とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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そして舞台は、北の戦場へ

「こんなものか」

 

 エイワスの足下には、一方通行が倒れていた。

 

 通常の人間ならば、間違いなく死んでいる出血量だった。しかし、彼は無意識に破れた血管から血管へとベクトル操作能力によってその血液を循環させることによって、自らの命をつないでいる。

 

 しかし、それだけだった。それ以上のことは、何もできない。

 

「思った以上にあっさりしていたな。この程度の成熟度ではヒューズ=カザキリにすら対応できまい。アレイスターめ、さては『今回も』焦っているのかな? ……垣根帝督の方も気になるしな」

 

 それだけ言うと、エイワスは踵を返して歩き出した。

 

 その場から消え失せたり、空を飛んだりしないことに違和感を覚える光景だった。

 

 その時。

 

 

 

 バキリ! とエイワスの体の中心が細かく砕けるような感触があった。

 

 

 

 エイワスの存在を司る、AIM拡散力場の集合体の結合にエラーが生じている。彼は一方通行を振り返った。

 

 その手には、ジャミング装置を兼ねた杖が握られている。

 

「確か……オマエは、学園都市中のAIM拡散力場を、利用して……現出してるン、だったな。だとしたら――」

「考えたな」

 

 エイワスが笑う。その間にも、その指先からザラザラとその形を失いつつあった。

 

 チョーカーの遠隔操作用の電波を遮断するためのジャミング装置。それを、ミサカネットワーク全体の電波へと設定し直したのだ。

 

 この周囲の空間はミサカネットワークの電波であるAIM拡散力場を遮断されるようになり、その結果、結晶の核を抜き取って元の塩水に戻すように、エイワスは崩壊を始めることとなった。

 

 だが、一方通行の足はガクガクと震えていた。

 

「理解しているか? それは君の命をつなぎとめるための命綱を、自ら切断するようなものだということに」

 

 彼がエイワスの攻撃で大けがを負いながらもそのような行動ができたのは、自らの能力で失血を抑えていたからに他ならない。ベクトル変換能力を封じてしまえば、その行き着く先はひとつだ。

 

「……うる、せェよ……」

 

 しかし、一方通行は震える唇を動かしてそう言った。

 

 ジャミングは、時間と共に強力になるように設定した。今ならまだ辛うじて立つことも可能だが、次第にそれもできなくなる。

 

 その前に、決着をつけなくては。

 

 彼は拳銃を抜いた。それは、天使だの悪魔だのといった得体のしれない力ではなく、人として振るう力だった。

 

 ――打ち止め(ラストオーダー)という1人の少女を救うためであれば、こんなところで命欲しさにひれ伏すことはない。そんな小物は『悪党』ではない。

 

「汝の欲するところを為せ。それが汝の法とならん」

 

 そう呟いたエイワスは、既に体が半透明に透けていた。その頭部に見えてきた三角柱、キーボードのように表面がガチャガチャと動いているその不可思議な物体に、拳銃の狙いが定められる。

 

「なるほど。ならば示してみたまえ、汝の法を」

 

 その直後。

 

 引き金が引かれ、乾いた音と共に、水晶が砕けるような音と、人が倒れる鈍い音が重なった。

 

 

 

 

 

 麦野は溶けた連絡通路から、浜面がいる下層の金網の床まで飛び降りてきた。靴底が金属音を叩き、その音が辺りに響き渡る。

 

「1回殺した程度じゃ足りない、ねぇ」

 

 彼女は、失った片腕の代わりに自らの能力で生み出した電子の腕を、バチバチと鳴らしながら歩く。

 

「足りないね。全然足りないよ」

 

 その電子の腕が、爆発的な閃光を放つ。しかし、その閃光が彼を貫くよりも先に、浜面が発砲した。

 

 それは麦野を狙ったものではない。彼女に銃口を向けて狙いを定めようとすれば、それよりも早く閃光が浜面の体を貫く。

 

 拳銃を握ったその手を、だらりと下げたまま引き金を引く。彼が狙ったのは、通路のところどころに置かれている中で、最も手近にあった消火器だった。弾丸に貫かれたそれは、ボバッ! と煙を吐き出して視界を奪った。

