とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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王族との謁見

 英国第三王女、ヴィリアンは広い部屋に佇んでいた。

 

 テニスコート半分くらいの広さを持つこの私室が、国内外どころか自宅の内側でさえ権謀術策が繰り広げられる英国王室において、唯一全てを締め出して1人になることができる『安全な場所』である。

 

「……そうですか。はい、はい、何にしても、旅客機が無事にエジンバラ空港に到着できたようで、何よりです」

 

 ヴィリアンは表面が陶器でできた、アンティークな電話の受話器を握っていた。実際にはその外見とは反対に、バッキンガム宮殿の中にある最新鋭の交換器によって、厳重なセキュリティを施しているのであるが、そんなことに彼女は詳しくなかった。

 

 それよりも重要なことは、彼女が今話している相手が、エジンバラ空港の責任者であるということである。

 

 彼女は、荷物の中の流動食が、一刻も早く各家庭へと配られるように配慮するように頼むと、ゆっくりと受話器を置いた。

 

 イギリスは、複雑な国家である。

 

 というのも、文化においては、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北部アイルランドの『四文化』に別れている一方で、政治においては、王室派、騎士派、清教派の『三派閥』に別れているという事情があるのだ。この2つの相関図は複雑に絡み合っており、同じ『騎士派』でも出身の違いでいがみ合ったり、あるいは逆に『王室派』と『清教派』でも同じ出身地であるということでパイプが築かれていたりする。

 

 その中で、第三王女であるヴィリアンが所属しているのは、当然ながら『王室派』だ。しかし、実際に彼女が持っている権限は、まるでないと言っても良い。

 

 英国女王の娘である3人の王女は、こう評されているのだ。

 

 長女は『頭脳』。

 

 次女は『軍事』。

 

 三女は『人徳』。

 

 ……つまり、人から尊敬を集めることはできるものの、実際に国を動かすことはできないのが、彼女であった。先ほどの空港の職員にしても、『こんなにも気を配ってくれるなんて、お姫様はなんと優しいのだろう』と思うことはあっても、『じゃあ忠誠を誓って一生仕えよう』とは考えない。

 

 彼女の最大の武器は、その派閥を増大させることはできない。

 

 結局彼女は、王室にとって本気でする気もない政略結婚の餌にされる役割しか担っておらず、相手国の重鎮がそれによって油断したら、あとは彼女の姉たちがイギリスにとって有利な条約を締結させる、というだけのことなのだ。

 

 そして、ここ最近のイギリスとフランスとの諍い。それは、彼女に『最悪の切り札』を連想させ、憂鬱な気分を与えるには十分なものであった。

 

 その時、彼女の部屋にノックの音が響く。

 

「――ヴィリアン様」

 

 分厚い扉の向こうから声を放ったのは、若い使用人の1人だった。民間出身の女性で、魔術にも疎い素人だ。王室の補佐役には『聖人』シルビアのように王権神授(王の力は神から授かったもの)という伝統にのっとり『巫女』としての力を持っている『近衛侍女』という特別な役職もあるのであるが、ヴィリアンは敢えて民間出身のメイドを従えていた。

 

「――『騎士派』『清教派』それぞれの長と、日本の学園都市より訪英した『ゲスト』の少年たちが問う宮殿に到着いたしました。まもなく『謁見』です。ヴィリアン様も、ご準備のほどを」

「……わかりました」

 

 準備、とは言っても、彼女は私室でも公務の服装を解かない。そのため、緑色のドレスのまま広い部屋を歩いて廊下へと出ると、そのまま緑色のメイド服を着た使用人を従えて歩き出す。

 

 その廊下には、盾の形をした紋章――エスカッシャンと呼ばれるものが、等間隔で壁に並べられていた。このバッキンガム宮殿にあるのは『騎士派』の紋章だけであり、この廊下にそれが飾られることは『名門』の第一歩であるとされ、英国のために剣を持つ者の憧れであるという。

 

 そんな中に、1つ不自然な場所があった。

 

 空白。

 

 等間隔に並べられた盾の紋章(エスカッシャン)の中で、1か所だけ、何も飾られていない場所がある。それは当然ながら、掲示や装飾のミスなどではない。本来ある『傭兵』に送られるはずであったその紋章は確かにかつて存在し、しかしそれを受け取らずにこの国を去ったその男に対して、『騎士派』のトップは敬意を示して今でもそこを空白にしているのであった。

