とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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叛逆者たち

 午前12時。

 

 日付が変更する時刻であるその瞬間から、第二王女キャーリサ率いる『騎士派』によるクーデターは起こった。

 

 イギリス国内においてロンドンを中心とする都市に配置された数々の重要な拠点は魔術的・政治的なものを問わず占拠された。

 

 イギリス清教及びその中の精鋭である『必要悪の教会(ネセサリウス)』は、当然ながら対処を図ったが、次々と騎士たちによって倒されていった。

 

 理由は簡単。キャーリサを『女王』とすることによって、『全英大陸』という魔術は騎士たちに莫大な力を与えていたのだ。

 

 イギリスという国内において、選定剣(カーテナ)を持つ女王は天使長であり、それに使える騎士は天使となる。

 

 したがって、並の魔術師など彼らの敵ではない。

 

 そんな中。

 

「全く、騎士団ってのは自分の国を守るのが仕事だとばかり思っていたんだが?」

 

 駿斗は、そんな騎士たちと対峙していた。

 

「ウィリアム様が懸念していたのは、このことでしょうか」

 

 その隣では、ジミーもその手に縮絨棒を持ち、並び立っている。

 

 それに対峙する騎士たちは、貫通の槍(ブリューナク)と呼ばれる量産型霊装を携え、その先を2人に向け先端に光を灯した。

 

 強化された彼ら7人の攻撃など、通常の魔術師ならば1撃で葬られるだろう。

 

 しかし、今回は相手が悪かった。

 

 

 ジミーが棒を地面に叩き付けると、ドバッア! という大きな音と共に、半径7メートルほどの地面が陥没したのだ。

 

 

 思わず、足元に注目する騎士たち。

 

 だが次の瞬間、その上に巨大な影が発生した。跳び上がった駿斗が幻想核杖(イマジン・コアロッド)を中心にして創り上げた、巨大な槍だ。

 

「おらあぁぁぁあああ!」

 

 気合十分に、その槍を突き出す。すると、そこから大量の棘が降り注いだ。

 

「ちょっと眠ってろ!」

 

 その棘を騎士たちは凌ぐが、全てが地面に散らばったその瞬間、棘に刻まれたルーン文字が爆発した。そして、そのまま立て続けに暴風が吹き荒れる。

 

「よし、このままあいつらの元に向かうぞ」

幻想殺し(イマジンブレイカー)の方は良いのですか?」

「あいつなら、他の仲間を捕まえて自力でやってくるさ」

 

 駿斗は、確信めいた口調で言い切った。

 

「それよりも、アックア……いや、ウィリアム=オルウェルはどのタイミングでやって来るんだ?」

「そろそろ、フォークストーンに到着している頃合いだと思いますが」

「真っ先に元凶の下に向かったのかよ」

 

 まあ、それがあの傭兵らしいやり方なのかもしれないな、と駿斗は思う。何しろ、今までの2人と違って果たし状まで送り付け、真正面からやってきたのだから。

 

「しかし、あいつが万全な調子で力を揮えるならともかく、俺たちと戦ったおかげで、というか、正確には天草式の『聖人崩し』のせいで、力はだいぶ弱まっているんだろ? 並大抵の騎士は敵わなくとも、そのトップなら……」

「そうですね。しかも、騎士団長という人物は、ウィリアム様とは旧知の間柄であり、昔に使っていた魔術は、互いの手を知り尽くしていると言えます」

 

 ジミーは、淡々とした調子で話す。

 

「ですが、ウィリアム様も新たな霊装として『アスカロン』をロシアの『占星施術旅団』から受け取っていらっしゃいましたので」

「占星施術旅団……」

 

 聞き慣れないその言葉に駿斗は眉をひそめる。いや、正確にはどこかで聞いたような言葉ではあるのだが……。

 

「ウィリアム様は以前、彼らがロシア成教に追われているところを助けられました」

 

 ああ、と駿斗は思い出す。

 

 主にロシアを活動地域とした、十字教系の魔術結社だ。他者から相談を聞き、状況に合わせてこっそり魔術を発動する、といった活動を行っていたのだが、それが逆恨みを買ったのか、ロシア成教の一部門に追っ手をかけられ国外逃亡を余儀なくされたとか。

 

