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あれからネルという少女のゲ……唾液の回復効果によって介抱され、そしてとある目的のためにわざと斬りかかるふりをし、再び袈裟斬りにされた。甘さを捨てろという助言を
だが予想通りと言うべきか、ドルドーニの背後の通路に一護たちが姿を消したあと、ドルドーニの目の前にニルフィが姿を現す。右手のさとうきびをはむはむと
「……ふむ、やはり
「気づいてた?」
「いや、まったく気配も感じられなかった。だがしかし、居るとは思っていた。恥ずかしいところを見せてしまったようだ」
「全然。かっこよかったと思うよ」
素直な賞賛を少女がする。なんだか褒められたのはおそろしく久しぶりなので、髭をしごきながら胸を張る。
「う、うむ。そうであろう。あ~、
「ーー? ごめんね、コレ一本だけしか無いの」
「吾輩としてはそれが褒美で……」
「え? あ、ごめん。もう燃やしちゃったよ。でもゴミの処理を進んで引き受けてくれるなんて、オジさんはやっぱり紳士だね!」
「う、うむ! そ、そうだ! 吾輩はなにも不埒な考えなどしておらんぞ!」
ドルドーニは後悔した。一瞬でも浮かんでしまった人として終わった思考が、ニルフィの純粋な賞賛の瞳によってズタボロにされていく。一護につけられた傷がかすり傷に思える程だった。これでは浄化されて死んでしまう。
そんなことを気にせずにニルフィが言った。
「止めようかなって思ったんだけど、オジさんがすごく楽しそうだったから」
「気遣い感謝する。おかげで、吾輩は十分満足できた。もう少し戦えればと思いはしたがね」
「でもオジさんはすごく頑張ったと思うよ。私だって最初、クロサキさんの初撃でやられちゃったと思ったんだもん。……けど、私がクロサキさんを追わないのは、私なりのオジさんへの誠意ってところかな」
「それは助かるものだ」
子供が不承不承にも納得するようにニルフィが一護の去っていった通路を見やる。
憎悪にも似た感情を乗せた少女の目は澱んでいたが、ドルドーニが一護を先に進ませたことをわざわざ汚すつもりもなく、この場では手を下さないつもりだ。ニルフィが本気で一護と戦いに行こうとすればドルドーニに止める手立てはない。だからこそ、感謝もしているのだが。
「でもさ。初対面なのにそこまで義理立てする必要はあるの?」
「彼は本気を見せてくれた。甘さは捨てきれないようだが、理由はそれだけで十分じゃないかね」
「ふぅん、私にはちょっと理解できないけど……。でもさっきからコソコソこっちを伺ってるキミたちが無粋なのはわかったよ」
少女の言葉に呼応するかのように、ブン、と
一糸乱れぬおよそ二十の足音を率いるのは、人型だが仮面は全く割れておらず、牛のような動物の頭蓋骨をそのまま象った仮面を着用している
先頭の牛の頭を持った男が恭しい態度で一礼する。
「お初にお目にかかります、ニルフィネス様。私の名はルドボーン・チェルートと申します。藍染様より
「初めて、ってワケでもないと思うよ。私が最初に
ルドボーンの背後のしゃれこうべたちは不気味な沈黙を保ったままだ。意思と呼べるものは希薄で、現れてからは静かに霊圧を発散している。
ドルドーニは己の折れた刀を手に、ニルフィを背に庇うようにして、一歩前に出た。
「……ようこそ、
「負傷した侵入者を追討せよとの命令です」
「誰のかね?」
「申せません」
「ここを通りたいかね?」
「貴方は剣も折れ、刀剣解放もままならぬ状態。だというのに、そのような御体で、我々と戦えるなどと思われるのですか」
仮面に覆われているせいでルドボーンの表情は見えない。しかし言っていることは痛いほど的を射たものだった。ドルドーニのコンディションは最悪と言ってもいい。限界以上に酷使した体で、間髪入れずに戦わなければならないのだから。
しかし一護を先に進ませるためには彼らの前に立ち塞がる腹積もりだ。
ドルドーニは歯をむき出しにして獰猛な笑みを浮かべ、欠けた刀を悠然と構える。
「