 

「ウィリアム……」

 

 ヴィリアンが思わずつぶやいたその名前を聞いても、使用人は何も語ることができなかった。

 

 

 

 

 

 駿斗たちを乗せたヘリコプターが、バッキンガム宮殿に到着した。

 

 広すぎるその場所は、何も知らされていなければ国立公園の中と勘違いしてもおかしくない。しかし、彼らはその眺めを悠長に楽しむ暇はなかった。

 

 なぜなら、

 

「ごォォはァァんゥゥゥンンンンンンンン!」

「落ち着けインデックス! あと少し、あと少しだから!」

 

 インデックスの空腹が限界点突破どころの話ではなくなっているからだ。もしも駿斗が拘束していなければ、今頃当麻の頭はかみつきどころか咀嚼が始まっていただろう。

 

 それを横目に見ているにも関わらず、神裂は平然とヘリから地面に降り立つ。

 

「……向かい風の影響で到着予定時刻を過ぎてしまうとは、我ながら失策。急ぎましょう。もう皆様お集まりのはずです」

「ねえ、この惨劇を目の前にして何かコメントねえの!? 例えばサンドイッチぐらいならありますが的な!」

「ほらほらインデックス! 仕事が終わったら何か食べに行こう、だからいい加減当麻の頭に噛みつくのはやめようそうしよう、な! な!」

「うふふ、禁書目録はあなたの領分でしょう。その様子だと想像以上にそつなくこなしているようで安心しました」

「やっぱキレてるよね!? 堕天使エロメイドの件でぶちギレてるよね!? でも、そもそもあんな格好で病室へ飛び込んできたのは神裂じゃ危なあっ!?」

 

 と、当麻の言葉が途中で途切れたのは、神裂がその聖人の握力でそのツンツン頭にアイアンクローを喰らわせるべく伸ばされた手を、駿斗が掴んで止めたからである。

 

「ダメだからね!? 聖人の握力で一般人の顔面わしづかみとか、人の頭がい骨から変形させるつもりかお前!?」

「(チッ……と、とにかく、パイロットや他の皆がいる場所でその会話は禁止です。分かりましたか?)」

 

 ふむ、とその言葉を聞いて、改めて自分たちの状況を客観的に見つめ直してみる駿斗。

 

 そして、いきなりイギリスに呼び出されたこととか例の金髪グラサン野郎、いい加減どうしてやろうかとか考えているうちに、ちょっとイライラしてきた。

 

「神裂火織18歳の正体は、堕天使エロメ「黙って下さい!」」

 

 聖人と対等に顔のわしづかみ合戦を繰り広げる駿斗。

 

 そんなやり取りをしながらも、なんだかんだで彼らは小さな扉へとたどり着いた。どうやら、表にあるデカい門ではなく、この裏口から出入りするらしい。

 

「そ、そういえば、この宮殿に俺が入っても大丈夫なんだよな? 足を踏み入れた途端に国宝のアレやコレやが片っ端からぶっ壊れて不幸な弁償ライフとかじゃないですよね!?」

「……何だ、そんなことですか?」

 

 駿斗は、魔力的なものは人間のもの以外にあまり感じないから大丈夫なんじゃないかなー、とか思いながら、神裂の言葉を聞く。

 

「それについては大丈夫ですよ。イギリスは魔術の発達した国ですが、現在、このバッキンガム宮殿はその手のセキュリティ機構がすべて撤去されていますから」

 

 この宮殿は他国との階段などにも使われるため、下手に魔術的な機構を組む訳にはいかないらしい。要するに、相手の重鎮を魔術だらけの中に招き入れるというのは、罠の中に誘い込むような構図になってしまうため、外港としては非常によろしくないらしいのだ。

 

 しかし、一方で王室の別宅であるウィンザー城などは、『英国女王(クイーンレグナント)は我々を罠にかけない』という信頼を持つ者だけを招き入れるため、イギリス最強クラスの魔術要塞となっている。

 

 そこまで説明した神裂だが、その次には意味深げな言葉を放った。

 

「それに、あの女王についてはそのようなセキュリティは必要ないでしょう」

 

 ドア自体の大きさは、どこにでもありそうなものであったが、その先に見えた景色は半端ではなかった。そもそも、室内の光景に『景色』などという言葉を使う時点でいろいろとおかしいのであるが。