 

「ナメてんのかぁ、浜面!」

 

 煙の向こうにうっすらと見えるシルエットに向けて、彼女は原子崩し(メルトダウナー)を撃つ。

 

 だが、それは通路に積まれてあった段ボール箱に過ぎなかった。ダミーに気を取られている隙に、浜面は通路を飛び降りて先に進む。

 

「ハハッ、煙とダミーで逃走? どこの忍者だテメェは!」

 

 麦野もまた通路から飛び降りた。すると、そこにはテスト用の戦闘機が並んでいる。

 

 彼女はちらりと、戦闘機に装備されているミサイルやガトリング砲を見た。確かにこれらを使われれば、彼女でも多少はてこずるだろうが……

 

(流石にそれはないか)

 

 チンピラの浜面に、そんなものを操作する技量があるとは思えない。仮に何らかの偶然で操作できたとしても、この狭い空間で移動することができない以上、むしろ格好の的になる。

 

 彼女は、自分に余裕があることを確認すると、広いこの場所をぶらぶらと歩いた。

 

「どーこにいるのーかなー、はーまづらぁ」

 

 閃光のアームを揺らしながら、彼女は適当に歌う。

 

 その時。

 

 

 

「ここだ」

 

 と、不意に馬鹿正直な返事があった。

 

 

 

 すぐ近くだった。

 

 前回、彼女は不意打ちで拳銃を喰らっている。そのため、振り返ってその姿を確認するよりも先に『原子崩し』を放った。

 

 だがその直前に、彼女は見た。

 

 その先にあったのは、整備用のトラクターと、それに積まれた大量の爆弾だった。そして、その上には無線用のヘッドセットと、機体のメンテナンスに使用するための、無線のファイバースコープ。

 

 麦野がなにかを考えるよりも先に、その爆弾を中心に、周囲の爆弾やミサイル、航空燃料などが一斉に誘爆を起こした。

 

 当然、離れた場所にいる浜面も無事では済まなかった。現場からは500メートルほど離れた上で、小型トラックを盾にしていたものの、その膨大な爆風に体を叩かれた床を転げまわる。

 

「ぐああああああああっ!?」

 

 轟音に鼓膜が破れるかと思った。さらに、打ち付けた全身を痛みが浜面を襲った。

 

 だが、それ以上に滝壺のことが心配だった。彼女には一応駆動鎧(パワードスーツ)を渡してあるはずだが、それでも彼女が爆風を受けていないことを願った。

 

 浜面の中で幸いだったのは、一度敗北したはずの麦野が、それでも目の前の敵を隠したに見て油断していたということだった。恐らく、次はない。

 

 何はともあれ、今は滝壺が優先だ。彼は周囲が爆炎に包まれているその中を、彼女の名を呼びながら探し始める。

 

 その時、ガサリという音が聞こえた。

 

「滝壺?」

 

 しかし、

 

「はーまづらぁ」

 

 ゾッと全身から体温が消えた。煙の向こうから閃光のアームが伸びてくるのとほぼ同時に、浜面は思い切り身を捻った。だが、耳の方から嫌な音と匂いがまき散らされる。ジュウ、とフライパンで肉が良く焼けた時のような。

 

「うがぁあああああああああ!?」

 

 のたうち回る浜面を見下ろすように、麦野が現れる。

 

「この程度の量産兵器ごときで第四位が倒せるとでも思っていたのかな。浜面?」

「くそっ、くそくそくそ!」

 

 浜面はその手にある拳銃を構えて発砲する。

 

 しかし、その引き金が引かれる一瞬手前で、麦野の姿が消え失せた。『原子崩し』発射の反動を利用した移動だった。

 

 移動先は、浜面の視界の外。そして、その次は彼の背中だった。足の先端が突き刺さり、浜面は宙を数メートルほど吹き飛ばされる。倒された先は床……ではなく、その亀裂から地下空間へと落ちて行った。

 

 地面に背中から落ちたその瞬間、背骨に亀裂が入るような激痛が襲うが、悲鳴を上げる暇もなく放たれる閃光を避けることとなる。いくつもの床の破片を体に突き刺し、それでも浜面は身を捻って物陰に飛び込んだ。そして、その様子を見た麦野も亀裂から下層へと落ちてくる。

 

(ここは……?)