「ねえねえルドボーンさん。ちょっと聞いてもいいかなぁ?」
「はい。なんなりとお申し付けください」
「ちょっと待てーーい! いま我輩、イイこと言ったな!? それをぶった切ってスルーとはあんまりではないかねッ」
かっこいい散り際を麗しい少女に見せて満足の内に玉砕するつもりだった。しかし当の少女に気にかけられていないとは、これではあんまりではないか。
しかし、次にニルフィが言った言葉で思考が停止した。
「提案なんだけど、オジさんを私の
片眉を上げたドルドーニを見上げ、ニルフィは苦笑しながら肩をすくめる。苦笑というよりも皮肉げな笑みと表したほうがいいだろうか。何にせよ、とても似つかわしくない表情だった。
「ごめんね。オジさんの言いたいことだってわかってるし、どうしたらキミのためになるのか理解してる。ここは私が干渉せずにオジさんの好きにさせたほうがいいんだって。だけどね、それは私が望んでることじゃないんだ」
ここでドルドーニがニルフィの従者となれば、彼は『敗北』という名の罪によって処刑はされなくなるだろう。ルドボーンがどのような目的を持っていようと、正式に
「私のわがまま、聞いてくれる?」
これはきっと最初に出会った時の恩返しではない。恩を返したいのなら、本当はこんなことをしなかった。
「
「うん」
「ふむ……」
ドルドーニは目を閉じて深く息を吐いた。
「
「ごめんね、わがままで」
「知っておったさ。その点も含めて君の魅力なのだろう。麗しい姫君にこのような卑しい身を気にかけてもらえるなど、いやはや、光栄でしかない」
この場での足止めを放棄することに繋がるのをニルフィは理解している。もとから関係ないとはいえ、それをドルドーニ本人に求めたのだ。
だが、こう話している間にも一護は先に進んでいるだろうし、
肩の力を抜いたドルドーニに、ニルフィがほっと一息つく。
しかしそこに異議を唱えた者がいた。
「お言葉ですが、それは認められません」
「む、なぜかね。もしや吾輩が羨ましくてちょっとしたひがみを」
「ちがいます」
ルドボーンがおもむろに頭を横に振りながら言う。
「
ニルフィのドルドーニに対する支配権は無い。
だからといって、はいそうですかとニルフィは見捨てるような真似はしない。
「ねえ、キミは誰の命令でここに来てるの?」
「申せません」
「
「その通りです。我々は口止めされているゆえ、ニルフィネス様のお望みする解答はお教えできません」
普通ならば他の
ここでニルフィが関係のない用事を押し付ければルドボーンは了承するだろう。しかし先に命令された事柄に優先権があり、権威だけでは止められない。
ゆっくりと、確かめるようにニルフィが尋ねた。
「ーーねえ。なんでクロサキさんを追わないの?」
「…………」
「キミは最初、クロサキさんを追討するつもりで来たんだよね? でも今のキミはまるで、オジさんを殺すことだけを優先しているように見えるんだけど」
思えば、たしかにそうだ。さっさと侵入者を追うために行動を起こせばいい。ニルフィがいるせいで先行きが見えないドルドーニの処遇をここで決めるよりだったら後に回して、今は一護たちを追ったほうがはるかに効率的だった。
だが実際にルドボーンは、ドルドーニとニルフィのやり取りを律儀に待ち、そして未だに去ることはない。もはや一護たちが眼中にないかのようだ。
「それを確かめてどうなさるおつもりですか」
「抵抗、しようかなって思ってるよ」
「貴方をお連れするようにも言われております。こちらへ来ていただくことは……」
「
「吾輩も守られてばかりでは心苦しい。これで
「……左様でございますか」
ルドボーンの指が鳴らされる。すると沈黙を保っていたしゃれこうべ達が一斉に斬魄刀を抜く。鞘走りの音と共に、二十の刃にはドルドーニとニルフィが映ることとなる。そしてルドボーン自身も刀を手にした。
しかしいくら数が多いからといって、情けないことになるが、手負いのドルドーニは倒せてもニルフィには軽くあしらえてしまうだろう。それでもなお、この戦いは失敗することが分かっているだろうに、ルドボーンは引くつもりはないようだ。
