と、言い訳を考えていたのですが、無理があったのではっきり言います。
誤字です。投稿時間は五時じゃありません。(きっぱり)
「なんでナーヴギアがここにあるのよ!!」
鈴は部屋に飾られていたナーヴギアを見て、睨みつけるかのように一夏に詰め寄っていた。
「い、いやあれはだな……」
「なによ!? 何か言い訳でもあるの!?」
一夏は、鈴に押されるかのように壁へと後ずさりをする。鈴は、そんな一夏を追い詰めるかのように再度詰め寄った。
だが、背に壁が当たると一夏は観念したかのように苦し紛れに口を開いた。
「使ってない! 使うつもりも予定もないから!!」
「当たり前よ、使う気ならぶん殴ってるわよ!?」
その言葉に、内心一夏は焦る。≪ザ・シード≫の話し合いの際に使用していた事がばれたらまずいなぁと。
と言うか、箒の時の事を含むと、この手のやり取りは二度目である。
「落ち着け、鈴。その事に関しては私も目を光らせてある」
一方箒も、一夏が何か言いだしにくい理由があるのを察しているのか、彼に対して助け舟を出した。
「もう、箒がそう言うのなら信じるけど……なんでこんな物持っているのよ!」
「い、色々あるんだよ!」
「なによ、色々って!」
前回の時には箒が引き下がってくれた内容であったが、どうやら鈴にはそれが通用しないようであった。一夏は、誤魔化すかのように鈴の背中を押し始めながら会話を始めた。
「ほらほら。そんな事より、お前の荷物片付けるの手伝わないとな。幼馴染として、同室の子にも挨拶しないといけないしな!!」
「ちょっと、話はまだッ!」
しかし、ふと鈴は考える。『挨拶』ってなんだか結婚前の両親へのご挨拶を沸騰させるいい響きだなぁと。
「し、仕方ないわね! たっぷりこき使ってやるんだからね!」
尤も、鈴の荷物は大した量もなくすぐに終わってしまう量なのだが……。
それはともかく、ぐいぐいと鈴を押しながら部屋を出る一夏。そんな二人を見て箒は少しばかりの不安を感じていた。
先ほどの鈴のあの眼。あれは憎しみが込められていた。鈴が一夏を好いているのは目に見えて明らかだ。だが、そんな彼女が彼に対してそんな目をしていた事が箒は気になっていた。
中学時代という事は当然、一夏がSAOに捕らわれていた事も知っているだろうし、むしろ当時寝たきりの一夏を見てきたに違いない。
その事を考えると、箒は今後を考えてしまう。もし、彼女が一夏がアミュスフィアを持っていると知ったら、VRMMOを未だに続けようとしていると知ったらどんな反応をするのだろうかと。
「(……直葉の奴に相談してみるか)」
以前の事がきっかけで連絡先を交換して友人となった少女を思い出し、箒は通信機器へと手を伸ばしていた。
少しずつ、一夏と鈴の関係に少しづつ亀裂が入り始めている。箒はそう感じていた。
「は? 2組のクラス代表になった?」
「そ!」
次の日のお昼休み。一夏、箒、セシリア、鈴の4人は前日と同じように共に食事をしていた。
「たしか、2組のクラス代表は決まっていたはずでしたけど……」
「お前まさか、俺がクラス代表になってるって聞いて変に出しゃばったんじゃ……」
「そんなわけないでしょ!この馬鹿!」
そうは言われてもなぁと一夏は考えていた。その理由は鈴と親しくなったきっかけにあった。当時、中国から引っ越してきたばかりの頃の鈴は嘗められまいと強気で何事も取り組んでいた。だが、その結果周りから若干浮いてしまい、馬鹿な男子にターゲットにされていた。そんな時に彼女を助けたのが一夏であった。
早い話、惚れられたきっかけは大体箒と一緒であったという話である。
「けど、本当に出しゃばったんじゃないんだからね! 代表候補ならぜひって言われてなっただけだったんだから」
とは言え、今回は鈴の発言通りであった。一夏がクラス代表と聞いて自分もと若干感じていたがそれが原因でクラスの中で浮いてしまっては変に一夏を心配させるだけだと思ったからである。
「まぁ、それならいいけどさ」
「あんたの中で私はどんな問題児になっているのよ!」
「何言ってんだよ、中学上がったばかりの頃~」
「あ~!あ~!! 昔の話禁止!!」
二人で昔の話に盛り上がる中、セシリアと箒はモヤモヤとしていた。当然だ、いつの間にか自分達の事は眼中になく、二人だけの話で盛り上がっていたからだ。
二人は自分達も一夏と自分だけの話題を考えようとする。
「(……まずいな、剣道しか思いつかん)」
しかし、箒も一夏と過ごしたのは小学5年の頃まで。小学校での旅行イベントなどを行う前に転校してしまっていた。むしろその話題のテリトリーも鈴である。
