とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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暗部の仕事風景

「ご苦労様。なかなかの活躍だったわよ、ヒーロー」

 

 結標淡希にそう声をかけられ、一方通行(アクセラレータ)は危うく拳銃の引き金を引くところだった。

 

 彼は彼女の能力である『座標移動(ムーブポイント)』によって、突入場所である空軍関係の兵器実験場の地下に戻ってきた。そこには、結標の他の土御門と海原も揃っていた。

 

「ひとつだけ気になることがある。クソッタレのテロリスト共が、上層部に何を要求していたかってトコだ」

 

 そう言った一方通行に、土御門がピクンと眉を上げた。

 

「……お前が暴れている間にこっちも調べてみようと思ったんだが、予想よりもガードが堅い。どうやら、上の連中にとってはとっぽど好ましくない内容だってことくらいしか分かってねえな」

「無能の言葉は期待しちゃいねえ。黙って人の話を聞いてろボンクラ」

 

 一方通行は吐き捨てると、改めて話を戻す。

 

 どうやら、彼は『フラフープ』内で元『迎電部隊(スパークシグナル)』を粛清している間に、彼らの叫び声の中からその『要求内容』を聞いていたらしい。

 

「――『ドラゴン』の情報を速やかに開示せよ。クソッタレのテロリスト共の要求は、どォやらそれだけだったらしい。俺たちは上層部の口車に乗せられて、みすみすその糸口を自ら潰してしまったというわけだ」

 

 そんな訳で。

 

 彼らは自分たちの仕事の結果に、大きな不満を抱えた状態で、報告することとなった。

 

『そうか』

 

 キャンピングカーのスクリーンに映し出されているのは、統括理事会の重鎮の1人、潮岸だった。

 

『まあ、「フラフープ」の方も大きな被害もなく解決することができたようでなにより。……というか、転送してもらった交戦記録のレポートを見たが、君たちは相変わらずとんでもないスペックだなあ』

 

 半ばあきれたような口調でそう言うが、一方通行たちにとっては、お前だけにはそんなことを言われたくない、と珍しく全員の意見を一致させていた。なぜなら、そのスクリーンに映し出されている潮岸の姿は、タキシードの似合う柔和な老人などではないからだ。

 

 いや、中身はそうなのかもしれないが、少なくとも外見は違っていた。

 

 駆動鎧(パワードスーツ)

 

『気になるかね』

 

 彼は4人の向ける奇異な視線に対しても、不快感は抱いていないようだった。

 

『ちょっと考えてみれば分かるのだがね、人間を死に至らしめる要因などこの世界には溢れかえっているよ。よく人は「こんなことになるなんて」「恨まれるような人じゃありませんでした」なんてことを言うが……とんでもない』

 

 ようするに、人は誰に恨まれていて、いつ、どんな攻撃を受けるのか分かったものではないから、常に気を張っているのだということだ。

 

『今も、この部屋の内側に爆弾を放り込まれないかビクビクしているところだ』

「……同じ統括理事会でも、親船さんとは大分違う印象ですね」

 

 海原が言った。

 

 彼女は潮岸とは対照的に、まず人を信じることから始め、融和や協調によって事を進めようとする、腹黒い権力者の集まりである統括理事会の中では珍しい人物であるのだが。

 

『いいや、親船クンのあれも一種の防衛機構だよ』

 

 いわば、日本の自衛隊のように『自分は他に攻め入るための戦力を持っていない』というアピールをすることで、逆に他者から攻め込まれる口実を封じるという方法なのだ。

 

 しかし、潮岸の話は次第に自分の駆動鎧に対するこだわりについての話に移り変わり始めたので、みかねた土御門が彼の話を遮った。

 

「わざわざこちらにコンタクトを求めてきたのは、交戦記録のレポートを提出させるためだけではないのでは? それなら『電話の声』を経由した方が手っ取り早いはずだ」

『薄々勘付いているとは思うが、今回は君たちを指揮する「エージェント」には席を外してもらっているよ。学園都市で起きている事件は一つではないからね』

 

 不穏な言葉が聞こえた気がする。

 

「……何かが立て続けに起こっていると?」

 

