのだ。
【オ前達に何が分かル。生まれながらして、妹は光ヲ受ける天使として。私ハ闇を背負う堕天使。この惨めサが分かってたまるカッ!!!】
「それで、望み通り妹の力を取り込んで貴様は何がしたい!?」
ツバキが、武器を構えながらその問いを投げかける。すると、ボスモンスターとかしたNPC……《The Chaos angel》の手に巨大な剣が顕現する。
【復讐ダ。妹ニ光を与え、私に闇を押し付けルこの世界の全てニッ!!!】
ガンッと剣が床に突き刺さる。その衝撃と共に、《The Chaos angel》にHPバーが展開する。その数はまさしくクエストボスにふさわしかった。
「どう考えても、八つ当たりじゃないッ!!?」
「来るぞ、皆!! 戦闘開始だッ」
リンの叫びもむなしく、ボスモンスターとの戦いの火蓋が切って落とされるのであった。チナツは号令を発すると同時に、このパーティのリーダーとして各プレイヤーに指示を出す。
「シャルと、セシリアは後方から支援!! 序盤は防御系魔法を多めに頼む!!」
「お任せでしてよ!!」
「うん、皆が安心して戦えるように支援するね!!」
シャルとセシリアはチナツの指示で杖を構え―――。
「リンとチンクは側面から攻撃!! 武器の消耗はあまり考えるな!! いざと言う時は盾代わりに使え!!」
「まったく、無茶を言ってくれる!」
「武器壊れたら、もっといいのを調達するのに協力してもらうんだからねッ!!」
リンとチンクはボスの側面へと回り込み―――。
「んで、俺とツバキは!!」
「正面から相手を攪乱、だな!!」
「ああ!!」
チナツとツバキはボスの正面へと駆け出すのであった。
「行くぞ皆!! 皆で必ずクリアするんだッ!!」
「「「「「おうッ!!!」」」」」
同時刻、スヴァルトエリア。
キリトは仲間達との攻略の合間にステータス画面を開きアイテムの整理をしていた。だが、なんとなくフレンドリストを開きある個所で手を止めていたのであった。
「どうしたの、キリト君?」
そんな行動が気になり、近くにいたアスナがキリトに話掛けた。
「あぁ、いや。大したことじゃないんだ」
ただ、チナツと最近全然行動しないなぁ―――と、キリトは少し寂しそうに呟くのであった。年下とは言え、チナツはキリトにとって一番近しい年齢の仲間であった。それを知ってか、アスナは少し苦笑いを浮かべながら言う。
「仕方ないよ。せっかくギルドメンバーが増えたのに無理してスヴァルトエリアに来ても辛いだけだもん」
「すっかり、一端のギルドだよなぁ」
当然、上位ギルドであるシャムロックとは比べ物にならないくらい小規模だ。しかし、コンビ扱いであったSAO時代に比べれば全然違う。
「ちょっと寂しいけど、仕方ないのかもね」
もっとも、全く一緒に行動しなくなったという訳ではない。今度チンクやチナツと行動するときは目一杯一緒に楽しむつもりだ。
「というか、ストレアは一緒に行動しなくてよかったのか?」
「別にはぶられている訳じゃないよ~。けど、チナツとチンクもいるし、あんまり上位プレイヤーが混じっちゃうとツバキ達が育たないかな~って」
「なるほどな」
チンクとチナツはSAOのスキルを受け継いだ事もあり、上位ランカーであるキリト達に並ぶ実力者だ。
ツバキ達も大分このゲームに慣れてきたが、それでも発展途上だ。その成長を妨げるのをしないためだろう。
それにしても、とキリトは考える。今まで組んでいたプレイヤーが別のギルドに行く。そんなことはMMOではよくあるが、やはりデスゲームを共に駆け抜けた仲間は特別だ。寂しさを感じてしまう。
「(今度、チナツ達が好きそうなクエストでも見つけてみるかな)」
そこでキリトは思考を止めると、仲間達に声を掛ける。
「よし、皆。休憩終わりだ! 次のクエストはシャムロックよりも早く攻略するぞ!!」
キリトのその号令に、皆は一斉に返事をするのであった。
「ねぇ、本音」
「なに? かんちゃん~?」
「本音は思ったことがない? 実は今居るここは夢で、私達はまだアインクラッドに捕らわれているって」
「……かんちゃん」
「そして、本当の私はアークソフィアにいて、攻略組の一員となってチナツと一緒に前線で」
「かんちゃん、疲れているんだよ~。っていうか、それかんちゃんの妄想だ~♪」
「ふみゅぅ~」
「(あ、本格的に寝込んだ~。やっぱりお疲れだぁ~)」
この後、何故かヘリが来て家に帰った。