一方セシリアに関しては、親しくなって本当に数日しか経っていない。流石に自分だけの話題など見つかるはずもなかった。
「(し、仕方ありませんわ!)」
だが、このまま鈴の独壇場を許すわけにはいかない。セシリアは、自分だけの話題を断念して自分も加われる話を考えた。
そして、思いついた。いや、思いついてしまった。
「そ、そう言えば一夏さん!」
「ん?」
その話題が。
「そう言えば私、あれからいろいろ調べているのですが」
消えかけていた火種に膨大な量の灯油を注ぐ行為になろうとは。
「VRゲームとはさまざまな種類が発売されているようですが、何をする予定ですの?」
セシリアは予想できないでいた。
「えッ!?」
「なッ!?」
その言葉に、一夏と箒は焦ったように声を出し。
「は?」
鈴は威圧するかのように低い声を出していた。
「え?」
そんな空気を感じたのか、セシリアは何かまたとんでもない発言をしてしまったのではないのかと焦っていた。
「……どういう意味」
だが、動き出した時計の針は止まらない。鈴は一夏に対して昨晩と同様に詰問するかのように問いかけていた。
「いや、そのなんだ……」
「どういう意味かって聞いてんのよ」
もう誤魔化しは通用しない。そう一夏は考えていた。一夏は別にVRMMOをする事にうしろめたさを感じた事は今まで一度もなかった。それはSAOでの日々を無駄だったと一度も思ったことがないからだ。
だが、それでも目の前の少女にその事を言うのは勇気が必要であった。友人の弾から聞いていたからだ。鈴は中国に引っ越すまでの間ほぼ毎日自分の見舞いに来ていた事を。
歩いていくには少しばかし遠い距離の病院に彼女は毎日会いに来てくれていたのだ。
千冬に対しては家族に対する甘えも少なからずあった。
しかし、鈴に対してはそう言った感情よりも申し訳なさの方が大きかった。自分がSAOにいる間、苦しい事、楽しい事があった時、彼女はずっと自分を心配して見舞いに来ていたのだ。負い目を感じないわけもなかった。
「そう、だな」
だが、それでも鈴も大切な友人には違いない。例え時間が掛かっても、今の自分にとって大切な者を理解してもらいたい気持ちは確かにあった。こうなっては仕方ない。鈴とちゃんと話して理解してもらえたら。そう思い、一夏は口を開いた。
「SAOの頃に出来た仲間がさ、今ALO、アルヴヘイム・オンラインってゲームもやってるんだ、だから俺もさ―――ッ!!!?」
だが、一夏の台詞はその全てを語られることはなかった。
最後の台詞を言いきる前に一夏はバチーンと思いっきり鈴に叩かれたのだ。
「ッ!?」
「一夏さん!?」
箒が息を飲み、セシリアが悲鳴を上げた。
そして、鈴は。
「ふざけんな……」
「鈴……ッ!?」
「ふっざけんじゃないわよ! この馬鹿一夏!!」
彼女は激昂するとそのまま勢いに任せて一夏の胸ぐらを掴む。
「私が、私があの2年半どんな気持ちで過ごしたか分かる! 一夏!?」
鈴は毎日見舞いを欠かしたことはなかった。学校の行事で病院の面会時間ギリギリになろうが、雨が土砂降りであろうが、強風の中であろうが、電車が動かなくて徒歩でしか行けない日であろうが、持ち前の根性で無理やりでも毎日通っていた。
だが、同時に毎日が怖かった。病院は千冬の計らいもあって大きな最新の設備が整っている所であった。そしてその分、SAO被害者も多く入院している場所でもあった。
必然的に、SAO内で死んでしまうプレイヤーの数も多かったのだ。病院に入った瞬間、誰かが亡くなったと聞いた時、鈴はいつも顔を青ざめて一夏の病室に掛け込んでいた。
そして彼の無事な姿を見る度に不謹慎ながらもホッとした。一夏じゃなくてよかったと。
だが、次の瞬間には恐怖した。次は一夏かもしれないと。それが来るのが、一秒後か、一時間後か、一日後か。
そう言った不安に押しつぶされそうな日は決まって面会時間ギリギリまで一夏の病室にいた。
今考えると、正直よく気が狂わなかったと思っているほどだ。
だからこそ鈴は許せない。例え安全だと太鼓判が押されていようとも、一夏なりの理由があったとしても、彼がすべての原因であるVRMMOを今もなおプレイしようとしている事は決して看過できない事であった。
「鈴、俺にはお前の気持ちは分からない」
それは一夏の純粋な想い。突き放しての考えではない。
自分がSAOで辛い事、楽しい事、様々な経験を積み重ねている間、病室でずっと寝たきりの自分に対して彼女がどんな思いを抱いたのかを理解しようなどおこがましいと感じているからだ。
「けど、俺だってあの世界で積み重ねてきた物があるんだ。だから、それをお前にも少しでも理解……」
