とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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紙の巨人

 この時間にバッキンガム宮殿に退避していた人々の内、民間出身の人員はこれで全員であるらしい。彼らは本当に、魔術にも科学にも詳しくない、一般の人々なのだった。

 

「アンタたちは、これが終わったら俺たちと一緒にロンドンを脱出する……ってことで、良いんだよな?」

「はい。本来ならヴィリアン様のお手を煩わせることなく、我々だけで地下鉄のトンネルに細工を施せれば良かったのですが……民間出身の我々だけでは魔術とやらの不可思議現象の仕組みも分かりかねますし、『王室派』特有の機密情報にも詳しくありませんので、危険を承知で、こうしてご協力願おうという訳です」

 

 そうか、と当麻は頷いた。

 

(だったら、こんなつまんない仕事はさっさと終わらせて、早く安全な所へ連れて行ってやらないとな)

 

 そんなことを考えると、当麻は目的地である、バッキンガム宮殿とは反対方向のトンネルに足を向けた。目的地は、ほんの数十メートル進んだところにあるらしい。

 

 20人規模の大所帯でありながら、しかし『騎士派』に見つかることは許されないという状況の中。彼らは、息を潜めながらそこへ足を進めた。

 

 ヴィリアンは不安そうな面持ちで、周囲へキョロキョロと目をやっている。

 

「この辺りにあるのは間違いないのですけれど」

「分かるのか?」

「いえ、ええと……そのはず、なんですけれど」

 

 当麻が尋ね返すと、ヴィリアンはますます弱々しい口調になってしまった。すると、そこでインデックスが口を挟む。

 

「この辺り、あらかじめ魔力を利用したマーキングが施されているよ」

 

 たとえ、霊装を整備する担当になった魔術師であっても、万が一場所を正確に把握できなかったら大変である。そのため、このような設置型、かつカモフラージュが施されている霊装には、外部の人たちにばれないような目印をつけるのは珍しくないのだ。

 

 ヴィリアンは、傍らにいたメイドから、上質そうなレターセットと羽ペンというめんどくさそうな文房具を受け取った。そして、眉を寄せて迷いながらもペンを動かしていく。

 

「そう、確か、こう……こうです。こんな感じのマークが目印になっているんです。魔術についての知識が乏しいため、これが何を意味しているのかまでは分からないんですけど」

 

 当麻もそのマークを見てみるが、確かに一見してさっぱり意味が分からない記号であった。日常生活ではまず見かけないものの、得体のしれない魔法陣というほどの分かりやすい異物感もないため、度合いとしては『レアな地図記号のマーク』と言われれば納得してしまいそうなレベル、といったところだろうか。

 

 しかし、ただ1人だけ魔術知識の塊であるインデックスだけは、ヴィリアンが記したその記号を見て眉をひそめていた。

 

「どうしたインデックス?」

「ううん。……でも変かも。『心臓』を警報の象徴に使うって、どういう応用なんだろ」

 

 ブツブツと言っているが、当麻にはとりあえずインデックスが妙に思っている、ということしか分からなかった。

 

(駿斗なら、こうしたことに対してもすぐに推理してくれるんだけどな……)

 

 インデックスの場合、魔術知識に秀でているがそれ以外の知識に乏しいがゆえに、どうしても偏りが出た見方をしてしまうことが多い。しかし、科学と魔術の両面に対して知識が豊富な駿斗ならば、いろいろと柔軟な思考も望めるのであるが、このトンネルでは携帯電話の電波は届かない。

 

 当麻はぶつぶつと呟いているインデックスの横から離れ、とりあえずトンネルの壁にそれらしき模様がないか調べてみることにした。20人ほど来た使用人たちも、ただ隠れているマークを探すだけなら……ということで、手伝っている。

 

 トンネルの中は等間隔に蛍光灯が配置されているので歩けないほど暗いわけではないが、それでもやはり小さなマークが探しやすいほど明るいものではない。しかし、ともかくマークを見つけてしまえば幻想殺し(イマジンブレイカー)で一撃粉砕できるので、焦ることはなかった。

 

 すると、しばらくして当麻の右手の指が何かカサリとしたものに触れる。

 

「?」

 

 壁から指を離し、改めて壁を凝視してみると、何やらポスターのようなものがあった。縦2メートル、横1メートルほどの大きさの紙が、テープがはがれたのか、上からぺらりと捲れ、お辞儀をするような姿勢で垂れ下がっている。