 

 幅の広い廊下。その上を歩かずに眺めていたくなるような美しい絨毯。壁には鮮やかな絵画が飾られており、メイドがその合間を慌ただしく動いている。

 

「来たか」

 

 その時、日本語が聞こえた。

 

 その言葉に振り返ると、耳に届いた言語に反してそこにいたのはイギリス人の男だった。その着ているスーツは、素人の彼らにも格の違いが分かるほど上質なものであることが分かる。

 

 そして、駿斗はその男から感じられる力も、尋常ではないことを理解した。

 

騎士団長(ナイトリーダー)。移動手段の供与には感謝します」

「ヘリのことなら気にすることはない。我々にとっても必要な支出だった」

 

 神裂にそう答えた彼は、それから視線の先を日本人2人へと移した。

 

「ふむ。君たちが禁書目録の管理業務を負う者か」

「え、ええ? 管理業務とかって言われると微妙ですけれど……」

 

 どのような言葉を使えば良いのか、うまく分からずに戸惑う2人。

 

「あの10万3000冊を保全する人物とは、どのような者かと興味を抱いていたのだが……まさか片手で頭を掴んだ状態で管理していたとはな。恐るべし東洋の神秘」

「やっぱ変ですよね!? このようなイレギュラーに陥った原因はズバリ空腹一本勝負! もしよろしければ、会議の場で暴れ出す前に食パンなどをいただけないでしょうか!?」

 

 はしたないですよ、と当麻のその言葉に神裂が目で注意しようとしたが、騎士団長は片手でそれを制すると、紅茶のセットを運んでいたメイドを引き止めてくれた。

 

 彼らのもとに、スコーンが運ばれてくる。

 

「えっ、タダなの? そうと分かれば遠慮はしねえ。インデックス! 思い切りやってしまいなさい!」「こちとらハナから手加減する気はないんだよ! スコーンスコーン!」「そうだ、次はいつになるのか分からねえから全部食っちまえ!」

「そうか、しかし今は事態も進行しているからそろそろ行こう……」

「バターをつけるとさらにレベルアップだな!」「ブルーベリーもいけるんだよ!」「ハチミツもいいな!」「「だがあえて何もつけずに食うね! 素材の美味しさを堪能するね!」」「じゃあバターとブルーベリーとイチゴジャムとハチミツは全部わたしのだからね!」「それとこれとは話が別だこのクソ馬鹿シスター!」「「はははははははは!」」「うまアハうま!」

 

 騎士団長は少し無言になると、ボソリと呟いた。

 

「……剣を抜くが構わんか?」

「説得ならこの私が! なんとかしますからご安心を!」

 

 いつもならストッパーである駿斗さえ土御門とか空腹とかで暴走しているこの現状を、神裂は力技で解決にかかる。

 

 

 

 

 

「……というかさ、神裂。いい加減に、俺たちを呼び出すときはもっとまともな方法にしてくれよ」

 

 スコーン天国が終了した後。駿斗が文句を言うと、神裂は怪訝な表情になった。

 

「学園都市の案内役は、土御門に一任していたのですが……どのような方法を使ったのですか?」

「いきなり変なガスを喰らって俺が空港に置き去りにされた後、駿斗が電話で呼び出された」

「あの野郎……」

 

 当麻の返事に、思わず目をつぶって歯を噛む神裂。しかし、彼らからすれば、アビニョンの時に大空からパラシュートとセットで突き落とされたので、今更何を、といった感じである。

 

 すると、その話を横で聞いていた騎士団長が口を開く。

 

「今から行うのは作戦会議のようなものだ。王室派、清教派、騎士派のメンバーが集まった、な」

 

 王族との『謁見』であるため、本来なら正装で来るべき場所であるが、あいにく放課後慌てて呼び出された彼らは、学ラン姿のままであった。

 

 自分たちの服装に目をやっていた2人であるが、するとそこで、当麻が神裂に目を向ける。

 

「神裂もあんな感じだし、意外に大丈夫か……?」

「何か失礼な評価をしていませんか。私の場合は術式の構成上必要と認められています」

 

 彼女は言葉では否定しながらも、当麻の視線から逃れるようにやや身をよじる。確かに、魔術を知らない素人がみたら、露出きょ……イケない人だと思われそうな服装であるのだが。