 かつて、学園都市の独立記念日に起きた『グループ』『スクール』『アイテム』『メンバー』『ブロック』という5つの組織が繰り広げた死闘を思い出し、土御門が改めて質問した。

 

 しかし、潮岸は駆動鎧の首を横に振った。

 

『そんな深刻なことではないよ。ようは、残党を叩いてほしいというだけだ。「フラフープ」を襲った元「迎電部隊(スパークシグナル)」の仲間が、まだ学園都市内に潜んでいるようでね。放っておくと、おかしな第二プランを考案しかねない」

 

 あれを乗り切った君たちなら、あっさり対処できるレベルだと思う、と潮岸は言って、通話を切ろうとしたので、一方通行が言った。

 

「……『ドラゴン』って言葉に聞き覚えはあるか?」

『有名な単語だね。テレビゲームのタイトルに、世界に誇るべきものがあったはずだけど』

 

 チッ、と彼は舌打ちした。

 

 ここで万が一「知らない」とでも答えてくれれば、そこから切り崩すこともできたのであるが、機を失った。

 

 潮岸は鋼鉄の両手のひらをパンパンと打ち鳴らして、こんなことを言う。

 

『君たちだって学生なんだからさ。こんなつまらないことはさっさと済ませて、君たちなりの日々へと帰りたまえ』

 

 

 

 

 

 今夜は滝壺理后の退院祝いだ。

 

 急きょその準備に追われる羽目になったのは、浜面仕上、フレンダ、絹旗最愛、黒夜海鳥、霧丘愛深である。

 

 そんなわけで、彼ら4人は第七学区にある繁華街でジョークグッズなどを買い込んでいたのだが、

 

「……おい、訳分かんねえぞ。なんでいつの間にか俺たちは映画館にいるんだそしてこの映画館は上映2分前でも俺たち2人しかいないんだ黒夜とフレンダはどうしたんだ」

「ショートフィルム専門ですから超大丈夫です10分間の映像作品と5分間の休憩を延々と超繰り返す奴です計算なら2本は見ても滝壺さんとの合流時間に超間に合うはず黒夜とフレンダは近くのファンシーショップでぬいぐるみを見て時間を潰しています」

 

 最愛の趣味はB級C級映画なのである。本当は駿斗と来たかったのであるが、彼は最近非常に忙しい様子であるので、誘っても断られたことに不満があるのは、彼女だけの秘密だ(海鳥にはばれているが)。

 

「ぐわーダメです。たった今上映が始まったこの作品ですけど、開始2分でもうクソ映画の雰囲気が……」

 

 そんなことを言う最愛に、げんなりとする浜面。

 

 しかし、最愛曰く、彼女が求めているものは、初めから馬鹿馬鹿しいものを作るつもりで撮ったC級映画ではなく、本気でハリウッドと戦うつもりでつくったものが、いろいろあってC級映画となってしまった『天然モノ』であるらしい。

 

「俺は近未来系の話なのにヒロインが何の説明もなく中世っぽいドレスを着ているのは『そういう世界観』として納得できるんだが……真冬の物語のはずなのに、撮影時期が夏だったせいか、みんな妙に汗だくな所については、気になって仕方ねえんだよ」

「浜面、画面の左端の方を見てください。海岸の対岸に火力発電所の煙突らしきものが超見えるのですが……」

「マジかよ。今まで頑張って作ってきた、SFっぽい雰囲気が一発で台無しに……ッ!? たまに、撮影中に飛行機が飛んできてNGに……なんて話は聞くが、建物に関しちゃ下見をすれば一発で分かるもんだろうがよ……ッ!?」

 

 特に映画にこだわりがあるわけでもない浜面すらも、頭を抱えてしまうほどの出来だった。

 

 最愛はそのままトイレへと行ってしまい、この駄作C級映画を見続けるのは浜面1人となってしまう。

 

 しかし、そのタイミングで彼は気が付いた。

 

(……あれ? このお嬢さまの後ろの壁に張ってある地図。火星のクレーターと山脈マップ?)

 

 どうして普通の世界地図じゃないんだ、と考えて彼は、そして理解し、電撃に撃たれたかのような衝撃に襲われた。

 

(これ、真冬の物語って言っても『地球の』ものじゃなかったんだ! 実はそういうフリしていたけど、異様に発展していた火星における、現代IF世界の話だったんだ!)