 この時の戦いは『占星施術旅団援護』という名で、激戦として魔術業界に広く知られている――という、つい先日聞いたばかりの情報を頭の中から引っ張り出す駿斗。

 

(なるほどな。ローマ正教に入る前から傭兵として活動していただけあって、いろんな方面に顔がきくって訳か)

 

 そんなことを考え、その後に『アスカロン』について考える。

 

(聖ジョージ(ゲオルギウス)が、悪竜を退治して王女を助け出したときの剣か)

 

 確かに、霊装としては強力なものではある。おそらく3メートルを超えるサイズの武器になるであろうが、元は5メートルほどのメイスを振り回していたのだから、何も問題はないだろう。

 

 しかし、水の魔術が使えないのは、正直痛手だと思う。

 

「『新たなる光』については知っているのか?」

 

 ウィリアムのことは気になるものの、とりあえず彼らと情報をやり取りするために、駿斗は尋ねた。するとジミーは、あくまでも事務的に答える。

 

「詳しいことは、そこまでは。ただ、魔術結社予備軍としてはかなりの実力を持つ、くらいのことです」

「そうか。とりあえず、あいつらの霊装であるらしい『鋼の手袋』について教えておこうか?」

「いえ、現状では結構です」

 

 あっさりと、彼は断る。

 

「この状況では、おそらく彼らはしっぽ切りにされているでしょう。要するに、もはや用済みなのですよ」

「……『カーテナ=オリジナル』さえ手に入れば、あとは何も要らないってことか」

「そうですね。彼らの保有しているであろう、北欧系魔術を使った霊装探知技術についても、もはやいらないものです。これ以上何を掘り出したところで、『カーテナ=オリジナル』以上の霊装が出てくることはありませんでしょうから」

 

 要するに、キャーリサを止めないことにはどうにもならない。

 

 インデックスのことが気がかりだが、そんなことを考え続ける余裕もなく、次々に騎士たちはやってくる。

 

 

 

 

 

 ドーバー海峡の下を走るユーロトンネルの爆破跡地に、インデックスはいた。彼女がいるのはフォークストーンという街であり、多くの幹線道路がここに集約し、そこから3本の海底トンネルに再分配されるのだった。

 

 しかし、インデックスはトンネルの下り坂を20メートルほど進んだところで止まってしまう。海底を走るトンネルであるため、流れ込んだ海水がここまでせり上がっていたのだ。

 

 しかし、それでもインデックスはすぐに自分の仕事をやり遂げた。

 

「『ロレートの家』の伝承を元にした、ローマ正教系の術式が破壊の象徴に使われているね」

 

 サントゥナリオ・デッラ・サンタ・カーザとも呼ばれる、イタリアのとある町にある家屋で、聖母マリアの住居と言われている。この家は『ひとりでに消え、ひとりでに現れる』ことで有名であり、伝承では過去に2度ほど瞬間移動をした。

 

 しかし、このトンネルでは『建物が移動する』という半端な効果だけを付与したために、一部分だけが『動いた』ことで、トンネルに亀裂が入る原因となった。

 

 しかも、術式のところどころに『フランス国内を移動するように』する設定を変更しており、その上、オリジナルの『ロレートの家』はフランス国王ルイ九世が訪れたことでも有名なのだ。

 

「なるほど。これでフランス系ローマ正教の派閥が関与したのは、ほぼ決定だな」

 

 騎士団長(ナイトリーダー)を従えている第二王女キャーリサは、そう言って笑う。

 

「……フランス製の術式のみならず、よりにもよって王家が分析に関与した術式を持ちだしてきたか。その辺の魔術師程度では扱えないはず」

 

 しかし、キャーリサの顔色は悪くはなかった。むしろ、当然の結果だ、と言っているようにすら見える。

 

「しかし、本当に良かった」

「?」

「お前が『今回の件にフランスは関わっていない』と評価を下してしまわなければ、私としては問題なしだ。――お前が望み通りの解答をしなければ、ここで斬らねばならなかった(・・・・・・・・・・)からな」

 

 間近に迫るその笑みに、思わずインデックスが身構えた。しかし、その背後には水没したトンネルが彼女の退路を断っている。

 

 そこに騎士団長がやってきた。本来第二王女だけでなくインデックスの護衛もしているはずの彼の手には、古ぼけた四角いカバンがある。

 

