とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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武器の正体

 ウィリアムの示すものは、冷静に考えれば理想論に過ぎない。しかし、そのことを指摘されても彼は平然としていた。

 

「上っ面の言葉を重ね、万人に理解してもらうために用意した『理由』ではない。貴様がさんざん語って聞かせた通り、元よりくだらん傭兵の個人的な感傷である。言葉で分かれとは言わん貴様は貴様が信じる行いを、ただ無言のままに実行すればそれで良い」

「――、」

 

 奇しくも、ここに来て騎士団長(ナイトリーダー)は言葉を失った。しかし、それで刃が止まることもなかった。

 

 互いの理由は提示され、それでもやることは変わらない。

 

 どちらかが負け、どちらかが勝つ。

 

 ならば、ウィリアム=オルウェルという強敵が武器を取り戻すよりも先に、ソーロルムの術式の効果が持続する10分間のうちに決着をつけなければならない。

 

「決着、つけさせてもらうぞ」

「そうであるな」

 

 率直な返答に騎士団長が怪訝な表情をした後に、動きがあった。そして、ついに騎士団長がその体制を崩した。

 

 なぜなら、ウィリアムが全力でアスカロンの柄を手前に引くと、それが不意にすっぽ抜けたからだ。

 

(っ? 自壊させたか)

 

 そう思った騎士団長であるが、それは正しくない。

 

 

 

 ウィリアムは、その大剣の中に納まっていた1メートル以上の刃、最後の名剣を引き抜いたからだ。

 

 

 

 アスカロンという霊装は、その柄へ潜り込む鋼に寄り添う形で、大剣の中にさらに細い剣を収納していた。さらに、ウィリアムはその巨躯で剣を隠すように、一度騎士団長にその背を向ける。そして、その勢いのまま高速で身を捻り、騎士団長の胸板を確かに切り裂いた。

 

「っ!?」

 

 初めて騎士団長の顔色が変わった。しかし、この場面では彼の力不足とも呼べたかもしれない。いや、ウィリアムが一枚上手だったと言うべきか。

 

 そう。北欧神話に登場するソーロルムを殺したのは、袖の中から飛び出した隠し刃だったのだから。

 

 その傷口の痛みが。

 

 ウィリアム=オルウェルの正当性を証明するように思えて、騎士団長は思わず咆哮した。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 叫んだのは、騎士団長だけではない。ウィリアムもまた、最後の名剣を手にして大地を駆ける。しかし、その体は青い何かを纏っていた。

 

(あれは……!?)

 

 その輝きは、剣の柄――否、そこに取り付けられた小さな霊装から発生していた。駿斗が傭兵に託した霊装だ。

 

 その直後、傭兵の動きが急加速した。

 

(馬鹿な!)

 

 それは、騎士団長も今までに見たことのある術式だった。そう、水を得意とするウィリアム=オルウェルの、滑るような高速移動術式。

 

 駿斗が託したその霊装は、わずかな間だけ、傭兵の『水』の力を取り戻す力を有していたのだ。

 

 即席の霊装であるがために、すでにそれには亀裂が少しずつ生じ始めている。しかし、一時的に力を取り戻した彼は続けて、そのまま彼に肉迫した。

 

『パターン』など、もはや扱う余裕すらなかった。

 

「っ!」

 

 ウィリアムの斬撃をとっさに剣で防御した騎士団長は、それでも冷静に一度鍔迫り合いの後に剣の力を小爆発させ、再び距離を取る。これなら、わずかにではあるが余裕はできる。

 

 彼には2つの選択肢があった。

 

 赤黒い長剣の攻撃力で、剣ごとウィリアムの肉体を切断するか。

 

 ソーロルムの術式を使って、ウィリアムの剣の攻撃力をゼロにするか。

 

(剣を潰す。抵抗の象徴たる武器を粉砕してから傭兵を斬らねば『勝利』にならん!)

 

 即断したその次の瞬間には、ウィリアムは再び騎士団長へと迫っている。だが、ソーロルムの術式ならば、最悪刺し違えても勝ちを掴むことはできる。

 

「ゼロにす――ッ!!」

 

 言いかけたその口が止まる。なぜなら、ウィリアムの手の中に、刃はなかったからだ。ソーロルムの術式では、認識していない武器に干渉することはできない。

 

 しかし、すぐに気が付いた。柄からきらりと光る細いワイヤーのようなものが伸びている。つまり、ウィリアムはそれでソーロルムの術式をやり過ごした後に、ワイヤーを巻き取って柄に刃を再接続し、そのまま二撃目を放つつもりなのだ。

 

(気付いてしまえばそれまでだ!)