 

 すると、そこまで黙っていたインデックスが尋ねた。

 

「作戦会議って、そもそも一体何の作戦について話し合うの?」

「ふむ。禁書目録を正式に招待したのは女王のご判断だが、その程度には重要度の高い案件だ」

 

 そんなことを騎士団長は言うが、それがどの程度すごいのかがイマイチ当麻たちには分からない。へー、女王様直々のご招待なんだなー、程度である。

 

 騎士団長は説明を続ける。

 

 問題はイギリスとフランスをつなぐ、ユーロトンネルの爆破についてだ。3本並んで走っているはずのその全てが、使用不可能となり、唯一の陸路をつながれたイギリスは、国内経済に大きな打撃を受けている。

 

 そして、その事件に魔術がからんでいる可能性が高いらしい。

 

 そんな説明を受けているうちに、一行は大きな扉の前に辿り着いた。この先に、女王様がいるのだろうか、と2人は緊張した面持ちでそれを見つめるが。

 

 

「ぐおおー……。ドレスめんどくさいな。ジャージじゃダメなのかこれ……」

 

 

 聞こえてきた英語に、首を傾げる日本の男子高校生2人。駿斗も英語は苦手ではないのだが所詮は学校英語、本場の人間の、それも独り言のようなものになるとまるで聞き取れなかった。

 

 しかし、その言葉の意味が分かる3人を見渡すと、騎士団長はピタリと動きを止めており、神裂は戸惑ったような表情を浮かべている。インデックスに至っては、頭に『?』マークを浮かべている。

 

「……しばしお待ちを」

 

 ボソッと放たれた言葉と共に、扉の隙間に身をはさむようにして室内に入り込む騎士団長。

 

「ぬぐお!? 入ってくるときはノックくらいせんか貴様!」

「謝罪はしますがその前に一言を。――テメェ公務だっつってんのにまたジャージで登場しようとしただろボケ馬鹿コラ!」

「いえーい騎士団長が一番乗りー」

「部屋に入ってきた順番とかはどうでもいいんです! いいから、女王らしく! いや、いいです。意外なキャラクターとか誰も求めていませんから無理にエレキギターとか持ち出さないでください!」

 

 そんな言葉が扉の外へと漏れているが、駿斗も当麻も理解できない。しかし、インデックスは眠そうにしたままだし、神裂は苦笑いするばかりで翻訳をしてくれなかった。

 

 再び騎士団長が姿を現し、ようやく彼らは扉の奥へと入る。

 

 その場所は、テレビなどで見る国連の会議場などを思わせた。そして、その中央に1人の女性が立っている。

 

 女王エリザード。

 

 彼女はつま先が見えなくなるほどの長いドレスに身を包んだ、50歳ほどの女性だった。しかし、肌や髪などがその年齢をうかがわせるのとは対照的に、その風格は10代であるはずの当麻や駿斗を凌駕している。

 

 そして、その風貌以上に気になるものが、その右手にあった。

 

 1本の、鞘にすら収まっていない抜身の西洋剣。片手用直剣、ロングソードとでもいうのかもしれないが、詳しいことは分からない。だが、駿斗にはそれでも2つだけ分かることがあった。

 

 1つは、その剣には切っ先がないこと。そしてもう1つは、その剣が霊装として絶大な力を持つこと。

 

 その剣をみた当麻が、真っ先に感想をもらした。

 

「意外なキャラクター……ッ!? う、ウチの姫神があれだけ努力しても手に入らなかった強大な個性を、こんなにも簡単に……!?」

「いや、違う! あれで正常だ! エレキギターやサッカーボール、剣玉、サーフボードなどのいらぬ道具は全て撤去してある! なじみがないかもしれないが、あの剣こそが英国女王(クイーンレグナント)エリザード様の象徴なのだ!」

 

 騎士団長は悪夢を振り払うように首を横に振ってそう答えるが、対照的に英国女王は大口を開けて笑顔をつくる。

 

「これはカーテナと呼ばれる、王族専用の剣だ」

「かーてな?」

 

 当麻は首を傾げるが、インデックスから魔術を教わっている駿斗はその答えを言った。

 

「確か、国家元首だけが手にすることのできる、戴冠用の儀礼剣だったっけ? 天使長である神の如き者(ミカエル)の力の一端を手にすることができるとか」

「厳密には、同質の力、と言った方が正しいですが」

 