 

 しかし、当麻はその向こう側にあるものに対して疑問を抱いた。

 

 トンネルの壁や質感とまったく同じような壁紙が、貼り付けてあったのだ。

 

「これ……」

 

 当麻が思わずつぶやいた瞬間、バシュ! と音を立てて壁が――正確には、壁一面に張り付けられていた大量の壁紙が、動き始めた。壁から離れたそれらは、幻想殺しによって魔術的機能を失った何枚かの紙が枯葉のように落ちる一方で、その大部分は力強く宙を舞い新たな形を作っていく。

 

「魔術なんてもんに、俺たちの常識が通じるわけはねえと思っていたけど」

 

 当麻は思わず笑いそうにさえなりながら、一定の法則を持って集合したその紙の束を睨んだ。

 

「壁が人に変形して襲い掛かってくるとか、常識はずれにも程があるだろ!」

 

 全長3メートル前後。

 

 人の形を創る魔術があることは、当麻だって知っている。シェリー=クロムウェルのゴーレム=エリス然り、女王艦隊の氷の兵士たち然り。しかし、これまでとは少し勝手が違う。

 

「ッ!?」

 

 横に回すように振るわれた巨人の拳が、当麻へと振り下ろされる。コンクリートの塊の如きその重量に、当麻はすぐに右手での迎撃を諦めた。魔術的なつながりを分解することはできても、紙そのものを消せるわけではないことは、先ほど『壁』に触れていたことでよく分かっている。

 

 ほとんど後ろに倒れ込むような格好で、どうにか一撃を回避したが、その直後、短く、甲高い悲鳴が聞こえた。その主は民間出身のメイドか、あるいはヴィリアンか。しかし、当麻には確認する余裕はない。あの一撃では、親友から与えられた『硬化手袋(フリックグローブ)』であっても、気休めにしかならないだろう。

 

 拳は進行上にある柱をやすやすと砕いた。いくら学園都市製の素材をフル活用しているとはいえ、仮に左手が無事であっても、手袋に覆われていない部分は無事では済まない。

 

(ただの紙であっても、あれだけ集まると逆に重量感が出てくるわけか!)

 

 いわば、分厚い本を満載した本棚を振り回しているようなものなのだ。

 

 すると、そこで解析を終えたインデックスから言葉が飛んだ。

 

「とうま、離れて! あれはモックルカールヴィの作り方を参考にした霊装なんだよ!」

 

 北欧神話において、剛腕で知られるトールと戦うために設計された組み立て式の巨人。しかし、最後の最後で『心臓』に使う材料を間違えたために貧弱な結果に終わってしまった。

 

 しかし、この場合はイギリス式の理論で『心臓』を一から設計し直し、この場を守るために最適化した、いわばカスタムモデル。ヴィリアンが描いたその記号こそが『心臓』の新たな記号だったのだ。

 

(また由緒正しい物騒なやつだな!)

 

 当麻は、紙の巨人と対峙する。

 

 幻想殺しは、あらゆる魔術に対して文字通り一撃必殺の力を持つ。先ほどの壁と同じように、巨人が紙を束ねて構成されている以上、右手で触れた部分から崩壊が始まるはずだ。

 

 拳を振りかぶる巨人に対して、当麻も同じように右拳に力を込めた。

 

(ビビるな――いけ!)

 

 轟! と2つの拳が飛び、そして衝突した。

 

 衝突の瞬間、巨大な拳がその動きを止め、右腕から発生した大量の紙の洪水が当麻をトンネルの壁際まで押し流す。

 

「ぐ……ッ! くそ、やったか!?」

 

 大量の紙に埋もれて手足が動かない状態となったが、それでも巨人が崩壊したのは見ていた。当麻は焦らず、ゆっくりと紙の山から這い出ようとする。

 

 しかし。

 

 クシャクシャ、と紙を丸めるような音がその耳に届いた。

 

「嘘、だろ……」

 

 全ての紙の魔術的機能が失われた訳ではなかった。その右腕の拳はほとんど失われ杭のようになっていたが、逆にとがっている分、破壊力が増しているようにも思える。

 

(やばい、動っ、逃げられねえ!)