 

 物陰に隠れた浜面は、ようやく自分のいる場所を理解した。

 

 ここは、戦闘機の試験場だ。浜面が今いる場所はその中でも空気摩擦に関する耐久試験室であり、コックピットを模した模型だった。その周囲の壁には、送風機が入った突起物が壁一面に並べられていた。

 

「はーまづらぁ」

 

 その声に、再び浜面の体がビクリと震えた。

 

 彼は視線を動かして自分が脱出する出口の扉を見つける。しかし、そこまでたどり着くには距離があった。そこにたどり着くまでに、500回は打ち抜かれそうな気がした。

 

 だとすれば、ここで決着をつけるしかない。

 

 しかし、彼の手の中にあるのは小さな拳銃だけだった。相手は能力をロケットエンジンのようにして移動が可能である以上、さきほどの二百キロ爆弾よりも効果的な、逃げることが許されない範囲で防ぐこともできない攻撃をしなければなかない。

 

「ったく、それにしてもふざけた話だよね。アンタも迷惑だったかもしれないけどさ、こっちもこっちで大迷惑なんだっつの」

 

 麦野はカツコツと靴音を鳴らし、ゆっくりと話しながら浜面に近づいていった。その間に、浜面は周囲を見渡す。

 

 そして……一縷の希望を見つけた。

 

「なあ、浜面」

 

 しかし、ついに至近距離まで来た麦野は、こう言った。

 

 

 

「……どうして、ここまでひどい怪物になっちゃったのかな」

 

 

 くそ! と浜面は毒づいた。

 

 忘れてしまいそうになるが、麦野もまた超能力者(レベル5)という怪物である前に、1人の女の子であるのだ。そのことを、容赦なくつきつける一言はてきめんだった。 

 

「とか言ってほしかったか? はーまづらぁ」

 

 麦野の蹴りが、コックピットを回り込んで浜面の腹に直撃した。続けて、7発、8発と浜面の腹の中をかき乱してくる。

 

(俺の内臓、いったいどうなっちまった……? まだ、元の場所にあんのか……? 腹の中で、シャッフルされちまってんじゃねえだろうな……)

「おいおい黙んないでよ。優しくさすってやればもとに戻るのかにゃーん?」

 

 再び、容赦のない蹴りが浜面の腹に突き刺さった。

 

 冗談のように彼の体が吹き飛び、ゴミ箱へ入れられる紙屑のようにコックピットの模型の中に放り込まれた。

 

「溶けた鉄と一緒に冷やして固めて、面白オブジェに変えてやる」

 

 浜面は拳銃の引き金を引いた。弾丸は、麦野ではなく操作室のガラスを砕く。

 

 麦野の笑顔がより凶悪なものとなったが、浜面の狙いは最初からそっちであった。砕けたガラスの破片が操作盤の上に降り注ぎ、ボタンを適当に捜査してしまう。

 

 ゴウン、という鈍い音が辺りに響き渡ると、麦野が首を傾げて辺りを見渡すのとは対照に、浜面はすぐさまコックピットの中に入ってその風防(キャノピー)を閉ざした。

 

 何かに気が付いた麦野が、浜面の方へ振り返った。彼女の唇が動いたが、何を言っているのかは彼の耳には届けなかった。

 

 だが、麦野の瞳は泣き出す寸前の女の子のように揺らいでいるように見えた。

 

 

 

 直後。

 

 コックピットの周囲が、オレンジ色の爆風で埋め尽くされた。

 

 

 

 彼らがいた場所は、戦闘機の空気摩擦用の耐久試験室だ。その莫大な摩擦力を再現するため、大量の砂鉄を混ぜた暴風を使用することで、音速を超えた空気の摩擦を再現しているのであった。

 

 浜面は、コックピットの模型によって守られていた。

 

 麦野には、そんな守りはなかった。

 