 神裂が、駿斗の言葉を訂正する。

 

「てんし、ちょう……?」

 

 当麻がその言葉に反応していると、眠そうなインデックスが簡潔に説明した。

 

「あらゆる天使の中で一番強くて偉い存在のことなんだよ」

 

 天使というだけでも、彼らにはろくな思い出がないのであるが、その中でも一番強いヤツときた。

 

 なんだか、争いの火種とかになりそうだなー、と駿斗が若干うんざりしたところで、女王が説明を再開した。

 

「使えると言っても、イギリスという限られた土地の中だけだがな」

 

 カーテナというのは、王と騎士に莫大な力を与える剣であるらしい。

 

 イギリスには『四文化』中だけに存在する特殊ルールがあり、それを守るために『三派閥』に別れている。そして、カーテナは『イギリスの中だけで成立するルールを束ね、イギリスを守るものに莫大な力を分配する剣』として機能している。

 

「特殊ルールってのは……?」

 

 今度は、女王の説明を騎士団長が引き継いだ。

 

「この国には、イギリス清教という独自の十字教様式が存在する」

 

 これは、1500年代にヘンリー八世という王が、自国の政治を他国に干渉されるのを嫌って生み出されたものだ。そのため、『イギリスはいかなる外部勢力からも絶対不可侵であること』と『イギリス清教の最高トップは国王であり、イギリス国王はローマ教皇の言葉を聞く必要はない』ことを確立させた。

 

 そして、『ローマ教皇よりも偉いもの』というために選ばれたのが『天使長』という地位。その国王に従う騎士団を『天使軍』に対応させ、イギリスの民を導くことにする。そのために、『4』は大地を示す数字であるため、4つに分割されたイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドを束ねて『全英大陸』という魔術的な意味を生み出した。

 

 イギリスが連合王国としてあるのは、そういった魔術的・政治的な意味合いがあった、というわけだ。

 

「私のような『清教派』の場合、天使長や天使に対応することはありません。これまで通り『人間として十字教の力を振るう者』という扱いですから、カーテナの恩恵を受けることはないんです。カーテナは『王様』と『騎士』に莫大な力を与えるものとお考えください」

 

 そこへ、横から神裂が付け加えた。そこで、再び女王に会話の中心が戻る。

 

 このカーテナは、『カーテナ=セカンド』……すなわち、2本目ということらしい。最初のオリジナルは、どこかへ行ったのか不明であり、そこで急きょつくられたのだそうだ。

 

「仮にこいつが折れても、新たなカーテナが生まれるだけだ。そう気負わんでも良いよ」

 

 すると、そこで後ろから声がかかった。

 

「まったく、そんな訳がないわ。現在ではその2本目をつくる製法ですら失われているもの」

 

 音源は、出入り口の扉。

 

 そこから入ってきたのは、30代前半ほどの美女だった。青いドレスに身を包んだ彼女は、知的というべきか、あるいは冷淡とでも言うべき雰囲気を漂わせていた。

 

「(……第一王女、リメリア様です)」

 

 神裂が2人に舌打ちしてくるその横で、騎士団長は驚いて声をかける。

 

「言ってくだされば部下の者を……いえ、私が直接出迎えに上がりましたが」

「ああ。いけません、いけません。そんな、他人を従わせるなど。みすみす背中を刺される危険を増やしてどうするの」

 

 その言葉に駿斗は唖然とするが、それに対し騎士団長は深くため息をつくだけだった。どうやら、彼女の人間不信はいつものことであるらしい。

 

「まーた姉上はジメジメしてるの?」

 

 すると、今度は別の赤いドレスを着た女性がやってくる。あねうえ? と首を傾げる当麻に、彼女はじろりと見て言った。

 

「第二王女のキャーリサ。歴史くらいは学んでおいたら、少年?」

 

 そして、そこに第三王女のヴィリアンも加わる。他の二人とは異なり、彼女は第二王女がかける言葉にも委縮するように身を小さくするだけだ。

 

「そろそろみんな集まってきたな」

 

 主要人物がそろい、これからこの会議場に並べられた椅子いっぱいの、100人以上の大規模な会議が始まるのだろう……と少年2人が思ったところで、女王は続けて言った。

 

「さて、それじゃ適当にトンズラするか」


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