 

 その杭が、壁ごと当麻をぶち抜こうとした時だった。

 

 突然横合いから、人影が割り込んだ。

 

 バッキンガム宮殿の使用人の1人だった。色あせた作業服を着た中年の庭師は、紙の巨人の腕にしがみつくようにして、何とか杭の照準をずらす。

 

 おかげで、その杭は当麻の頭ではなく、そのすぐ横のコンクリート壁へ深々と突き刺さった。

 

 ただし、庭師はその腕の威力で弾き飛ばされていた。彼の作業服は強引に削り取られ、決して少なくない量の血も流れている。

 

「馬鹿野郎! 無茶なことをしやがって……!」

 

 紙の山を払いのけながら、当麻は叫ぶ。すると、倒れた庭師はうっすらと笑った。

 

「……すみません……。俺にゃあ魔術とか言われてもさっぱり分かりませんが、とにかく、あなたの力があれば、こいつに対抗することもできるんでしょう……? だったら、お願いします。こいつを何とかしてください。こいつの馬鹿げた杭がヴィリアン様に向かう前に、早く!」

 

 

 

 

 

 ヴィリアンは、再び嫌な予感がした。

 

 そして、第三王女の直感が正しいものだと証明するかのように、体を強張らせる彼女の方へ、若い女の使用人が振り返ってこう言った。

 

「ここは我々にお任せください、ヴィリアン様」

「……ッ!」

「あの少年が復帰するまでの時間を稼げれば、状況を覆すこともできるようです。ろくに格闘の術も学んでいない我々ですが、それでも20人がかりで押しつぶしてしまえば身動きを封じることもできるでしょう」

 

 確かに、一般的ならそういう風に考えることもできるかもしれない。

 

 だが、魔術というものに対しては、例え詳しくないヴィリアンでも、その結果が分かっていた。この不可思議な現象には、そういう『普通の考え方』は通用しない。何の力も持たない民間人が20人突っ込んだところで、紙の巨人は『普通では考えられない腕力や現象』を用いて蹴散らしてしまうはずだ。

 

 使用人たちも馬鹿ではない。クーデター発生当初から肌で感じ取ってきた経験によって、それぐらいは推測できていることだろう。

 

 だが、彼らはそんなことには一切触れることはなく、各々上着を脱いだり、ネクタイを拳に巻いたり、あるいは一瞬出口に視線を向けてから、改めて紙の巨人に目を向けていた。その一方で、同時に顔は青ざめており、足だけでなく全身を震わせていた。

 

「なぜ、ですか……」

 

 ヴィリアンには分からなかった。怖くないはずがないのに、自ら死地へ向かおうとするその想いが。

 

「理屈などありません」

 

 しかし、若い女の使用人は即答した。

 

「人が立ち上がるのに必要な理由は、それほど特別なものではありません。あなたのために戦いたいから集っている。理由なんてそんなものですよ、ヴィリアン様」

 

 その時、紙の巨人に新たな動きがあった。当麻の顔のすぐ横に刺さっている杭は抜けないと判断したのか、その先端をバラバラと崩したのだ。崩した分の体積を犠牲にして、巨人は再び自由を取り戻した。

 

 巨人に対抗する右手を持つ少年を排除すべく、その先が狙いをつける。それを見て、使用人たちは再び動こうとした。

 

 すると、その時ヴィリアンは若い使用人の肩へそっと手を置いて、今までにはない力強い声で言った。

 

「あなたたちの気持ちは理解できました。ですが、それはあなたたちが死んでも良い理由にはなりません。あの霊装が『隔壁としての自己を踏破する危険因子を優先的に排除するためにある』なら」

 

 

 

 ――囮の役割は、私が一番適任でしょう。

 

 

 

 言葉を言い終えると同時に、今まで誰よりも後ろにいたヴィリアンは、今この場で誰よりも前へと飛び出した。

 

「待――ッ!」

 

 使用人の制止の声が聞こえたが、彼女を追いかけようとするものはいなかった。そもそも、恐怖で足を動かすことすら精一杯なのだ。

 

 怖くて当たり前だ。

 

 逃げ出したくて当たり前だ。

 

 しかし、ヴィリアンはそれでも歯を食いしばってトンネルの中を駆ける。レールを手動で切り替えるための、緊急時用のモップほどの大きさのスパナを、壁から外して手に持った。そして、さらにその先――巨人の下へと突き進む。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 スパナを振り向くとともに、公務では一度も発したことのない雄たけびを上げるヴィリアン。

 

