一夏がSAOを通じて得てしまった悪い所が浮き彫りになっている話です。
良くも悪くも影響を受けたの『悪い所』ですね。
ちょっと、暗い話になりますがウチの一夏君を嫌わないでもらえたら幸いですw
あ、モッピーはどうやら遠い所に遊びに行っているようで、しばらくお休みです。
本当に、どこ行ったんだろう?(すっとぼけ)
『こう言う風に言うと箒は怒るかもしれないけど、多分二人に出来る事は箒にはないと思う』
「なに?」
鈴の転入初日。一夏が鈴を押して彼女の部屋へと向かった後、箒は直葉に彼らの事を報告して相談をしていた。
告げ口みたいで少し気が引けたが、自分の交友関係でこの手の話を相談できる同年代の相手は彼女しかいなかった。
『だって私も、その子の気持ちよくわかるから』
直葉は語った。キリト……兄、桐ケ谷和人がSAOに捕らわれたばかりの頃の自分の気持ちを。当時彼女にとってVRMMOは兄を奪った憎悪の対象でしかなかった事を。
そんな経験をしている彼女だから分かるのだ、鈴の気持ちが。
『きっと箒が何を言っても、関係ないって突っぱねると思う』
「か、関係ないはずが!」
一夏の事で部外者扱いされてしまうのが気に入らなかったのか、思わず箒は言い返す。
『けど、その子にとってはそう。一緒にチナツ君……一夏君をお見舞いに行ったわけじゃないでしょ?』
「そ、それは……」
その言葉に箒は考える。自分からしてみれば知らずにどうしようもなかった事である。
だが、逆の立場からして見れば知った事ではないだろう。
もし、自分の姉との確執を碌に知らない誰かにその事を言われたら、自分もきっとそう思う。箒は一度冷静になって、そう考えていた。
「な、ならいざという時は千冬さんに任せる事しか……」
箒は悔しそうに、そう絞り出しながら言う。しかし、その言葉に直葉はまたも否定的な言葉を出した。
『難しいと思う。聞いた話だと、一夏君のお姉さんってアミュスフィアを買ってあげてたよね?』
「あ、あぁ」
『だったら、その子にとってはお姉さんも敵になってると思う』
「な!?」
なんだ? その無茶苦茶な理屈は? 箒はその言葉に絶句していた。
『だって、お姉さんのその行動はVRMMOを肯定する動きも同然だから。きっとその子にとってしてみれば裏切りの行為にも等しいと思う』
「い、いくらなんでも……」
『無茶苦茶だよね? けど、理屈じゃないの。感情的な話だから』
その気持ちはよく分かるから。そう直葉は言っていた。
『私だって最初はそうだった。お兄ちゃんを奪ったVRMMOは憎悪の対象でしかなかった』
それでも、彼女は知りたかった。兄が愛したVRMMOが何なのかを。だからこそ、当時発売されたばかりのアミュスフィアを購入してALOをプレイした。
そして、次第にその世界に惹かれていったのだ。
だが、鈴は違う。彼女は一度もVRMMOに歩み寄ろうとせずに今日まで来ている。
その思いはとてつもなく強いものだろう。
『たぶん、本当に解決できるとしたら、当事者の一夏君だけじゃないかな?』
「私は、何も出来ないのか?」
それは堪らなく悔しかった。自分の気持ちを救ってくれた一夏。彼のために何か自分に出来る事はないかと考えて直葉に電話したのに。そう思っている箒に直葉はある事を言う。
『そんな事ないよ、箒。今傍にいない私達には出来ない事。そして、傍にいる箒だからこそできる事があるよ』
「な、なんだ! それは!?」
『それはね?』
そして、話は次の日の放課後へと進んでいく。
織斑一夏はトレーニングルームで、なかば趣味となりかけた筋力トレーニングにいそしんでいた。
彼の意識上は間近に控えたクラス代表選に向けてではあったが、はっきり言って無駄な労力でしかなかった。
無論、ISを運用する上で基礎体力は重要である。しかし、クラス代表戦まで時間もない。彼が本当にすべきことは、最低限の基礎体力作りと与えられた専用機の特性、性質を一つでも多く理解して実戦で発揮できるようにする事である。
折角、専用機持ちという恵まれた環境にいるのだ。少しでも多くISの稼働の経験を積むべきなのだ。
だが、それが分かっていながら彼は一心不乱に筋トレをしていた。その方が余計な事を考えずに済むから。
元来、織斑一夏という存在は何かを考えながら行動するよりも、何も考えずに直感的に行動する人間である。
しかし、SAOでの日々が彼の変化をもたらした。浅い考えだけで行動した結果、自分だけでなく大切な仲間まで危険に晒してしまう事を知ったのだ。
だからこそ彼は考えることを重視して今まで過ごしてきた。まずは状況を理解して、その場で適切な判断をするように心がけてきたのだ。
だが、彼の本質が変わったわけではない。
それ故なのか、答えの見出せない問題に行き当たると彼は身動きが取れなくなる悪癖が出来てしまっていた。
「(俺はどうしたら良い)」
結局あの後、彼と鈴の話は平行線であった。いくら一夏が理解してもらおうと話しかけても、鈴はそれをずっと拒絶した。
だが、それは当然に思えた。
自分がSAOで、あの浮遊城・アインクラッドで仲間たちと泣いたり、笑ったり、苦しんだり、助け合ったり……様々な出来事を吐き重ねてきた間、鈴はずっと変化のない病室に通い続けていたのだ。
いや、正確には変化はあった。どんどん痩せ細っていく一夏がそこには居たのだ。
そんな彼女になんと言う?