「『大船の鞄(スキーズブラズニル)』を開放します。本格的に参戦する前に、剣の調子を確か舞ておいた方が良いでしょう」

 

 カバンが膨張し、巨大なカヌーへとその姿を変える。そしてその中には、鞘に収まった1本の剣が置かれていた。

 

 カーテナ=オリジナル。

 

 現存するカーテナ=セカンドを上回る、英国最強の選定剣。

 

 キャーリサは鞘を掴み、片手で刃と切っ先のないその剣を抜きながら鼻で笑った。

 

「英国の伝統を嫌うなら、むしろ率先して折るべきだが。せいぜい、利用できる内は利用させてもらうとしよう」

「英国全域の支配権の確率は完了しています」

 

 キャーリサは、禁書目録からの報告をフランスへ通告するように騎士団長へ言いつけた。そして、それが最後通牒であることも。

 

「……『王室派』と『騎士派』の間接的な働きかけで、軍を動かせるな? ドーバー海峡に駆逐艦を配備しろ。返答次第では、いつでもヴェルサイユへミサイルを撃ち込めるように、だ」

 

 おまけに、学園都市への配慮はない。

 

 イギリスの軍事力の手綱を握るのはイギリスであるべきで、学園都市に配慮する方が不自然だ、と切り捨てた。

 

 イギリスの独立。

 

 国として支配されているのではないが、それでもローマ正教やロシア成教の支配が多いヨーロッパという地域の中で、確実にイギリスは追い詰められている。それを、覆すのだ。

 

「弾頭についてはいかがいたしましょう?」

「英国独自技術で開発したバンカークラスターを使うの。地中50メートル級のシェルターを貫通させるための特殊子弾を200発ほどばらまく弾頭だ」

 

 それは、本来クラスター爆弾の禁止条約に抵触するもの。しかし、それすらもキャーリサは無視する。

 

「しかしまぁ、ちょーど良い。現在、他国と結んでいる全ての条約を再確認し、不要なものは残らず破棄する。手始めにバンカークラスターから、な」

 

 さらに加えて、アメリカからのドル関係の支援も断つ。

 

 そこまで徹底的に命令してから、キャーリサは苦々しく呟いた。

 

「何が『イギリス清教・学園都市』と『ローマ正教・ロシア成教』の戦争だ……」

 

 それは一見、2つずつの勢力が互いに手を結んで戦っているように見えるが、その実は異なる。

 

 イギリス清教は魔術サイド、そして学園都市は科学サイドなのだ。したがって、この戦争で仮に勝利しても、両者の間が完全な調和をすることはない。今まで通り、互いに利用し利用される関係なのだ。

 

 加えて、イギリス清教は魔術サイドの中では、三大派閥の中の一角に過ぎない。対して、学園都市は科学サイド唯一の親玉だ。『イギリス清教・学園都市』という連合で敵に打ち勝ったところで、世界は科学サイドが優勢に傾いてしまう。反対に『ローマ正教・ロシア成教』が勝った場合のイギリスの行く先は、いわずもがな。

 

 したがって、この戦争は二大派閥のものではなく、『イギリス清教』と『学園都市』、『ローマ正教・ロシア成教』という三つ巴の戦いにする必要があった。

 

「……EUからの孤立は、経済や物資を中心とした国内の孤立を誘発させる懸念もありますが」

「確かに、一時的な混乱はある」

 

 騎士団長からの指摘を、キャーリサは否定しなかった。

 

 否定しないうえで、しかし続ける。

 

「だが、この世界を揺るがす戦争に勝利することで、世界の図式は大きく変わる」

 

 ヨーロッパから、ローマ正教の支配を追い出し、イギリス清教としての支配を確立させる。アメリカがかつて『世界の警察』という形でめざし、学園都市がひそかにほぼ成功させたように、『世界がイギリスという国なしでは成り立たなくなる』という図式を完成させればよいのだ。

 

 キャーリサは獰猛に笑った。

 

 すると、騎士団長の視線の先が変わる。

 

「……魔導書図書館はいかがいたしましょう」

「少なくとも、フランスへ送る最後通牒の正当性を、周辺諸国へ認めさせるまでは生きてもらわなければな」

「公式の場において、発言を覆す可能性は?」

「こいつの完全記憶能力は、自らの発言をも完全に記憶しているはずだ。そいつを読み取らせれば、信憑性については疑いよーがないだろう」

 