 対して、巨人もその杭の標的を当麻からヴィリアンへと変更する。勢いよく射出された杭とスパナが衝突し、ヴィリアンは、杭の直撃は避けられたものの、スパナは途中で折れてしまった。

 

 ベギン、と折れたスパナの先端部分が、彼女の顔にぶつかる。

 

(――恐らく、姉君のキャーリサにとってはこんな仕掛けも、彼女の持つカーテナに比べたら雑魚戦力に過ぎないのでしょう。私達がこんなふうに努力しているところを見ても、その無能さを嘲笑うだけでしょう)

 

 しかし、自分に集ってきてくれた人々が、彼らが『ちっぽけ』とも思われるほどの圧倒的な力で苦しめられようとしているのであれば。

 

(――私は抗う!)

 

 必要な術式は、天草式の人間からレクチャーを受けていた。

 

 ヴィリアンは突きつける。この紙の巨人に、自分こそが英国王室の一員、第三王女キャーリサであると。

 

 紙の巨人は声もなく、その杭の先を動かし、再び彼女の頭に狙いを定める。しかし、その杭が飛ぶと同時に、インデックスの声が響いた。

 

軌道を変更(C A O)! 右腕を右へ(M A R A T T R)!」

 

 強制詠唱(スペルインターセプト)によって、紙の巨人の腕が不自然にその軌道を逸らした。そしてさらに、インデックスの詠唱を参考にして、今まで一から十まで丁寧に詠唱を行っていたヴィリアンが高速詠唱に切り替える。

 

正しき血を継ぐ者の命に従い(O A G P A T A C O)速やかに開門せよ(T P O T R B)!」

 

 最後の言葉と共に、紙の巨人の大半が砕け散った。

 

 しかし、最後に残ったその杭が、なおもヴィリアンへと崩れかけたその先を突き出そうとする。

 

 第三王女は目をつぶらなかった。そこへ、1人の影が割り込んだからだ。

 

「悪ぃ。助かったよ、ヴィリアン」

 

 背後からケンカを止めるかのようにその腕を掴んだ当麻は、その右手で巨人をさらに原型をとどめない姿へと変えていく。

 

「後は任せておけ。今度こそ仕留める」

 

 

 

 ゴバッ! という音と共に。

 

 今度こそ、紙の巨人モックルカールヴィーは、完膚なきまでにバラバラに粉砕された。

 

 

 

 第三王女ヴィリアンは、しばらくその光景を呆然と眺めていた。

 

 生まれて初めて明確に敵を倒すために行動し、その結果として大量の羊皮紙が舞い散る光景を。

 

 その様子を後ろから無言で見ていた当麻であったが、彼のポケットから携帯電話の着信の震動が伝わってきた。駿斗か? とも思ったが、画面を見ると知らない番号だ。しかし、出ると耳慣れた声が聞こえてきた。

 

『あっ、良かった、繋がりました!』

 

 元気いっぱいな声の主は、天草式の五和だった。

 

 彼女が言うには、無事に遠隔地から特殊車両の動力源にアクセスすることに成功したらしい。

 

 しかし、それをバッキンガム宮殿に配置するため、現在特殊列車が当麻たちのいる方へ向かって猛スピードで走行している。

 

 ギョっとする当麻に、五和は告げた。

 

『と、とにかく、これから特殊車両を経由して、空中要塞カヴン=コンパスの心臓部とカーテナ=オリジナルをリンクさせます。力の「逆流」に伴い、大規模な魔力放出が発生することでしょう。おそらく異変を察知した「騎士派」がそちらへ調査に赴くはずですし、そこにいると「爆発」に巻き込まれるリスクも高いんです! 大至急こちらへ戻ってきてください!』

 

 

 

 

 

 10月18日、午前2時30分。

 

 カーテナ=オリジナルは暴走した。

 

 

 

 

 

「……やべえな」

「そんなに酷いのか?」

 

 その呟きを聞いた当麻が尋ねると、駿斗は真剣な表情で頷く。

 

「ああ。知っての通り、お前らのお陰でカーテナ=オリジナルを暴走させ、その力の一部を削ぐことができたわけであるが……その削いだ力、つまりは天使の力(テレズマ)だが、それがキャーリサを中心に爆発するように放たれることとなった」

 

 いわば、現在のロンドン市内は、街全体の空気中に火薬が漂っているような状況なのだ。それも、かなりの高濃度で。

 