 原子崩しの発射の反動を利用した、ロケットエンジンのような移動ですら逃れられない死の空間で、彼女の体が吹き飛ばされていくのを浜面は見た。その先でどうなったのかは、確認できなかった。強化ガラスの外側が、オレンジ色に染められてしまっていたからだ。

 

 勝利の愉悦などなかった。

 

 一刻も早く、この地獄が終わることだけを祈っていた。本当にこんな結末しか用意できなかったのか、そんな自問自答ばかりが頭の中で続いていた。

 

 やがて現象が収まると、浜面は風防を開けて外に出た。蒸し暑い空気の中を歩き始めると、どこからか少女の声が聞こえてきた。

 

「はまづら。はまづらっ!」

 

 二百キロ爆弾によって破壊された天井の穴から、滝壺が顔をのぞかせていた。浜面は彼女に向かって、大丈夫だ、と告げた。

 

 滝壺理后を選び、そのために麦野沈利を切り捨てた。

 

 その時、その場に4人の少女がなだれ込んできた。

 

「滝壺さん! 浜面!」

 

 最愛の声に、浜面は自分が無事であることを知らせるために、手を振って応じた。しかし、次の海鳥の声は緊張に包まれていた。

 

「いいか、すぐに移動するぞ! 飛行場なら都合がいい。適当に飛行機を奪うんだ!」

 

 何だって、と浜面が声を上げることすら許さずに、最愛は続けざまに叫んだ。

 

「学園都市の別働隊が、あなたの身柄を拘束するために超こちらへ向かっています。捕まれば命の保証は超できないような連中です!」

 

 訳が分からなかった。

 

 滝壺や霧丘のために動く、というならまだ分かる。しかし、なぜ単なるチンピラである浜面のためにそこまで大規模なことが起こるのだ? 

 

 だが、そんなことを考えている時間すらも今は惜しい。

 

「おい、逃げるっつっても、どこに逃げるんだ?」

 

 浜面の疑問はもっともだ。学園都市は、東京都の西部3分の1しかない、壁に囲まれた閉鎖空間である。潜伏しようにも、あくまで対立しているスキルアウトから一時的に逃れることができるような、小さな場所しか浜面は知らない。最愛たちも、潜伏する場所というのは、あくまでも暗部の仕事上対立した相手から、不利な状況に陥った時に、一時的に身を隠す程度なのである。

 

 しかし、そこで浜面の視線が近くにあるもので止まった。

 

「おい絹旗。学園都市の超音速旅客機には、自動操縦機能があったよな……」

 

 その言葉に頷いたのは、最愛ではなく海鳥だった。

 

「そういうことか。じゃあ、私たちが操縦マニュアルを探してみる。だが、着陸の面倒までは見れないぞ」

「そっちは考えない。パラシュートで途中下車するから問題ねえ!」

 

 全長80メートル近いその巨体に向かって、浜面は滝壺を連れて突き進む。爆弾の影響で斜めに落ちていた通路を伝い、ハッチを開いてその中に入り込んだ。

 

『浜面、聞こえていますか? そこの格納庫は超スクランブル用の離陸機能を有しています。平たく言えば、超上り坂の電磁カタパルトになっているんです』

 

 そのカタパルトの射出機構は、コックピット側とリンクしている。そのため、操縦用のコンピュータさえ起動できれば、あとは操縦画面をタッチするだけで自動的に射出されるらしい。

 

 マニュアルを確認しながら話す最愛の指示に従って浜面がボタンを押していくと、カタパルトへの移動が始まった。

 

 その時だった。地下格納庫の扉が大きく開かれると、そこから霧丘とフレンダが姿を現した。そして、その後に続いて、幾人もの黒服の男が姿を現す。どうやら、彼女たちは追手に後退を余儀なくされたらしい。

 

 しかし、黒服の男たちは動いている超音速旅客機を見ると、即座に行動を起こした。2人を足止めするだけの戦力を残すと、残りの人員で作業用トラクターを回し、カタパルトを封じるように努めたのだ。

 