 インデックスは、価値があるまで使われる。したがって、まずは騎士団長の拳で無理矢理眠らされた。

 

 

 

 

 

 駿斗は急ぐ。

 

「『全英大陸』……まさか、ここまで強力なものだとはな!」

 

 騎士たちを薙ぎ払い、インデックスのいるフォークストーンへと進もうとするが、その行く先々を騎士たちが阻む。

 

 貫通の槍(ブリューナク)から放たれる光線を防御術式で受け止めながら、駿斗は毒づいた。

 

 かつてローマ正教十三騎士団の一員で、『法の書』をめぐる争いで駿斗が倒したルーも、同じ種類の霊装でかなりの天使の力(テレズマ)を操っていたが、彼らは1人1人が全員、それよりも上だ。

 

 おまけに、光線が次々と屈折して曲がってくる。

 

 それでも駿斗とジミーが倒れないのは、その実力が本物だからであろう。

 

 ジミーが縮絨棒で叩いた地面から土砂が槍となって敵を襲い、その後一気に地面が陥没する。跳び上がって退避するものを駿斗が『神よ。なぜ私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)』の赤い光線で撃ち落とし、続けて出現させた悪魔の赤い翼を振るって敵を戦闘不能へと追い込む。

 

 そんな中、周囲の状況がおかしかった。

 

「『人払い(Opila)』すらまともに機能してねえな……。もはやその限界を超えているらしい」

 

 無意識下に干渉することで興味を逸らし、無関係な人間はその地点へ立ち寄らなくなるものだが……それが機能していないという事は、ロンドンからずっとフォークストーンまで、このような騎士たちによる制圧が続けられているということなのだろう。

 

 イギリスには魔術的な事件が多いために、それを隠す手段も多数用意されている。しかしそれすらも許容量を超えて飽和状態なのだ。

 

 すると、駿斗たちは1人の少女を発見する。

 

 厳密には、その少女はどこかでよく見たラクロスのユニフォームのような服装をしており、例の『鋼の手袋』という霊装を他の騎士に取り上げられた状態で、さらに別の騎士にあっさりと拘束され、『封の足枷(ドローミ)』という霊装をつけられてどこかへと運ばれているところであった。

 

(あの服装は、『新たなる光』の一員……? って、あいつは俺が捕まえたやつじゃねえか)

 

 確か、ランシスとか名乗っていたような、と彼は思いだす。霊装である『爪』『鋼の手袋』『豊穣神の猪(スリーズルグタンニ)』『大船の鞄(スキーズブラズニル)』を所有していたのだが、それらは全て取り上げられているようだ。

 

 しかし、彼女の様子がどこかおかしい。いや、厳密には以前からおかしかったのだが。

 

「うぇひひ、く、くしゅぐった……くしゅぐったひ……魔力は、やめれ」

 

 どうして、あの少女は体をくすぐったそうに身をよじっているのだろうか。そもそも、騎士たちにたいして抵抗する意志が微塵も感じられないのであるが。

 

 また個性的な魔術師が出てきたなー、とか駿斗は遠い目をしつつ(主にジーンズ切り裂き聖人の姿や、体を拘束具で締め付けたロシア成教の少女などを思い出しながら)、それでも明らかに強引に拘束されているっぽい女の子のことは放っておけないのが駿斗である。

 

 とりあえず、彼は『幻想魔弾(マジック・バレット)』を展開し、彼らの一瞬の隙を狙う。

 

 百発百中を誇るその狙撃術式は、その少女が騎士から別の騎士へと渡されるその瞬間、騎士の横腹に命中した。その後、立て続けに一方向から魔術でできた銃弾が彼らを叩く。

 

「なんっ……!」

「敵襲か!?」

 

 それでも、『体内の力が強すぎる』ために、『魔術的機構を壊してしまうから』鎧に霊装としての効果を加えられない。それほどに『全英大陸』で強化された彼らは、その程度の攻撃で倒れることはなかった。

 

 だが、それに集中している間に、彼らの腕から少女は消えていた。

 

「あ、あれぇ? た、たしゅけて……くりぇた」

「はいはい。とりあえず、まともに話ができるようになってからにしような」

 