「あの中じゃ、もはや魔術は使えないな。下手すると、ロンドン全域の天使の力に『着火』して爆発しかねない」

 

 当麻たちは、あの後急いで避難をして、今はロンドン近郊にある平原へと集まっていた。彼らだけでなく、『清教派』のメンバーは『必要悪の教会(ネセサリウス)』も含めてほぼ全員がそろっている。(ほぼ、というのは、ここに最大主教(アークビショップ)であるローラ=スチュアート以下数名がいないため)

 

「絶好のチャンスだと思うんだけどな。カーテナ=オリジナルの力が削がれているってだけじゃない。『騎士派』もその頭である騎士団長(ナイトリーダー)が敗北したことで、全体の統制が揺らいでいるはずだ。もちろん、キャーリサもそれを放っておくほど馬鹿じゃないが、それでもこのまま勝負すれば、一気に『騎士派』を瓦解させることもできたんだが……今はもう、戦闘どころじゃないってのが正直な話だ」

 

 当麻は駿斗の話をふんふんと頷きながら聞いていたが、はたと思い立った。

 

「なあ、暴走した力をこの間にキャーリサが取り戻すってことはねえのか?」

「ない」

 

 駿斗は、彼の疑問に即答する。

 

「カーテナ=オリジナルが持つ力は、莫大な上に扱いが最も難しい部類に入る。そうだな……ほら、簡単な構造の昔の機械よりも、複雑な最新の精密機械のほうが、一度壊れると修理が大変だろ? まあ、物凄くざっくり説明すると、そんな感じかな」

 

 ははあ、と当麻が納得しているその横で、駿斗はさらに「完全回復には、少なく見積もっても1か月はかかるな」と説明した。

 

 そんなわけで、決戦前最後の晩餐になる。

 

 もっとも、大小無数のシスターさんたちが修道女らしからぬ暴飲暴食モードに入っているのだが……駿斗は彼女たちを尻目に、呆然としている友人の分も含め、テキパキとほどほどの量を取り皿に載せていった。

 

 その一方で、戦いのことを未だに考えている者も少なからずいる。

 

 例えば、親友を『騎士派』の手によって殺されたシェリー=クロムウェルなどは、その筆頭だ。

 

 どうしたものか、と彼女にかける言葉を駿斗が頭の中で考え込んだまま動かないでいると、サンドイッチが載せられた皿を持ったオルソラ=アクィナスが彼女の下へと歩いて行った。

 

(そういえば、あまり意識したことがなかったけど、2人とも同じ職場なんだよな。専門分野もそうだし)

 

 シェリーは芸術、オルソラは言語(文字)という違いはあるものの、両者揃って暗号解読のスペシャリストなのである。性格はまさに正反対と言っても良いので、あまりそのようなイメージが沸くことはないが。

 

 そんな時、駿斗の携帯電話が鳴った。

 

 折り畳み式のそれを開くと、画面に映っているのは『鳴護アリサ』の文字。

 

『駿斗くん、大丈夫!?』

「大丈夫だよ。ってことはやっぱり、そっちでもニュースになっているんだな」

 

 彼女の言葉に力強く答えたが、そこで気が付いた。

 

「学園都市では、どんなふうにニュースになっているんだ? っていうか、そもそもどうして俺たちがこっちにいるって」

『絹旗ちゃんと黒夜ちゃんが、2人が寮にいなくて、携帯電話も繋がらないって騒ぎ出して、それで調べたみたいで……』

「あいつら……」

 

 今まで『新たなる光』との追いかけっこと、その後のクーデターに集中していたので気が付かなかったのだが、どうやら着信履歴がかなり溜まっていたようだ。

 

(ていうか『調べた』って、絶対に『裏』のアクセス使っただろ)

 

 2人は現在、学園都市の暗部からは友人が巻き込まれない限り一切手を引いている。しかし、彼女が『闇』の中で生き抜いてきた過去が変わることはないため、そこで培った情報入手経路などは、ある程度まだ使用可能だったりする。

 

 特に、特定の組織に属していなかった海鳥よりも、『アイテム』に所属していた最愛は、今でも結構まだ接触を取ろうと思えば取ることができたりするのだ。




アリサを出したのは、佐天さんと並んで一番日常サイドに近い立ち位置にいるからです。
もうちょっと、ヒロインたちのことも出していきたいな……

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