「出来るわけないでしょ!? ふざけんじゃないわよ!!」
「そこまでにしろ、鈴!」
「そうですわ! 鈴さん、落ち着いてください!」
すでに周りも何事かと遠巻きにではあるが集まっていた。だが、セシリアも箒もそんな世間体が心配なのではない。あんなに嬉しそうに一夏と話していた鈴が彼に対してそんな目で詰め寄る姿をこれ以上見たくなかったのだ。
そして、一夏が辛そうな顔をするのも見たくなかった。
「うっさい! 部外者は引っ込んでなさい!!」
だが、鈴の言葉は拒絶であった。
そんな時だ。
「何を騒いでいる!!」
「お、織斑先生!?」
「千冬さん!?」
騒ぎを聞きつけ、千冬が食堂に姿を現した。騒ぎの中心に自らの弟の姿を見ると彼女はまたかと思う反面、やはりかとも感じていた。
「はぁ、まったく……」
若干頭に手を当て呆れたかのような素振りを見せると、彼女は一夏と鈴に対して次の事を言った。
「鳳と織斑は今から生徒指導室に来い。他の者はとっとと次の授業へと戻れ」
彼女が静かにそう言う。始めはなかなか動こうとしない周りの野次馬であったが千冬のひと睨みで少しずつ散っていった。
一方、一夏と鳳も渋々といった具合ではあったが生徒指導室に向かって歩き出していた。
しかし、なお動こうとしないセシリアと箒に千冬は溜息を吐いた。
「いいからお前達も教室に戻れ。二人の事は私に任せろ」
「で、ですが……」
「いいから行け。本当なら私がどうにかするべき内容だった」
国の代表候補生が鈴だったとは千冬も把握していなかった出来事であった。
なるべく情報収集はしていたのだが、彼女が調べた際には鈴は一度代表候補の話を蹴った時であったため運悪くその情報を知りえていなかったのだ。
気付いたのは、彼女の編入初日。幸いにも一夏と彼女が編入した日に生徒指導室である程度一夏と話をする事が出来ていたため二人の衝突は遅らせれると考えていた。
彼女は予測していたからだ。もしも、一夏が未だにVRMMOと関わりを持とうとしている事を知った時、鈴が反発することは。
それは、彼女がまだ日本にいた頃を思い出してみれば容易に予想のついた事だったからである。
「上手くやるさ。鳳の事も、満更知らない仲ではない」
もっとも、鈴は千冬の事が苦手であったが。
「その、織斑先生……」
「ん?」
セシリアは申し訳なさそうに頭を下げながら言った。
「今回の事は私が原因ですの。二人の事をよろしくお願いします」
まただ。また自分は一夏に迷惑をかけている。その事実が彼女に重くのしかかっていた。
「気にするな。遅かれ早かれこうなっていた」
そう千冬は微笑みながら安心させるかのようにセシリアの頭を撫でる。その行為がセシリアにはありがたかった。
「(やはり、姉弟なのだな)」
その千冬の姿を見ると、箒は以前の自分と一夏のやり取りを思い出していた。今はこの人を信じよう。素直にそう思っていた。
「よろしくお願いします」
箒もそう千冬に言うと、セシリアと共にその場を後にするのであった。
二人を教室に戻らせた後、千冬は内心頭を抱えながら二人の事を考えていた。
「(とは言え、私が解決するのは無理だろうな)」
出来るのはきっと、話が硬直してしまわないようにする事ぐらいである。そう千冬は考えていた。
自分がそうだった。VRMMOをしたいという一夏を反対したあの時、一夏は自分に対して2年半は無駄じゃない事を懸命に伝えようと諦めなかった。
だが、それも姉に対する甘えがあったのは事実だ。そして、千冬にも弟に対する甘さがあったのも事実であった。
鈴に対して一夏がどこまで積極的に動けるか、あるいは鈴が一夏をどこまで許せるか。
千冬はなるべく二人の関係が以前の様に戻れる方法を考えながら、二人がいるであろう生徒指導室へと歩いていった。
「(だが、結局はお前次第だぞ。一夏?)」
先ほどの弟の暗い顔を思い出しながらも、千冬はそんな事を考えてた。
「(とはいえ、以前以上の関係にしない様にしなくてはな。匙加減が難しいな)」
若干余計な思考も持っているようであった。
某、ゲーム内にて
「ツンツン、ツンツン」
「何をつついてるんだ、パープル・オーキッド?」
「ん~、なんか変なのがいる~」
「変なの? うわ!? 本当に変なのじゃねぇか!?」
「けど、何か見た事ある見た目~! ねぇねぇ、兄ちゃん! この子お持ち帰りしても良い!?」
「駄目だ、駄目だ! 明らかにブレイン・バーストの正規データじゃない。関わるな!」
「え~、兄ちゃんのケチ~」
すたすたと鋼のアバターは去っていった。
ぐぬぬ、モッピー変なのじゃないもん……。
モッピー知らないもん、ここどこなのかって事を(涙)