『お前が毎日お見舞いに来ている間、俺は毎日色々な事があったぜ! だから心配すんな!』とでも言えというのか?
ふざけているにもほどがある。
だが、それでも、自分が彼女に対して行っている事はそういった事なのだ。
そんな彼らを見かねたのか、千冬はある提案をしてきた。
『どうだ? お互いクラス代表兼、IS操縦者なのだ。次のクラス代表戦で、互いの主張に白黒つけるのは?』
ようは、セシリアの時と同様、試合を通じて会話の切っ掛けを作れという配慮であった。
だが、鈴は違う……というか、そのままの意味で捉え方をしていたようであった。
彼女は去り際にこう言ったのだ。
『アタシが勝ったら、アミュスフィアぶっ壊すから。二度とVRMMOなんてさせないからね!』
その時から一夏の思考は袋小路に陥っていた。
何が正しいのか分からなくなってきたのだ。今回の試合はセシリアとの時とは似て非なる状況だ。
セシリアは知ろうとせずに、知りもしないで自分への偏見を持っていた。その偏見をなくしたくて、切っ掛けになると思って試合に挑んだ。
だけど、鈴は違う。彼女は、SAO被害者である自分の友人。それも毎日のように見舞いに来ていたのだ。彼女の心労を考えれば、広い定義では彼女だってSAO被害者なのだ。
いっそ、鈴の希望通りVRMMOと離れる事を選択する事が正しいのかもしれない。
だが、それでも……。
「(皆……『待ってる』って、メッセージくれたよな)」
待っている仲間を思えばその選択は出来ない。
一夏はそんな考えを払拭するかのように意味の薄い筋トレを続けていた。
そんな彼の様子を見つめる少女達がいた。言うまでもなく、セシリアと箒である。
「一夏さん……」
特にセシリアの罪悪感はひどかった。
なぁなぁで誤魔化そうとしてきた一夏が原因なのだが、今回の件の切っ掛けを作ってしまったと思い込み、彼女は申し訳なく思っていた。
一方箒は、今自分のできる事を考えていた。そして、昨晩の直葉の言葉を思い出していた。
『一夏君って、自分の事になると考え無しの癖に、仲間の事になると変に悩んだりする時があるの』
まさに今がそうだなぁ。そう箒は感じていた。
『だからね、そんな時は……』
そして、箒は続きとなる言葉を思い出しながらツカツカと一夏に近づき始めた。
「……箒?」
一夏も箒に気が付きトレーニングを中断して彼女の顔を見上げた。
だが、次の瞬間。
ぱぁん、と気持ちの良い音がトレーニングルームに響き渡っていた。
「無様だな、一夏」
「な!?」
「うじうじと悩んで見苦しいものだ」
「なんだと!?」
普段の一夏ならば、感情に任せて箒に詰め寄ったりなどしない。そうしないように努めていた。だが、今の一夏は鈴との事があり精神的なゆとりがなかった。
それ故なのか、急にそんな事を言いだす箒に詰め寄ったのだ。
むしろ、すぐに感情的になる今の一夏の姿こそが素の姿なのだ。
「私は当事者ではない。だからお前に今回の件で何か言う権利はないだろう」
「だったら、黙ってろよ! これは俺の!!」
「だが、今のお前の姿をあの人が……IS学園を去ったあの人は何と言うだろうな?」
「―――ッ!?」
それは、ほんの少しの間だけではあったが一夏にIS指導をしてくれたあの人。SAOに捕らわれた所為でIS学園を去らなくてはいけなかったあの人。
一夏は思い出していた、あの人が、SAOではミーナと呼ばれていた女性が去り際に自分に言ってくれた事を。
『忘れないで。あなたがいたから救われた人の存在を』
もし、今ここで鈴に言われるがままにVRMMOを捨てるという事は、自分の2年半を無駄であったと認める事につながる。
「そうか、そうだった」
そう、だからこそ自分は安易にあの世界での出来事を捨てる行為をすべきではない。仲間がALOで待っているというだけではない。
積み重ねてきた想いを、それを否定する行為は自分が絶対にしてはいけない事であったのだ。
けど、それでも……。
「戦えば、俺の気持ちは届くのかな?」
言葉では決して届かなかった自分の気持ち。試合を通じて届くかが彼は不安だった。何故なら、それが無理だったのであれば、それは彼女との決別を意味するのだから。
友人達との再会。それだってSAOにおいて攻略組最前線で頑張ってきた理由の一つだ。折角再会できたのに、決別なんて悲しすぎる。
「知らん」
「おい」
あっけらかんと答える箒に、一夏は思わずジト目で見つめた。
「だが、出来る事があるのに何もしないのは愚か者がする事だ」
「そう、だな」
自分に出来る全部をしてからでも、塞ぎ込むのは遅くはない。だって、今の彼はできるすべての事をしたとは言えないのだから。