ドルドーニは小さく呟く。
「なにを考えている?」
「ニルフィネス様の乱入は予期されていたことです。そして命令にも、できるのならば彼女の
そこでドルドーニは気づいた。
この場にいる、
「ニルフィネス様は先程からお気づきになられていたようですね」
「正直、予想以上かな」
ニルフィが静かにつぶやいた時だ。
このホールには出入り口となる穴がいくつもある。その全てから、それらは姿を現した。細部に至るまでまったく同じ容姿を持つ髑髏頭の集団。際限なくしゃれこうべが湧き出し、探知できる範囲内でもさらに増加中のようだった。髑髏の行進による足音が頑丈なはずの床を揺らした。
そこでルドボーンが逆手に持った自身の斬魄刀を突き出す。
「
刀剣解放。それによりルドボーンは、右半身が木の幹のようなもので覆われ、下半身が樹の根のように変化する。刀も尖った枝のようなものに変化し、さらに背中には左右対称に先端に髑髏がついた枝を生やす。
髑髏の実が落ちると、即座に
「私の力は、
だが、とルドボーンは牛の頭蓋のような仮面をドルドーニへと向け、くぼんだ眼窩の奥から静かに見据えた。
「傷を受け、地に堕ちた存在を埋めるには十分だと思いませんか?」
ルドボーンが朗々と語る間にも
これこそが『
そう、無限にだ。一度に創造できる数には限りがあれど、それを何度も繰り返せばいずれは軍となる。
「地に堕ちた者を助けるにはおのずと降りてくることになるでしょう。そうなれば我々の手の届くところともなるはずです」
危険だ、とドルドーニは思った。これはどう見ても、百や二百で済むような数ではないからだ。もはや三ケタを優に超えているように見える。ホールに姿を現さなくとも、鏡像のような彼らは出入り口を塞ぐようにして密集するほどだ。
一人一人は弱者であろうと、その膨大な数ゆえに侮ることができない者たち。
ルドボーンはこの城で唯一、数という凶器で相手を圧殺することが可能な存在だ。
「ニルフィネス様。いくら貴方といえど、手負いの者を守りながら……およそ三千の統制された軍をさばききれるのでしょうか?」
ーーーーーーーーーー
引率として行かせていたグリーゼが帰ってきたのはいい。けれどニルフィの姿が彼の近くにはなかったのだ。
「ニルフィはどこ行ったの?」
「……ついさっき出て行った。
「はあ!? 待機とかじゃないの?」
帰ってきてからすぐ出ていくとは、なんともせわしないことだ。
「……藍染は『自宮に戻ってから』、『平時と同じく行動しろ』としか言わなかったようだ。だからこの宮の床を踏んだ瞬間に霊圧を辿って出て行った。平時と同じく興味のあるところに勝手に行くとな。霊圧を辿るのなら迷いはしないだろう」
「あの変態紳士のトコに置いてくるわけですか? それじゃあニルフィが汚されちゃったらどうするのよ!」
「……戦闘
冷静に返しながらグリーゼはアネットの横を通り過ぎ、宮の中へと入ろうとした。
それをアネットが呼び止める。
「待ちなさい。迎えとかはいいのかしら」
「……ドルドーニが受けるだろう」
「あれ、ドルドーニが勝ったんですか」
「……すぐにやられなかったようだが、負けたようだ。死にはしなかったはずだろう」
ニルフィが途中で参戦したとは言っていない。であれば、あえて殺されなかったのか。侵入者はとことん甘いようだ。霊圧のざわめきは外壁周辺で未だに起こっており、
最も早く決着がついたのがたまたまドルドーニの場所だっただけだ。霊圧を探ればチルッチとガンテンバインが今も戦っている。どことなく懐かしい霊圧も紛れているのはどうしてだろう。
しかしそんなことは今のアネットには些細なことだ。
「なんだか最近すごい数が増えた
個々としては微弱ながら、水面の波紋が一点に集中するような感覚を
その中央に、なぜかニルフィとドルドーニの霊圧が紛れている。
「予定がだいぶ狂ってるわね」
「……違いない」
「勝手なことしてくれるじゃない」
「……予想の範囲内だ」
主語のないやり取り。それでも二人は問題なく会話し、これからどうするかを決める。