 

 そうなれば、キャストが暑そうにしているのも、煙突が画面に映っていることも、テラフォーミングの仕様次第では、不自然であると断言はできなくなる。

 

 そして、後半5分で一気にめくるめく物語。前半のつまらなさすらも、乾ききった喉に水を与えるために、監督が意図してくすんだ時間を与えたものだったのだ。まさに、ショートフィルムだからこそ使える作戦だった。

 

(うわーっ、うわっー! なにこれ、C級なんかじゃねえ。こいつら100%ハリウッドを叩き潰す気でカメラ回してやがる! おいふざけんな、これ10分間の作品だろ。おざなりな三部作どころの世界じゃねえぞ! どんだけ密度高くしてなおかつそれに気づかせないつくりしてやがるんだーっ!)

 

 そうかそうだよ、こういう新人発掘が低予算のショートフィルムをたくさん上映する意義だよなー、と人生の経験値をたっぷり積んで笑顔が止まらない浜面だったのだが……。

 

 ふと、ゾクリとした悪寒を感じ取って、彼は振り向いた。

 

 そこでは、無類の映画好き少女が、ショックで言葉にならない絶叫を上げていた。

 

 そんな頃、2人でファンシーショップで大小のイルカのぬいぐるみと戯れていた2人であったが、そんな時霧丘の携帯が軽快な着信音を鳴らした。

 

 海鳥は、怪訝な表情で短く問いを発した。

 

「……『仕事』か?」

「うん」

 

 それだけ言葉を交わすと、霧丘は携帯電話に応答する。

 

 会話を終えた彼女は、いつも通りのんびりとした様子でそれをポケットにしまった。

 

「テロリスト、だって。じゃあ、もう行くね」

「……分かった。パーティーの準備は、こっちで進めておく」

 

 

 

 

 

「……そんな訳で、秘密の集合場所に、行ってきたけど。5分でいやになって、戻ってきた」

「お前がか!? よっぽどだな!?」

 

 一度霧丘と別れた後に、浜面及び最愛と合流した海鳥であったが、3人が病院へのんびりと移動している間に、彼女とフレンダが追いついてきたのである。

 

 住民の8割が学生である学園都市では、完全下校時刻が過ぎればあまり時間が経たずに、終電・終バスの時間となってしまう。そのため、彼らは徒歩での移動を余儀なくされていたのだ。

 

「おい、一体何があったんだ。確か新チーム作ってテロリストたちと戦うって話じゃなかったのかよ」

「うん。こんな感じ」

 

 霧丘はそう言うと、自分の経験してきた一部始終を語り始める。

 

 

 

 

 

 薄暗い地下空間にやってきた霧丘は、そこで待っていた複数の顔を見渡す。常に冷静な表情をしているクールビューティーな彼女であるが、珍しく眉をひそめながら、タイミング良くなった携帯電話越しにこんな声を聞いた。

 

『や―ご苦労さん。この間の戦いで「アイテム」「スクール」「ブロック」「メンバー」って壊滅したよね、こいつときたら☆ そいつらの残存勢力集めて新チーム作るから、昔殺し合ったお仲間同士仲良くしてねー』

 

 

 

 

 

「おい待てちょっと待てダウトだろ今の! 思い出話の一番最初から変なものが混じってなかったか!?」

「私も、冗談だと、思っていたけど。でも、マジみたいだったから。逃げ帰ってきた。『心理定規(メジャーハート)』の子が、浜面によろしくって」

 

 その言葉に、嫌な顔をする浜面。

 

 どうやら、その能力を一度使用されたことで、彼女のことがかなり苦手になってしまったらしい。

 

「でもお前ら、大丈夫なのか? 『電話』の声の連中ってけっこうな権限持ってそうだけど。オーダーぶっちぎっても平気なのかよ」

「ダメだろうねー。だから、ちょっと手伝って欲しい訳よ」

 

 フレンダはそう言うと、彼を引き連れて勝手に歩き始めた。

 

「お、おい、どこに行くんだよ」

「はあ、まったく浜面は超察しが悪いですね」

 