 駿斗は、適当な調子で地面を叩くと、周囲に模様と文字を刻んでいく。外側からも内側からも、魔力を感じ取れなくなる特殊な結界だ。

 

 適当に事象解析(アナリーオール)で『診た』のであるが、どうやら彼女は自分の物にしても他人のにしても、魔力の動きを感じ取るとくすぐったくなってしまうようなのだ。

 

 駿斗は万象再現(リプロダクション)の使用をやめ、結界の維持に不要な魔力と天使の力(テレズマ)を一度全て幻想千眼(サウザンドアイ)で使い果たすと、彼女に向き直る。

 

「これで大丈夫か?」

「ふ、ふう……あれ? 今魔術使っているよね? なのに、どうして私の体がくすぐったくならないんだろ」

 

 駿斗の言葉を聞いて途中から英語を日本語に直した少女は、キョトンとした表情で言った。

 

「状況は分かっているか? あいつらの目的とか……まあ、クーデター以外にないだろうけどさ」

「そ、そうよ! 『騎士派』のあのクソ共、せっかく私たちのおかげで『カーテナ=オリジナル』を手に入れ立っているのに、必要なものが手に入ったら素早くどころかその場で切り捨てやがって……!」

 

 周囲で倒れている騎士たちを親の仇を見るような眼で睨みつける彼女であるが、駿斗からすれば、自業自得だとしか言いようがない。

 

「とりあえず、知っていることを話していただきたい。今は、少しでも敵の情報が必要です」

「了解。私はランシス。日本語って、こんな感じで合っているよね?」

「大丈夫だぞ。俺は神谷駿斗。学園都市から来た『幻想創造(イマジンクリエイト)』……って言っても、イギリス清教に所属しているわけでもないお前らでは分からんか?」

 

 そう尋ねると、彼女が首を傾げたので駿斗は自分と当麻、そしてジミーの事情から現在までの騒乱を適当に解説していく。

 

「……で、お前らと追いかけっこをしていたら、いつの間にか第二王女キャーリサ率いる『騎士派』のクーデターが始まっていました、とさ」

 

 ちゃん、ちゃん。

 

 なんて擬音語がつきそうな感じで最後をまとめた駿斗であるが、話している内容は超過激でシリアスである。

 

 しかし、『新たなる光』とはともかく、ランシスとは利害が今のところ一致している。全よりも個を重視するというのが魔術師の基本である以上、彼女が味方になってくれる可能性はある。

 

 少なくとも、彼女が完全に『騎士派』のいる場所から遠ざかるまでは大丈夫だろう。

 

「で、これからアンタたちはどうするの?」

「キャーリサと『騎士派』を止める。キャーリサ以外の『王室派』や、『清教派』と一緒にな」

 

 その言葉に、ランシスは駿斗を見る目を変えた。具体的には「コイツ馬鹿だったの?」という感じだ。

 

「……アンタ、自分が何言ってんのか分かってるの? アタシたちが発掘した『カーテナ=オリジナル』は正真正銘の本物。あれが第二王女の手にある限り、それこそ天使長を相手に戦うって言っているようなものよ。最低でも、イギリスの外に出なければ勝ち目はないわね」

 

 しかし、イギリスの外に出るわけにはいかない。連中が望んでいるのは神谷駿斗の討伐ではなく、クーデターの成功、すなわち英国の完全掌握なのだから。

 

「まあ、学園都市に住んでいるアンタが気にするようなことじゃないわよ。いくら禁書目録の管理を任されていると言っても、彼女にしたってすでに『騎士派』の手に落ちているということ。アンタは確かに並大抵の騎士には勝てるのかもしれないけれど、そのトップである騎士団長はそんなに甘い相手じゃないわ」

「問題ありません」

「ウィリアム=オルウェルが来るから?」

 

 ジミーがすぐに反論したが、すぐに彼女は笑い飛ばした。

 

「確かに、あの傭兵は第三王女にとっては最強の懐刀となるわ。だけど、逆に言えばそれ以上の戦力はでてこないのよ。いくら伝説とも呼べる数多の功績を打ち立ててきた傭兵でも、キャーリサには勝てない。あの剣が彼女の手に渡った時点で決着はついたのよ」


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