 

 騎士団長は再び視線の先を移そうとするが、その目に映るのは傭兵の体のみ。すなわち、再び彼は身を捻り、その巨躯で己の武器を隠したのだった。

 

(同じ手を喰らうか!)

 

 その手から繰り出される武器を認識するために、その場所を睨みつけ――しかし、そこからは何も握られていない右手が現れた。

 

(持ち替えた!?)

 

 ならば、左手か。

 

 時間差攻撃に対し、騎士団長はもはや刺し違えるのでもなく、ソーロルムの術式のことだけを考えていた。あの霊装も、この攻撃の後に使用不可能になることは間違いなく、ならば、敵は武器さえ失えば、攻撃手段をなくすことになるからだ。

 

 だが、さらにそこで動きがあった。

 

 ウィリアムの持つ剣の柄から出ているワイヤー。厳密にはミクロサイズのチューブの内側から、樹脂の液体のようなものが噴出している。それは水と共に1つの形を成した。

 

 武器の長さは3メートル半から5メートルへ。

 

 傭兵が最も愛用していた武器。原始的な棍棒(メイス)へと。

 

「ッ!!」

(間に合うか)

 

 これが、最後の一撃。

 

 凌ぎきれば騎士団長が勝利し、押し切ればウィリアムが勝利する。

 

 目前に迫ったメイスへと、騎士団長はその意識を集中させた。

 

(ゼロにする!)

 

 傭兵崩れは、全身の力を込めて己の武器を振り下ろした。

 

 騎士の長は、防御を考えずに赤黒い長剣を振るって応じた。

 

 

 

 ドッ! という、人肉を潰す嫌な轟音が、辺り一帯に響き渡った。

 

 

 

 その時。

 

 土壇場で、騎士団長の術式は効果を発揮していた。

 

 ウィリアム=オルウェルの握るメイスは攻撃力をゼロにされ、たとえ『聖人』の持つスピードとパワーをもってしても、騎士団長に傷一つ与えることはできない状態にあった。

 

 闇の中で、静止している2人の男の勝敗は明らかだった。

 

「……ふん」

 

 最後の勝負で『切断威力』を選択した彼が、先に口を開いた。

 

「全く、つまらん結果だな」

「……、」

 

 傭兵は騎士団長の言葉に答えない。

 

 そして、騎士団長の体が地面に倒れた。

 

 メイスではない。剣の柄にある、射出した機構の一部としてわずかに飛び出している小さな留め金が、その首元にめり込んでいたのだ。

 

 ソーロルムの術式は、あくまでも『認識した武器』に対して効果を発揮するものだ。しかし、最後の名剣、即席のメイス、という立て続けに現れた新たな武器に対して集中していた騎士団長は、1つの可能性に気が付かなかった。

 

 小さな留め金に、莫大な天使の力が流れ込んでいることに。その留め金に、わずかに水が纏っていることに。

 

 ピシ、と小さな音を立てて、駿斗の霊装が砕けた。

 

「貴様と別れて10年……さんざん、己を鍛えてきたと……思っていたが、結局はあの時のドーバーと同じく、不意打ちで決まった、か……」

 

 騎士団長の赤黒い長剣は、ウィリアムの一撃を受けて軌道がそれ、そのまますっぽ抜けて離れた場所の地面に落ちていた。

 

「それに、しても……騎士も……顔負けの、気障な男だ……。よもや、その三派閥四文化の調和を示す……紋章の中に、私の名まで加えるとは……」

 

 決着は、ついた。

 

「……思えば、昔から……貴様はそういう男だったよ……」

 

 その言葉を最後に、騎士団長の体は地面に倒れた。死んだのではない。日本刀の峰打ちと同様に、首を討たれて気絶したのだ。

 

「所詮はあさましき傭兵のごろつき。お堅い騎士に比べて自由奔放に戦う身ではあるが」

 

 たった1人で、傭兵はぽつりと呟いた。

 

「……あいにくと、古き友を斬る刃までは持ち合わせがないのである」

 

 彼にしては珍しい、無駄口だった。

 

 

 

 

 