 そして、黒服の男が下りたことで無人となったトラクターに、自動操縦の超音速旅客機はまっすぐに突き進んでしまう。フレンダが爆弾を一発食らわせたものの、トラクターの一部を破壊するにとどまっていた。

 

 このままでは、直撃する……。

 

 しかし次の瞬間、ズバァ! と莫大な閃光がトラクターを薙ぎ払った。そして、障害物がなくなった超音速旅客機は、電磁カタパルトの力を受けて大空へと飛び出す。

 

「麦野……」

 

 その閃光は、間違いなく彼女のものだった。

 

 彼女がなぜ浜面を助けるような真似をしたのかは、解らない。だが、彼女と再会するときがあることを、浜面は理解した。

 

 彼の腕の中には、全てをかけても守りたい1人の少女がいる。

 

 

 

 

 

 その様子を確認した最愛たち4人は、満身創痍の麦野が次の行動を始めるよりも早く、その場を後にした。

 

 さすがにすぐに追ってくる様子はない。だが、黒服の男たちもいるので、行動は早いに越したことはないのだ。

 

 案の定、しばらくすると正体不明の技術を有した連中が追いかけてくる。広大な飛行場を動き回るための車両(学園都市製)に乗っているのだが、それでも『走って』徐々に距離を詰めてきていた。

 

「あいつら、足に発条包帯(ハードテーピング)なんて不良品でも突っ込んでいるんじゃねえだろうな?」

 

 駆動鎧の身体強化を行う部分のみを取り出したようなものであり、身体の各所に貼り付けることで、運動機能を飛躍的に増強することが出来る代物だ。

 

 しかし、海鳥の言う通り、体に甚大な負担がかかるため、警備員(アンチスキル)の仕様運用からも落ちた欠陥品である。

 

「学園都市の超技術ですから、案外裏ではサクッと超解決されているのかもしれません。生み出されたのは、結構前のことですし」

 

 結構前、と最愛は言うが、実際のところ1年経過していない。学園都市の技術の進歩の前では、半年ほどたっていると、『裏』の社会では、技術的に『結構前』であったりするのだ。

 

「結局、これからどうするって訳よ? 行くあてはあるの?」

 

 フレンダが言った。

 

 彼女が懸念している通り、学園都市の中に逃げ場などない。だからこそ、浜面と滝壺は超音速旅客機によって『外』へと逃げたのだから。

 

 しかし、最愛は言った。

 

「ひとまず、学園都市の外に超出てしまいましょう」

 

 学園都市の中にいれば、いずれその居場所を割り出されてしまう。しかし、一度『外』へと出てしまえば、学園都市の組織の行動の自由度はかなり制限されるはずだ。

 

 外に出るとは言っても簡単ではないが……学園都市の『暗部』にいた彼女たちは知っている。

 

「学園都市には、輸出品を運ぶために『外』へとつながっている貨物列車があります。そこまで超移動しましょう」

「荷物の中に紛れ込んで出るってことか」

 

 途中にある別の車両を窒素爆槍(ボンバーランス)で切り裂き、海鳥が納得した声を上げる。

 

「ええ。ここまで派手に動いた以上は、この空港のカタパルトはここ以外、全て超抑えられていると考えるべきですから」

「そこまで、うまく移動することができれば、な」

「そこが、勝負って、訳よ!」

 

 とにかく、優先事項が決まった彼女は、一直線に貨物列車の線路へと向けて動き出す。

 

 その途中でも、連中の妨害は続くだろう。しかし、それでも彼女たちはあらゆる障害を乗り越える。その先にある勝利をつかみ取るために。

 

 

 

 誰に教えられなくても、自分の内から湧く感情に従って真っ直ぐに進もうとする者。

 

 過去に大きな過ちを犯し、その罪に苦悩しながらも正しい道を進もうとする者。

 

 誰にも選ばれず、資質らしいものを何一つ持っていなくても、たった一人の大切な者の為にヒーローになれる者。

 

 そして――1人の少年に憧れ、その少年に並び立つために突き進む者。

 

 全員が、ロシアという超大国へ集結する。

 

 そこは、世界で3度目に起きた、最大の戦争の最中であった。


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