「あなたが大丈夫だって放置したのならアタシはなにも言わない。けど、これ以上予定が狂うことがあれば、アタシが行くわよ」
「……助太刀はいらないのか」
「もちろん。あなたは露払いだけしといて。ずっと前から決めてたことでしょ」
「……今なら選択を変えられる。考え直す気はないのか? 俺ならば案外簡単に……」
「いりませんよ。……ええ、いらないわ。アタシは、アタシのやることだけをこなす。物語が本当にあるのなら、他の登場人物なんてお呼びじゃありません。そのためにあなたの力が必要だから」
「……そうか」
これ以上の説得は無意味だと感じたのか、グリーゼは頷くだけで言葉を続けなかった。
そのまま背を見せるグリーゼに、最後、アネットが言う。
「アタシは、後悔なんてしないわよ」
一度足を止めただけで、グリーゼは返事を返すこともなく、上の階へと続く階段を登っていった。鞘もなく革ベルトだけで吊っただけの大剣の刃が鈍く光を反射した。
ゆっくりと息を吐いたアネットは、いま現在もっとも大きな渦中があるであろう方向を見やる。
「あとはあのお人好しちゃんがどこまで頑張るか、ですか」
伸びをし、自分も準備をするために宮の奥へと姿を消した。
その様は主人が軍に囲まれていることを脅威として認識していないようである。それは信頼なのか。あるいはどうでもいいのか。すべては二人の従者だけが知るところだ。
ーーーーーーーーーー
ニルフィはゆっくりと周囲を見回した。どこを見ても量産型のような髑髏頭が囲んでおり、抜け道といえばさきほど一護が去っていった場所だけだ。ほかの通路にはこれもまたホールにいる兵士を超える数が待機していた。なにかしらの罠があるのなら行かない方が賢いだろう。
しかし少女は無言。
奇怪な状況の中で、怯えることも警戒することもなく、その場に立っている。
かすかに重心を落としたニルフィをルドボーンが牽制する。
「忠告しておきますが、
部屋が崩壊すれば、ニルフィはともかく手負いのドルドーニは助からない。
そしてこの密集具合を考えて、光や幻影の
その状況からシュミレーション。
一斉に、取り囲んだ状態から襲いかかる。同士打ちを恐れない全方位突貫は、ニルフィが一部を防いでいるうちに、多方向からすべての刃がドルドーニを討つ。下手に攻勢に出ればニルフィの身さえ危ない。
そもそも
なるほど。ニルフィの長所のほとんどを潰してくるものだ。
それをドルドーニも悟ったのだろう。このままではニルフィを巻き込むことを彼はよしとしない。だから一歩、少女を庇うようにして踏み出した。
「
「ねえ、オジさん」
「なにかね」
ドルドーニを見上げたニルフィがにっこりと一言。
「早々とあきらめないでよ、ふにゃちんヤローが」
「…………。ーーッ!? ちょっとまてェーーーーい! なにかね、いまの下品な言葉は!?」
「え? 早々とあきらめるなってところ?」
「その後だ! 吾輩は、ふ、ふにゃチンなどでは無い! そして淑女がそんな言葉を使ってはいかんぞ!?」
「だって、グリムジョーが教えてくれたんだよ。気弱な相手に使う言葉だって」
「だからといってそんなもの……」
「それと、オジさんにだけ使えってさ」
「いつぞやの仕返しか! 恨むぞ
なぜドルドーニが拒否するのか分からずニルフィは首をかしげるが、自分たちを囲む兵士たちが踏み出したことで表情を引き締める。
「でもさ。私はもとから逃げるつもりなんてさらさらないよ」
身軽になるために、フードの中に入っている小袋をドルドーニに押し付けた。
「逃げるために力を使うことはもう終わり。だって、そのためにキミたちと戦って、修行してたんだから」
数でも戦略的にもすべて後手になっている。鬼道も限界がある。強力な技は余波だけでドルドーニを殺しかねない。普通に考えればこれは詰みだろう。
「ルドボーンさん」
「いかがなさいましたか。我々としても貴方と矛を交えることは控えたい。ゆえに、この場は
「あははは、そうだね。これは私も詰みだと思うよ。幻影も光も範囲攻撃もぜんぶ無駄になっちゃうし。キミの能力は創造主なんて自称できるくらいにはすごいよ」