 最愛がそう言うと、海鳥が適当な調子で説明を付け加えた。

 

「ようするに、新しい『仕事』があるから仲間を協力してやれって話なんだろ。つまり、先にその『仕事』を終わらせてさえしまえば、チームは必要なくなるって訳だ」

 

 結果さえ出せば、『裏』の連中はそれだけで満足するだろうからな、と言う。

 

「えっと、つまり……」

「浜面は、車を用意! このまま、『迎電部隊』の連中をぷちっと潰しに行くって訳よ。滝壺も待たせたくないから、結局、さっさと済ませちゃったほうがいいだろうしね」

「待てコラ。お前らついさっき、俺はもう『アイテム』に従う必要はないみたいな雰囲気になっていたんじゃなかったっけ?」

 

 浜面がそう言うと、2人の鋭い視線が彼を射抜いた。

 

「じゃあ、浜面はか弱い女の子が戦地にいくのを放っておいて、勝手に滝壺のところに行けば良い訳よ」

「……多分、滝壺はいつまでたっても来ない私たちを不審がるだろうけど。勝手にみんなで楽しんでいれば?」

「ちくしょう! せっかくの退院祝いだっつーのに、そういうところでしこりを残すような真似するかお前ら!?」

 

 結局、彼は路上駐車されているファミリーカーの元へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 一方通行たち『グループ』の4人を乗せたキャンピングカーは、セレブ達の集まる第三学区へとやってきた。その中にあるスクリーンには、これからの『仕事相手』である『迎電部隊』の情報が映し出されている。

 

 残党の数は20人。その人数分の、サブマシンガンとグレネードが用意されているらしい。

 

 しかし、そんな戦力でも彼らの取っては『簡単な仕事』でしかなかった。

 

「こいつらの仕事は、主に『フラフープ』でことを起こした連中のサポートだったみたいだしな」

「殺すのは簡単だがよ」

 

 一方通行は簡易ベッドに腰掛けたまま、ジロリと土御門を睨みつけた。

 

「このままクソッタレの統括理事会共の命令を素直に聞くだけかよ。立ち回り方によっては『ドラゴン』の片鱗に迫るチャンスかもしンねェってのに」

 

 しかし、彼らに元『迎電部隊』と共闘するという選択肢はない。赤の他人である一般人を巻き込むことは、それぞれ『守りたい人』を抱えている彼らの信条に反するからだ。

 

 そのことを土御門に指摘された一方通行は舌打ちした。

 

 戦略兵器として扱われ、時として爆撃機から投下されるほどの極悪な超能力者(レベル5)であるが、ある少女が平和に暮らす世界に被害が及ぶことを、極力嫌う傾向がある。そして、その範囲は彼女に直接的でなくても、『平和な表の世界』に支障が出ると判断すれば、絶対に防ぎに行くのだ。

 

 一方通行が黙ると、今度は結標が口を開いた。

 

「その元『迎電部隊』の残党っていうのは、一体どこに潜伏しているのよ」

「駅の真下にある地下街を移動中。すでに閉店して人はいない。わざわざそんなところを通っているのを見ると、セキュリティを突破することをそれほど労力と思っていないらしいな」

 

 大半の繁華街は夜遅くまでやっている。しかし反対に、この街では駅に関する施設は、大半が終電と同じように、完全下校時刻に合わせて早くから店じまいをする。これもまた、学生が多い学園都市の特徴であった。

 

 土御門は、リモコンを操作するとスクリーンに地下街の見取り図を示す。

 

「連中は地下街を移動して別のところに止めてある車まで移動し、そこから次の行動に移ろうとしているらしい。単純な逃走なのか、より高威力の兵器を携えて第二プランに移ろうとしているのかは定かではないがな」

 

 海原が、土御門に『逃走車両』の場所を質問すると、彼はキャンピングカーの壁の方を指さした。

 

「そこ」

「……はい?」

「運転手にゃ先回りするように指示してある」

 

 まずは、車を先に潰す。

 

 そして、そこにアンカーを1人残して、他の3人で地下街を一掃する。

 

「なぁに、結標の『座標移動』でピンポイント狙撃して、混乱する元迎電部隊どもを俺と海原で1人ずつぶち抜いて行けば、手早く終わらせられるだろう」

 