 上条当麻はフォークストーンに到着した。

 

 川の水でびっちょびちょになった彼はガチガチと身を震わせているが、今はそんなことに不満を漏らしている余裕はなかった。駿斗がいれば、すぐに水を蒸発させたうえで火を起こして暖を取ることもできるのであるが、そんなことを考えることすらしなかった。

 

(くそ、ユーロトンネルのターミナルってのはどっちにあるんだ!? インデックスがそこから運び出されていなければいいけど……あるいは、もしかしたら駿斗がもう救出してくれているかもしれない)

 

 しかし、電話をかけても駿斗の性格を考えると、きっちりケータイの着信音どころかバイブレーションまで切ってあるだろうな、と考え、当麻はポケットにある自分の携帯電話から意識を外した。こんな状況なら、むしろ親友は探知術式で自分の右手から位置を割り出してくるに違いないからだ。

 

 とりあえず、途中で協力してくれそうな人間を……と思ったら、川に落ちた直後に第三王女ヴィリアンと遭遇し、そこから行動を共にしたらさらに新生天草式と合流することができた。どうやらアニェーゼから『上条当麻たちがフォークストーンにいる』という情報を受けていたらしく、水上レスキュー機で現れたことには助かった。……ちなみに、フロリスは天草式を見るなり『だっ、騙しやがったなこの野郎!』と絶叫したが、当麻本人はその理由がさっぱり分かってない。

 

 その後、当麻はインデックスを救出しているであろう駿斗と速やかに合流するために、今は1人で駆け回り、天草式はレスキュー機で一度神裂と共に退却した。

 

 ともあれ、今の彼は1人である。

 

「……?」

 

 しかし、そこで何かの音が彼の耳に届いた。

 

 思わず両手を構える彼であったが、暗闇の向こうには何の光も見えない。

 

(落ち着け……駿斗が普段やっていることと同じように)

 

 まずは、現状把握から。

 

 そう考えて、ゆっくりと慎重に音源へ向かって、舗装された道を歩く。しかし、ある地点から地面に亀裂が走ったり、あるいはアスファルトの下から黒い土か掘り返されているような状況になっていた。

 

 戦闘の痕。

 

 そのことに気が付いた当麻が次に見たのは、戦場だった。

 

 打ち合う刃と刃に、鋼の鎧と共に砕ける火花。

 

 10メートルほど先にある、カンテラが外に付けられた壊れかけた馬車は、4つある車輪の1つが壊れていて、不自然に傾いていた。

 

 その先で起きているのは、戦闘……というよりは、蹂躙に近かった。なぜなら、3メートル以上の武器を持つ1人の男が、周囲に騎士たちを次々と一方的になぎ倒しているだけであるからだ。

 

 屈強な肉体。

 

 青系の装束。

 

 巨大な武器。

 

 それらは、いつかの戦闘を思い出させた。自分たちは、確かにこの男とその部下から襲撃を受け、そして実際に死の直前にまで追い詰められたのだから。

 

 その元凶は、当麻の顔を見ながらこう言った。

 

「ふん。忌々しい顔と出会ったものである」

「後方の……アックア!?」

 

 思わず叫ぶ当麻。

 

(生きてたのか!?)

 

 当麻は、駿斗が彼らと遭遇したことを知らない。彼が知っているのは、学園都市の地下街での戦闘で、最後に天草式の『聖人崩し』によって力を暴走させられ、大爆発を起こしたことのみである。

 

「(……くそ、ただでさえクーデターだの何だのいろいろ大変なのに。なんつー不幸な偶然がおこっちまうんだよ!)」

「偶然ではなかろう」

 

 思わず小さな声で口走った当麻であったが、小さなその声さえも『聖人』の耳には届いていたらしい。

 

「貴様の目的が長期的にはクーデターの解決、短期的には禁書目録の再回収というなら、我らの行動基準はいくつか合致する点があるのである。もっとも、禁書目録については幻想創造(イマジンクリエイト)が回収したようであるから、安心しろ」

 

 それだけ言うと、彼は馬車の中身をぞんざいに確認した。すると、そこからは武器だの、よく分からない機械だの、恐らくはクーデターの中で回収したのであろうものが、どさどさと出てきた。

 

「どうやら、イギリス国内の機器や霊装を集め、クーデターの後に起こす戦争に備えるつもりであったようだな」

 

 しかし、事態はそれだけに収まらなかった。

 