けれど。
「キミは、正確に
「……と、言いますと?」
「天の存在だ。自分では届かない。そう言ってるけど、今の有利にすぎる状況なら、ひょっとしたらくらいには倒せるかも、なんて思ってるんじゃないの?」
ルドボーンは答えない。彼とはほとんど交流がなかったために、ニルフィは彼の内心を知ることはできなかった。たとえルドボーンが肯定していようと否定していようと、ニルフィにとってはもはや関係ない。
「オジさんはそこを動かないで」
「む、なぜかね」
「間違って首を跳ね飛ばしたら、笑い話にもならないからさ」
ほがらかでありながら物騒な物言いにドルドーニが押し黙る。
安心させるようにニルフィが柔らかな笑みを浮かべた。
「だいじょうぶだよ。無茶なんてしないし、正当防衛だって言い張ればいいからさ」
この作戦を考えた者は十分な用意をした。
しかし実質のところ、ニルフィのことを甘く見ていたのではないだろうか。忘れていたのか、あるいはこの数の暴力を相手には無意味だとハナから決めつけていたのか。
「じゃあ、いくよ?」
ニルフィが体を揺らめかせた。そしてトンッと軽くその場で跳ぶ。
仮に攻撃に移行するならばそれは隙となる。そうでなくとも圧倒的物量で潰すことに違いはないだろう。
それにいち早く気づいたルドボーンが一斉攻撃の合図をしようとする。その間、実に一秒未満。一対三千のある意味絶望的な戦いの
しかし、それは指を鳴らすのか、はたまた号令で始まるのか。
それをニルフィとドルドーニは知ることはなかった。
その時にはすでに、少女が戦いを終わらせていたから。
少女の体がブレた。それも一瞬のこと。同時に、遅れて鈍い音がいくつも重なり合い、空気が破裂したかのような衝撃が部屋に轟く。ゴシャッ、と。発生源は
ルドボーンを除いたホールにいた彼らは一人の例外もなくわずかに空中に浮いた。そして一斉に刀を落とし、つられるようにして床に崩れ落ちる。一瞬のあと、ホールを蹂躙するように乱気流が発生し、空虚な亡骸を端にまで積み重ねられた。
それはまるで手品のような出来事だった。
この場で立っているのはニルフィとドルドーニ、そして故意に残したルドボーンだ。
「ーーはい、終了」
同じ場所に立つ少女の声。ドルドーニとあえて残されたルドボーンが我に帰った。
「な、なにが……ッ!?」
待機させていた兵士を呼ぶのも忘れてルドボーンが周囲を見回す。彼の忠実な兵士たちは誰ひとりとして立ち上がることはなかった。それもそうだ。ついさっきまで存命していたものが、たったの一瞬で全員が首を含んだ急所を破壊されたのだから。
「まあ、これは完全に力技だけどね。幻惑、鬼道も含めた
「……まさか」
ルドボーンは今の今まで失念していたはずだ。
すなわち、
膨大な数との戦闘ではあまり役に立ちそうにない称号。しかしこの場のありえない現象は、その称号ひとつで説明できる。
ニルフィはただ、
ただそれが、わずか一瞬の間に満たないあいだに終わったことだ。その速度についていけなかった空気が乱気流となって荒れ狂うほど。
基本的な
ルドボーンとその背後の命令者は見誤っていた。ニルフィの速度は、常識で説明できるものではなくなっている。数による時間稼ぎは最初から望めなかったのだ。
「これは、凄まじいな……」
こころなしか顔を引きつらせているドルドーニが小さく呟いた。
それを聞くこともなく、ニルフィはルドボーンに尋ねる。
「まだやるつもりかな、キミは?」
このまま戦っても両者のどちらが生き残るかなど、誰の目にも明らかだろう。たとえあと千の兵を使われたところで、先の五百のものと同じ末路を辿る。
長所を本当の意味で潰されたのはルドボーンのほうだったのだ。
予期せぬ身内争いは、少女の勝利で幕を閉じた。
『作者のやってみたかったこと』
ーールドボーンさんが
公式でも無限に兵隊をつくれるって言ってたので、なにげにラスボス系能力持ってる人を活用してみました。でも速さには勝てなかったよ。
オリジナル技
ニルフィの異常な速さから派生した技。