一夏はその事に気が付くと、両手で思いっきり自分のほっぺを叩いて気合を入れた。
「サンキュ、箒。やっと目が覚めた」
「ふん。気にするな。同門がしょぼくれた姿が気に入らなかっただけだ」
「ひっで」
だが、そう言いながら苦笑いをする一夏には先ほどまでの影はなかった。悩みが消えた訳ではないが、さっきに比べると嘘の様に軽い。
「(情けないな)」
以前自分は彼女に言った。
『もし、またお前が間違ったら、俺が叱ってやる。お前が俯いたら、俺が手を伸ばす』
確かにこう言ったのに、これではまるであべこべだ。
「箒、お前……俺なんかよりずっと強いぜ」
「なんだ、いきなり。おだてても何も出んぞ?」
「はは。そっか!」
一夏は、徐に彼女の目を見つめていった。
「じゃぁ、ついでにISの特訓に付き合ってもらってもいいか? 出来る限りの事はしたい」
全部、自分の気持ちの全部を鈴にぶつけられる様になりたい。そう願いながら一夏は彼女へ助力を頼んだ。
「ふん、厳しくいくぞ」
「望むところ……「話は聞かせてもらいましたわ!!」って、セシリア!?」
漸く話がまとまりかけたのを見計らったのか、セシリアが一夏に詰め寄ってきて彼の手を握った。
「特訓とあらば、このセシリアが! イギリスの代表候補生であるこのセシリアもお付き合い致しますわ!!」
セシリアは、内心『あぁ、お付き合いだなんていい響きですわ』等と思いながらその言葉を口にしていた。
「きゅ、急になんだよ!? って言うか、政治家みたいな言い回しだな!?」
「遠慮なさらずに! 訓練機と違って使用時間を気にしないのは専用機持ちの特権でしてよ! それに……」
「?」
「結局私は、一夏さんにご迷惑をお掛けしてしまっていますし、出来る事はしたいのでしてよ……」
「あ~」
他人に罪悪感を感じて何かをしたいという気持ちは一夏も良くわかる。だからこそ一夏はその提案に乗る事にした。
「それじゃぁ、セシリアにも協力してもらおうかな?」
一夏がそう言うと、セシリアの表情は『ぱぁ』と明るくなった。
「で、では! さっそく訓練と参りましょう! 行きますわよ、一夏さん!」
「お、おい!?」
セシリアは、その勢いを殺すことなく強引に一夏の手を引っ張って歩いていく。乱暴に振り払う事が出来ないのか、一夏はされるがままについて行くしかなかった。
そんな彼らを見て、箒は直葉の言葉を思い出していた。
『思いっきり渇を入れてあげて! 一回引っ叩けば元気になるって仲間内では評判だったんだから!!』
一夏は壊れかけのテレビか何かか? 箒はその言葉を聞いて思っていたが、今は感謝していた。彼女の言葉を。
「(礼を言うぞ、直葉。それと……)」
「箒さん!? 何をしてますの! 置いていきますわよ!!」
「えぇい! 美味しい所を横取りして良く言う!」
「まぁ! なんて失礼な!?」
「事実だろう!? あと、いつまで一夏の手を握っている!?」
「なんで、ここで喧嘩をするんだよ、お前等!?」
いつの間にか、左右の腕をセシリアと箒が腕を組んでいた。更には自分を挟んで喧嘩まで始めて、一夏は困惑するしかなかった。
セシリアと言い合いつつも箒は、ある事を考えていた。
「(感謝する。未だ会った事のない、一夏の仲間達よ)」
そんな彼らを影から見つめる一人の少女がいた。その少女は扇を片手に持ち、口元を隠しながら彼らを見つめていた。
「ふ~ん、元気になってよかったわね。チ・ナ・ツ・君♪」
彼女は楽しげな声色を出しながらそう発言していた。
この少女の存在が何を意味するのかは、この時はまだ誰も分かっていなかった。
○俺的キャラ紹介
・織斑一夏
SAOでの生活は良くも悪くも人々に影響を与えていた。一夏に関していえば考え無しの行動が、自分だけでなく周りの仲間をも危険に晒すという事を学んだ。
それにより、考え無しの行動が減ったが、本来彼の気質は『考える前にまず行動』である。
そのため、一度思考のロジックに嵌ると抜け出せない悪癖が出来てしまっている。
周りからは、こう言った時は引っ叩けば治ると認識されていたりする。
シノン曰く『馴れない事するんじゃないわよ。馬鹿は馬鹿らしくさっさと動きなさい』との事である。
ふんふんふん♪ どうやら来たようね、私の出番が!!
ふふふ、やっぱりヒロインの早期登場は二次創作の特権よね♪
さてさて、妹ちゃんには申し訳ないけど、頑張っていくしかないわよね♪
と、いうわけで次回、『なぞの会長、その正体は!?』に、こうご期待!!
※タイトルは変更する可能性が1000%です
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