 

 

「ふん。この調子だと、騎士団長は撃破されたよーだな」

 

 

 

 突然の声。

 

 当麻とアックアがそちらを振り返ると、木々の合間から1人の女性がやってくるところだった。赤いドレスをまとったその女性の手には、刃も切っ先もない儀礼剣が握られている。

 

 言うまでもなく、カーテナ=オリジナルを持った、第二王女キャーリサだ。

 

 思わず当麻は身構えるが、しかしキャーリサが見据えているのは隣にいるアックアであった。

 

「面倒なことをしてくれたし。露払いがいなくなると、私が自分で雑魚共に対処しなければならなくなるのに」

「面倒事はもう消える。ここでクーデターの幕は下りるのであるからな」

「あまり私をなめるなよ。この手にカーテナ=オリジナルがあることを忘れたの」

 

 キャーリサが動くその直前に、アックアは動いた。

 

 キャーリサを迎撃するためではない。剣を振り下ろそうとしたキャーリサの斬撃上から、当麻を衝撃波で弾き飛ばすために、手近な巨木を大剣の側面で殴ったのだ。

 

「これは本来、地球という惑星から英国という領土を切り離し、その内部を管理制御するための儀礼剣だが――その特性を応用すれば、こんなこともできるんだぞ?」

 

 対し、キャーリサが行ったことは単純。頭上に剣を掲げ、そっけなく振り下ろしただけだ。しかし、その行動に対して、その直後に起こった現象は常軌を逸していた。

 

 射程はおよそ20メートルほど。カーテナ=オリジナルの剣の幅の分だけ、何か帯か壁のようなものが展開されている。そして、その『切断面』から、まるで色を塗る前のプラモデルのような白い物体が発生し、そしてしばし空中に留まった後に落下した。

 

「さっきの『手慣らし』の時にも感じたけど……霊装それ自体は古臭いものだが、使用者の私が最新の『軍事』知識を基に振るうと、ちょっと毛色が変わるようだし」

 

 3次元の物体(立体)を切断すると、2次元の切断面(平面)が現れる。

 

 ならば、4次元以上の高次元を切断した場合、その切断面は3次元などの1つ低い次元として現れるはずだ。その『切断面』こそが、この白い物体『残骸物質』。実際には、残骸物質は全ての次元において発生しているのであるが、あくまでも人間が感知できるのは『3次元』の範疇に納まっているというだけのこと。

 

(何だ、これ……?)

 

 当麻も、次元という概念は知っている。いや、現に学園都市の空間移動能力者(テレポーター)は11次元という高次元を用いて移動しているし、『外』にいる人よりは『次元』という言葉になれているはずだ。

 

 しかし、当麻は恐怖を感じることすらなかった。スケールが違いすぎるのだ。ちょうど、宇宙が膨張し続けていると言われても、それを具体的に自分の五感で実感している人間がいないことと同じように。

 

「『全次元切断術式』。私も扱うのはこれが初めてだが……思って以上に使い勝手は良さそーだし。ただ1つ欠点があるとすれば、あまりにも簡単に決着がつくから、面白みに欠けるといったところか」

 

 そこまでキャーリサが話してから、当麻はようやく驚愕状態から思考能力を取り戻していた。

 

 第二王女キャーリサ。バッキンガム宮殿ではまともに会話することも、一緒に話し合うこともできた相手であるが、現状、もはや話し合いに関する解決は難しそうである。

 

 当麻はちらりとアックアを見た。

 

 信用できるか。

 

 しかし、『騎士派』と戦っていたところを見た以上、共通の敵であることは間違いがなさそうだ。

 

「おい、時間を稼げるか」

 

 当麻が話しかけると、アックアは案の定顔をしかめた。

 

「あのヤベえ切れ味は剣のエッジの部分だけみたいだ。側面辺りは普通の鋼だろ。あそこにテメエの刃をぶつけて、一瞬でもいいからよろめかせろ。後は俺の右手で霊装をぶっ壊す」

「おー怖い」

 

 キャーリサは丸っきりふざけた口調で遮った。

 

「確か、お前の専売特許は幻想殺し(イマジンブレイカー)と呼ばれていたようだな」

 

 彼女は、くるくると回していたカーテナ=オリジナルを、切っ先のない平らな先端が地面に向いた状態で止めた。

 