 唯一名前を出されなかった一方通行は、ピクンと肩を動かした。彼に睨まれた土御門は、薄笑いを浮かべながら自分の首筋を軽く叩く。電極のバッテリーは温存しておけ、ということだった。

 

 特に従う義理はないが、自ら進んで協力する必要も感じなかった。バカが勝手に雑用を済ませてくれるというなら、放っておけばよいだろうと一方通行は判断する。

 

 キャンピングカーが動きを止めると、土御門はそのドアに手をかけた。

 

「さて行くか。ありきたりな殺し合いだ」

 

 

 

 

 

 元迎電部隊がいるエリアは、すでに閉店していて人はいなかった。様々な有名スポーツブランドが多数取り揃えられている場所でいて、その手の品物が好きな人には眉唾物なのかもしれないが、解らない人には、なぜそこまでの値段がつけられているのか分からない、そんな価値観で埋め尽くされている場所であった。

 

 そんな中で、土御門と海原が潜んでいた。

 

「(……片手で使える軽量サブマシンガンに、わざわざ重たいグレネードを取り付けて、台無しにしているな。予想よりも簡単そうで、何よりだ)」

「(……一応、密閉された空間でグレネードを使われる危険性について考慮してあげるべきでは?)」

 

 2人は標的を確認すると、携帯電話で結標に連絡を入れた。

 

 そして、通話を切ってから5秒後。

 

 

 

 トンッ、と。

 

 ほとんど音もなく、武装した者たちの内の1人の肩を、コルク抜きが貫いた。

 

 

 

 本来、三次元を無視する空間移動(テレポート)系の能力である『座標移動』には音など発生しない。しかし、物体の移動先にある人肉が押し広げられたことにより、このような音が生じたのだろう。

 

 絶叫が響いた。

 

 何が起きたのかもわからないまま、次々とコルク抜きが彼らに突き刺さっていく。そして、前後左右にいた男たちが、一斉に絶叫と共に倒れた。そのことによって、彼らはどちらの方へ逃げればよいのか、その判断に迷い、棒立ちの状態になる。

 

 混乱による硬直時間は、約2、3秒。

 

 だが、土御門と海原はそれを逃さない。

 

「行くぞ」

 

 土御門の合図とともに、2人も彼らの前に躍り出ると拳銃を構えて発砲する。すると、銃声という分かりやすいものに反応したのか、倒れる仲間を尻目に残る標的が一斉にサブマシンガンを使って2人に反撃を始めた。

 

 徐々に後退していくが、しかし正面からは土御門と海原の銃撃、そして結標の『座標移動』によって次々と敵を倒していく。

 

 だが、その数が半分までに減った時だった。

 

「(……まずい、グレネードだ!)」

 

 サブマシンガンの引き金のすぐ近くに、その引き金があった。しかも、彼らは投擲手が狙われないように、残り10人が一斉に息を合わせてその矛先を土御門たちにむけたのだ。

 

「(……跳べ!)」

 

 土御門はそう叫ぶと、通路横にあるウインドウを叩き割ってその中に飛び込んだ。

 

 しかし、海原は壁際にある防火シャッターのボタンを押すことを選んだ。彼の考え通り、爆発によって生じた爆風はそれに阻まれ、彼の体を傷つけることはなかった。

 

「馬鹿野郎!」

 

 だが、土御門は声を上げた。

 

 シャッターは自分を守る防壁になると同時に、彼らを狙うための射線を妨げる障害物にもなるのだ。そして、純粋な火力では、サブマシンガンとグレネードで装備している元迎電部隊の方が高い。

 

 彼らは、窓の割れた店内を迂回することで、シャッターの向こう側へ再び戻ろうとする。しかし、彼らがたどり着くよりも先に、ドバ! と爆音が発生した。

 

 それは、2人を攻撃するために放たれたものではない。

 

 慌てて土御門が確認すると、先ほどまで元迎電部隊がいた場所には、天井に大きな穴が開けられていた。崩れ落ちた瓦礫が階段のように積み上げられていて、地上までのルートを完成させてしまっている。

 

 まんまと逃げられてしまった。


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