「ならば、そいつに適した応用技をお見舞いしてやろう」

 

 言って、その先端を思い切り地面に突き刺す。

 

 直後、ドッ! という衝撃波と共に半径500メートル級のドーム状の破壊の渦が巻き起こされ、その莫大且つ連続的に放たれる力は当麻の右手でも消しきれず、その体が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 轟! とジミーの縮絨棒から炎が吹き荒れた。それらが鈍重に見える鎧に身を包んだ『騎士派』の人間たちに襲い掛かる。しかし、その程度で倒れる彼らではない。

 

 その炎が消えても、数名が負傷しただけで戦闘には差支えがなさそうであった。そして、今度は『貫通の槍(ブリューナク)』や『アロンダイト』などの量産型武器・霊装を携えて迫ってくる。駿斗は念動鎧(フォースアーマー)を纏うと、身体強化術式と共に次々に騎士たちの鎧を砕きながら手刀を首に当て、そして全員を速やかに無力化した。

 

 魔術的な拘束をかけながら、駿斗は考える。

 

(そもそも、『騎士派』の連中というのは、全体でどのくらいの規模なんだ? このまま戦っていても、はっきり言ってキリがないぞ)

 

 しかし、そこで爆音が響いた。

 

「あちらの方角のようですね」

 

 ジミーが見つめている視線の先を追うと、明らかにその方角から、何か莫大で異質な力を感じ取ることができた。

 

(天使長『神の如き者(ミカエル)』と同質の天使の力(テレズマ)か……)

 

 つまり、その爆発はキャーリサが起こしたものであるということだ。

 

「分かっていることとは思いますが」

「行くわけねえだろ。もっとも、親友はあの爆発に巻き込まれたみたいだが……いっしょにアックアがいることも確認したから、問題ねえよ。一応、標的でない今ならあいつも当麻を救ってくれるだろうし」

 

 多分、な……と、駿斗はそれでも心配そうな表情で、ジミーに言った。

 

 理屈の上では、アックアが当麻を襲うことはないと思っている。しかし、感情的な面では、未だに納得しきれてはいない。

 

「それよりも、あんたはどうするんだ。アックアと騎士団長の戦いは、いくら互いの実力が拮抗していても、さすがにもう決着がついているだろ。合流はしないつもりか?」

「必要とあれば合流しますが、無理にする必要もないでしょう」

 

 そもそも、ジミーはウィリアム=オルウェルが『神の右席』に入ったから、偶然素養のあった『十二使徒』の一員になったとのことで、そのしばらく前から、彼の下で弟子としてその後ろをついて行って回っていたらしい。

 

 しかし、師匠と弟子という関係ではありながらも、特にウィリアムが直接何かを教えたわけではない。どちらかといえば、勝手に学ばせてもらうから、勝手にあなたの後ろを歩かせてくれ、みたいなことをジミーがウィリアムに言ったことが初めだそうだ(もっとも、当時は『十二使徒』ではなかったので、おそらくジミーという名前の魔術師ですらなかっただろうが)。

 

 そんなわけで、結構彼らの間はドライだったりする……という。

 

「ウィリアム様の邪魔をせず、ただ目的達成のために協力をする……いわば、露払いのようなものです」

 

 ジミーは、自分と師匠との関係性をそんな言葉で表現した。

 

 まあ、駿斗としてもつい先日、命を懸けた戦いをしたばかりの相手と一緒にいるのはあまり良い気分ではないので(といっても、結局ジミーと共に行動しているのは変わりないが)、アックアと一緒ではないのはありがたかったりもするのであるが。

 

「露払い、ね。イギリス清教から聞いた話では、『十二使徒』というのは『神の右席』と同様に適した『素養』を持つ魔術師を集め、それに最適な魔術的な地位を与えることで、『神の子』の12人の弟子たちの力の一端を分け与えたという話だったと思うが……それにしては、お前は『ローマ正教』よりも『ウィリアム=オルウェル』みたいだな。敬虔な十字教徒ではあるようだが」

 

 駿斗は、ジミーの言葉とそれまでに得た情報から、そんな感想をもらした。

 

 すると、ジミーは頷く。

 

「そもそも、私は『十二使徒』の中では少々特殊な経緯がありますからね。他の11人とは違って、ローマ正教から見出されて『十二使徒』になったのではなく、たまたまウィリアム様について行った結果、『十二使徒』になったようなものですから」


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